2011年11月03日

「日本をゆっくり走ってみたよ〜あの娘のために日本一周〜」2巻 吉本浩二(双葉社)

・2巻完結。この日を待っていた。なぜなら「ポトチャリコミック」で書くことができるから。
・思いきりなことはネタバレも含めて書きたいので「つづきを読む」以降にさせていただきます。ここでは軽い概要と感想を。

・作者が主人公。36歳。マンガ家。連載マンガがすべて終わりポカンとスキマがあく。
・そのスキマに、スキだったけど、告白できずに、郷里に帰ってしまったEさんに会いたくて矢も盾もたまらなくなる気持ちが入り込む。でも、ただ会いにいったら気持ち悪いと思われる。そうだ!日本一周する途中に会いに行くんだってことにしよう。と、いう主な理由で日本一周にでかける作者なのでした。

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・話題となった手塚治虫すげぇ!マンガと同時期に発売され、「昭和の中坊」からのファンとしては、お、また活躍されておられるなと、うれしくなったのです。吉本氏は富山県出身というのもありましたけど。

「週刊プレイボーイご推薦! 今、日本で連載されている漫画のなかで最高の漫画かもしれない!」

・1巻のオビにはそう書かれてました。1巻読後おれはそれにすごくうなずいたのです。そして2巻を読み終わっても。
・まあ、2巻完結なわけで現在連載はされていないのですが。

・バイクで日本中をまわりつつも作者はいろいろなデキゴトが起こります、そして考えます。そして、2巻でよく描かれてましたが、作者はどうもヒトを惹きつける能力があるみたいで各地でいろいろなヒトに話しかけられます。その交流も描かれてます。
・大学時代からの友人が全国にいるので彼らに会いに行くというモチベーションもあります。もちろん友人と出会ったときのことも描いてあります。
・マンガ内じゃおどおどキャラに描かれてますが実のところすごくリア充なんですよね。また、行動派でもありますが。だいたいが日本一周してますしね。道中はちょいちょいと孤独に耐えたり負けたりもしてますけど。

・Amazonの1巻に☆を1つだけの方がいました。

バイク旅モノだと思って購入したら期待はずれ。
気の弱い30男の反省文っぽいマンガが綴られておりました。


・そういうマンガです。まあ情弱乙といったところではありますが、おれのこれまでの説明でもかようにとられる方がいらっしゃるかもしれないと思いましたので念のため。

・本作にもバイクの爽快なところは描かれてると思いますけど、実際問題、バイクは不便な乗り物で、爽快なところと引き換えにすごく大変な目にも遭います。
・とくに1巻ではそのへんの苦労を丁寧に描かれてました。エンジンが不調で延々と待ちぼうけくらったり、足をひねってずっと大変だったり。雨とかな。そっちのほうが強く描いてあります。そりゃあはじめてのバイクでの長期の旅です。「不便」を感じないのはウソですよ。

・ただ、本作のキモはバイクじゃないと思うのです(以下続く)。

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・2巻を読んでこういうツイートをしました。

sukekyo
「日本をゆっくり走ってみたよ」もすげえマンガだった。最後の対談とカバーをとった写真までふくめてすげえ。作者自身もそうだけど、作者に関わるすべてのニンゲンを丸裸にして描いてる恐ろしさがあるな。しかも、それに悪意がまったくないところもコワイ。

・これ、作者ご本人さんよりリツイートされました(最近こういうケースが多い)。
・あまりそういうことをなさらない方と思ったのでよろこんでフォローして過去ツイートを読ませていたいたんですよね。

yoshimotokoji
いろんな漫画家の方のインタビューや自伝を読んで、漫画家になるというのは目指して就こうというものじゃなくて、漫画家としての生き方を選ぶことなんだと思いました。

・実に、吉本氏はそうなんですよね。
・道中、いいことばかりはないです。自省も込みですが、なんていうか、「いろいろ」なヒトと出会います。
・それは自分は旅をしてるという高揚した中にいるが、そこに住んでいるヒトにはただの日常なので奇異に映るのかもしれないと分析はされてますけど、それを差っ引いても「いろいろ」なヒトがいます。しっくりくるコトバは関西のコトバでいうところの「けったいなヒト」でしょうか。
・彼らをじっくり観察され描写しております。その正確さがスゴイです。
・最近、YouTubeでもよくみかけるようになった車載カメラの事故の瞬間映像。
・ああいうカメラが脳内にあって、きっちり録画されているのではないかと思うくらい正確に、あれやこれやを録画されております。

・愛知県の渥美半島から三重県鳥羽に向かうフェリーのなかで、バイクが趣味そうなベテランのオッサンに話しかけられる。そこで、チャンスだからいろいろ聞いてみようと、泊まるべきキャンプ場をたずねてみると、オッサン、苦笑いしながら「ホテルで泊まるからわからない」と返される。
・そのあと、フェリーから出るとき、オッサンは作者を先に行かせるんですよね。あとついてこられ、たかられたら困るからだろうって。
・で、作者は申しわけないと思うのです。悪いことしたなと。ヘンに警戒させたなと。

・でも、冷静に考えるとちょっと矛盾が生じるわけですよ。

・オッサンは先に行かせた理由を作者にいったわけじゃない。ただ、ジェスチャーで「どうぞ」とやっただけ。それは「あとをついてこられると困る」という理由ではないかもしれない。作者自身、急いでキャンプ地にいって寝ないとダメなようなことをいってたから、「急いでいたので先に行かせた」ということでもいいわけです。
・つまり、作者の憶測なんですよね。たぶん、その憶測は正しいとは思います。でも、確証はないわけです。オッサンがどう思ってその行動をとったのかはオッサンにしかわからないだろうし。

・実際、2巻では熊本のおかしいキャンプ場のオッサンに対していろいろと考察したことを「勝手にいろいろと想像しちゃってごめんなさい」とココロの中であやまるシーンを挿入しております。

・それは見ず知らずのヒトのみならず、たとえば、身内や友人に対してはさらに倍率ドンです。

・2巻では実家の富山に帰ったときにかつてない両親の仲の悪さ。どうしたのかと思ったら64歳の父の浮気が発覚。で、ずっと母親が怒っているから帰るに帰れない先に行くに行けない状態でジリジリといる。
・ここぞとばかりに明るく熱心に家庭サービスしてることをアピールする父、それを鬼のような顔をしてにらんでる母親。
・地元の幼なじみなんかはカバーめくった表紙に顔まで晒している始末(作者も映ってるけど)。

・そして、実にそういう「わかりやすい」ところじゃない「正確さ」に吉本氏の真骨頂があるのです。

・1巻で最初に出会う大学のサークルの先輩。1番世話になっている恩人で大好きなヒト。そして14年ぶりに会う。同じサークルの彼女と結婚してそのままという感じです。
・これが「すごいいいヒト」で40歳近くでも「うらやましいカップル」として描かれてるんですよ。自宅をかまえて、相変わらず仲睦まじく、「趣味の部屋」の机が2人ならんでいて、そいでもって、子どももいてって。
・ただ、たとえば、庭を作るのが趣味になっていてホームセンターでそろえた「理想の庭」みたいなのがあり、吉本氏を送るときにクロックスのサンダルを履いて、いつでもくわえタバコでポケットに手をつっこんでる。
・そう、なんていうか、そこはかとないDQN色が。
・それに他意などなく上記の通り「すごいいい先輩」として描かれてますし、実際、14年ぶりに会うってすんなり会ってつきあってくれるなんてすごくいい人間関係の末と思います。
・でも、「正確」ゆえに、読者にいろいろな気持ちが湧き上がるのです。
・そこのところがすごくコワイ。
・正確というのはシビアということでもあるんだな。

・この「正確」というのは、写実ということでもないんですよね。
・マンガ(アニメ)は、そのことを最初に教えてくれるメディアです。大昔いわれていた少女マンガのキャラをみて、顔の1/3が目じゃないか!みたいなツッコミが成立するのはつまりそういうことの裏返しなワケです。それをヒトとして認識して感情移入してキャラといっしょに泣いたり笑ったりできるのはすばらしいスキルと思います。
・吉本氏の作画は最初に描いたのが青木雄二氏監修のものだったためか、氏の影響が見受けられる、マンガマンガしてる反面、すごく書きこむタイプの黒っぽい絵です。ディティールに意味があるのは青木氏を超えておられるとは思います。
・その丁寧に観察して正確に描写していくサマには寒気がします。それには前記の通り「想像」が含まれてるかも知れないですが、それだからこそ余計にコワイのですね。
・なぜか? 吉本氏の目の前で起こったアレコレを「そう思った」った判断で描き切ってるからです。この思いきりの良さの「正確」さがスゴイからです。
・これはエッセイコミック作家のみならずマンガ家に共通して必要とされるスキルです。とくにエッセイコミックにおいては主人公=作者であるわけで、作者の目の前で起こったことがどうなのかを描くのはカンタンそうにみえて実はたいへん難しいことと思います。

