2009年10月16日

「星守る犬」村上たかし(双葉社)

・答え合わせのつもりで買いました。
・あちこちで漏れ聞こえる評判。オビにもあるように「王様のブランチ」など。
「王様のブランチ」効果ってのはテキメンで、すぐに書店じゃ平積みされたりコメントカードがおいてあったり、「おためし」で5ページくらいの立ち読み用のコピーがあったりする。それに「王様のブランチで紹介〜」的なキャプションがつくんだよな。

・犬とオッサンが旅をしてのたれ死ぬ。

・こういう話と思ったし、それが「感動」にいたる理由もすごくわかる。人が死ぬ話は感動するものだから。
・じゃあ、それを買う理由はあるのか?とは思ったのでしばらく買いませんでした。

・そういうすかしたこといっててなぜ買ったのか?っていうと、理由はあまりなかったりします。1番大きいのはなじみの本屋にあったことかもしれません。
・あと、さりげに大きいのは「伊集院光の深夜の馬鹿力」で「滂沱の涙」なんてベタにホメていたことか。
・伊集院氏、こういうベタなのは距離感を持った感想を述べられるのが常なのに、これに関してはえらいストレートな感想だなと。

・と、まあ、そんなこんなで買って読んでました。おれが買ったのは実に第10刷目ですよ。発売2ヶ月で10刷か。

・そして答えを合わせてみたわけです。

・この後の本当に書きたいことは「つづきを読む」に書きます。力いっぱいネタバレで書きますので、そういうのキライなヒトは遠慮ください。読んでないとわからないと思います。

・その前に書きたいことを先に書いておきます。

・村上たかし氏は「ヤングジャンプ」の「ナマケモノはみてた」という動物が下品なギャグマンガで、そのあとはぶんか社でなかなかの人物である妻のヒトのエッセイコミックを描いておられるのを知っている。で、「ぱじ」って老人と孫のほのぼの4コマみたいのを描かれているのは間接的に知って、「ああ、うまくジョブチェンジされたな」とは思っていた。そう、そういうのは興味なかったし。

・で、これを描いたので、着実にジョブチェンジは進んでいるし、このヒト、妻のヒトのエッセイコミックあたり、あと、同時期にヤングジャンプで活躍されていた田島みるく氏なんかの証言で、すごくマジメでいろいろと考えてる方なんだなとは思いますから、本作はまったく驚かなかったし、そういう意味での刺激もないなとは思っていたのです。

・いやまあ実際にそうだったのです。

・犬とオッサンが旅をしてのたれ死ぬ。

・これだけの話です。ネタバレもなにも最初の2p目にそう描かれているわけですし。

・ところが、(で、以下「続きを読む」参照です)



・犬とオッサンが旅をしてのたれ死ぬ。

・このどのポイントで感動するか?そういうことを考えました。
・死ぬことは感動しますよね。じゃあ、「どっち?」ってことです。犬? オッサン? これによってずいぶんと意味合いが変わっていきます。

・某所の感想では、犬が死ぬのはカワイソウとありました。

・おれは「死ぬ」ことじゃなくて、「旅」がポイントだなと思ったのです。しかも、「旅」そのものじゃなくて、旅に出ること。

・オッサン、なんのために旅に出たのか?って。

・と、それで考えるとすべては1話目にあるなと。つまり、犬がきてからオッサンが旅立つまでの間。
・プロローグであり、オッサンが旅立つ理由だったりします。

・オッサン、心臓に持病があり、そのせいで会社をリストラされています。そして、奥さんから離婚を切り出されます。

・奥さんが悪くて、オッサンが正義ばかりでもないけど、結局のところ、奥さんから死刑宣告されたカタチになるわけです。
・仕事がダメ、そして家族からもダメを出されたオッサンはもう生きる意味がなくなってます。

・仕事はなにをやっているのかわかりませんが、家に帰って犬の散歩が日課ということは、定時に終わってるということだし、趣味のためにあちこちにいくこともないし、そういうつきあいもない。そして、故郷へ「帰る」ということは、つまり、現在地に昔からのトモダチもいない状態。
・つまり、オッサンには、基本「仕事」と「家族」しかなかったわけです。それが持病がモトで2つとも失った。

・そして、残った「仕事」と「家族」は、「犬」を野良にしないことです。一応タテマエ上は家賃が安いということで南の田舎にいくわけです。

・でも、犬は娘が小学生くらいのときに拾われて、成人になるくらいまでで、もはや老犬です。彼はじゃあ犬を野良にしないために故郷に帰りますが、犬がいなくなったらどうするの?

