2020年05月23日

おむすびの転がる町 panpanya (白泉社)




最新作です。前作「グヤバノホリデー」はおれにとって衝撃的な作品であった。フィリピンに行きグヤバノという謎のフルーツを食べる紀行マンガだった。
もともとが現実と虚構が曖昧な作風ではあったけど、ぐぐぐと現実に寄せていました。これではもうエッセイコミックじゃないかと。

エッセイコミックってそう考えるとウソだなと。それは作者が取材だったり経験だったことかもしれない。でも、それを絵にしてマンガにした時点で事実とは異なってくる。だって自画像がちがうやん。エッセイコミックの大家である、吾妻ひでおさんも西原理恵子さんも桜玉吉さんも本当の顔は「ああ」じゃないじゃん。だから、ホントとウソの距離感を楽しむのがエッセイコミックでありコミックエッセイであるんだなと。もっといえば活字だけのエッセイもそうなのかもしれないけど。「すべらない話」とかも。

本作に収録されている「筑波山観光不庵内」などは虚構と現実のブレンド具合がワンアンドオンリーですごい。実際に行かないとわからないディティールだらけなので猛烈なロケハンをしてるだろうけど、筑波山のケーブルカーまでの道中はガマの油売りが軒を連ねてることはないだろうし、JAXAの訓練で宇宙服を着たひとが多数歩いてたり、はウソだろう。
そんな「筑波山」で不思議で楽しい冒険+観光をしている。

ああ、つげ義春氏を連想するね。氏の紀行マンガもオンドル小屋に住み込みで働いてる女性店員の着替えがみえたりとか、ほんやら洞のベンさんやら、長八の宿の釜番のおっさんとかはいないだろうしな。

ほかにも毎日通ってるところの用のない坂の上にはなにがあるのだろう?と登ってみたり「そこに坂があるなら」
なんでも買い取ってくれるリサイクルショップに食べた飴の包み紙ともらったポケットティッシュを売りに行く「坩堝」

などなど、これまで同様に地元密着率が高くて、ふわっと異世界や異物が混ざるブレンドが絶妙。近年は現実配合多めかな。おれはいまの配合のほうが好み。

そして白眉であり、前作同様またしても大きく唸ったのが食べ物ネタ。「カステラ風蒸しケーキ物語」。
これはヤマザキで実際に発売されていたカステラ風蒸しケーキの魅力にとりつかれて探し求めていた話です。
他愛もないといえばそれまででストーリーとしての起伏などもないがとてもいいです。ただ、探して、あちこち駆けずり回りついにはお客様相談窓口にまで電話してしまうという。

「カステラ風蒸しケーキは一種の瞑想だと思う。」

とまでいわしめる「美味しそうさ」よ。そして憎たらしいことに本単行本が出るちょっと前に正式に製造をやめているのよね。このおあずけ感。でも、この新しさ。好きなものを追い求めるというメッセージが強烈な作品は短いページ数ではありますが、すごく心に残る。

それは作者のすべての作品や姿勢に通用する。とくに表題作は、その視点や姿勢が最大限発揮された、panpanya氏にしかできない視点の作品。すごいです。

なんていうか、この先、こうしてほしいどうしてほしいというかそういう外野を無視して、思うままにおもしろいと思うことを膨らませたりなんだりしておもしろいマンガを描き続けてほしいなとせつに願うマンガ家がひとり増えたなあとしみじみと。

白泉社の編集にも作者を見出して活躍の場を与え続けていることに感謝したいと思うのです。
posted by すけきょう at 12:23| Comment(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする