ハイスコアガール(3) (ビッグガンガンコミックススーパー) | |
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・ゲームこそがすべての少年ハルオ。今日もゲーセンで対戦ゲームの連勝を続けている。その前に立ちはだかったのはクラスでも有名な優等生で金持ちで美少女の大野さん。彼はジマンのゲームでけちょんけちょんにやられる。
・そこからはじまる物語。ボーイ・ミーツ・ガール・アット・ゲームセンター。
「でろでろ」からずっと続いており、押切氏の大きな武器である「ホラー」を封印した作品は、新たな武器「ゲーム」を手にし、最大の武器である「美少女」を盛り上げる。
・本作は、大野さんの美少女っぷりを堪能するマンガです。
・劇中でほとんど大野さんは喋りません。まわりといてもハルオと2人でいても大野さんは黙ってます。
・その代わりにあふれんばかりのボディランゲージや豊富な表情の変化で、今の感情を伝えてきます。
・あるいは操作するゲーム内のキャラの動きで伝えてきます。
・それがわかるよろこびこそが、このマンガの醍醐味です。
・これがひとを好きになることの基本かもしれません。大野さんがわかるヨロコビ。
・カーネーションというロックバンドの「愛しのリボンちゃん」という曲のフレーズに「ウサギみたいになにもいわない/そんな君でも僕はしびれた」とあります。まさにこれ。ハルオは大野さんが怒ってにらみつけるさまを猫にたとえてましたが。
・どうせなのでゲームにも例えてみますが「ゼルダの伝説」。
・ダンジョンの謎を解いて先に進むアクションゲームなのですが、このゲームの謎が絶妙なんですよね。悩んで悩んで「あ、そうか」と世界中で自分だけがその謎に気づいたかと思うように解けていきます。本作の大野さんの気持ちがわかるというのは読者にとってその謎解きにも似てます。
「おれだけが大野さんの気持ちをわかっている」
・このマンガの3巻までの「唯一」のみひらきにはなにが描かれているのか。それがこれまでの文章の裏付けです。
・劇中の人物は「わかる」からこそ悶々とし続けるってのがまたうまいところ。
・ある時点でまわりにもバレバレなくらい相思相愛なふたりだし、各所で決定打的な行動もあるけど、彼らは「あるライン」にとどまり続けております。
・それはコトバにしていないからです。
・ハルオはとくにコトバにして思いを伝えることにこだわってます。それは大野さんにとってのけじめであり、自分へのけじめでもあるわけです。大野と同じ高校に受かるというのもそうです。オトコはそういうけじめというかフラグを立てないと行動できないところがあるのです。ハルオはオトコだなあと思いますよ。
・ある時期からはゲームと大野さんと不可分の思いがごっちゃになっていましたが、高校受験をクライマックスとした3巻ではっきりと気づいたのですね。
・このふたりのクリアできない感じを愛でるのもまたもどかしくも楽しいわけですね。
・実際「ない」けど「ある(かもしれなかった)」青春ですよ。
・なお余談。
・個人的には充分にストライクゾーン(年齢的にね)なので、ハルオのお母さんが1番好みです。
・そしてそういう世代なので、ゲーム関連はストライクじゃないんですよね。
・スト2から端を発した格ゲーブームのゲーセンの「熱」は、彼らが4巻になるころ、バーチャファイター2が狂ったようなブームになりサターンとプレイステーションの大躍進がはじまったころまではおれは静かなものでした。小休止期でした。それこそハルオのようにPCエンジンばかりやってました。
・押切マンガ特有のせつないウエッティな感じがずっと漂っているので先行きが不安ですがふたりに幸多からんことを。
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・ウハハハよくぞここを見破った。
・ということでファミコンのお約束である裏面、もしくは隠れキャラ、あるいは2周目をはじめます。
・ハルオの視点からもうひとつ語ることができるのでやってみます。
・オモテ面の「大野さんを愛でる」視点だと「ゲーム」を取り外して語りましたが、逆に「大野さん」を取り外すとどうなるか。
・大野さんに出会う以前のハルオ、2巻での大野さんが海外に留学していったときのハルオは、「ひとり」でした。
・もちろん、トモダチもいるし、あらんことかホレてくれるおっぱいの大きな女子までいる。でも、彼はひとりだった。
・彼のゲームのレベルに「合った」ヒト、ゲームを遊んだり、ゲームを語ることができるはじめてのヒト、それが大野さんだったんですよね。
・すべての趣味がそうだけどとくにオタク趣味、そしてとくに地方だと、そこで袋小路に入り込む。
・まわりに遊ぶ友人はいたし、好きな女子もいた。親や先生との関係も悪くはない。彼らとゲームもやったり語ったりもしてる。でも、「全力」でできるヒトはいなかった。話にしてもプレイにしても「加減」してた。
・ハルオは一匹狼を気取ってますが寂しいわけです。大野さんという「同レベル」、すなわち「ライバル」を知ってしまったから。同士でもいいです。仲間でもいいです。
・大好きな**を大好きなヒトと思う存分遊んだり語ったりする。
・多分これって人生の大事なことベスト5に入るような気がします。だからみんなジジババになっても同じ趣味でつるんだりするんだし。
・つまり、大野さんがオトコでもハルオは幸せだったのです。それが美少女だったり口数が極端に少なかったりで、自分の気持ちもよくわからないからうまく表現することができなかったのです。
・ハルオはずっとゲームばかりやってきた。感情に突き動かされて行動しているときもまわりの「声」がゲームキャラだったりするのです。ゲームばかりで自分を表すコトバを持ってなかったのですね。
・非コミュで中2病の脳内ってこうじゃないかなと思ったりします。そしておれもこうだったなと。
・今はネットで「同レベル」をみつけたりするのが容易でいいですよね。ただその絶対量があからさまに多すぎて逆に見つけにくくなってたりもしますけどね。だからこそ、ハルオの大海原でダイヤモンドをみつけたような僥倖を「よかったなあ」と胸を打たれたりするのです。
・3巻のクライマックス。「同レベル」と思った大野さんとほかのことでも「同レベル」になりたいと思い、同じ高校を目指す姿は真剣に涙です。
・こここそがモテる主人公の基本であり燃えるところであり主人公である証ですよ。よってハルオは主人公なんだよ。
・それこそ勉強しているハルオをこっそりのぞいている母親の屈指の名台詞「ハルオ あんたが率先して学業に打ち込むなんて お母さん驚きでオシッコを漏らしながらゲボが出そうよ!」です。
・ここは完全に親目線でハルオを見守ってますよ。
・ハルオはいいやつだよ。ゲームに天狗になってたり知ったかがすごいけどそういうアクの強いところも含めていいやつ。
・つくづく「いい時期」にこういう「同レベル」と切磋を琢磨りたかった。
・と、大野さんも思っていてほしいなと思うよ。そして日高さんはおれにまかせろ。お母さんもまかせろ。