・と、1話の時点ではオッサンはあまり深くも考えてなかったようですが、つまり2話以降の「旅」というのは、「死出の旅」だったんだなと。

・オッサン、どこでそれを自覚したかは微妙ではありますが、実は、けっこう早いうちに覚悟していたし、それはひょっとして旅のはじまりからかすかに横たわっていたんだなとは思う。

・そして、後日談となる「日輪草」において、オッサンはいくらでも打てる手があったことがわかるワケですが、なにもしないで死んでいったわけです。

・いや、なにもしないわけではないんだ。オッサンなりの「責任」を取っていったことが強調されているんだ。

・たとえば、「元家族」や親類縁者に迷惑をかけないように自分の身元をキレイに消し去る。
・それはリサイクルショップで犬の手術代のために家財道具を一切売り払ったときにすでに偽名を使っていたことからもわかる。

・作者のあとがきを読んで強く思ったのです。これはオッサンありきの話だなと。

・ちょっとくさいですが「愛」。オッサンはこれの送受信がヘタだったのでこうなった。
・オッサンはちゃんと家族にも愛がたっぷりあった。ただ、家族がどんな「愛」を投げてきてもなんでもないように受け止め、同じ場所にいつも同じようにそれを返してきたんだなと。

「おまえの思うようにしろ」

・奥さんがパートをしたいというとき、親の介護をしたいといったとき、そのコトバを返し、そして離婚されるとき、そのコトバを逆にぶつけられるワケです。

・オッサンのその心情はすごくわかるんだ。めんどくさいからそういうテンプレ的な回答を用意してるってことだよ。それがまちがっていることもわかる。
・だって、たずねてることもとめていることは毎回ちがうのに、答えが全部いっしょだと、たずねたりもとめたりする意味がないからね。壁にむかって投げるボールと同じだよ。
・ただ、オッサンはその答えに誇りを持ってるし、ちゃんと責任を持っているつもりだったんだよ。
・だからこそ家族に「おまえは必要ない」と離婚を切り出されたときの青天の霹靂っぷりと押し寄せてくる悲しみと絶望を考えると痛かったのです。ヒトゴトじゃねえなと。
・そして、それは逆に妻のほうにも思い入ったりするわけです。どっちにもなりうるなと。

・犬とオッサンが旅をしてのたれ死ぬ。

・ホームレス少年に財布をパクられたこと、犬の大病、仮にこれらを回避したところで、実は話自体が変わらなかったりするのです。

・たとえば、道中を無事に済んでオッサンの故郷についたところで、状況は好転するわけはないんですよね。病気ももう気休めの痛み止めしかない「不治」なわけだし。それこそ、この「物語」の起伏がやや緩やかになるだけです。

・で、オッサン自体、積極的に「生」を求めてないのは随所にみうけられる。のこった金をパーっと使ったりな。

・だからこそ、犬が傍らにいたことが大きい。犬はいかなるときもオッサンに惜しみなく愛を注いでくれてます。もう見返りもなにもカンケイなくただただ愛を注いでいる。

・犬の名はハッピー。そう、オッサンはハッピーエンドだったわけです。ハッピーがいたからこそ、きちんと幸せに旅立つことができたのよ。

・犬とオッサンが旅をしてのたれ死ぬ。
・ただし、ハッピーに。

・と、他の要素はいろいろなヒトに感動させるための「滑り止め」みたいなものだと思うよ。

・本作はオッサンの死に際をみるためのものです。そのあとの犬が死んだり、その後のケースワーカーのオッサンの話、さらには、元家族、財布をパチった少年のその後を描くのは、滑り止め、痛み止め、ごまかし、みたいなものだなと思う。
・それよりもさらにタチが悪いかもしれないな。たとえば、元妻は介護福祉士の資格をとるセミナーを受けているシーンが挿入されている。
・てめえのダンナを介護するの拒否しておい介護福祉士かよと思ったりな。

・タイトルの「星守る犬」ってのは希望を追い求める夢追い人のこと
らしいですが、そのタイトルにふれるようなことまでは描ききれてないような気がするわ。オッサン、やっぱり家族とやりなおしたかったのが夢ってこと?ちがうだろ。

・だから、多くのヒトが感動するのって「なんで?」と思ったりするんですよ。おれは怖くなって胸がつまったな。本作に充満している「死」と「孤独」と「絶望」に。

・ということで、犬を飼うといいなとは思いましたよ。作者のあとがきにもそんなこと書いてありましたし。で、犬から与えられる惜しみない愛情にまみれることはまちがいない幸せだって。

・いや、ホント、そう思うような内容でしかないんだよな。

・とりあえず今飼っている犬にはやさしくしようかと思った。

・あと、ケースワーカーにも、作者自身もあとがきでも、なんども強調してるとおり、オッサンはハッピーだったんだろうなと。ちゃんと責任とってカッコよかったよ。オッサンの「責任」というのは、「死」とリンクしてるわけで、死ぬための準備でしかないわけだ。だから、ナンバープレートを捨てたり、痕跡を消し去るたびに「死」が近づいていることを意識せざるを得ない。これってどんな気持ちなんだろう?

・そしてそれがわかるときがくるのだろうかね?

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posted by すけきょう at 14:30| Comment(2) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 おっさんが死んだ後、犬はしばらく生きていたそうですが、おっさんは最後に愛犬の食料にもなってあげたんでしょうか? 一面のひまわり畑の中でのたれ死には、私としては理想の死に方です。ただし、車の中じゃなく、ひまわりの花に埋もれて土に(地球に)還って行きたいです。
Posted by 花も実も亡し at 2011年05月18日 23:27
どうなんでしょうかね。
続編が出てますから、もしかしたら書いてあるかもしれません。
おれは読んでないし、読む予定はないのでわかりませんが。
ああいう死に方は夢みますね。理想とは思いませんが選択肢のひとつとしてアリといいますか。
Posted by sukekyo at 2011年05月19日 00:01
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