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「カラスヤサトシ」「おのぼり物語」などの作者カラスヤサトシ氏が、連載誌の読者コーナーで「お見合い相手」を募集し、きた方とのお見合いドキュメントマンガが本作です。
・中盤より募集相手がこなくなったのとモロモロの理由で担当編集(女性・独身)との結婚や男女にまつわるルポやエッセイにシフトします。
・そしてカラスヤ氏自身がその企画とはカンケイのないところで彼女ができてできちゃった結婚してしまうという顛末が後半に用意されております。これがメインのようなタイトルですけど、実際はページ数少ないです。ただ重要ではあります。話のキモにもなっていきますしね。
・このような3層構造の作品になっています。
・基本カラスヤ氏はエッセイコミック。出世作で代表作である「カラスヤサトシ」は日常雑記を4コマにしたためたもの。そして、「それ以外」はルポだったり体験記だったりで、「いったり」「きいたり」「やったり」しているものです。本作もそれです。
・そして「それ」は、基本、お題やテーマがありそれにそって動くものです。
・フリースタイルが「カラスヤサトシ」で、ショートプログラムが「それ以外」でしょうか。なぜフィギュアスケートにたとえたのかは自分でもよくわかりませんが。
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「結婚しないと思ってた」は「それ以外」になりますし、(ほぼ)同時発売された「カラスヤサトシの37歳の遠足ガイド」もそうです。
・「37歳の〜」は毎回行く場所を決めて「オトナの遠足」をするというもの。たとえば、杉並区のアニメタウン、秋葉原のメイドカフェ、群馬県の心霊スポットなどなど。
「それ以外」のもうひとつの大きな特長は「相方」がいることです。
「結婚しないと思ってた」では担当編集のK城氏。そして「カラスヤサトシの37歳の遠足ガイド」ではT.K.氏が、カラスヤ氏と行動をともにして相方として機能していくのです。以前の「それ以外」にも同行者として編集の方が登場されてました。
・コミックエッセイ、とくにルポに関しては、分身であり主人公である作者自身がどちらかの属性になりますよね。それは別にコミックに限ったことではないですけど。いわく、漫才でいうツッコミかボケ。
・実際問題、ネームにしてマンガにしてるのが作者なのでツッコミ役もボケ役も考えているのはまちがいないんですけど、ポイントは、マンガ内においてどちらの役割を演じているかということです。
・この視点でエッセイコミックをみると、意外に興味深いのです。
・たとえば、ツッコミの代表といったら「ゴーマニズム宣言」になります。世の中の由無し言に、小林よしりん氏がツッコミをいれるわけです。名セリフ「ゴーマンかましてよかですか」とともに。
・あとはアニメ化もされた、「鉄子の旅」なんかもそうですね(新しい方は知りません)。横見浩彦氏という稀有のキャラに対してツッコミをいれる作者というのが醍醐味になってます。
・そうけっこうな場合でツッコミ役が多いです。いった先、あったヒトに対してマンガに描くという行為そのものがツッコミでありますから。ボケはそれをもうひとひねりしてるワケなんですよね。
・太古の昔より、マンガ家は自身と担当編集をマンガ内に登場させます。
「作者がでないギャグマンガなんて」とは吾妻ひでお氏の名言ではありますが、作者がでるとき、必然ということでもないですが、多くの場合編集も顔を出します。
・ギャグマンガにおいて最初は赤塚不二夫氏になるのでしょうか。おなじみ「天才バカボン」ではおかしな編集をたくさんマンガに登場させておりますし、それらにはモデルがいらっしゃるそうです。
・その赤塚氏のアシスタントをされていたとりいかずよし氏の代表作「トイレット博士」においての「スナミ先生」という重要キャラは連載していた「週刊少年ジャンプ」担当編集がモデルだったりします。
・これはマンガ家における「対おとな」や「対社会」が担当編集(および編集部)になるからではと思うのですね。
・という分析よりも、仕事漬けで外に出かけられないからヒトと会うことができない物理的な問題のほうが大きいのかもしれないですね。担当は家まできてくれますからね。
・それがエッセイコミックにおいては「相方」となることが多くなるのも道理ではありますね。取材に同行するわけですし。
