2012年02月20日

孤独のグルメ発〜ズボラ経由〜めしばな刑事行き

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「孤独のグルメ」に関しては、かねがね謎に思っていることがある。
1997年10月に発売された同書をおれは1997年に買った。たぶん、そのころ、入り浸ってたレビューサイトに書いた記憶もある。
・個人経営の輸入商を営む井之頭五郎がメシを食べる話です。久住氏の食に関する「おもしろい」やつと、谷口ジロー氏の「生きてる」背景とが相まっている異色のコラボながら大成功のイチゴ大福みたいなマンガと思っております。

・これがかなり経ってからネットで火がついた。
[孤独のグルメ:a Black Leaf]
・たぶん、「BLACK徒然草」の2006年の記事が発端なんでしょうかね。どんどん知名度がましていって「??」って気分にはなりましたけど、話が通じるのはうれしかったです。
・と、まあオッサンがよく罹患する「ショキカラシッテル自慢」病を炸裂されたところで、もう1歩踏み込んでおく。

なぜ「孤独のグルメ」は10年近くの時を経てブレイクしたのか?
***
・いうたらなんだけど、作画の谷口ジロー氏も、久住昌之氏も、単体では「孤独のグルメ」ほどの知名度はないです。もっとも、久住氏本人はドラマ版の出演で知名度が上がりましたよね。もっともっと過去、「タモリ倶楽部」の空耳アワーの枠がまだ流動的だったころ「東京トワイライト・ゾーン」ってコーナーに出演されてましたから、おなじみの方も多かったりするのではないでしょうか。
・ということはつまりそれぞれの作家の固定ファンじゃない方が読んでいるということです。
・じゃあ彼らの琴線のどこに「孤独のグルメ」は触れたのか。


[『孤独のグルメ』原作者・久住昌之インタビュー「店選びは失敗があるから面白いんでしょ」(前編) - 日刊サイゾー]
[『孤独のグルメ』原作者・久住昌之インタビュー「店選びは失敗があるから面白いんでしょ」(後編) - 日刊サイゾー]
・ドラマ化を受けての久住氏のインタビューを読んでてハッと思ったんですよね。

──『孤独のグルメ』って、題材がすごく幅広いですよね。店の料理だけじゃなくて、駅弁やコンビニ飯まで取り上げたりして。「なんでも題材にしようと思えばできちゃう」みたいなところはあるんですか?

久住昌之氏(以下、久住) いや、いつも苦労してますよ。何をやろうか、どこにしようかというのは、いっぱい失敗しながらやってますね。

──そこでいう「失敗」というのは?

久住 要は「マンガにならないな」と。

──実際にどの店を取り上げるかどうかはともかく、まず「この店を取材しよう」というのはどうやって決めるんですか? 何かで調べて?

久住 調べないです。だいたい「調べる」って、「インターネットを見る」ってことでしょ? そんなことをしてたら面白くないですよね。やっぱり(店の面構えを見て)「ここがよさそうだな」とまず思って、でもすぐに「いいかもしれない......悪いかもしれない......」とか迷ったりして。中に入ってもいいのか悪いのかわかんなかったり。「おいしい......ような気がする」とか。そういうのがいいんですよ。

・つまりこの作品は久住氏がトライ&エラーを繰り返してモノにしてきたものだということがわかります。


[隠れた名店を探そうと地元の知る人ぞ知るって感じの店に入ってみた by コピペ馬鹿 〜創造力の欠如〜]
・そしてこのコピペです。

路地裏のいかにも地元の知る人ぞ知るって感じの店に入ってみたことがあるんだ

俺としては、雰囲気のいい静かな空間をゆったり過ごせるとか色々妄想してたんだが
現実は、入った途端に驚いてこちらを見る店主と常連らしい客の顔
誰?って感じの表情して数秒後、ようやく俺が客であることに気付いたらしい
いらっしゃい奥の席どうぞ・・・とか言ってくるんだけど、もうすでに俺の心は折れてた
妙に緊張したようなよそよそしいような店主の言葉もほとんど耳に入らないまま
何でこんな店入ったんだろう、俺は何を夢想してたんだろうと煩悶しつつ
妙にぬるいコーヒーだけ飲んで逃げるように去った

