・と、マンガマニアっぽいことをいってケムにまこうとしましたが、実はおれは「柔道一直線」どころか、永島慎二氏の諸作品もあまり読んだことはないのでした。
・永島慎二氏は「漫画家残酷物語」や「フーテン」などの当時の若者にビリビリくるマンガを描いておられて、月刊誌週刊誌の少年漫画の商業主義をバカにされており、「こんなものはおれにも描くことができる」って実践のためにド少年漫画である「柔道一直線」を描いたってエピソードを思い出してあてはめてみたんですね。
・このエピソード自体もちょいとあやふや。
[「ききみみ図鑑」宮田紘次(エンターブレイン): ポトチャリコミック]
・話題になったみたいであちこちで平積みにされている「ききみみ図鑑」。
・2巻の帯にも「[ききみみ図鑑]が話題沸騰中、新鋭・宮田紘次の最新刊!」というコピーがありました。
・すなわち、宮田紘次氏の「本線」が「ききみみ図鑑」のようなモノで、本作は商業主義っぽいってアプローチで描かれた印象。。なんつーか、表紙の「はしゃいだ」感じがとくにそう
思わせるんだよな。コミックの表紙も各話の表紙も。
・んまあ、こういう昭和のもう廃れ果てた古臭くも青臭い、えーと、だから、青カビが生えたような価値観を引っ張り出すような、懐かしさ「も」、宮田紘次氏の作品には感じられる。それだけではないです。念のため。
・現在、そういう視点はナンセンスですわな。なにが商業主義だってーの。んま、それはおれが10代じゃないからそう思うのかもしれませんが。
あらすじ。
・女子高生真昼さんが、幽霊の深夜子(みよこ)さんと、契約をすることになります。神様の出す指令をこなしたらスタンプが1個。カードがいっぱいになったら願い事が叶う。
・この話。1巻のAmazonのレビューにもありましたが、すごく手垢にまみれた設定です。過去ボーダイなジャンルでボーダイな数の話が紡がれているハズです。
・なぜならマンガにむいたよくできた設定だから。えーと、「商業主義」の。
・マンガにむいた設定は、キャラがわかりやすく、柔軟に展開が変えられ、それでいながら明確なゴールが定まっていることです。
・ゴム人間、三刀流などの個性的な仲間と、なにが起こるかわからない世界で、ひとつながりの財宝を探す。
・素人ながら演劇の天才が、親が1流女優の娘と、切磋琢磨し、幻と呼ばれた最高峰の演劇の主役を勝ち取る。
・な?
・キャラ設定と、目標設定が決まれば柔軟に対応できる。
・腕っぷしが強いショートカットの貧乳の真昼と、メガネでクールで頭脳明晰でいてちょっとミステリアスな深夜子のコンビが、巨乳の先生として潜り込んでいる神様が気まぐれにだすさまざまな指令を果たす。
・迷いネコを探す、恋愛成就させる、メイド喫茶のアルバイト、野球部の助っ人、犯人探し、演劇部の助っ人などね。
・本作、2巻で完結してますが、この「指令」はいかようにも伸ばすことが可能であることはわかります。指令の数だけいろいろと展開があることも想像がつきます。
・こういう学園を舞台に「いろいろ」やるってのも、ルーツは「ハリスの旋風/ちばてつや」あたり、あるいはもっと前からある設定です。
・でも、最近はあまり使われてないところと思うんですよね。だから、余計に昭和な感じが。
・そこいら、作者も重々承知してやっておられますね。1巻はそのオマージュみたいなもので、ラストの深夜子のセリフがすべてを物語っておられます。
・そいでね、1巻はちょっとギクシャクしてる。キャラを動かしきれてない感じといいますか。とくに最初のほう。だから、真昼の指令をやる動機づけや、深夜子のミステリアスなところがなんだか逆に鼻につくというか。
・実のところじっくり読むと細かい仕掛けやネタが散りばめられている。自分のいったセリフが2巻で帰ってきたりとか。あのキャラが、実はこうで、この行動には意味があってとか。作者にしてみればもっとじっくり長くやりたかったのかなと思ったり。
・2巻、どの時点でそうなったのかわかりませんが、だいたい1冊分、とにかく終了にむけて大疾走します。1巻での仕込みが花開いてなおかつこれでもかこれでもかと畳み掛けていきます。
