・富山市は繁華街が駅前になくて、市電に乗って15分くらいの「西町」というところにあります。今は規模が相当小さいですが、今のところまだ一応の繁華街ということにはなってます。
・おれが中学生高校生くらいまでは相当賑わっていて、日曜ともなれば、西町に2つある全長400mくらいのアーケード商店街は歩けないほどです。
・かつてはそのアーケードに11の映画館がありました。
・朝早くの電車かバスで西町について1番の映画をみて昼ごはんを食べてからあちこち眺めて帰るというのが日曜の最上の過ごし方でした。願わくは女の子とがよかったですがそれは叶うことはありませんでした。でも、トモダチとでも1人でも最上の日曜日になりました。
・今は1軒もない映画館ですが、そのひとつ「たから劇場」が中央通りにはありました。
・そこで映画をみたあとは間髪入れずにむかいにある「ブックスなかだ」の本店にいって本を眺めるのが決まりになってました。
「ブックスなかだ」自体は郊外店舗中心に展開し、いまでも健在ではありまして、本店も今はなくなりましたが、ここはほかの書店とちがい青林堂や東京三世社などのハードカバーのマンガ、創元文庫、ハヤカワ文庫SF、「東京おとなクラブ」「ラッキーホラーショー」など地元の本屋のみならず、ちょっと県内のほかの書店でもなかなか手に入らない本が数多くあり、ちょうど背伸びをしたがる中学生高校生のおれには、さんざん悩んでトモダチを待たせては、ここで1冊選んで買って、ワケがわからないながらも読み「こんな高度な本読んでるおれすごい」気分を満喫してました。
・本作「夢みごこち」を読み終えた瞬間、その本屋の棚をわくわくしながら眺めていた気持ちがフラッシュバックしました。
「世の中にはこんなマンガもあるのか」感と、それを手に入れたときの「ゲットだぜ」気分と。
[平凡社 Web Magazine 夢みごこち]
「ディストピアコミックの傑作誕生」とオビには書かれてます。平凡社のWebで連載されていたマンガの単行本です。
・ハードカバーでオール2色です。
・カモノハシとして目覚めたオトコの話からはじまりまして、「そういう夢をみた」と目覚めたヤマアラシが同室のヤマアラシに話をします。
・このように、夢から夢へとバトンタッチして主人公の動物もチェンジして話は徐々に話は展開していくのです。
・人懐こくて見覚えのある温かいイラストっぽい絵だなあと思っていたら「通販生活」ほかでお描きになってる方だったのですね。調べるといくつかコミックも出されてるようで、すぐに「いきもののすべて」という4コマ作品集を取り寄せ読みました。
・そう、気に入ったのです。
・この静かなテンポで夢のバトンをつなぐたびに、ゆるやかに悪夢によっていく感じがすごくいいですし、ガロやビックリハウスで作品を掲載していた、たむらしげる氏や、鴨沢祐仁氏、佐々木マキ氏などとうっすらとリンクしていく懐かしさもわいてきます。まるで背伸びしていた高校生時の自分が世界の謎をページをめくることでクリックしていくような。当時ネットなんてなかったですけどね。こうやって手動でリンクしていったわけです。自分の意識の届く範囲での不完全でいびつなカタチのリンクです。ま、「半端ーリンク(ハイパーリンク)」といいたいわけです。ダジャレです。
・夢のバトンが変わるたびに主人公の動物も変わるというのはすごくいいアイディアです。見かけが動物なだけで中身も動きも会話もまったくニンゲンのそれですが、一目で「ちがう夢」に変わったとわかりますからね。あといちいちカワイイですし。
・ラストに近くなりリンクが「濃く」なっていくんですよね。物語が鮮明になっていき、ラストにむけて展開していきます。ただ、テンポやリズムはあくまで一定。ここの抑揚がとてもオトナですし、「効いて」ます。
・自身に明確なリズムを持っておられる方だなと思いました。それは本作のみならず「いきもののすべて」においても同様で、作風としての絵ばかりではなく、マンガの進行スピード、会話文のテンポなど、とてもおだやかで心地いいものがありますし、もちろん意識されてるんでしょうが、その以上の生来お持ちのモノも感じられます。
・なつかしい「こんな高度な本読んでるおれすごい」気分がよみがえる一品です。
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