・かなり目からウロコだった。
「孤独のグルメ」は外食「あるある」じゃないんだね。
・上記コピペのような方が多いのか少ないのかはわからないけど、どうも「あるある」として読んでいる層ばかりではないようだと。
・と、そこでふと思いつくわけです。「孤独のグルメ」を読む感覚ってニコニコ動画におけるゲーム実況みたいなものじゃないか?と。
・ゲーム実況はニコニコ動画などで人気のあるジャンルです。ゲームをやりながら画面を録画しプレイ実況するというもの。
「孤独のグルメ」は主人公井之頭五郎があちこちの店に行くさまを視聴してるんだね。それぞれの店はあたかもRPGにおけるボスがいるダンジョンのようなものです。その冒険譚を眺めていると。
・上記引用のコピペ作者はダンジョンのファーストアタック失敗でココロが折れたわけです。

──店に入って注文すると「思っていたのと違った」というのは割とあることですよね。でも、主人公の五郎はそれを受け入れる。ちょっと違うのが出てきても、とりあえず食べてみる。食べてみて初めて、「予想とは違うけど、うまいぞ」って流れになるじゃないですか。普通といえば普通のことなんですけど、事前に調べれば調べるほど「自分の予想と違ったものが来ると不機嫌になりやすい」ってタイプの人も多いんじゃないかなと思いました。

久住 一つには自分で選んでしまった責任があるから、自分でなんとかしようとするじゃないですか。おいしかったらうれしいし、ハズレたら悔しいし。悔しいけど文句を言うところはない。自分の感想って、そういうところが純粋なんですよね。そういうのが自分で調べないで行く面白さだし、大きく言えば人生なんてそんなもんじゃないですか。自分で選んで、その成功なり失敗を受け入れるっていうね。

・そう。考えてみれば五郎さんは徹底的にイチゲンさんで、徹底的にアウェイの状況のみが「マンガ」になっております。当初いこうと思っていた馴染みの店が休みだったりつぶれていたりして「しょうがなく」入ったという回もいくつかありますし、いずれも、「そこにいて」「腹が減って」「美味しそう」という理由で目についたところを直感を信じて飛び込んでおりますし、当初狙ってた店、食べ物じゃないことも多々あります。
・そういったたくさんの失敗をしてます。五郎自身もそうだけど、店主からイヤな目に遭わせられたり、それが客だったり。
・でも、五郎は基本的に「ごちそうさまでした」と一食を終えるのです。そして気分よく店を出たり、タバコに火を点けるのです。

・この「まあ、美味しかった」の「まあ」の部分を許容できない層がいます。いわゆる食べログなんかでガッチリした「正解」をつかまないとイヤって感じ。だから、「まあ」じゃなくて「やっぱり」なんですよね。「(食べログで点数が高いだけあって)やっぱり、美味しかった」ってね。
・この現象を上記のニコ動のゲーム実況にあてはめると、ゲーム攻略本を読みながら攻略を進めていてそのとおりに進行することで満足を得るという感じでしょうか。
・さらに時代はすすんで、今や、ゲーム実況を最初から最後までみてしまえばもうそのゲームに関しては「満足」する方もいます。つまり食べに行ってもいないのです。食べる前にお腹いっぱいになる。
・よって、現在、「孤独のグルメ」はテンプレ化しかかってるわけです。
[孤独のグルメ:テレビ東京]
・それを端的に表しているのが、現在放映中(2012年2月現在)のドラマ版です。
・本作は、原作をなぞっておりません。松重豊氏演じる井之頭五郎が原作にない展開のストーリーと原作にない店にいっているドラマです。
・実写であり、店も実際にあるし、行くこと、食べることができるけど、ポイントは 原作のストーリーも店も登場させないで、「井之頭五郎」だけで「孤独のグルメ」として成立させていることです。
・井之頭五郎がメシを食えばそれは「孤独のグルメ」になると。だから、けっこうなキャラマンガなんだし、「そういうもの」として受け入れられてるんだよな。
・久住氏の原作にしろ、谷口氏の作画したものにしろ、ここまで強力なキャラってかつてなかったんじゃないかなと思ったりします。
・久住氏の初期の泉昌之名義の「夜行」なんかのトレンチコートのオトコはキャラ化した久住氏だったりと、これまで、どこか「久住昌之」が透けてみえてるものが多いですし、それこそが久住原作の醍醐味ではあります。
「孤独のグルメ」ももちろんそうですけど、それに「井之頭五郎」をきっちり重ねあわせて独立し、受け入れられるキャラを作ることに成功したのかなと思ったりもします。
・それは数々のパロディや引用にしようされるくらいの成功ですよ。ステキな話と思います。
・現在も不定期に新作が加えられていますので2巻がでるかもしれません。それを楽しみにしてはいます。
***

