2009年08月08日

「相羽奈美の犬」1巻 松田 洋子(ぶんか社)

・絶望した青年が、もうどうなってもいいってことで大好きな女の子・アイワナミをひたすらストーカーしているときにトラックではねられ犬に生まれ変わりました。
そして、心身ともに彼女の犬として、いろいろと寄ってくるおかしなヒトから守るのです。1話完結の毎話読みきりです。

・筒井康隆氏の「家族八景」という小説を思い出しました。ヒトの心を読むことができる超能力者が家政婦としていろいろと問題のある家庭にでむく連作小説ですね。
・本作の主人公も犬という立場と卓越した「ダメ男」目線から、ナミさんに近づいてくる邪気のあるニンゲンを感知し相対するワケです。

・なによりも登場する人間の腐り具合でしょうかね。みんな腐りきってます。

・どうせ彼女になれないなら彼女の顔を切り刻んで一生オモテに出れないようにしてやるという悪のストーカー(主人公は善のストーカー)。
・彼女がモテるのをねたみカゲでこそこそと陰湿な嫌がらせをしていた同級生女子。
・大きくなってかわいくなくなったという理由で犬を保健所に捨てにくる「常連」のババア。
・デビュー作、「薫の秘話」に登場したような老いた母をシモベのように使い「しょうがないから」って母を殺そうとする自称「エリート」の教育実習生。

・主人公の特技「噛むとそいつを犬に変身させる」が炸裂して彼らは犬としての第2の人生を送るというオチになっております。

・たぶんにいろいろな物語においても群を抜いてヘタレで小心者の主人公からしてすごく腐ってますからね。これが感情移入しそうでできないラインが絶妙です。

・そんなマンガがおもしろいの?というもっともな質問がきそうです。

・わりと作者のマンガ(共作とかは知らない)をおいかけていますが本作はこれまでの作品とはずいぶんと毛色がちがうなと思います。

・デビュー作の「薫の秘話」や「まほおつかいミミッチ」などのフィクションも、「人生カチカチ山」などのエッセイコミックも、なんていうか、すごく「作者」が前に出てきたような作風に思えたのです。フィクションの場合は、主人公が作者の分身ということで作者のコトバや思想をしゃべっているようでした。
・もちろんそれがおもしろいのであってなんの問題もないんですが、本作はその「作者」分を少し抑えたように見受けられるのです。より、主人公は物語の主人公としてどこかで突き放しているといいますかね。1本線がひいてあるような気がしました。
・とくに、主人公のナミさんへの溺愛ぶり(犬ぶり)は作者のクールな性格にはないところのような気がします。
・それでいうと松田作品では稀有のパーフェクト超人であるナミさんもないキャラクターではありますね。

・結果として、より物語に入りやすくなったなとは思います。
・これまでの作品もそういうことはないのでしょうし、おれの勉強不足の可能性も大きいのですが、本作の「物語」感は、作品に深みとコクを出していて、これまでの諸作品より1味ちがっているなとは思います。

・もちろんそれは「美味しい」ものです。だから、最初の質問には「おもしろい」と答えます。

・物語性というと、映画にもなった「赤い文化住宅の初子」もありますが、これも「作者」が強い気がしたのです。一応追記。

[Amazon.co.jp: 相羽奈美の犬 1: 松田 洋子: 本]


参照:
[Amazon.co.jp: 家族八景 (新潮文庫): 筒井 康隆: 本]


posted by すけきょう at 19:19| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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