・そして。
・そういう状態だから作者自身はもうどこまでも晒しておられますよ。
・以下、超ネタバレ上等になりますが、書きます。

・1巻のクライマックスがスゴイのです。
「二十四の瞳」の舞台になった小豆島にフェリーでわたるときに、熊本からきたバイカーといっしょにまわることになりました。彼はものすごくビュンビュンとばして挙句に、勝手に気を回して吉本氏を「もう間に合わない」と最終便のフェリーに押し込めます。何日もかけてゆっくりみたかったのに3時間しかみることができませんでした。
・そしてすっかりココロが折れてしまいます。1ヶ月旅してきたのに優柔不断でいいたいことを主張できない自分にすっかり嫌気がさしてしまいます。いつもココロの中で話しかけてるあこがれの女性に「もうダメかもしれません」と弱音も吐きます。
・その失意の彼を救ったのはなんでしょう?
・答えはヘルスです。性風俗のほうのヘルスです。
・彼は抜いてもらってスッキリしてまた旅への意欲を沸き立たせてます。ココロの女性にも「またがんばれそうです!」と報告して晴れやかな顔して次の場所を目指すのですよ。
・これはなんだ?と思うのです。心情としてはすごくわかりますけど。
・これまでも壮大な伏線として、各地の風俗を「入ろうかどうしようか」と悩むシーンがありますし、この直前では、元アシスタントといっしょに前日からリサーチしてソープにいこう!なんてはりきっておられましたが、アシの親が突如現れて立ち消え、そして反省されてます。「もう二度とそんないかがわしいところにはいきません。あなたのためにも」ってココロの女性に誓いを立ててます。
・それが次の回で抜いてますからね。
・この「正確さ」ですよ。
・1巻にも2巻にもオビに「マンガは全部事実です!!」と書いてあります。その岡山のヘルスをためしに検索したら名前こそちょっとちがいますが、ものすごく該当する店がでてきてビックリしました。ああ事実だリアリティだと。つーか、そこにちょっといきたくなりましたよ。
・ニンゲン、やっぱり「それはそれ、これはこれ」ですよね。
・作者、沖縄でも、海をみてたらサーファーがはしゃいでて、「若者は元気だな」なんてみてたら突如やってきた老人に「ここは昔たくさんのヒトが戦って死んだ場所ですよ」なんていわれてサーファーともどもシュンとされてます。そして、今なおアメリカ軍が立ちはだかってる、ニュースでは流さない沖縄の実態を身をもって体験し、なおかつ、地元出身のソープのお姉ちゃんの談話もあります。そう、ソープもいってるんですね。

・2巻読み終わり、あらためて震撼するんですよ。

・この「マンガ」は事実です。作者が体験したことを作者が思い出してマンガ化してるわけです。ここであったなんもかんもを多分正確っぽいロケハンからして、ボーダイな資料をもとにきちんと1から描いてるわけです。最初に告白めいたことを書いてから、風俗にいったこと、イヤなやつにあったこと、日本一周達成すること全部。
・構成してネーム描いて編集にみせてペン入れしてって。それは読んでるとあまり感じないことだけど、しみじみとすごいことと思うのです。この物語を最後まで読んでからだとさらに強く思うのです。
・それこそ、Amazonの☆1つのレビューじゃないけど、「さわやかな疾走感あふれるバイク乗りが共感する旅マンガ」のようにもできたわけです。泥臭いこととか生臭いこととかていねいにに省いていけば。それを「事実」部から抽出して描くこともできたでしょうしね。
・そんなこと描く?ってことをがっつり描いてます。そのほうがマンガとしておもしろくなるという判断のモトに。その気概にしびれまくるわけです。

・そして、吉本浩二はしみじみ「マンガ家」だなあと。マンガ家としての生き方を選び、前をむいてゆっくりと走っておられる。マンガ家としての業を背負って生きる。その所在表明を、覚悟を、本作でしっかり受け止めさせていただきました。そして、できるかぎりは応援しようと思いました。
・前記の手塚治虫マンガにもヒケをとらない、マンガ家としての生き様が描かれてるすばらしい作品です。