・そして、話は「花のズボラ飯」に移ります。
・久住氏原作で水沢悦子作画の女性が主人公の「ズボラ飯」は「孤独のグルメ」同様、「おひとりさま」の食事マンガではありますが、ずいぶんと毛色がちがいますし、その最大のちがいは性別だなと思います。
・女性における「孤独のグルメ」はどうしてもインドアになるんですね。つまり家食。
・久住昌之原作&ナカタニD作画での「百合子のひとりめし」は外食メインでしたけど、短期連載で終わったようですし、久住氏もブログにおいて無念とのことを書いておられましたから打ち切りくさいですね。本自体は単行本にもなってませんし(ナカタニ氏が同人にしたようですが)。

・「花のズボラ飯」ではできたものを読者も作って食べることができます。だから、レシピ本が存在するわけですし。ま、本来でいうとこれが正しい姿のひとつでありますし、たとえば「クッキングパパ」のような長期連載マンガもありますしね。あれは毎週ひとつ、レシピがありますからね。
・ただ、本作は、「孤独のグルメ」を経由しているのです。それは原作者が同じってのもそうだけど、「美味しんぼ」を発祥とする、「すべての問題を美味しい食物で解決する」というパターンから外れたところにあるのが大きな特徴なのだなと思います。
・食べ物それ自体を食べるというマンガ。夫婦仲の悪さを改善したり勝負を決しない、ただ美味しいものを美味しく食べたいと思い食べるというところが、とにかくいいなと。ここいらが久住原作の真骨頂ですよ。
・なおかつ、食べたあとに必ずしも美味や満足が約束されているわけでもないし、必ずしも困ったことが解決してないあたりもいい。食べるのは重要だけど、1食食べて人生が変わるなんてそうそうないですしね。
・ズボラ飯、もうすぐで2巻がでますね。「このマンガがすごい!」の2011年度ベストをとったあとの満を持しての2巻です。期待値もあがりますけど、本作も「孤独のグルメ」同様のフォーマット的なものがありますからそう大きくブレたものはないとは思います。
***

・そして「めしばな刑事タチバナ」ですね。こないだこのマンガを軸に朝の番組で「新グルメマンガ」として取り上げられてましたよ。

・本作は揺り戻しとでもいうような、逆に新機軸とでもいうような、実際にそこにいって食べることができるヒトが「多い」のがポイントですよね。つまり、わりと全国で食べることができるファストフードについて語っております。

あれ以来、マックやスタバってとても居心地がいい店だよねと思えるようになった
一人でも友人同士でも家族でも、誰もを受け入れてくれる空間
チェーン店最高だよ
[隠れた名店を探そうと地元の知る人ぞ知るって感じの店に入ってみた by コピペ馬鹿 〜創造力の欠如〜]


・さきほどのコピペの結びがこれです。
・つまり、ひとりめしがようできんヤングが「孤独のグルメ」できるのはチェーン店であり、ファストフードなのですよね。

「孤独のグルメ」がゲーム実況だとしたら、「花のズボラ飯」はジャンルでいうと「歌ってみた」であり「作ってみた」で、「めしばな刑事タチバナ」はというと、2ちゃんねるのスレだったり、Twitterのまとめみたいなノリになるわけです。「食べる」ことよりも、「そうそう」や「あるある」といった共有共感がポイントです。だから主人公は物語内の実時間に食べてないわけです。必ず回想です。