「ききみみ図鑑」の「視える音」も学園祭のシーンが印象的でしたが、さらに上回り盛り上がり「さびしい」学園祭シーン。そして祭りが終わるわけですよ。
・こんな学園祭の空気、「現実」か映画「翔んだカップル」のモグラたたきのシーンでしか感じがことないよ。ここがもう圧倒的におれの琴線をかき鳴らす。
・作者、映画スキでそういう暗喩とか、おれにはわからないパロディや引用をたくさん散りばめられている感じがします。本作は作者の引き出しの多さを知らしめた作品ですね。解説したいところが1番ネタバレになるんだよなあ。惜しいなあ。
・おれはいいマンガを読むと実写映画化の監督したくなる癖があるんですが、本作に関しては作者に譲りたいです。非常にいいアングルと「描写」で随所に電撃が走りますね。しかも、マンガ的にも実写映画的にもナイスなところがあるという。たぶん、1巻のギクシャクもそこにも原因があるんだと思う。
「ききみみ図鑑」のときも感じてましたが、宮田氏の画力はすげえよ。しびれるくらい丁寧でハデで動くよ。キャラもカメラも。でも、だからか、描きすぎている。
・過信されてるわけでも謙虚なわけでもなく、逆に不十分と感じてらっしゃるわけでもないし、「ジャスト」の位置を探っておられますが、うますぎる故に少しづつ「多く」描きすぎてしまってる。だから、軽くて手垢にまみれた設定じゃトゥーマッチになる。そういう現象が起こってると思う。
・話と絵にはバランスがある。釣り合うことが大事。上記の商業主義云々はつまりそういうこと。「ききみみ図鑑」のようなノリ、ふさわしいコトバとは思いませんが便宜上「文学なノリ」に彼の絵は釣り合ってるように思える。それが「真昼に深夜子」だとトゥーマッチに思える。
・ま、1巻はね。2巻は宮田氏の画力と才能がないと描けないすばらしさと思います。なんど読んでもココロが震えるよ。なんど読んでも発見があるよ。
・1巻はじめ、がさつで、暴走族のリーダー2人をのして子分(勝手に慕われてる)にしてクラスメイトはアンタッチャブルな存在で殺伐としてた真昼さんが、さまざまな経験のあと2巻後半からあきらかに顔つきが変わってくるんだもんな。それは連載における画力向上とかそういうんじゃなくてあきらかに意図的に。そしてそれがすごく素直に受け入れられる。自然だから。スムーズだから。
・そもそも、宮田氏の絵も不思議なノリですね。「現実」を消化されてる絵ではあるし、その際にいろいろなところを経由されてるんだけど、村野守美氏や坂口尚氏あたりの昭和の短編の名手による影響が濃い感じがします。とくに女体描写。なんだろう、痩せててチビな真昼さんでありながら、「うしじまいい肉か!」ってくらいもっちりしたお尻。下腹もリアルに張ってるよなあ。もちろん、胸もリアルなタレ具合で、大きいヒトにはきちんと重力がかかってる。調べたら東京造形大学を出ておられるそうでなるほどと。ただ、「古い」ワケではないんだな。そこが不思議。きちんと21世紀のマンガとしてそこにある。あと、エロいわけでもないわ。そこはどうなのかと思ったりもしますが。だから、そこに目がいくけど、邪念に惑わされることないですよ。あと、エロシーンはパンツみえたりの「サービス」って程度なので、カ、カンチガイしないでよね。
・2巻で終了してます。作者や編集の本位だったのかどうかわかりませんが、とにかく、ムダがなくて全力疾走で駆け抜けていくような「いい話」で、長い短編みたいです。
・正直なモトもコもない感じで書くと、1巻ちょっとイマイチと思ってもガマンすれば2巻でガツンと感動できるよって。
・で、宮田紘次未読の方はまず「ききみみ図鑑」からはじめられたらいいんじゃないかと。
・おれは彼女らの涙に何度泣かされてるんだろう。これを書くにあたって読みなおすたびにジーンときている。
・あと、「柔道一直線」買っておくべきかなあ。
オススメ
[Amazon.co.jp: 真昼に深夜子 1巻 (BEAM COMIX): 宮田紘次: 本]
[Amazon.co.jp: 真昼に深夜子 2巻 (ビームコミックス): 宮田 紘次: 本]
[Amazon.co.jp: 柔道一直線 (第1巻): 梶原 一騎, 永島 慎二, 高森 篤子: 本]