・小坂俊史氏は「ルール」の人といえる。
・作品ごとにルールを設け、それに従い、ネタを絞り出すイメージ。
・脳内にルールによる仕切りを作り、その枠の中にある場所でネタを作る。
・本作は、
・住んでいるところも年齢もちがう女性。
・ひとつのお題に対してのそれぞれのエピソード。
・基本スタイルはモノローグ。
・独白形式。
・基本4コマ1人1話。ただし、13歳の中2女子だけ最初と最後に登場。
・描くのは日常。ほのぼの4コマ。
・こういうルール。まだ細かくあるけどざっとはこんな感じ。
・たいていの方はまったくそのとおりでルールに従ってはいるのでしょうけど、それがかなり「厳密」です。おれが知る限り、いったん決めたルールはかなり鉄壁です。例外を認めないようです。
・この厳密をすごく美しく感じます。たとえとしてはおかしいのですがイメージとしてわかりやすいのは、北朝鮮のマスゲームとか。一糸乱れぬ動きで決められた演舞を遂行する。
・その昔、とり・みき氏や唐沢なをき氏のマンガをして「理系ギャグ」と称してましたけど、小坂氏の芸風はなんていうんでしょうかね。
・2013年の4月から毎月連続で4冊、単行本が発売されておりますが、どれもこれもルールが明確ですね。
・本作は13歳の中学生のひとみさんからはじまります。そして72歳のナナさんまでいき、ラストはまたひとみさんでシメます。ひとみさんだけ2本あるわけです。
・その間に、大学生の一穂さん、20代ストリートミュージシャンのニコさん、30代おひとりさまOLのみのりさん、と、自分の年代に模した名前の方が、同じテーマでの各人の日常4コマを繰り広げられてます。
・このルールを守るのは大変な作業だなと思います。それを小坂自身とはちがう「女性」で、体験してない各年代(氏は1974年生まれ)にふさわしい「日常」を4コマを切り出すという難しさ。いわば大喜利でいろいろな世代の「答え」を考えだす放送作家のような難しさ。実際に放送作家はそんなことしてないだろうし。
・本作はモノローグシリーズと呼ばれており、「中央モノローグ線」「遠野モノがたり」と複数の女性が主役であり独白形式で展開するという以外はけっこう「ルール」がちがうシリーズのひとつですが、今回が1番作者自身より「遠い」のではないかと思われます。前記の通り女性じゃないし70代じゃないし。まあ、作者自身女性が主人公の作品をたくさん出しておりますけどね。それはマンガ界全体の大きな流れですからねえ。
・モノローグシリーズの特徴として、4コマで「成立」させるって意味では「4コママンガ」ですが、その着地点、最終目的は「日常」を描くことであって笑いがなくていいというものです。いい意味で笑いをとりにこない作品が多いです。もちろん取りにきているものもありますが
・だから各キャラの1エピソードを切り出して4コマに加工してそこに収めているような、4コマで箱庭を作っておられるように思えてくる。
・それで、なにがすごいって、それでも「小坂俊史」から削りだした地に足ついた「日常」なんですよね。
・小坂氏と13歳の中学生、小坂氏と70歳の年金生活者、それぞれの共通点の中からテーマにそったネタを絞り出しているような感じ。このパーミッションの狭さよ。それこそほとんど「点」の中から出している感。
・10代から30代までは通ってきたので、性差を別にすればいぶり出すことも可能とは思われるけど(実際、その年代のキャラの作品は多いですね)、それ以上になるとけっこうな手探りじゃないかと。たとえるなら冷凍食品を解凍してポンとおいたのではなく、自分の中から出した感じがありありとわかるのです。
・たとえば、
・まわりから憎まれモノでありながらもそういうポジションとして毎日過ごしている72歳のナナさん。
・毎日のほほんと暮らして、寝放題だけど、家でひとりで寝てても「なにかちがう」と思う。
・だから、趣味の囲碁や俳句の会に参加してはそこで居眠りする。寝てはいけないところでうつらうつらする。そのことに満足を感じる。そしてそれがバレてないことにもほくそ笑む。
・小学教師で来年には定年退職になる59歳のイツキさん。
・たまの休みにパックツアーに参加したものの、ガイドが新人でダンドリがgdgdでクレームの嵐。
・ふとみてると自分以外にもうひとりなにも言わないヒトがいるので話しかけてみると彼女も教師。
・自分らも普段たくさんの子供を引率してるので気持ちがわかるからなにも言わない。
・最高傑作は15話。テーマは「いじめ」。
・ズーンとくるでしょ?でも「日常」なんだよね。本作での「日常」ってそういうことなんだよ。
・登場するキャラたちは「普通」の方々です。よって「いい子」ばかりではないです。いじめてたり、いじめられたり、逃げ回っていたり。
・だから、それぞれ「いろいろ」な意見があります。それが逆にいじめの問題を浮き彫りにさせていて、難しさがわかります。
・他にテーマは、「スマイル」「音楽」「通院」とかねー。音楽はよかったねえ。
・キャラとしては31歳おひとりさまのOLのみのりさんの「おひとりさま」っぷりに、「わかってもらいたい」キャラを描かせたら日本一の小坂氏の本領がいかんなく発揮されておりますね。19歳の大学生一穂さんも孤独が友達な感じ強いですが。
・そして最終回です。どうしてこんな、、って読めば読むほど味がある最終回なのはモノローグシリーズに共通してますが、その仕掛け度、さり気なさ度(軽く読み飛ばすことも余裕でできます)と、テーマの意外さ、そしてラスト。完成度の高さにやや絶句します。シリーズ三部作のラストにふさわしい到達点だと思います。この話の素晴らしさだけでここまでと同量の文章を書くことができるくらいです。
・そうなんですよ。最終回が特にそうですが、すべてに「よくできて」るんですよ。ルールに則っていて、かつ、徹頭徹尾「日常」なんですよ。しかも、「既成品」じゃないという。
・もはや4コマを語ることができるほど読んではいないのですが、本作はその「最果て」に旗を挿した。ここまで到達しましたとマークした。そういうものを読んだ気がします。
・しかし、小坂氏の諸作品は大好きでけっこうな割合で目を通してますが、だいたいの作品の床下に流れてる
「孤独」の感じはますます切れ味が鋭くなってきました。これが実は最大の特徴なのかもしれません。
・本作はモノローグです。「独白」です。「独り」の独です。それがよりむき出しですので、他作品より強烈です。
・実に登場キャラたちは定年間近の先生以外は独りモンばかりですし。
・作者の奥底にある「それ」を思うと、本作もまた別の輝きを感じられます。
・この作品は非4コマの作者のルポコミックなのですが、ここでの一人旅率の高さもまた「それ」を強く感じます。
・彼の目に映る「日常」とはなんぞやと。