2010年12月24日

「斬り介とジョニー四百九十九人斬り」榎本俊二(講談社)

・1回目は圧倒される。
・読後、空気が漏れたような笑いがしばらく続いた。おれはなにをみたのだろうと。過ぎ去った嵐のあと荒野となった畑を前にしている農夫気分で。

・2回目は爆笑した。爆笑というのは大勢で起こすものってのが正しいそうだが、おれの心情としてはこれが正解すぎるのでこれでいく。随所で爆笑した。

・3回目は感嘆する。ただただすげえと。細かい隅々に宿ってるモノを鑑賞。

・4回目は今。そう、ポトチャリコミックを書いてるのです。最近はこういう熱量のものに触れたときにしか書けない不感症ジジイだからしょうがないのです。本作は書かせる熱量があります。

・もともと「えの素」、さらに以前の「ゴールデンラッキー」でも、短篇集の「enotic」でもものすげえアクションを描いておられ唸ってましたが、今回、ほとんど描き下ろしのような体裁で100ページオーバーの全編アクションです。唸りっぱなしで声が枯れました。

・かなり意識されて無駄な要素を抜いておられます。だからあらすじはスーパーシンプル。

・2人のおサムライさんが、囚われの身となった村娘を救出するために山賊一味に乗り込んで全部切り刻む。
・100pのうち切り刻んでないのが数ページという感じです。

・もともと殺害などの残虐描写は、氏の十八番ではありますが、メインを4コマやショートに振っているために描写はどちらかというとシンプルなものでした。ところが本作は血しぶきまくりの劇画タイプの描写でなおかつ大ゴマです。

・あらためて「榎本俊二」というヒトの唯一無二の絵のウマさを思い知るのです。
・100ページただチャンバラしているマンガを面白くするために必要なものはなにか?という問題に対する模範解答は、「上手く描くこと」ですよ。
・そして「上手い絵」について考えたり理屈をこねるってパターンを用いなくても今回は大丈夫なのです。答えが1行目にあるから。
・圧倒的なんですよ。

・人物描写というか、身体描写に長けておられる作者のスキルが大爆発しております。

・おれが定義する「絵がヘタ」は、「なにが描いてあるかわからない」です。
・デッサンが正しくても、書き込みが細かくても、CGバリバリでも、絵をみて必要な情報が入ってこない場合「ヘタ」とします。マンガの絵は記号。記号がわからないのはケアレスミスといっしょですよ。テストだったらバツ。

・本作はその真逆ね。まったく頭を使わなくてもそこに起こってることが容易に理解できるし、すごいアングルや描写テク、氏が映画スキということを想起するようなストップモーションなどが多用されてますがそれになんのエクスキューズもいりません。

・読んでないヒトのために1部シーンを字で書いてみます。絵を思い浮かべてみてください。

(どっちが斬り介でジョニーかわかりませんが便宜上表紙キャラを斬り介として)
・斬り介が剣をかまえてる敵の前をモーレツないきおいで駆け抜けていく。駆け抜けた先には首が飛んでいる。
・だけど、ひとりの敵が首の前に剣を構えていたために、斬り介の刀が折れる。
・それから数人は切られずにスカってしまい駆け抜ける。
・斬り介はその前にまいておいた剣をとりに戻り、数人おいたところからまた首を切りながら駆けはじめる。
・助かった数人は、斬り介が切ってるところをぼーっと眺めている。
・と、反対側からジョニーに、顔の半分でざくりと切られる。
・そのまま前に顔の半分が落ちる。視線は斬り介のほうを向いたまま。

・マンガ家志望で未読の方はこの文章をもとに絵を起こしてみてくださいよ。だいたい7ページになるかな。
・そういう感じで100ページです。

・読んでなにもないという意味ではすごくこれまでどおりの榎本作品ではあります。一生懸命にナンセンスです。今回は彼の特異な文章センスやネーミングセンスなどもほぼないです。ひどすぎるスプラッタマンガにありがちの死体インフレにもすぐなります。カタルシスみたいのもないです。投げ出すようなラストだし。
・あと、読んでためになる小学館的なうんちくもないですし、歴史考証なんかもないです。細かいネタにファンなら「俊二ったら〜」ってニヤリとするシーンやパターンがありますが、それも目当てにするというものではないです。

「すごいものをよんだ」というもやんとしたモノは確実にココロに残ります。確実にです。そしてこれはほかで得難いかなりな独自のモノと思います。

・最大のポイントはそれを得るために税別619円を払うべきかどうかってことですね。
・おれが女性で絵がかけるなら、斬り介とジョニーが恋人同士で都知事を斬り刻む同人誌を描くくらいホレこんでいるんですが。

・榎本俊二ファンはノータイムでマスト。
・いわゆる切株映画、もういわなくなってずいぶん経ちますが「悪趣味」や「テイストレス」が好物のヒトもイケるハズです。
「すごいもの」に飢えているヒトはいいですよ。「すごいおもしろいもの」かどうかは評価が分かれますが、本作の「すごい」は確実なところですので。

オススメ

[Amazon.co.jp: 斬り介とジョニー四百九十九人斬り (KCデラックス): 榎本 俊二: 本]


追記!
リンク先のAmazonのレビューが興味深かった。☆3つのヒト。

わかっちゃいるけど受付なかったと、どう考えても雑誌連載時に読んだ記憶で描いてます。そして、わざわざダメを出すくらい印象に残っていたということですね。
つまりそれくらいの吸引力と、選民性を内在しているということですので、オススメと書きましたが注意なさってください。
posted by すけきょう at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | オススメコミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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