・森下裕美さんの4コママンガです。
「少年アシベ」「ここだけのふたり!」は世界の4コママンガ史に残るすばらしい作品であり、以降の影響もものすごいものがあります。
・そして、森下氏はその後もずっと一線で活躍されておられる日本を代表されるマンガ家のひとりであります。
・実にファン歴は長くて、商業誌デビューである「少年週刊ジャンプ」の「JUN」と同時期に描いておられた青林堂「ガロ」のころから延々と単行本をノータイムで買い続けております。
・ただ、ここしばらく、10年くらいで1番の衝撃を受けたのが本作です。
[なのな フォト ゴロー| WEBコミックアクション]
・WEBコミックアクションで連載されておるので、すぐ読むことができます。1巻収録分は1話だけですけどね。
・30歳、工場勤務、チビ、デブ、ハゲ、ブサイク、ビンボー、彼女なしの男ゴロー。工場でもおもしろいことはなにもない。かといって現状を打破するほどの気力もない。
・だけど、彼にはフォトというカワイイ猫がいる。半外猫で飼っている。毎日仕事帰りのバス停で待っていてくれる。フォトに癒やされるので毎日どうにかしのいでいる。
・25歳雑貨屋勤務のなのな。彼女はなんとなくな日々を送っている。ある日、フォトに出会いすべてがわかる。「自分はさびしかった」んだと。そしてフォトを求め追いすがるゴローを蹴散らしてフォトを強奪する。
・そういう感じではじまる物語。
・本作、画期的なのは「4コママンガ」なこと。もっと厳密に書くと「現在」の4コママンガ。
・ずっと一線で描かれておられるのでアタリマエといっちゃあアタリマエだけど、「あの」森下裕美さんが今の4コマフォーマットに準じた4コマを描いていることに衝撃を受けた。
・と、同時に今の4コマってのがみえてきた。
・いわく、
・4コマでオチない。(起承転結無視)
・2コマぶち抜きで大コマがある。上半分の4コマ分の大コマもある。(コマに可変性がある)
・内容が(絵も話もキャラも)どぎつくない。マイルドな口当たり。(日常系)
・女の子がカワイイ、猫もカワイイ。(萌え)
・これこそが「今」の4コマだなと。
・そのフォーマットに則ってきっちり「森下裕美」であるところにしびれる。
・ゴローはいじめられ役で、なのなはいじめ役で、フォトはかわいこちゃんというのはこれまでの作品と共通するおなじみの設定であるけど、その匙加減が非常にマイルド。
・森下マンガにおいて、「いいひと」はとことん食い物にされひどい目に遭うのがパターンなのですが、本作のゴローは少しづつですが報われているところ。それが非常にいい「今」感。画期的に今。
・なのなや他の女性キャラが、最初はけっこう冷たくゴローにあたるのですが、彼の一生懸命さに徐々にほだされていくんだよね。
・これって他のマンガじゃよくあるけど、森下(4コマ)マンガじゃめずらしいので新鮮。あーと、毎日新聞に連載されてる(過去形?)4コマもマイルドではあるけど、ちょっと方向性がちがう。「けいおん!」が新聞に載らない感じといったらおわかりでしょうか。
・気がついてみれば女性の多い職場ってのもあってゴローさんのプチハーレム的な感じにはなってきている。まあ、だれも「嫌ってない」ってラインくらいのハーレムなんだけど、それまでの彼からしてみればとっても幸せで居心地のいい環境だ。
・どぎつくいじめられたり、どぎつくベタベタされるとリアルからは遠ざかるけど、そこいらのが距離がほどほどだから現実にそこにあるような感じがある。
・だから、これまでにない感情移入ができるのよ。森下マンガ最感情移入くらい。
・紙芝居のエピソード、風邪のエピソードは涙が出てきた。
・ただ、リアルだけあって、別にそんなうらやましくもないのがなんていうか森下マンガだなあと。森下マンガで完全無欠のかわいこちゃんってのは人間以外しかない。「かわいい」けどみんななんかある。
・最近のよい4コママンガでのセオリーどおり再読性が高い。
・そしてそれらが森下裕美作品ということにしみじみ驚く。
「さじ加減」って大事だよな。日毎にその大事さを痛感しております。どっちかに思い切り寄らせるのはカンタンなんだよ。それを続けるのは難しいけど。
でも、最初から中道を目指し、場合場合でいろいろなバランスをとるのもはもっと難しいと思う。
・あんまり衝撃だったので下のガキに読ませてみた。
「普通」と返してきた。
・これこそが答えだと思った。
・おれがこれまで考えていた「いろいろ」をまったく考えず、今の4コマやいろいろなマンガとともに普通に本作を読むことができる。それってものすげえことだと思うよ。
・たとえば、名前を出すのはちょっともうしわけないですけど、いしいひさいち氏や植田まさし氏のマンガって「古い」もんね。もちろん、森下氏にとっても超先輩なんですがね。そういう「アウト・オブ・タイム」感がない(ただ、それゆえにコボコラみたいな愛される方はあるんだけどね)。
・そして、ここがさらにスゴイのだけど、本作には「普通」にはあまり入ってないものが仕込まれていることに気がつかずに読んでいるとも思う。
・たとえば仲野さんのカップのエピソードの底に沈んでいる黒い黒いものとかは、凡百の「普通」の4コママンガにはあまり入ってないと思うよ。
・スゴイことをスゴイと思わずに「普通」に読ませるって、たぶん表現においてもっともスゴイことと思うの。
・本作はスゴイよ。かなりスゴイよ。
[大阪ハムレット| WEBコミックアクション]
[36寿司]
・なおかつ全部WEB連載ですが、映画化もした「大阪ハムレット」の新シリーズも、王道の4コママンガ「36寿司」も連載しておられます。つくづくスゴイ方だなあ。