・カラスヤ氏は「37歳」と「結婚」において、それぞれの女子編集をツッコミ役として全件を託し、ノビノビとボケに徹しておられます。
「37歳」のほうではゴスロリ30代(写真あったけど美人)のT.K.さんの冷たいツッコミに対してボケたりからかったりと、しゃべくり漫才の王道として最後まで同じペースでテンション高めて終わらせてました。
・基本、カラスヤ作品に限らず連載においてルポモノは並列処理ではありますよね。「今回は**」って1回のルポはそれはそれで1話か前後編なんかで完結させます。
・1回終わったらすべてリセットしてまた最初からと。
・ところが「結婚」では上記のような構成になっていて同じではなかったのです。「展開」していった。
・それとともに、キーになるのが担当編集のK城氏の立場の変質なんですね。
・よく、「(マンガ)作品は編集と二人三脚」なんていわれますが、本作ほどそれを感じることはないですね。
・結婚にいたるエピソードが「オモテ」ならば、K城氏の陰になり日向になりのハタラキで本作に彩りや濁りなどを与えてるサマが「ウラ」につながるのです。
・そしてそのハタラキが本書全体を「ようわからん」状態にしてるとともに、いい結婚指南書にもなったわけです。さあ、書いてるこっちもようわからんことになってきましたよ。
・前記のように本作は3部構成になっております。見合いをしている1期、K城さんと恋愛関連のルポをする2期、そして出会いから結婚へといたる3期。
・この3部において、K城氏とのカンケイが移ろうんですよね。とくに3期になるとK城氏は登場しなくなります。カラスヤ氏と彼女の物語になります。ただ、影響や関連はあります。なぜなら、2期になったのは、カラスヤ氏がリアル彼女ができたために、それを隠しながら見合いを続けるのも募集してくれるヒトに悪いだろうという配慮のもとの決断だったからです。つまり3期の顛末は2期にはもうはじまっているのです。ややこしい時間軸ですね。
・実際問題、当初の予定では1期のまま単行本1冊分やって「やっぱおれは一生ヒトリなんや!」って終わるつもりだったわけです。そう、いろいろな女性とお見合いしては、カラスヤ氏のダメなところをおもしろおかしく描いたのを笑おうという自虐ネタだったのですね。
・その切り口や企画はまちがってないです。カラスヤルポマンガの1企画としていいラインと思います。
・ところが彼女ができたことによってこの企画の根本からおかしなことになった。なおかつ、カラスヤ氏自身、彼女の本心がわからない、彼女がいることをカミングアウトしたら育て上げてきた自分のキャラが崩れるんじゃないかって懸念から、このことを描いていいのか決断をできないんですよ。
・また、「よくできてる」っていったら語弊がありますけど、結婚した彼女ができるほんの前に、「つきあってもいい」って彼女ができてそして2週間くらいでわけのわからないフラレ方(詳細はぼやかして描かれている)をしてるんですよね。それで完全に女性恐怖症になってる(そこいらも最初の彼女の話も描いてあります。カラスヤサトシの恋愛フォルダを総ざらえしております)。
・そこでK城氏が「自分が「オモシロ」を担当します」と身をはることを提案し、彼女メインで何回か連載をしのいでいる。この捨て身の感じ。
・以前、長嶋有氏のユーストリームでカラスヤ氏とK城氏が登場しておられました。まあ、カラスヤ氏も自画像とちがってイースタンユースのボーカルみたいな感じでしたし、K城氏もマンガでカラスヤ氏が人前で「ビッチです」って紹介するとは思えないような美しいお方でしたよ。
・そしてそれが2期への強制移行になるのです。
・これがまた不思議なんですよね。もう作者と編集というカンケイを超えてますが、両方その気がないというか、非常に関係性がギクシャクしてるんですよね。あ、いや、ギクシャクじゃないんだな。シンプルなコトバでいうとトモダチなんだよ。だから互いに気兼ねなく感情をぶつけあっておられます。
・掲載誌が季刊なので連載はあしかけ4年にわたっております。まあ4年もあればいろいろあるわけで、カラスヤさんも彼女ができたり別れたり、またできたり同棲したり子どもができたりもしてるわけです。
・で、ヒトとのつきあいも4年も経ったらいろいろとあるわけでね。
・そう考えると、実は本書は、カラスヤ氏とK城氏のカンケイを読む本なのではないかと思えてくるんですよね。
・1期のときはカラスヤ氏とのお見合いに同行し、終わったあとに容赦のないダメ出しして、その構図を笑ってもらうってことになってました。このダメ出しの容赦のない感じ。それをきちんとマンガ化してる感じ。
