2022年08月29日

ROCA いしいひさいち (笑)いしい商店

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がんばれタブチくん〜おじゃまんが山田くん〜隣の山田くんホーホケキョで、朝日新聞で「ののちゃん」を連載中のベテランでレジェンドなマンガ家による同人です。



ここらへんより入って通信販売でどうぞ。1冊1000円で送料500円です。

これは、
ポルトガルの
国民歌謡『ファド』の
歌手をめざす
どうでもよい女の子が
どうでもよからざる能力を
見出されて花開く、
というだけの
都合のよいお話です。

海辺の街に住んでいる吉川ロカさんがファドを歌い、皆の心をつかんでいくというお話です。

10年にわたりあちこちで描かれております。

いしいひさいち新境地などと話題になっておる作品ではありますが、実際のところ、キャリアをドーナツブックスほかのシリーズでわりとつぶさに観察していたものとしては新境地なのが通常運転すぎて、本作がとくに画期的に新境地とは思えなかったんですよね。

ドーナツブックは双葉社から出されていた新書サイズの4コマ集であちこちに描かれたものを再編集したその都度のベストセレクションな存在でクロニクルみたいな感じですが、これが毎巻新境地というべき、4コマに革命が起こるような作品集なんですよね。
B型平次シリーズ、さがしやケンちゃん、ノンキャリガールなどなど。もちろん、出世作のバイトくんにしろタブチくんにしろ、そのジャンルを築き上げたくらいの画期的なものではあるのですよ。そもそもがこのドーナツブックスにしても新書サイズ1ページに4コマ1本というスタイルが斬新で(だから買いはじめた)したし。

だから本作もいつもの「新境地」ではあるなあと思いました。

ときおり拝見する文章や、雑誌(漫金超など)、いしひさいち読本的なもので、博覧強記な方というのは存じ上げてましたが、それをファドに注力されてる感じ。それが端々からこぼれ出る感じ。音楽理論でROCAがすごいことを表現してるのがすごいよなあ。引き合いにだされてた実在のミュージシャンも興味深かった。

4コマをベースとして展開しておりますがときおり「2コマ」打ち抜きのハッとするシーンにぐっとくる。ストーリー4コマということか。きちんと4コマで1笑いあるところはベテランのなせる技。サザエさん等を引き合いに出すまでもない、4コママンガの登場人物の時間が流れないという基本から逸脱したロカさんの成長物語。そこもストーリー4コマっぽくはある。このあたりは熱心に読んでないので今もどれくらいの割合や規模で描かれてるのかわからない。4コマ雑誌がつぶれるとか、そのわりにアニメ化が決まったとか、いろいろあるようですが。

そして重要なキーワード「サウダージ」。ここでも出た。

鍋に弾丸を受けながら 青木 潤太朗/森山 慎 KADOKAWA: ポトチャリコミック http://sukekyo.seesaa.net/article/490920336.html?1661740849

本作でも、鍋に〜でも、ひとことでは簡単にいえない複雑な感情表現だそうです。なんかわかったようなわからないような、まだおれには難しいのかもしれない。

1回読み、そして感想を頭に思い浮かべてから、またファドの有名な人(らしい)アマリア・ロドリゲスなどをYou Tubeで聞きながら本作を読み返す。そして発見する。、

最大の特徴は、吉川ロカの生地であり、友人の柴島美乃とともに育った地元の港町の印象がすごく強いこと。それこそ、誰(京アニ?)がいつからはじめたかわからない女の子萌えアニメにおける聖地巡礼に行きたいくらい魅力があるところに思ったのだけど、読み返すと実際のそのシーンが少ない。不思議。というか、それはすべてラストシーンに集約されていたんだね。あのシーンを読んだときに感じた潮風はなんだったんだろう?そして感動とかエモいってシンプルな言葉で足りない複雑ななにか。これがサウダージなのかはわからないが忘れられない2022年でも強烈なマンガ体験にはなった。

ファドとこの街のロケーションがまたぴったりなんですよね。ファドって港町の音楽やなあと。おれの感覚なのでちがう可能性も高いのですが、そうなってしまいました。それはもういしい氏のせいです。

あ、あと、いしい作品にしてはわりとダイレクトな下ネタがあったかなーとも。

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柴島美乃(2コマ右側)の目の描写がすごい

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posted by すけきょう at 12:33| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月22日

完結 ゴールデンカムイ 31 野田 サトル 集英社


最終巻が出ました。超最高で連載がはじまり、話題を独占したまま、だいたい最高のまま駆け抜け、随所に話題をふりまいて、人気を維持し続けて超最高で終わりました。だから最終的な評価は超最高です。

