2011年08月02日

「Helvetica Standard ヘルベチカスタンダード」あらゐけいいち(角川書店)

・アニメ化したらアカラサマな人気になるよなあ。
・アニメ化することで、書店で「可視化」する層って絶対にいるよね。アニメで知ったから急にそこにマンガが置いてあることがわかるヒトな。
・マンガの7割を買ってる地元の書店でも「これ今度アニメ化するからいっぱい仕入れたほうがいいかなあ?」とはよく聞かれる。たいがい住んでいるところではやらないのでカンケイはないんだけども。
・ケーブルテレビでやってるCSのアニメチャンネルの再放送のモノが人気になったりもするそうで。いまさら、連載が終わってしばらく経ってるものを仕入れたってこともあるそうです。

・さて「日常」ですが。
・アニメ化しました。富山県でも深夜ながらやってますし、新番組のスポットCMはわりに多めにいろいろな時間帯でやっておりました。
・基本アニメはみないヒトなのでわからないことばかりでまちがっていたらごめんなさいなんだけど、あれは止まった絵を何枚も描いてそれをヒトコマヒトコマ撮影してるから動いて視えるんでしょう?ってそっちじゃねえよ!
・制作が京都アニメーション。信頼のブランドのようで、ここが手がけたアニメはどれもこれもすごいことになっております。「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」「けいおん!」で本編と。おれみたいにアニメみないヒトにも「京アニすげえ」と、これは京本政樹氏のことをいってるわけじゃないことがわかるくらいに評判であります。
・京アニのすべてがわかるわけではないけど、上記のアニメの流れでいうと、「萌え」を提示しておられることは予想がつきます。
・しかも、それぞれにちがう切り口での萌えを京アニというフィルターを通し、よりマッシュアップして提示しており、その結果、さらなる魅力に開花させておるようです。
・と、ここまで描いて「ちゃんと」みたのと、原作と比較できるのは「けいおん!」と「日常」だけなんで、その2つで話をさせてもらいます。

「けいおん!」では楽器描写に担当がいるくらい、「聖地巡礼」ができるくらい、リアリティのある描写が話題になりました。よく2ちゃんねるのまとめサイトで「特定した」なんてフレーズと、同じアングルから撮った現地写真が並べて貼り付けられてました。
・キャラ以外のリアリティを高めることにより彼女らが「居る」ことを強めるというパターン。
・これは「らき☆すた」でもありましたね。OPを同じ場所で踊るとかな。

・でも、「日常」はそうでもありそうでもなかったよなあと。

・と、ここで、アニメの話を一旦外れて原作の「日常」の話。ややこしいですね。

「日常」は大きく2つの要素に分かれると思うのです。

1.笑える
2.笑えない

・そして、もうひとつ要素を足します。

A.かわいい
B.かわいくない

・このどっちが大事かというと、実は後者なんですね。
・6巻まで出て、オールカラーの外伝的な本作まで出てるのにも関わらず、おれは「笑えない」マンガと思います。あ、正確じゃないですね。笑いの打率が低いマンガと思います。
・反面ぶっちぎりのAのマンガともいえます。「かわいい」マンガです。
「おもしろい」「おもしろくない」で語ると分かれるとは思いますが、「かわいい」「かわいくない」でいうときっちりとした答えはでると思います。というか、おれのように2なのに読み続けているヒトはまちがいなくAと思うんです。
「日常」はかわいいマンガです。「かわいい」のほうがメインディッシュです。

・もう1度強調して書くと「かわいい」です。これが「萌え」じゃないところがちょっとキモのところですよ。
・本作にはありとあらゆるところに「かわいい」が充満してます。それはあらゐけいいち氏のフィルターを通ったもの、すなわちセンス1発勝負です。
・こう、純粋な画力もありますが、「日常」というか、あらゐけいいち氏の画力というのは上手い下手で評価するというよりは、なんていうか、「ホームメイド」な感じがします。1人で丁寧に紡ぎだされたものという感じで。
・それが証拠に本作「ヘルベチカスタンダード」の表紙右側はホッチキスで止められてます。1冊1冊紙束をまとめてホチキスでカチンと止めて「ハイどうぞ」とばかりに。本来は「そう」売りたいって感じでなあ。