・でさ、ポイントはそのダメ出しがなにかというと「恋愛」についてなんですよね。
・カラスヤ氏が見合い相手との接し方でダメなことを延々とK城氏がダメ出しをしてるってことはどういうことかというとK城氏と恋愛について話してるってことです。
・当然のことながら、カラスヤ氏の過去の恋愛、そして恋愛観、なおかつK城氏の恋愛話なんかをおたがいにぶっちゃけてるワケです。
・そして2期では攻守交替になるわけです。K城氏のためにカラスヤ氏の知り合い10人を集めて合同コンパしたりするし、K城氏の彼氏との思い出の場所を散策したりしてます。
・そいでいてK城氏を彼女とみたててデートコースをねって披露してみたり、深夜の公園でカップルがベロチューしてるのをふたりでドキドキしながらみてみたりな。
・それでいて、おたがいに独身なワケでね。そりゃあ、編集とマンガ家のカンケイを逸脱するわな。そこそこハラを割って話ししてるわけだし。
・そりゃあ、あんた、福満しげゆき氏が「ずるい」って敵視するわけですよ。「37歳」もくわえたら2人ですからね。両手に花ですよ。コスプレパーティーでは、2人は「フランケンふらん」のヴェロニカと博士に扮してますよ(「37歳」収録)。
・その末に、結局、マンガ内においてはつきあってもなんでもないカンケイが続いてるってんだから、考えてみれば、よほど相性が悪いのか、よほどカラスヤ氏に問題があるのか。はたまたK城氏のほうか。
[TBS RADIO 小島慶子 キラ☆キラ: ポッドキャストバックナンバー]
・このラジオ番組内でのプロ書評家の吉田豪が2012年3月1日の放送でカラスヤ氏とこのマンガについて語っております。なにせ、「結婚」の巻末にはライムスター宇多丸氏との対談のインタビュワーやっておられますし。
・と、ここまでだらだらとした文章を読んでいただいた方は多少なりとも興味がおありと思われますよ。2012年3月いっぱいで終わるので、この番組のポッドキャストは聞くことができるうちに聞いておかれることをオススメします。なお、3月8日は福満しげゆき氏についてでなおかつカラスヤ氏の話題も触れられてますので併せてお聞きいただけるとさらに倍率ドンです。
・というか、この番組のおかげでまたいろいろと書きなおしておりますです。
・で、判明した事実。
・もう、この連載の後半はK城氏とカラスヤ氏との間のミゾはけっこう深まっていたそうです。つまり普通にトモダチの仲が悪くなってる状態に。
・カラスヤ氏がつきあって2週間で別れを告げられたときにすごくなぐさめたのに、自分が同じように彼と別れたときに大笑いされたとか。
・そこいらも連載でぶっちゃけるほどではありますが、この3期に移る、つまり、彼女ができた話をカラスヤ氏がしなかったら連載を打ち切ろうってことまで彼女は思いつめておられたそうです。
・うーむ。ただ、そいでもって現在は子育てマンガの担当をされているということで、なんつか、「腐れ縁」なんだなあと。こんないいかたなんですが、結婚された奥さんなんかよりも深くて強い絆があるとおみかけします。お互いに求めてないとは思われますが。
・吉田豪氏がぶっちゃけておられましたが、カラスヤサトシ、福満しげゆきのご両人は業界でも1,2を争う「めんどくさい」方だそうです。
・そのカラスヤさんにおいて「仕事に関しては全幅の信頼を寄せている」といわしめるくらいのできる方ではありますし、ここまで男性遍歴をぶっちゃけたり、カラスヤ氏にくってかかったり、単行本の後日談に歯に衣着せないにもほどがあることを書いたり、なおかつインタビューで吉田豪氏に、単行本でも書いてないようなこと(最初の彼女との初体験の馴れ初め)をぶちまけて、あげくにTBSラジオやポッドキャストで全世界に特殊な性癖を暴露されるハメになったりとK城氏も負けず劣らずな方なんですよね。
・だからさきほどの答えは両方なんですよ。
・そして。
・こういう本を出すことになるのを了承したカラスヤ氏の奥さんもすげえわけです。
・冷静に考えると自身の結婚の馴れ初めを描かれるのも恥ずかしいのに、それ以前の編集との擬似デートみたいのが「前戯」にある本を出版されるわけですからね。
・奥さん編にあたる3期は映画にもなった名作「おのぼり物語」風に展開していきます。4コマストーリーの手法でタンタンと。