マンガにおける終わり方というのを考えるのです。これまでは人気がある限り続けるというのが定番で、たぶん、いまも主流はそうなのかもしれない。でも、いくつかのマンガは終わることを許されるようになっている印象。本作はどうだったのかは知らないが、終わるべきして終わり、描きたいことは余すことなく描いた印象。そこが超最高でした。

他作品を引き合いに出すのは抵抗はあるんだけど、「鬼滅の刃」。いろいろと有名な本作ですが、本作の1番1位のところ(子供表現っすね)は、23巻1巻かけて完膚なきまでに終わったことだと思う。どこまでが連載誌にどのようなカタチで掲載されたのかは知らないし興味はないが、この圧倒的な「最終巻」はたぶん今後出てこないんじゃないかと思われます。あらゆる方向や表現で終わった。

ゴールデンカムイの最終巻もなかなかたどりつけないところまで行き着きました。

長いあらすじは複雑なので省略させてもらいますが、最終章に入ってからの一気呵成の盛り上がりと、オールスターキャストが一同に介しての大活躍。そして、最終巻ではベストメンバーが函館から札幌に向かう機関車で最後の死闘を繰り広げてます。この流れのローディング時間のない感じはすばらしい。
もともと、ゴールデンカムイの特筆すべき点は、1ページ先の展開が読めないことで笑いあった次の瞬間に銃を撃ってくるやつと対峙する。このテンポ、スピード。あとは博覧強記なあらゆる要素をぶちこんだ、作者野田サトル氏の頭と脚を巨人が絞った汁のような話です。彼のすべてがあります。昔のロボットアニメの「出力フルパワーにしろ」ってコンソールのつまみを無造作に全部回しきる感じでしょうか。

でもって、ゲームや映画や小説やマンガで散々こすられてる動いている列車での戦いを研究したおしこすりたおし、かつ、ゴールデンカムイらしさを抽出した上での決定版のような戦いよ。列車であることがすべて盛り込まれつつちゃんとそれらを盛り上げに使いつつヒートアップさせてます。しかも、戦いってことでいうと、函館の五稜郭でのひろいところからの狭いところとかのメリハリも効いている。流れとしては満点ですよね。いわれてみれば船上や飛行船など乗り物の戦いも数多く収録されていますよね。ほんとスキがないマンガだ。

最後の最後の最後の最後まで盛り上がり、各人かっこよく、そっれぞれの積み上げたキャラらしく、有終の美を飾っております(死んだり生きたりはありますが)。
物語も当然のことながらキレイにキレイに、このごった煮闇鍋の混迷の限りを極めた作品をきちんと終わらせてます。

名作っていわれるマンガも最終回覚えてないもんだぜ。そこらへんは島本和彦氏の「アオイホノオ」にくわしいけど、マンガ全体の99%おもしろければ最終回なんて些細なものはどうでもいいって文化は受け継がれております。
ゴールデンカムイも、最終回を迎えるにあたって、電書を期間限定で全話無料公開したりみんなで盛り上げたりもしていたなあ。
ホムンクルスやアイアムアヒーローや浅野いにお氏の何回聞いてもタイトルを覚えられないデデデデみたいなやつも次巻最終回や最終巻って帯や宣伝に出すようになったもんな。

時代は変わりました。それぞれいつ終わるかは別だけど、「最終章」突入なんて書いてますしね。

それぞれマンガやマンガ家の持ち味や個性や才能があるから一概にはいえませんが、おれは適切なタイミングでスパっとおわらせるほうがすべてめでたいんだなと。

野田サトルさんは次回作を描きそうだし、ちがう分野を攻めてきそうだし、それもちゃんとおもしろいはず。(しばらくはゴールデンカムイ関連のものを描きそうだけど)

posted by すけきょう at 13:23| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鍋に弾丸を受けながら 青木 潤太朗/森山 慎 KADOKAWA




振り返るとネットから話題になっているマンガというのは増えた。というか、ネタ元としてネットをかなり活用してるからだ。それが本からでもなく本屋からでもないというところに危機感と罪悪感のようなものを覚えるが、そんなことは知ったことではないというばかりに日々のSNSや情報サイトから新作話題作の情報は入ってくる。
正直打率はそんなでもないが、本や本屋のバッターボックスに立ってはいないので比べるまでもない。おれの住んでる町は本屋を開くと町から補助金が出るくらいだが本屋ができる気配はないままだ。

まあ余談。

本作はその流れのままにネットで知ったものだった。

・世界でも危険なところのメシは美味い
・作者は世界の人間がすべて美少女に見える

この2点の「フック」から注目された。それでおれも知ったので、フックは不要といえないのですが、美少女はともかく(じゃなきゃおっさんだけだし)、危険なところってのはあまり関係ないような気はする。日本以外はたいてい危険なところってことになってるし。(本作はその例外が現れるが)

