ヒーローズ・カムバック (ビッグ コミックス)
posted with amazlet at 13.05.06
細野 不二彦 ゆうき まさみ 吉田 戦車 島本 和彦+石森プロ 藤田 和日郎 高橋 留美子 荒川 弘 椎名 高志 かわぐち かいじ
小学館 (2013-04-30)
小学館 (2013-04-30)
・細野不二彦氏が発起人としての東北震災のチャリティコミック。
・顔ぶれがスゴイ。
細野不二彦、ゆうきまさみ、吉田戦車、島本和彦、藤田和日郎、高橋留美子、荒川弘、椎名高志、かわぐちかいじ(敬称略)
・タイトル通り、それぞれが代表作のキャラを惜しげも無く出して「1話」作っておられます。
・細野氏は「ギャラリーフェイク」、吉田戦車氏はかわうそ君やカッパ君、藤田和日郎氏は「うしおととら」だわ、「犬夜叉」「GS女神 極楽大作戦」だわ「究極超人あ〜る」だわと。
「まかない」がないなとは読み終えたあとに最初に感じました。
・こういう「お祭り」企画だと往々にして「懐かしいでしょう? かつてのヒーローがたくさんでて楽しいでしょう?」なんてのに終始して、ちょっとした楽屋ウケで過ぎていくのが多いです。まあ、ゆうきまさみ氏の「究極超人あ〜る」がもっとも「それ」に近いものですかね。
・それぞれの作品は、スピリッツや週刊サンデーやゲッサンに最初に掲載されてますが、そのときはなんの感慨もなく「普通」に1話として読み終えるんじゃないかと思えるくらいの「高クオリティ」です。「いつもの」味わいです。
・でも、読み返してみると非常に構成というか戦略というか、よくできた1冊であることに気がつくんですよ。
・吉田戦車氏は東北出身、島本和彦氏の描いた「009」は東北出身の石ノ森章太郎先生のオマージュ、かわぐちかいじ氏の唯一の非キャラは再録ながら震災に尽力した自衛隊について。
・そして細野氏の「ギャラリーフェイク」はまんま東北の震災後を舞台にしたもの。
・それらに「普通」に「犬夜叉」や「GS美神 極楽大作戦!!」「うしおととら」(は読んでないので推測ですが)がなんのタイム・ラグもなく絵のクオリティも往年と変わらずに通常の連載中に1回載るってノリで収録されている。
・これらがまとまる「特別」な1冊になっております。でも同時に「普通」で「(今も)変わらない」1冊であるところがスゴイなと。
・チャリティコミックであるのに「地震に負けるな」とか、そういう直球があまりない。いつものようであり、もう連載はしていない各ヒーローが帰ってくる「旨味」もあるという。すごく配慮された1冊だなあとおもうのですよ。
・それらはもちろん各々のチカラもそうですけど、コーディネートした各編集、そしてプロデュースである細野不二彦氏のチカラが大きいのだろうなあと。集まった記念だけじゃなくて商品としての「売り」も考えておられるなあと。
東北のみなさんが
安心してマンガが
読める生活を
とりもどしたいです!
・各話あとにサイン色紙とプロフィールが掲載されておりますが、細野不二彦氏の色紙に載せられたメッセージがこれです。まさにこのコンセプトに則ったものだよなあと。
・業界でもトップクラスの前線で活躍されておられる方が渾身のチカラで「安心」して読むことができる1冊を作ったのですよ。
・贅沢なメンバーを集めに集めた「ウイ・アー・ザ・ワールド」的なバブリーなものでありながら、良作を集めたオムニバスでもあります。
・つまり、すばらしい1冊です。1000円弱ですが各々の作家さんのファンならまず損はないです。なおかつ買えば東北の方々への募金になります。いい話を読んでいいこともできる。なにもいうことはないですよ。買いましょう。
・で、個人的な収穫。
「うしおととら」がおもしろかったこと。作者とは縁がなくてこれまで読んでませんでしたが、たいそうな名作であることは常々。で、実際に読んだらとっても良かったです。ぜひ、本編は読みたい、手に入れたいと思いました。
・あとは荒川弘氏。「銀の匙」の特別編。主人公八軒のひいひいおじいちゃんの話。開拓時代の北海道の話ですね。
・キャリアでも年齢でも最年少になりますよね。でも、その中にあってのこの堂々たる名作を提示するところがすげえよ。
「銀の匙」本編にも、東北震災にもからめてあって、なんていうか「満点」です。そういわれてみれば唯一連載中のキャラが登場しているんじゃないか。あ、吉田戦車氏のかわうそ君とかもそうか。
・細野不二彦氏の「ギャラリーフェイク」もすげえ。なんていうか、美術界のブラックジャックみたいなことをよくいわれてましたが、まさに手塚氏が健在として同趣旨のものに作品を提供したらこういう感じになるんじゃないかと思いますね。震災地に乗り込む藤田って話でした。
・そいで「究極超人あ〜る」です。これは多分に「目玉」だったんじゃないだろうかと。そもそもこの企画が動いていることをしったのは「コミックナタリー」ですがその記事はあ〜るの復活でしたしね。おれの目当てもまちがいなくこれでした。
・元が元なので「ああいう」処理にしたのは必然だったんだろうし、読んでいくうちに「いつもの」ノリがあったのでよかったとはいえるのです。ですが、さんごとか女性陣があまり活躍しなかったこととかが残念でしたね。
・個人的ついでに。
・パブリックな感想は前記のとおりとして、もうちょっと私的こといわせてもらうと、「できすぎ」な1冊だなと。
・1流マンガ家が100のチカラをぶつけた作品集ですが、それゆえに前記のとおり、雑誌だったら「普通」に読み終えてああおもしろかったな1作になるんですよ。それを集めた「凄み」はあります。ただし、1流だけに「抜き」なんかも完璧だから、ひっかかることなくスーっと読み終えたなあとも。それを良しとするかってのが読者側の問題でしょうかね。
・おれは買って後悔はなかった。みんなおもしろかった。