2024年08月22日

偉人画報 三峯徹 稀見理都 金平守人 少年画報社

偉人画報 三峯徹(全1巻) (YKコミックス) [ 稀見理都 ] - 楽天ブックス
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伝説の投稿職人三峯徹の半生を描いたもの。

ということは、すなわち昭和生のオタクの半生を語るものでもあり、それはつまり自分の半生といかにリンクしてるかになり、どうしても自分語りになってしまう。だが、こんなネットの隅っこのしょうもないもんの自分語りに興味がある人がいるとは思えないので、それは折りたたんでから書きます。それまでは普通の感想文を。

三峯徹氏はエロマンガ雑誌の読者投稿コーナーでひと目見たら誰もが覚える独自性の強い絵で投稿を続けていることで有名で、ついにはタモリ倶楽部にも特集されております。そんな彼の生まれたときからの歩みを描いております。

原作はもちろん三峯徹氏で監修は「エロマンガノゲンバ」などエロマンガ研究の稀見理都氏が手がけており、エロマンガ描きマンガなどを描いておられるベテラン金平守人氏が作画という最高の布陣。
これでつまらないはずがない。
というか、その予想を大きく上回ってとてもおもしろい。
三峯徹氏の半生がかなり波乱万丈だったりするし、それは昭和のオタクのドキュメンタリーとしてもすごくよくできているんですよね。

淡々と読者投稿(プラスオタク交流)を続けていた昭和生まれの一般オタクの半生ながら、いやそれだからこそ、当時のオタクの空気を凄くリアルに感じられる。少なくともおれは本作がもっともおれの感じていた空気に近い昭和オタク描画って感じがする。
たとえば、幼女誘拐監禁殺人の犯人の家がビデオテープだらけで、オタクバッシングがはじまったって過去の事件がありました。それにともない成年コミックが「成年コミック」になってしまった流れ。
当時のオタクはさぞかし大変だったって話だけど、まったく無傷だったと三峯氏は語っているし、稀見理都氏の解説でも壊滅的な被害は一部とあったし、実際のところおれも無傷もいいところだった。もっともおれはあのころ「そんなに」エロマンガは読んでなかったが、本書にもある三峯氏の代表作のひとつでもある「朝顔イラスト」は雑誌で目にしている。なおかつ、本書で実名で出ているエロマンガ誌は全て知っているなあ。どこが「そんなに」か。

本書内はだいたいの固有名詞が実名であり、様々な当時のエロマンガ誌などがバリバリ実名で描いてあります(おもに表紙)。その全てが金平守人氏の模写なんですよね。このすごさに恐れおののいてしまう。
とくに少年三峯氏の性の芽生えのトリガーになった石ノ森章太郎氏の模写がすごい。この空気というか「らしさ」が出てるの本当にすごいです。まんま石ノ森氏のタッチを再現できてるなあって。
そのほかのマンガはもちろんだし、三峯徹氏の投稿に並行するカタチで他の方の投稿もあり、それも模写されてます。はては昭和平成の風俗文化なんかも模写されておりその精緻さと「精緻すぎなさ」がすごいです。
模写ってどのような感じでされているのかはよくわかりませんが、少なくともスキャンしてトレースって簡単に済ませてることはないなあと。とくに90年代の美少女エロマンガ誌の全盛期の「臭い」が感じられるなあと。魂の模写。もちろん、「地」の絵もすごい。コミックビームがデビューかは知りませんし、全てを追いかけてきたとはいいませんが、金平氏のファンを続けていますからね。どれくらいファンかというと娘の名前は金平氏のマンガのキャラからとってるくらいです(たまたま目についていいなってノリでしたが)。
デビュー時より作画が上手な方と思ってましたが、現在もなお向上されているなあと思いました。ブレがないままキレが増している。

稀見理都氏もかなり的確に当時もエロマンガ業界を分析しておられててすごいです。当時の空気を真空パックされ、ああそうそうって思い出すことが多いのです。
また30年1万5千以上の投稿を眺め倒され(国会図書館等利用して)ておる。三峯徹氏は投稿を通じて日記ブログのようなことを延々とされており、個人情報があのイラストともにだだ漏れだったってあとがき代わりのコラムも最高でした。それがまた模写の端々にわかったりするのがまた最高で。まじで三峯徹情報がみんなわかってしまう感。

マンガはタイトルからもわかるように、偉人三峯徹の伝記漫画という体裁になっており、学校の図書館にある学習まんがのパロディ的なつくりになっております。
大なり小なり、この手のパロディマンガはギャグ系をお描きになるひとは1回は着手されていそうな気がするんですが、それを1冊通して作りきったのがすごいです。そういう意味では「純ギャグ」でかなり完成度の高いギャグマンガの1冊になっております。

そして物語はビルドゥングスロマン仕立てになっています。そこらへんも偉人伝的ですね。
ハガキ投稿を通じての交流人気。やりすぎゆえの炎上と、ネット前時代に、ネットで起こったことを一通り経験されております。挙げ句に、編集のほうから大きなスペースを割いて名指しでdisられてたりするんですよね。実はおれが名前をリアルタイムで認識したのはこのコラムのような気がします。だからなんかとてつもなく大きなオタクコミュニティの裏ボスみたいな感じなのか?と思ってました(「げんしけん」にそういうひとでてきてたじゃないですか?実在の人物でいうと岡田斗司夫さん的な)。ま、余談。
そして、炎上→自粛→復活(エモいドラマあり)のあと、右肩上がりに有名になり、ついにはタモリ倶楽部出演(これまたリアタイで目撃してた)を果たされます。実はそのあとにさらに頂点の出来事もありますがそれは読んでのお楽しみ。さらに、そのあと劇的なエモ展開。そしてハートフルエンド。「男坂」オチ。
ぶっちゃけその歩みに同期する点が多いんですよね。なんたって学年いっしょですし。タメなんすよ。
おれのみならず、昭和後期にオタクに関わっていたひとにはリンクすることが多いのではないかなと。

日本のヘンリー・ダーガーなんて称されてるらしいですが、ただ、特異な人物であると同時にともに昭和平成をオタクとして駆け抜けた「一般オタク人」としての三峯氏も浮かび上がるんですよね。そこが両方描いてあるなと思えたのがおもしろかったのです。

偉人画報 三峯徹 (ヤングキングコミックス) - 稀見理都, 金平守人
偉人画報 三峯徹 (ヤングキングコミックス) - 稀見理都, 金平守人





追記あり
posted by すけきょう at 21:39| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月06日

日陰に迷う なまえれんらく ワニマガジン社 成年コミック

成年コミックです。
書影みるととても買いやすそうなものですが成年コミックです。

だから成年になったら買いましょうね。

unnamed.png追記あり
posted by すけきょう at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月02日

運命 松田光市 青林工藝舎

運命 [ 松田光市 ] - 楽天ブックス
運命 [ 松田光市 ] - 楽天ブックス

青林工藝舎系には悪夢系というのがあると思われる。ルーツというわけではないだろうが、マンガ史においての金字塔であるつげ義春氏の「ネジ式」にいまだ強くある影響。そこより派生して数々の名作が発表される。とりわけ青林工藝舎はジャンルとして1ラインを用意して安定供給している。

本作はオビのケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の「悪夢の連打に酔え!」って惹句がすばらしく端的に内容を表しておられる。

悪夢のような内容でありながら「酔う」。これが大きい。

おれは解像度の低い悪夢と思った。目が覚めたらあらゆるものがおぼろげでそれをたぐろうとすればするほどそれが不確かなものになっていく感覚。そこにあった夢が浜辺で砂で作られた像のようにあちこちボロボロと急激に崩れ落ちる。
ダビングを重ねたビデオテープの再生をみているかのような。
しこたま酔っ払った日の飲み会での出来事を思い返すような。

いまこうやって本作の表紙をみてもうすらぼんやりとした内容の断片しか思い出せない。

本書を開いて最初の「バイオレンス町内会」を読んでみる。

40代からの町内会「青年部」の地区対抗野球大会に、20代の本当の青年をチームに参加させた。すると他チームからやっかまれてついには場外乱闘がはじまる。そして唐揚げ屋の打ち上げで「青年」を労ったが、そこで別客の男女が口論からの殴り合いをはじめてさきほどの醜い乱闘騒ぎを思い返して「青年」はろくに食べずに帰ってしまう。だから、残った唐揚げを持っていけと押し付けられてゴミ袋に大量の唐揚げを入れられ引きずりながら帰る。道すがらさきほどのカップルが公園の鳥に唐揚げを撒き散らして共食いさせているところを発見。翌日の新聞一面に「鳥、多めに死ぬ」と載ってエンド。

どうだろう?なんとも捉えずらい話じゃないだろうか?

他作品も、泊まり込みで就活にきたけどうまくいかないので風俗で遊んだり、教育実習生としてボロボロの自転車で必死こいて学校に行こうとしたらペダルが壊れてすっ転んでしまったり、うなぎを神とする宗教施設に自分のアパートから水道を盗まれて40万円請求されたり。

捉えずらいが悪夢で、それがまた夢特有のリアルな、それでいてわけのわからない法やルールに引っ張られている。
実際、本作品は現実との乖離が「弱い」。ぶっとんだ展開やマジかって残虐描写がない。パチンコに勝てないから腹いせに息子を焼き殺す蛭子能収さんくらいのぶっ飛び方がない(その息子の名前が実子と同じってのがまた)。
そこがなんとも悪夢「らしい」。夢ってどんな突拍子もないことも辻褄が合ってる。でも、逆に辻褄を合わせるための現実に即した展開をすることもままある。その感じが描けてるのがすごい。
解像度が低いゆえに、度のあってないメガネですごしているような気持ち悪さがある。これがまさに「夢」としかいいようのない感触。そして「悪夢」としかいいようのない、覚えてないけど、なにか「嫌な目に遭ってた」としかない記憶だけが残る。

うわ、酔ったなあと思いつつ本編を読み終え、「自作解題」。
各話の冒頭に「実話。」「大体実話。」「結構実話。」ってあり、衝撃というか戸惑いで頭がさらにガンガンしてくる。え?どういうこと?現実は悪夢ってこと?鳥が多めに死んだの?って。チェイサーかと思ったらこれテキーラか?と。

青林工藝舎のさらなる悪夢の助長なのか、本の紙の臭いがまた一段とトリップを誘発する。この紙の臭いはなんだろう?おれの感覚だけか。それはただの言いがかりですかね。すみません。

いい意味で読んだ気がしないというと褒め言葉になるか心配なのですが、それが率直な気持ちです。あと酔います。

運命 - 松田光市
運命 - 松田光市
posted by すけきょう at 07:21| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする