2011年01月15日

「食の軍師」泉昌之(日本文芸社)

・泉昌之30周年記念単行本だそうです。もうそんななるのか。
・とはいえ、デビュー単行本「かっこいいスキヤキ」は1983年ですね。ファミコンと同じ年なんだ。
・おれは、泉昌之名義より原作担当であるところの久住昌之氏を知ったほうが早いと思うのです。
・角川書店がだしていた雑誌「バラエティ」にコラムを書いておられたような。昨日の残り物をいろいろとアレンジしてるうちにワケがわからなくなるというものだったかな。そして、泉昌之名義のデビューが「かっこいいスキヤキ」、久住昌之氏が有名になった「孤独のグルメ」「花のズボラ飯」など、久住氏はいくつかある引き出しでもやっぱり「食」はかなり大きなウエイトを占められているしカンケイあるのですねえ。
・そもそも久住昌之名義の1st字の本が「江ぐち」ってラーメン屋への思いをよでた本だったよなあ。
・泉昌之名義でも食関連の本が多いです。

・本作もそう。
・読んで最初に連想したのはバナナマンの日村氏です。貴乃花の子供のころのモノマネで有名になった芸人さんですねという説明ももはや不要ですね。バラエティに欠かすことのできない存在になってます。

・本作、泉昌之氏のデビュー作からのキャラ・本郷をもってきた軍師シリーズがメインです。
・本郷が外食をたのしもうとする。そうするとパーカーの男が現れる。彼が「イキ」な注文をする。それにライバル心をいたく刺激されて、負けじといろいろと対抗する。それを三国志の孔明の策などにみたてる。でも結局敗北を感じてうなだれる。

「おでんの軍師」では、しょっぱなに「大根、コンニャク、ごぼ天」をたのむパーカーにライバル心を刺激され、「あいつと同じものをたのむと負け」って自分ルールをしいて、それに対抗すべき「ハンペン、玉子、ちくわぶ」をたのみ「白三形の陣で勝負!」なんてひとりごちてるワケですね。
・だいたいこのパターンでやきとり、寿司、日本ソバなどといき、ついに「焼肉」では差し向かいの勝負になり、最後には泉昌之1stコミック「かっこいいスキヤキ」の「夜行」よろしく「弁当の軍師」になるわけです。いっしょに旅行いくんだよ。つまり仲良しになってるの。まあ、本郷のほうはずっとライバル心メラメラ燃やしてるのだけど。

・そう、このシリーズの最大のポイントは2人ってことなんですよ。「孤独のグルメ」にしても「花のズボラ飯」にしても、「おひとり様」だったわけです。それが2人で食べる。しかも、それが「バトル」になっている。
・実は超画期的なんですね。
・つくる方のバトルはあるけど、食べる方のバトルなんかこれまでなかったから。あー、まー、大食い選手権的な、フードバトルなマンガはあるんでしょうけどね。

・その視点でいうんなら、たとえばデビュー作「夜行」では1人で食べてるけど、その図式は、弁当との戦いだったわけです。vs弁当ね。いかにダンドリよく美味しく食べるか。そのおかずの順番をさぐりながら食べると。ま、最終的に大事に温存していたカツが玉ねぎのカツで惨敗してしまうわけですが。

「いかに美味しく食べるか」

・これが基本テーマです。こうすると本作も「夜行」も「孤独のグルメ」他作品も同じになりますが、本作や「夜行」はそれを競技やバトルの位置まで高めているところが画期的なんですね。「より美味しく」って感じで。んま、それがつまりバカらしいんですが。

・だって「別に食べたいものを好きなだけ美味しく食べればいいじゃないか」って思うし、そういう視点を持ったらこの本郷のやってることはただただ滑稽だからね。
・実際、パーカーオトコにも「どうでもいいじゃん」的な諌められ方をしてますし。

・ここでバナナマン日村氏に登場願います。
・彼は、相方の設楽氏や、第3のバナナマンといわれている盟友でありブレーンである放送作家のオークラ氏などの、グルメに囲まれていて、打ち上げなどで彼らの立ち居振る舞いや注文のチョイスにすごくコンプレックスを感じてます。
・たとえば、設楽氏がいいタイミングで焼き鳥屋でオクラをたのむ感じに「イキ」とか「かっこいい」って思うのですよ。
・たとえば、夜通しライブの稽古をやって明け方「軽くさっぱりしたもの食べようよ」って大戸屋にいってみんな朝定食みたいなものを注文しているのに、ひとり「和風ハンバーグ定食」をたのんでいることに引け目を感じるのです。「でも和風にしたよ?」なんてギャグにまで昇華してはいるんだけど。
・で、それに対抗して、「冷やしトマト」という金脈を発見し、いっとき雑誌やなんかのインタビューにすら「最近冷やしトマトにハマってる」なんていって、逆にバカにされたりね。

・食事において勝った負けたってのはわりにあるんだろうけど、同じルールのもと、同じ店で、「試合」にするのっていかにもオトコですよね。孤独のグルメ風にいうと「ソース味って男の子だよな」ってか。ソース味のバトルですよ。
・日村氏と久住氏は同じものがあるし、これ読んで「あるある」と思ったおれも同様です。
・実際、本郷にしても美味しいものを美味しく食べて満腹になってるんだからね。ただ、パーカー男に負けたって点だけひっかかっているわけです。

・こういうところは大事ですよね。

・本作、この一点のみで、展開してるところがすごいんですよね。実は、このやり方、相当店や展開が限られてきますからね。
・まず、ラーメンだけって1品しかない店はできないでしょ? 逆にファミレスみたいなメニューが多岐に広がりすぎるのもムリ。ああ、まあ、ホテルの朝バイキングなんてのもありましたけど。
・そこいらの「調理」がミゴトなんですね。1回の食事に軍略と戦略という名に変換したこだわりをくっつけて、なおかつ、本郷を上回るイキな立ち居振る舞いをパーカーオトコにさせたりね。
・それらを最終的にバカらしいって位置に落とし込んでいる。
・その原作をあうんの呼吸でマンガ化している和泉晴紀氏がまたすばらしい。「夜行」のときの劇画パスティーシュ的なアプローチから完全に和泉晴紀のそれになっている絵が映えるわけよ。これが30年の味わいだねと。つーか、ハラが減るよ。

・実は「孤独のグルメ」も久住流のギャグマンガではあるんだよなとか。

・ともあれ。30年おめでとうございます。40年に向けてがんばってください。

オススメ

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posted by すけきょう at 15:05| Comment(0) | TrackBack(0) | オススメコミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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