「日常」の表紙などに顕著ですし、本編のあちこちに、異様な描き込みがほどこされてます。リアリティよりも点数を重視されてるかのようにあちこちにあらゐけいいちフィルターを通したモノが散りばめられてます。それらが「全部」かわいいのです。
・本作の最後にある「絵」というコーナー。部屋にいる少女と、バス停に立っている少女の絵。そしてラフに解説。
・トレードマークなのかわかりませんが、スマイルマークのまわりに突起物ができたものがいて、吾妻ひでお氏のタバコオバケみたいなのが少女のそばにいて、リアリティの背景には、まんま売ってるタバコの銘柄が精緻に書き加えられ、エレキングのフィギュアが描かれ、amazonのダンボールが描かれ、食べかけのDARS、生米が出てくるガチャガチャなど、あらい氏が描きたいものが描きたいように描かれております。それはすべてスキなものでありカワイイものであるような気がします。
・そうです。あらゐけいいち氏の最大の資質は画面内に描かれてるものすべてがカワイイことです。
・これが「萌え」と大きくちがうのは、それが天狗であれ、謎の生き物であれ、アポロチョコみたいなカラスであれ、コンビニのホットスナックであれ、看板であれ、ハカセであれ、なのであれ、ユッコであれ、あらまさんであれ、阪本さんであれ、すべて平等に描かれてることです。オリジナルのものも、誰かの版権ものも、実際のものも、すべてあらゐけいいち氏のフィルターを通し「かわいい」と判断されたものが描かれてます。

・だから、すごいのは京アニにその「かわいい」が認められたことです。実際問題、的確に京アニはそれをとらえてます。逆におれはアニメでそれらに気がついたくらいで。あらい氏もすげえけどそれをきちんと評価した京アニもすげえなあと。そしてプラスアルファも付け加えてなあ。
・京アニがつけくわえたので大きいのは女の子に質感をあたえたことかな。だから、最初のOP「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ」の3人娘のダンスの生々しさにびっくりしたりなあ。おれだけじゃないと思うんだけど。
「ヘルベチカスタンダード」には、なのとハカセの入浴シーンなんてのがありますけど、なんつーか、さっぱりだし。かわいいのはもちろんなんだけど勃起して大変なことにはならないわけでね。アニメの方はがんばれば可能じゃないか。

・自身内の「かわいい」「スキ」をひたすら描いていた作家ってことで、たとえば、ますむらひろし氏や、岩岡ヒサエ氏、ふくやまけいこ氏もそうかな、そういうファンタジーよりの作風ではあるよなあと思うんですけど、極めつけに同じ作家を思い出すわけです。

鳥山明。

・そう、彼のデビュー作で出世作である「Dr.SLUMP」の世界、ペンギン村はまんま前記のとおり、鳥山明氏による「カワイイ」と「スキ」で構成された、氏にとっての夢の世界で「日常」でいうところの時定市なわけですよ。

参照:
[時定市MAP「日常」京アニサイト【トップページ】]


・それでいろいろと合点がいくわけで、「Dr.SLUMP」もそういわれてみれば笑いのヒット率は高いことなかったけど、なんども読んでたなあと。

・で、本作です。
・本作は、「ニュータイプ」ほか、いろいろなところに描かれておるマンガを集めた、単発率の高い作品。本作での解説どおりフリーダムな感じが多く、よりその「かわいい」追求の度合いが高く汲み取ることができます。
・キャラものとしてじゃなくて、純粋に4コマとして展開してるということも大きいかもしれない。雑誌に1本、ぽんと載るものだからね。

・本作では、ウソエッセイマンガっぽい話、文字によるウソではないエッセイ、画風(画材)をいろいろと変えておられるところなど、みどころが多いです。それこそ前記の通りホチキスで綴じた、なんでもありのバラエティに富んだ個人誌といった趣き。

・ギャグセンスがないみたいな書き方をしてもうしわけなかったけど、「クリスマスプレゼント」「初夏」あたりは笑いました。
・ギャグを覆い尽くすくらい「カワイイ」が充満しているってことですよ。そしてそれはとってもいいことなのです。「イナフ!」なのです。
・かつて、笑えないギャグマンガなんかは無意味と思ってましたが、自分のまちがいに気づいたのですよ。

・しかし、ハカセの声はもうアニメの声以外で脳内で再生されてないなあ。1番違和感あるのは阪本で、マンガだといまだにちがう声で再生されてる。

・本編「日常」をお先にどうぞ。1巻から6巻まで読んで「かわいい」、あるいは「おもしろい」と思った方、「ヘルベチカスタンダード」も必ずやおもしろいことでしょう。おっと、「かわいい」ことでしょう。

あらゐ けいいち¥ 798

posted by すけきょう at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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