・前作「空色動画」は女子高生がアニメを作る話。
・本作「花もて語れ」は朗読が趣味の非コミュ新米OLが朗読の才能を開花し朗読のすばらしさを知らしめる話。
・動かない絵のマンガでアニメの話を描いて、聞こえない絵のマンガで朗読の話を描いているんですね。
参照 [「空色動画」2巻 片山ユキヲ(講談社): ポトチャリコミック]
・もう1回くわしくあらすじ。
・OL1年生のハナさんは超物怖じする性格で、まわりともうまくいかないし、ハブにされ気味です。研修の飲み会にもうまく参加できず公園のベンチに座っていたらどこからともなくキレイな声の朗読が聞こえてきます。音につられていってみるとそれは朗読教室でした。ただ、そこでも逃げるんですけどね。
・と、まあ、いろいろあって、ついいってしまった「趣味は朗読」っていうのがおおごとになり、ひきこもりのお金持ちの娘さんの前で朗読することになりました。
・とにもかくにも「朗読」です。音が聞こえないマンガにおいて、朗読の上手い下手、すごいすごくないを「描く」にはどうしたらいいのか? そこに最大のチカラが注がれていると思いますし、おかげで圧倒的にスリリングな「朗読」シーンになっております。
・ハナさんの才能の発端を描いた7歳のとき、学芸会での「ブレーメンの音楽隊」の朗読。
・そして、1巻クライマックス、宮沢賢治の「やまなし」の朗読。
・こんなにもドラマチックで迫力があるのかと目からウロコがドバドバと落ちてきます。ウロコかと思ったら涙だったりします。
・主人公の才能を描きつつも、それがなぜすごいかの解説もしているので、「朗読」というものの奥の深さや歴史なども入ってくるという小学館がスキな「お勉強」要素が入っているのもグーです。
「朗読はイメージにはじまり、イメージに終わる」
・朗読するにあたってイメージの大事さを語っているシーンのセリフです。
・片山ユキヲ氏の作風もコレじゃないのかなとふと思いました。
・実にイメージの人なんですよね。「絵」ありき。「この絵を描きたい」というイメージに帳尻を合わせてマンガを組み立てているような気がします。
0話「ブレーメンの音楽隊」。登場キャラのロバの説明のくだりで、ロバと重なっていく。
1話「枕草子」を聞きながら目の前の風景が、春になり、夏になり、秋になるシーン。ぼやーっと聞いている主人公がふと気がつくと公園のベンチになる。
2話、主人公がこのままじゃダメだとビジネス書を買ってがんばるぞと魚眼レンズ的なレンズで俯瞰で撮られる。次のページでは同じアングルで会社で叱られているとか。
・この「決め絵」の置き具合は、前作をしのぐイキオイではないかと思われます。それがまた朗読のすばらしさに合致している。とくにハナさんの表情がすごい吹っ切れてる。
・110%だなと思われます。作者の渾身のチカラが本人の限界を超えて伝わってきているような気がします。
・良書を読む楽しさ。良書を声を出して読む楽しさ。良書を聞く楽しさ。そういうものが「痛いくらい」とおり越して痛く伝わってきます。
・ただ、前作でもちょっと感じていたことがまた。
・本作、構成がアレだわ。ガクガクしてる。
・そして展開が「ほそい」。
・7歳のエピソードは重要だけど、そこでのキーパーソンは以降まったく出てこない。
・そのあと22歳までイッキにとぶ意味。女子高生が朗読する話にもできるはずだし。
・今後わかること(そんなこといえば全部だけど)とはいえ、会社に比重を置くか、朗読教室に重きを置くか。そして、会社でのキャラの描かれなさすぎな感じのわりに、会社での話を中心に展開するところとか。
・すべてが細い線でそおっとつながっていて、それが逆にダイナミックな朗読のシーンなどにあおられすぎてプチンと切れそうですごく不安になる。物語自体は一直線だしわかりやすいし迫力満点だけど、そのクルマのエンジンがものすごい振動して煙をあげて火を吹きそうになっているイメージ。
・いやまあちょっとしたいいがかりではあるんだけどね。前作もそういうところがあったから。
・あと、前記のように「イメージありき」のマンガ家さんにはありがちなんですよね。最近だと、ちょっとマイナーかもしれないけど、尾田栄一郎氏なんかそういうところありますよね。相変わらず「なんだか」と思うところありますが、それは110%ゆえなんですよね。
・ということで、本作も59巻を越える作品になることを希望してはいます。110%でぶっちぎり続けて欲しいと思います。そういう「熱い」マンガだと思います。
・ちなみに13歳の下のガキ、大絶賛でした。