・10年に1冊しかマンガを買わないヒトは上中下の3冊で30年マンガを買わなくてもOKだと思います。
・感動します。
・と、そういうことはもうすでにいろいろといわれておるでしょうし、この先もいわれることなので、アタクシは省略させていただきます。いちいち「Me Too!」と叫んでおきます。「おれも漏れも」でも「ハゲあがるほど同意」でもいいです。「おもしろかったねえ」とウンウンうなずいておきます。
・そういうのとちょっとちがったところで思ったことを。
・本作の中巻でのamazonのレビューにおいて、70人以上のなか、1人しか参考にしてもらえなかった、ちょっとアレなのがあります。
・実際、歴史オンチのおれにも「アンタなにいってんの?」っていいたくなるようなものですが、逆にそれで本作を読んでいて思っていたことがつながったのでそれを書きます。よって、以下もトンチンカンの可能性が高いです。まあ、そういう意見もあるなってことで。前記のレビューも興味深いものです。少数意見尊重です。
・広島は呉に嫁いだ北條すずとその一家を描いた作品です。
・上巻は昭和18年からはじまり、中巻ときて下巻ではいよいよ昭和20年です。広島で昭和20年となるとみなさんご存知の教科書に載っているようなことが起こります。
・上巻からずっと思ってました。本作は「サザエさん」だなと。そう、あの国民的アニメですね。
・日本が普通じゃなくなっていてもニコニコと笑いが絶えなかったり、逆に、いろいな確執やわだかまりがあったり、それでも日々の生活として家族で乗り越えていくわけです。物資の不足やビンボーやおかしな制度なんかも。
「サザエさん時空」なんてコトバがあります。サザエさん一家はどれだけ正月を迎えても年をとらないってアレ。
・日本人は全員、イクラちゃんから順番に各キャラの年齢を抜いていきます。おれはもう波平が待ち構えてますよこれ。
・できるだけ「サザエさん時空」を保つのが「幸せな家庭」の正体なのかなとボンヤリ思っていたのです。
・本作の「サザエさん一家」は、「それまで」のサザエさん時空にとどまることを許してもらえなかった。「いろいろ」あったわけです。そのいろいろはぜひ読んでください。
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歪んどる(いがんどる)
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・主人公は自分のことをそう思うのです。でも、歪んどるのは主人公じゃないんですね。日本中、世界中にたくさんあり、たくさんの方が同時に目指している「サザエさん時空」を破壊しようとするモノが歪ませる正体です。そのことこそがソレを憎む最大の理由なのですね。
・確率の問題かもしれません。あるいは運なのかもしれません。でも、昭和18年から20年までのソレはサザエさん時空を短期間にすごくたくさん大量に歪ませてしまいました。
・超意味のない「もしも」として「もし、広島の呉市じゃなかったら」とか「昭和18年から21年じゃなかったら」とか考えるわけです。少なくとも本作でのサザエさん一家の時空の歪みは少ないはずです。
・と、凡百はそこを着地点にするわけですよ「NOMORE!」って、「許さない!」って。
・ところが、こうの氏の真骨頂は20年9月からにあるわけです。
・そう、ここから日本中の「サザエさん」たちは、歪んだ時空を「戻し」はじめるのです。空いた穴を埋め、枯れた地を耕してあらたな種を植えていくのですよ。
・そこでの超人的なバイタリティやしぶとさを丁寧に丁寧に描いているのです。歪みを戻そうとしてあがいている彼らを描いているのです。
・さらに、すごいのはその「歪み」があったからこその「よかった」も描いているのです。それは手放しでの「よかった」じゃないかもしれないけど「よかった」です。それはそれとしてよろこぶわけです。それもしぶとさです。
・ヒトは「サザエさん時空」を目指すけど、「サザエさん時空」に居続けることはムリなのですね。
・そして、いつからでも、どんな状態からでも「サザエさん」を目指すことはできると。
・永遠に追いつけない逃げ水のような理想の「サザエさん」を毎週日曜日の休日の「終わりのはじまり」にみることは、意外に日本人のメンタルなところに大きな影響を与えているのではないかしら? そういうことを本作からひしひしと感じさせられるのです。
・あと、本作全部ですが、とくに下巻でのマンガ技術はちょっと尋常じゃありません。現時点でトップクラスです。いや、そういうレベルで他と比較することすら無意味に思えるほど。
・しかも、「ありったけ」放出してます。作者の全力投球です。もう情報量と技術力の高さでめまいがしそうです。カルピスの原液を煮詰めて片栗粉でとろみをつけたくらいです。いや精子って意味じゃないですよ。それくらい濃くて甘いってことですよ。
・そういった意味じゃ、「夕凪の街〜」では、あえて抑えていたところもすべて「ありったけ」な分、ちょっと濃過ぎと思うクチがいそうな気がしたり。いろいろとトゥーマッチな感じはあります。でも、それは消化しなければならない。読者としては。
・すげえのお描きなさったなあ。
・読むことができてよかったなと思いました。この「奇蹟」に立ち会うことができてよかった。みなさんもぜひどうぞ。
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