![]() | 細野 不二彦¥ 550 ![]() |
・デビュー作より知ってます。
・高千穂遙氏の原作「クラッシャージョウ」のコミカライズ。
・そのあと、「どっきりドクター」「さすがの猿飛」「Gu-Guガンモ」と立て続けにヒットをとばしておられます。
・正直なところ1番のファンではありません。だけど、「愛しのバットマン」という野球マンガ以外は単行本を書店でみかけてらほぼノータイムで買い揃えてきてると思います。いつでもどの作品も単行本1冊の価格分のおもしろさは確実に保ち続けている作家だなと思いますし、かつての1番で単行本を買わなくなった作家、思いきって名前を出してみますが、高橋留美子氏とかとちがい、実に今も確実に新刊をおさえてます。
・単行本購買の歴史がもっとも長いのではないかと思う作家のひとりです。
・なにがそんな魅力なのでしょうか。
・ひとつ考えられるのは、おれの加齢に比例して、その内容が移り変わっているからということです。
・おれが成人したころにちょうど青年コミックに主軸を移しておられます。さきほど引き合いにださせていただいた高橋留美子さんなんかはずっと少年誌ですものね。
・おれの感覚だと、週刊少年サンデー時代でのファンを切り捨てるという言い方はなんですが、脱却されているような気がします。
当時の「さすがの猿飛」でのブームや人気は、「うる星やつら」のラムちゃんと同じで、当時はそんな名前なかったけど、「萌え豚」どもをブヒブヒいわせてました。魔子チャンサイコーって。そう、当時は美少女絵師として名を馳せてました。今もとてもカワイイ女性を描きますが。
・本人や関係者じゃないのでわかりません。
・(美少女絵師としての)人気は長続きしないと考えられていたのか、徐々に、そういうウケを弱めていっての戦略的青年誌展開だったのか、トライされていたけどうまくハマらなくなったのかわかりませんが、ともかく変質されました。
・それでいて、青年誌においても「ギャラリーフェイク」などのヒットをモノにされているんですよね。
・青年誌に移ってからメインにされておられた1話完結の読み切りで、話や謎がゆるやかにつながり展開していくという、ビッグコミックがオトクイのパターン(まあ有名なのは「美味しんぼ」かね)を手がけておられます。
「ギャラリーフェイク」や「ダブルフェイス」など。
・本作「電波の城」はそのパターンではなく、話はしっかりと連続しつながっていきます。
・謎の美女天宮がテレビ局という電波の城でのし上がっていくサクセスストーリーです。
・3つの視点が存在するマンガで、1つはずっと未来に書かれたこの美女の回想記。そして、最初は天宮が所属しているプロダクションの社長、そして、彼女の過去がうっすらとわかってからは彼女自身の視点で物語が展開しております。3つの視点ですが2つで進行しているわけです。
・1巻よりそのおもしろさが衰える気配がありません。
・現在、彼女が念願の地上波ニュースのキャスター(スポーツリポーター)になってからのおもしろさが尋常じゃないんですよ。
・これがまた思いきって名前を出しますが、浦沢直樹氏のように「今がおもしろければいいだろ」っていう整合性や物語が破綻しかかっても「細けえことはいいんだよ!」の精神で突き進むのとは反対に位置しており、多量の取材や資料や「引き出し」をベースに綿密に伏線が貼られており、それらがどんどん結びつきかつ展開し、もつれてまた別の展開や謎を生み出していってますし、それは天宮の過去とその秘密を知ってるニュースキャスターとのじわじわとした攻防のなか最高潮のボルテージになっております。
・ただただこのおもしろさが信じられないんですよね。まだおもしろい、さらにおもしろい。
・もしかして、ここにきてまた細野氏は最大の黄金期を迎えているのではないかと思うようなすばらしさ。
・惜しむらくはネタ的にシビレるところが多いので、他メディア化しにくいところでしょうかね。業界ネタ他。
・それこそ今深夜アニメでやればいいと思うくらい、いろいろアレだった問題作でカルトな人気があった「東京探偵団」のように。
・そして特筆したいこと。
・ライフワークといいましょうか。細野氏はその長いキャリアのなかでメッセージを発しておられる気がします。
・そしてことあることにそれをとくに強烈に出してる作品を発表します。さりげないけど強烈なのでココロに残ります。
・スピリッツに連載していた「あどりぶシネ倶楽部」という名作。
・大学生の映画研究部の話です。
・ある回で彼らがSF映画を撮るために、いわゆる「げんしけん」というか、特撮研究部みたいなところに協力をたのむという回があります。
・引き受けた部長は、当時はやっていた楽屋ウケやパロディを満載にした宇宙の風景を冗談半分に作ります。マクロスのバルキリーやラムちゃんを隠れキャラにしているような明るい宇宙を。
・でも、映研の彼らはマジメなハードSFを撮るつもりなので困るわけです。
・そうしたら、地味でいつもコツコツとやっているオトコがこっそり趣味半分でそういうハードな宇宙背景と特撮のミニチュアを作っており、「できればこれを使ってくれ」なんてたのみこむ。映研のメンバーはウエルカムで受け入れるという話。
「努力する職人は報われる」
・このメッセージをあらゆる作品で発しておられるような気がします。
・それこそ「さすがの猿飛」(あるいはそれ以前)からずっと。
・努力だけじゃなくて、職人ってのもまたポイントなんだよね。自分の仕事にほこりを持ち、たえず切磋琢磨し向上をめざしているヒトは絶対にいつか報われるし、救われる瞬間がある。
・それの最新作が本作にもありました。
Report154「最後の一葉」
・この回は相当異質で、上記のとおり続いていかずに1本の独立した読み切りのようになっております。もちろん、大局ではつながっております。でも、たとえば、ドラマ化なんてするときには削ってもかまわないようになっております。
・物語の語り部である回想録の筆者の話です。主人公の天宮が1コマもでてきません。
・彼は天宮と同じテレビ局にいましたが有能すぎたためにスポンサーを激怒するようなネタを扱い、左遷されケーブルテレビ局にいます。
・ただ、そこでも独自の取材力を活かして、ばりばりとスクープをモノにして有名になっていってます。
・その彼が目をつけたのが柔道や剣道の学業の必修化問題。
・この取材にどうしても大臣のコメントがほしい。
・だから、昼行灯みたいにしてる同じ部の先輩にコネをつけてもらう。
・先輩は引き受けたのですが全部おれに仕切らせろといいます。
・資料やら全然目を通さないし、大臣にもずばりと本質をたずねない先輩にイライラしつつもいわれたとおり後ろで黙ってビデオカメラを回し続けていると、、、、
・この「短編」がすばらしいを通り越して驚愕。アゴが落ちるくらいの完成度なんですよね。
・あのセリフ、あの表情、あの展開、すべて完璧。いや、それ以上。
・トムとジェリーってカートゥーンアニメで崖の上から落ちたトムが足の下から順番にふるえていって脳天までふるえたところでバラバラに砕け散るみたいな衝撃がおれに襲いかかりました。
そして前記のメッセージがジーンとしびれてるおれに刻みつけられます。
「努力する職人は報われる」
細野不二彦恐るべし。
・おれがずっと彼のマンガを書店でみかけてはノータイムで買い続けている理由がわかったような気がしました。
「おもしろい」だけじゃない、「よくできている」だけじゃない、「なにか」を垣間みることができました。
・まだまだ長いつきあいになるなと思いました。