・そして短いページ数ながら「結婚するとき」って真理があちこちに散りばめられてるような気がしてしょうがありません。というか、おれ的に「あるある」が多いんですよね。
・さて、いい加減、文章も長いのですが、ここで衝撃の告白をします。
・このマンガ、それほど傑作ではありません。
・とくに1期2期にあたるところはgdgdと過ぎていきます。
・カラスヤ氏が空回ってるマンガです。いつもそうですし、本作もきちんと水準まで持ってますが、なにぶん、ルポの対象が生身の、マジメに見合いに募集してこられる、普通の女性なわけでね。彼女らに対して、ヘンな「加工」がしにくい分、カラスヤ氏も相当むずかしそうでして空回るイキオイが足りない感じがします。
・施川ユウキ氏や伊藤潤二氏をゲストに呼んでの回も、募集した見合い相手が集まらなかったというのもあるでしょうけど、「テコ入れ」みたいなノリだったんじゃないかと思うのですよね。
・それにくわえてのK城氏自身のキャラの立ち方や、捨て身なネタ提供が、本書をさらに混沌としたものにしていくわけです。味噌汁にカレールーを投入したかのような。
・ただ、3期はよかったんですよね。3期のところだけ何回か読み返すくらい。そして3期のための1期と2期と考えるとちがった味わいが生まれてきます。
・カラスヤ氏は長くつき合った彼女との破局やその後の恋愛で、恋愛や同年代の女性に恐怖を感じるようになってきております。そしていろいろとめんどくさくなってきておるという悪循環に陥ってました。それのセラピーとしての1期2期だったんじゃないかと思ったりもするんですよね。
女性とお付き合いする時に気をつけなければならないのは「お前のことはよくわかった」と勘違いしないことでしょうね。「何考えているのかわからないなァ」って、ボーとしているのが一番。ロビン・ダンバーという心理学者は、「私の頭脳をもってしても理解できないにちがいない」と受け入れている方がいいと書いている。
「女なんてこんなものだ」と決めてかかると脳は縮小する。そういうのはサルに近く、人間はサル化しちゃいかんのです。「わからないなァ」って困ったり、悶々として不安でいる方が脳の機能は活性化するんだそうです。「そして僕は途方に暮れる」というのがいいんですよ(笑い)。
[内田樹氏 女性と付き合う時は「ボーっとしているのが一番」 (NEWS ポストセブン) - Yahoo!ニュース]
たぶんにこっち側から働きかけなければならない局面は数あれど、基本、向こうの意向に沿ったほうがうまくいくってのは、男女間のおつきあいにおいて、すごく「あるある」と思われますし、カラスヤ氏もそういう境地に至ったようにお見受けしました。
・飲み会ではじめてあった日に、次の日の山歩きの取材をいっしょにいきませんか?と誘い、家に泊まってもらい、その日の夜に告白、次の日から同棲という「マンガっぽい」スピードではあります。
・ただ、その1日中、彼女といて全然気詰まりしないってことをわかるんですね。おれはこのシーンが1番重要と思いますしキモと思います。
・そこで引用の「ボーっと」ですよ。ボーっとできるのはつまり警戒しないで弛緩してられるってことですからね。安心して「わからねえなあ」とボーっとしていられる。
・K城氏とちがい、彼女の内面はほとんど描写されてません。だから、彼女がなにを考えてつきあってくれ、同棲してくれてるのか、カラスヤ氏もわからないんですよね。まあ、実際はなんどもたずねてるし、その都度答えももらってると思いますが、それを鵜呑みにできないんでしょうかね。
・だから、「わからんなあ」と思いつつも、そこに彼女が寝ているという状態にいると。それがまた「わからんなあ」と。
・いや、ま、そういうのいいですよね。おれはそう思うのです。
・あーと、マンガ自体の完成度はずっと引き合いにだされていた「37歳の遠足ガイド」のほうが高いと思いますし、「カラスヤサトシ」シリーズも老舗の味を守ったすばらしさは健在でした。
・だけど、いろいろなことをボーっと考えさせてくれるのは本書なのですね。
・余談。
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・連載している「アフタヌーン」誌上でもやったそうですが、この6巻において結婚相手とのツーショットを公開しておりますね。ただし、双方顔のところは自身の似顔絵がかぶせてあります。
・そいでいて、「結婚〜」のところには写真類はナシ。こういうところに氏の気遣いを感じさせますね。結婚に関してはこっちで描くけど、写真はこっちみたいな。