・最新刊4巻では「アイス捜査網」という大ネタがあり、アイスクリームネタを4回にわたりお送りしてますけど、ここでの「絞り」具合が絶妙だったんですよね。
・最初、4回にわたってアイスネタをかましてるわりにぬるいなと思ったんですよね。おれはたぶん、アイスを食べてるヒトだから、やっぱりひっかかるところが多いんですよね。もうちょっと踏み込んでもいいんじゃないかなって。
・マニアックになりすぎないよう多くのヒトに「あるある」であるように。まあ、原作者があまりアイスマニアじゃない可能性もありますけど、ほかの回も、マニアックな方向に行く場合はいくつかのエクスキューズがあるしな。

・だれもがタチバナ氏といっしょに「めしばな」できるような配慮されていのですね。
・また、あくまで「めしばな」ってのがいい。だいたいタチバナが好むのはひとりで入り、黙々と食べて「あー美味しかった」とせいぜいでタバコ1本吸って出るようなところばかりで、延々と「めしばな」するようなところじゃないもんな。

・そいで、話をして画像を貼り、「ちょっと牛丼食べてくる」って書き込みをさせたらそのスレは成功って感じだよ。

・本作がスゴイのはあくまで連載誌を読んでるヒト向けってあたりだよ。そのリアルタイム感も2ちゃんねる的。単行本は「まとめスレ」。でも、本来は活きたスレを読むのがスジってあたり。
・コミックが売れて雑誌が売れない昨今なんていわれてそうとう経ちますし、かくいうおれも現在マンガ雑誌を1冊も定期購読しないでもう15年とかになります。
・本作は掲載誌「週刊アサヒ芸能」の想定読者層に味の嗜好は寄せてますし、期間限定のネタも惜しみなくつぎ込んでくる。ガリガリ君の梨味のネタとかね(今も復活してるんだっけ?)。週刊誌に掲載された週に読むのが1番旬って感じ。昔はみんなそうだったんだよな。そもそもコミックで儲けようって発想が少なかったというか。だから、秋田書店から昔の手塚治虫作品なんかがある「サンデーコミックス」が発売されてるんだもんな。(参照:[秋田書店サンデーコミックスに関する不完全調査と仮説])

・ネットはマンガの読み方を変えたと思うのです。それは食と同様、「おもしろい」ものをネットで知り、そのままネットで取り寄せてって感じで参加することができますが、ネットから離れ、書店での邂逅ということが少なくなる。
・それこそ、前記の久住氏のインタビューじゃないですけど、お目当てのコミックが発売延期になって、くやしいので「そこで」みつけた「適当な」「おもしろそうな」マンガを買ってみたらそれがすごくおもしろくてトクをする。こういうのは少なくなりますよ。まあ、レビューサイトでおもしろそうだから買ってみたらすごくアタリでラッキーなんてのもあるけどね。
・だから、選択肢の問題なんだね。おれも久住氏のとられたようにアドリブで「失敗」しながら成功をつかむやり方なのかなと。食もそうだし、マンガのチョイスも。ほかも。

・そんなことを思ったのでした。五郎氏のようにいろいろ失敗してもそれで得たものをタチバナ氏のようにココで話すのがいいなあと。

「めしばな刑事タチバナ」のタチバナ氏と、「孤独のグルメ」の五郎氏は、どこかで同席してる可能性はあるけど、そのみてるものは全然ちがう感じがあっておもしろいですよね。
posted by すけきょう at 10:59| Comment(5) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まだ不景気で建設業界もリスクを背負なければ仕事も生まれないが、本も週刊誌も漫画も売れない!出版業界も不況だというのは感じていた。濃厚な情報はテレビと思われる。
Posted by 智太郎 at 2012年02月23日 15:15
出版業界は厳しいようですね。
長年続いた雑誌が廃刊になるニュースをよく目にします。
Posted by sukekyo at 2012年02月23日 20:11
本当に不躾なのですが、フォント色を濃くして頂けないでしょうか?いつも拝読しておりますが、毎度反転して読んでいます
Posted by at 2012年02月23日 21:46
これでいかがでしょうか?
フォント色を濃くするってよくわからないんですよね。
はてダはできるようなんですけど。
Posted by sukekyo at 2012年02月23日 21:59
うわあ感激です!!すごく見易くなりました
これからも楽しみにしてます!
Posted by at 2012年02月24日 11:31
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