2013年11月10日

人生は楽しき集い(LIFE GOES TO A PARTY)〜失踪日記2アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟
失踪日記2 アル中病棟
posted with amazlet at 13.10.11
吾妻ひでお
イースト・プレス


・思い出すと、いろいろな方の次回作の予告に期待しては裏切られてるよ。
・マンガ家だったら江口寿史氏とかさ。江口版「まんが道」ってどうなったの?
・大友克洋氏の週刊サンデーでの連載とか。
・ミュージシャンでも大滝詠一氏は1991年に「1991」ってアルバム、2001年に「2001年ナイアガラの旅」ってアルバムを出すなんておっしゃってた。
・ミュージシャンが起ちあげた独自レーベルなんてのになるともっと倍率ドンで予定してたアーティストがことごとく出ないしな。
・幻のアルバムなんて1冊の本になるほどあるし。
・映画もそうだよなあ。こういうの逐一リストアップしててもしょうがないから以後省略ということで。
・そのうち死んじゃうんだよなあ。ベレー帽(ご存命だったら有吉弘行氏がつけそうなアダ名)は「火の鳥」を完結させてから死んで欲しかったよ。
・などとねえ。まあ、本人だけじゃないのっぴきならない理由で世に生まれることのない作品ってのは数多くありますけどねえ。
・でもって、ここまで生きていると「ああそうなのね」と、寛容とあきらめのココロをもってスルーしたりもできるのです。
・それだからいろいろと興味の幅を広げておくのはいいことなんですよね。遅筆の作者のファンだと次の作品まで待ちきれなくて椰子の木のまわりを駆けずりまわってバターになってしまうもんな。

・で、まさか8年越しできちんと失踪日記2のアル中病棟が出るとは夢にも思わなかった。例によって「ああそうなのね」と。
・そして、これが期待を上回る傑作になってるとは夢にも思わなかった。
・今年1番のうれしいサプライズではあるね。うれしくないサプライズはアホほどあったんですけど。これを超えるうれしいサプライズってちょっと思いつかない。能年玲奈さんに「抱いて」って抱きつかれることとかか。
・そういうことで。
・以降、本作の傑作のところを褒めてちぎろうと思っているんです。

失踪日記
失踪日記
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吾妻 ひでお
イースト・プレス


・ドラクエなんだよな。
・前作「失踪日記」は漫画を描けなくなって家から飛び出てホームレスをしている吾妻氏のサバイブがマンガになってる。いわばソロワークスなわけだ。
・その最後のほうに家族に強制入院させられたアル中病棟での3ヶ月の入院生活をあらためてフォーカスをあてて再構成、という表現はふさわしくないね、ちゃんと描きなおしたのが本作。
・これが集団生活で、断酒会とかAAとかにいくときは団体行動。すなわち「パーティープレイ」なんだよね。
・だから、ドラクエだと。

・ドラゴンクエストは1は勇者が1人で行動し、2は3人パーティで行動するのです。
・そしてドラゴンクエスト3は現在の吾妻氏の生活ですね。家族とともにって。
吾妻 相当自由な、「アル中の合宿所」みたいな所なんですよね。だから普通の病院とはちょっと違う。

とり それがちょっと意外でした。もっとみんな拘束されたりしているのかと。

吾妻 自分で出たいと思ったら出られるんですよ。そこも強調しておきたいところで。
[『失踪日記2 アル中病棟』を語る   | Matogrosso]


・実は前作をおれはそんなに好きじゃなかった。
・少なくとも帯やあとがき対談でのとり・みき氏ほど褒めちぎる気にはなれなかった。
・おもしろかったよ。あの吾妻ひでお氏がすばらしい名作をものにしたと当時は思ってたよ。
・ただ、この2のおもしろさによって気がついたのよ。吾妻ひでお氏は「パーティープレイ」のヒトだって。
・ヒトとヒトのからみあいで「おもしろ」が産まれるヒトなんだって。意外にそうなんだなと。




「失踪日記2 アル中病棟」は前記のようにアル中を直すために入院されたマンガ家吾妻ひでお氏の3ヶ月ほどの闘病記です。
・密度の濃い書き込みと内容でアル中病棟ってあまり馴染みのないところと「ヒト」がすごく細密に描かれております。
・アル中病棟の生活という、多くのヒトにとって「あるある」ではない世界をきちんと「ギャグマンガ」のレベルまで消化し昇華し描いておられる。
・たとえば、朝起きてシアナマイドという抗酒剤をみんなで飲むという、通常の病院でもあまりないシーンがあります。シアナマイドを飲んだあとにすぐに続けて水を飲みます。なぜか?シアナマイドを飲んだふりをして流しに捨てて酒を飲もうとするやつがいるからです。きちんと飲んだ証拠として水を飲む。
・ある時期になると外出許可を与えられ、自助グループへ参加にいくという「日課」、パーティープレイ、あるいは遠征がはじまります。それがまたリハビリになったりもするんですね。そういうこともくわしく描かれてます。

・とり・みき氏もあとがき対談でほめられてましたが、あらゆる立場の人々がその「合宿所」でいろいろなことを考えたりいったりして同じところにいるサマが冷めて引いたトーンで割合と淡々と誇張なしに描かれています。
・また、女性患者とのふれあいやらが多いのも、通常の入院ではない「あるある」でしょうかね。
・それらのキャラを「ギャグマンガ」の文脈にして明るい愛すべきキャラとして描かれているところが特筆すべきところです。
・世にあるエッセイコミック、とくに作者が登場するものの多くは基本「ギャグマンガ」です。作者それぞれの解釈によってさじ加減がちがいますが、一様にギャグマンガのアプローチとして描かれてます。

・ただ、そこにはすでにある方の「エッセイコミック」用のギャグマンガのフォーマットによって描かれているような気がします。たとえば西原理恵子氏。たとえば内田春菊氏。伊藤理佐氏。桜玉吉氏、鈴木みそ氏などなど。
・そしてルーツではないですが、それらの先祖のような、始祖鳥のような感じで、吾妻ひでお氏は存在します。いや、しました。彼は「失踪日記」の1にあるようにすべてをいったんリセットしましたからね。そしてリセットしていた時代のことをマンガに描いているのです。
・そうすることによりベテラン特有の「昔ながら」で描いておりながらも、そういう昔ながらの作風でエッセイコミックを描いている方はいない、とりわけアル中病棟の話を描いておられる方は皆無なので、現在のエッセイコミックの文脈にない唯一のものができあがったわけです。
・昭和のギャグマンガのノリでアル中病棟を描いておられる。しかも、昭和のギャグマンガ家が現役で。
・そしてそれは「失踪日記1」には萌芽として散見はできるものの、本作でミゴトに花開いたのですよ。

・おれにとってどういうマンガを描こうとも吾妻ひでお氏はギャグマンガ家なわけで、笑えるマンガほど上等だなと思うのです。
・本作はかなりなキャラ図鑑になっており、かつてのDr.不気味やらナハハのおじさんやらのた魚やらの、今でもコンビニで1番クジとしてグッズを売り出せるくらいのキャラを生み出していた吾妻氏により、そこにおられた実在するであろう人々が「キャラ」として描かれております。

・たとえば寸借詐欺を常として、入院したときに最初に彼にダマされるのが病棟の決まりとなってるおっさんとか、リーダーぶりたがる威張ってばかりいる男とか、なんで入院しているのかわからない人徳者、素性がまったく謎の女帝などなど。
・それは表紙にもよく現れていて、読み終えたあと病棟内を俯瞰でみた表紙のあちこちにいるキャラ全部に名前があって性格があるということがわかります。そしてそんなことができるマンガ家なんてそういないことまで気がつきましょう。
・マンガ内においても話に関係ないときでも画面の端っこに見切れていたりして、シンプルに「これ描くの大変だったろうなああ」と、従来のマンガにはないタイプの労力を想像してしまいます。
・前作、1のときはソロワークスだったので背景をびっちり描いてるけど、今回はそれにくわえてコマ内にぎっしり学校の図書館においてある恐竜図鑑のようにありったけの人物をフレームインさせて描いている。それが全部アル中患者ってのがまたなんともいえない面白みがある。

・ギャグマンガ家はかなり燃費の悪い消耗品です。長く続いているギャグマンガ家は消耗しきる前にジョブチェンジをはかるっていうのが一般的です。つまり、ギャグマンガ家じゃなくなる。
・本作はよくわかりますね。ギャグマンガ家じゃなくて「アル中病院の患者」だった時代の吾妻ひでお氏を描いてるわけだし。
・そしてふたたびギャグマンガ家として帰ってきた。そのままのイキオイで「失踪日記」にはじまる新しい領域に足を踏み入れ、本作で完成をみた。そこがスゴイなと。

・なによりおれが笑った。この笑ったはきちんとした現象の「笑った」です。アハハと。とくに後半の先生との会話とか、ツッコミとか。

・ネットをみてると新規のファンをたくさん作っておられるのもスゴイ。上記のもろもろがなんだかわからないけど、もうキャラとしてアル中患者の数々、とりわけ主人公(つまり吾妻氏)のことを「好き」になっておられる方が多い(だろう)ことがスゴイ。
・あの吾妻ひでおの「あの」が要らないんだよね。これは本当にスゴイこと。やっぱり天才なんだなあ。

・吾妻氏などからは否定されそうな気がするけど、「人間」が好きな方なんだろうなあと思うわ。

「次」がどうなるのかなんになるのかわかりませんけど、近年いろいろと関連書籍が出ていることですし、なにかガーンってのがあるといいなあと。
posted by すけきょう at 15:11| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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