オススメ

さらにネタバレ(ここまで読んで興味を持たれた方は読後参照したほうがよろしいかと)

・こうなると、作者のことに俄然興味が出てくるのです。
・実際、この2冊の本を読んでるだけでもよくわからないのです。
・周囲に気を配りますし、主人公と同じで小心なれどもやさしいお方に思われます。
・でも、反面こういう冷静に、いやさ、冷徹なくらいに描写しております。
・2巻でも、道中いっしょになったおっさんが自分のバイクがBMWのすごいモノだって自慢してるのに驚かない作者に対してあきらかに不機嫌になっているところの描写とかしております。
「描かなくてもいいのに」が多いなあと思います。

・巻末のあこがれのキミとの対談でもビシバシとツッコミをいれられてます。
・風俗に行くことを描いてよろこぶ女性はいませんともっともなツッコミをされてます。
・この対談があるってことがまたスゴイですね。作者もあこがれのキミのほうも両方すごいと思います。究極の特典ですよね。

・つまりそういうことです。自分のみっともないところダサイところを全部晒しても描く、いい意味でも悪い意味でもこういう「強さ」があるところは、身内やトモダチはご存知だったのでしょうか。
「(道中に会った)トモダチ(つまり本人たち)をマンガに出した」以上のこと(彼らの「人生」的なもの)がすごくガッチリ描かれてることにどう思われたのでしょうか。おれがそうだったらすごく複雑な気持ちになると思います。
・親なんか、浮気して母親と子ども(作者)の前で土下座したりしてるんですから。

・そして、たぶん、作者、全員にそこいらのスジは通してそうです。そういうところがまたすげえなあと。
・その腰の座り具合と描き具合の容赦のなさと、実際に会ったときのヒトのあたりのよさそうな感じ。
・常識度が高い蛭子能収氏と、彼を観察の対象として冷静にみている根本敬氏。その両者が内在してるかのような不思議な感覚があるなと。

・それは実際のところは、それこそ会ってお話でもしないかぎりなんともいえないですし、このマンガだけの判断(厳密にいうと「昭和の厨房」の単行本内にすでに本作の萌芽たるおまけエッセイコミックが延々と連載されている)だけで、大変失礼な話でもうしわけないんですけどね。
・でも、やっぱり「どういうヒトなんだろう?」とは思います。
・同時に彼の恋焦がれたEさんも。不思議な距離感を持ってるヒトだなあと。全2巻の熱烈であけすけなラブレターが全国公開されてるんだもんなあ。そしてその作品に巻末に登場されてるんだからなあ(こういう機会は2度とないって理由だそうですが)。

・と、いろいろ考えたり思ったり興味を持つのはいい作品の証拠です。
・まだまだ続くのですがこのへんで。
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posted by すけきょう at 13:53| Comment(4) | TrackBack(0) | オススメコミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あの
二巻とも読みました

作者様とは面識はありません
ので
お金を出し買った者として

「こんなのに・・・・」

自分が悔しいです。
見る目が無かった・・・(反省)



Posted by at 2013年01月31日 00:13
それは残念でした。
Posted by sukekyo at 2013年01月31日 10:58
昨日、1巻を読みました。
私もオフロード車乗り&キャンプライダーなので
楽しく読めました。
私とマンガの主人公は走るパターンがかなり違います。
私は一人で走っていてまったく苦痛ではないし、風俗に
行くこともなく、また知り合いを訪ね回ることもありません。
観光地は極力避けるようにしていますし、
誰かと一緒に走りたいとも思いません。マイペースを
保ちたいからです。

しかしながら、雨の中を走るツラサや、やはり人生
ままならないこともあるので、共感できることも多々
ありました。

今日は2巻を読もうと思います。
Posted by at 2015年11月20日 16:26
コメントありがとうございます。

おれもそこが謎だったんですよね。
ひとりでツーリングされる方は
ひとりに耐性が強いヒトが多いとは思うんで
この作品の筆者のような寂しがり屋は
実行に移すことはないような気がするねすけどね。

「自分を変えたい」って
ことなんでしょうね。

だからこそ不思議な作品になったのかもしれませんし、その後も大活躍されてますから、意味はあったのでしょう。
作品としてはおもしろかったですし。
Posted by sukekyo at 2015年11月24日 08:55
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