失礼ながら原作者のことは存じ上げてないのですが、小説家であり漫画原作者であり仕事で釣りをしに全世界を飛び回っている様子。その釣り仕事の合間に食べる食べ物を紹介するのが本作になるのか。
今のところは、1巻2巻で、アメリカ、ブラジル、ドバイってところでしょうか。

本作は人生観を揺さぶられる。揺さぶらされ続けているよ。毎エピソードううむと唸る。そしてオノレの人生を振り返りフウとあらぬほうを眺める。

1巻2話。アメリカ・シカゴのイタリアンビーフからそう思う。ありったけの薄切りの牛肉を挟んだパンを、その肉を焼いたときに出てくる肉汁に浸してシナシナベタベタになったサンドイッチを縁側でスイカを食べるように食べる。アメリカ在住のイタリアンマフィアが開発した安価でごちそうをたくさん食べるための食事。

1巻3話。ブラジル・アマゾナス。もらったフルーツジュースが禁断症状が出るほど美味い。これなに?と尋ねると「アバカシ」と答えが。何だそれ?と思って持ってきた果物がパイナップル。完全に熟したパイナップルというのは現地でないと真の味がわからないと。アバカシを振る舞ってくれたブラジルの友達が1番美味いジュースはオレンジです。つまりそれも。

この2つのエピソードに感じ入るものがあったのです。以降も同マンガでは「現地でないと食べることのできないうまいものがある」「現地のひとは1番うまい食べ方を知っている」と。この2本の柱を軸にエピソードが展開されています。

もちろん、上記のイタリアンビーフもアバカシも食べてみたい。そして「サウダージ」も味わってみたい。本作のほかにも最近もうひとつサウダージという言葉をみかけた。たぶん、2022年のおれのキーワードはサウダージだと思う(からもうひとつも早急に紹介しますj)。

ただ、イタリアンビーフがうまそうでもアバカシのジュースがうまそうでも、「そこ」に行けるのかというとその可能性は限りなく少ない。劇的に所持金が増えて劇的に健康にならないと叶わぬ夢ではあるなあと。

そう考えると、どこでおれの人生がこうなった?ということで人生観が揺さぶられるのですよ。理由はどうあれ、感情を動かされることで感動になるわけでかなり感動してるんですよね。

2巻ではその余韻や「思いにふける」がどんどん強く重くなってきている。それはつまりマンガとしての深みが増してるということなんだろうか、おれのシンクロ率が高くなっているからなんだろうか。ただ、マンガにおいて「おもしろい」ってこういうことだからさ。それはおれがいわゆる釣行記的な本(オーパ!とか)や紀行文(深夜急行とか高野秀行氏の著作とか)
にふれてこない人生だったので、新鮮だった可能性も微レ存。

最新刊2巻描き下ろしのグリルドチーズ。これがすごかった。

アメリカの食べ物屋にたいがいあるらしい料理。フライパンにバターをしいてチーズを挟んだパンを焼くってだけの料理。誰でもできるし家でもできるけど、非常に奥深い料理ということを滔々と語られておる。それはいわば日本における卵がけご飯だと。生卵を食べることができるのは日本だけってことを抜きにしても、日本人は心のどこかに「日本人が1番うまい卵がけご飯の味を知っている」って思ってるように、アメリカンはグリルドチーズの「正解」を知っているという感覚。この説明の腑の落ち方が異常なんだよね。

グリルドチーズにしてもアメリカにいって絶対に食べるかっていうと1回や2回じゃ食べないよなあ。だから日常的にアメリカにいって、「そういう店」にいかないとね。そしてそのうまさに目覚めないと。そういうところが素直にすごくてすごいからこそ自分の人生の振り返りという反動がくるわけで。

そしてそのことがまた感情を揺さぶらされる。と、まあ、かなり個人的な理由ではあるが本作は心に残るマンガとなった。ただ、ここまで変な方向からの入れ込み方をしてない娘も楽しいしおもしろかったと感想をよこしたのでマンガとしておもしろいのもまちがいないのですよ。


「鍋に弾丸を受けながら」(森山慎/青木潤太朗)のイタリアンビーフ : マンガ食堂 - 漫画の料理、レシピ(漫画飯)を再現 Powered by ライブドアブログ https://mangashokudo.net/entry/blog-entry-662.html

余談ですが。
こういう料理再現や「本物」の写真ってあまりみたくないって思うんだよな。マンガで完結してるし、なんか夢が壊されたってんじゃないけど(それいうなら登場人物はみんなおっさんだし)。でも、イタリアンビーフはやっぱり食べておきたいなあ。
posted by すけきょう at 13:20| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする