・ってそれを書けよ。
・これまでの唐沢なをき氏のマンガのキャリアと、特撮(正確には怪獣の本)の字の本を出すくらいの趣味との奇跡の融合で結実です。
・車田正美氏の「男坂」のたとえを出してヤングマンガ読みをケムにまくってことでもないんですが、「本当に描きたかったもの」「趣味丸出し」ってのは往々にして、読者に伝わりにくくなるというか、もっとぶっちゃけてつまらないことになるんですよね。広げたふろしきのわりに打ち切りとか多発でね。ああ、「紅の豚」のほうがたとえとしてはわかりやすいかの。
・本作はそういうことでも奇跡です。
・深夜枠の低予算特撮番組の舞台裏を描いたコメディです。マニアックなネタも、ぶっ飛んだり不条理なギャグも控えめにして、あくまでドタバタなコメディのラインで落ち着けてまとめてます。
「夕刊赤富士」内の「偽青春漫画」や「さちことねこさま」など、コメを強調したギャグマンガはあったけど、今回はそれよりもさらにぐっと踏み込んだコメディに挑戦されておられます。ギャグのところに、非現実がないんですよ。あくまでキャラで笑わせている。そのキャラも飛ばしすぎてないラインで落ち着かせているし。ああ、本作のテーマは「セーブ」なのかな。ともすれば大暴走しそうな分野だからこそ、すごく慎重にまとめている。
・トモダチと2人で新番組「きなこマン」オーディションに参加し、そのまま主演することに決まりました。トモダチの1人はボンテージマニアで狭っくるしいヒーローのスーツにハマって乗り気です。そして主役はそんなトモダチがスキなホモです。
・ほかにも売れないとAVに売り飛ばされるがけっぷちのグラビアアイドルが悪の幹部役とか、ビシビシしごく裏方のアクション指導の女性とか、ひとクセありそうな面々をくわえてのドタバタ漫画です。
・いやこの奮闘ぶりが笑えるというよりジーンとするんですよね。唐沢なをきで感動してどうするなんて思いますが、実際、上記の「偽青春漫画」でもそうだけど、唐沢氏の「青春」描画力は相当なもんだと思うんですよね。
・とくに第1回目撮影終了後の打ち上げの回。放送があった回。とくに後者での自分らのデキの悪さに涙してるところはしばらくページをめくることができないくらいココロが揺さぶられました。スタッフたちの情熱にほだされました。それはとりもなおさず、唐沢氏の特撮愛にも通じるのかしら。今これを書きながらもう1回読んだけど、やっぱりココロが揺さぶられました。ここんところが「なんかいい」の主成分かなと。
・絵にムラがありますね。なんだろ、ここは描いたヒトがちがうってすごくよくわかるんだよな。これはエッセイコミック「とりから往復書簡」に登場する美女アシスタント集団のダレなんだろ?と思ったり。
・最近は唐沢センセもギャグの引き出しをいくつかにしぼって、ルーティン化させて勝負するって連載を多くし、なおかつ、「カスミ伝」シリーズに代表される、ギャグのためのギャグってパターンの引き出しは奥に引っ込めたのかしらと思っていたところに、コレでした。
「唐沢なをきのギャグ」ということでは最高に奥に引っ込んだカタチでありそこは残念ではありますが、本作はいいです。ベツ腹です。
・2巻では「なんかいい」の「なんか」の理由がよりいっそうわかってくるのではないかと思うのです。
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