2009年04月13日

「未来歳時記 バイオの黙示録」諸星大二郎(集英社)

・ある時期まで、書店でコミックをみかけたら、ノータイムでレジにもっていく作家のひとりなんですが、199年ごろから流行った、愛蔵本、そこから、コミック文庫、コンビニコミック、再刊地獄などで、著作が新作なのか、復刊なのか、再編集なのか、ワケがわからなくなり、『栞と紙魚子』シリーズ以外買わなくなったので、そこそこゴブサタなのですが、本作はなにかピンとくるものがあり買いました。

・なお出版社はこういった乱発の責任をとれとは思います。とくに秋田出版。ブラックジャックを何種類だしたんだ?

・本作は、「ウルトラジャンプ」に2000年からとびとびで掲載されていた、連作の短編を1冊にまとめたものです。ハイカラなコトバでいうところのオムニバスってやつですね。

・あの「週刊少年ジャンプ」で手塚賞をとってからが本格的なメジャーデビューですが、その作品「生物都市」は今も古びない名作です。ただ、当時のおれにとっては、まったく別の一面も持ってました。

・すんげーこわかったのよ。

・宇宙探査にいったロケットが謎のウイルスに侵されて地球に戻ってくる。機械とニンゲンが融合してしまうウイルスで、地球上もどんどん機械とニンゲンが混ざってドロドロしたものになるって話。
・今にして思うと、すばらしいからぜひ混ざりたいとは思うよ。老人は自分の死んでいく身体からオサラバして機械のタフさを手に入れるし、衣食住の心配がなくなるから。

・でも、発表当時(1974年)リアルタイムで読んだおれには、吸血鬼とか、ゾンビ(当時はなかったけど)、ウイルスものと同じで、すごくこわかった。無機質のモノにできるだけさわらないようにしようと思っていたくらい。

・本作、それを思い出させてくれました。諸星大二郎はコワイ!って。

・未来の第一次産業の話です。つまり、農業やら酪農やら。アグリのカルチャーですよ。

「野菜畑」では、ハイブリッドの品種は、野菜同士をかけあわせるばかりではなく、動物や魚とも掛け合わせるようになります。
・チキンとキャベツ、羊とカリフラワー、カボチャとマグロなどなど、それこそ「生物都市」の融合を思わせる感じ。
・で、あるとき農夫が美人の女性が「なっている」ことに気がつくわけですが、すごく美人なのでほおっておいたんですね。
・と、あとはお決まりのパターンです。

「養鶏場」では人語をしゃべるニワトリが育てられています。人語をしゃべりますが九官鳥と同じでそれには意味がないそうです。ところが、彼女ら(オバチャン風にしゃべる)が、ある事件をさかいに主人公の管理人に逆らいはじめるのです。

・と、この2編の次からはさらに時間がたち(実際上記2編は2000年に描かれたもので、以降は2006年から)、もっと物語つながっていきます。

・ヒトは動物になったり鳥になったり植物になったりと奇形化がすすんだ時代になり、差別され、ひっそりと暮らしはじめます。そして、健常者もビクビクオドオドとしてます、いつ「発症」するかわからないからたくさんの薬を飲んで必死に抑えているのです。

・と、相変わらず才気あふれるセンスのワンダーがみなぎっている作品ではあります。そして、センスのワンダーって少なからずホラー要素が混じっていることを久しぶりに思い出したし、恐怖を覚えたのです。

・個人的なことになりますが、2009年前半はネズミに苦しめられてました。いろいろな手をうち、やれることをすべてやっても、あいつらはそれを乗り越えては、壁を食い破り、店を荒らしていきます。そして、最終的に「国」を作っていたのには、怒りを通り越して負けたと思いました。
・そういったじわじわと押し寄せてくる恐怖。本作はそれがすごくよくできてますし、かつ、そういった体験も踏まえますが、えらいリアリティを感じるのです。
・とくに「百鬼夜行」という話。獣人化がすすんだヒトが、打ち捨てられたロケット工場で、宇宙に脱出するロケットを作っているというウワサを知り、探検する少年少女の話。
・廃墟の工場では、人語をしゃべるネズミがたくさんウロチョロしてるんですよ。あのシーン!

>>
新しい天地創造だ!
人類に後戻りの
道はない!

>>

・諸星作品がおもしろいのはわかりきっていることですが、久しぶりに恐怖を思い出させてくれたのがうれしいです。

・あと、いっとき絵がゆらいでいたのですが(それでもこの安定度は異常ですが)、本作はすごくしっかりしてますね。

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posted by すけきょう at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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