2014年10月25日

決勝戦 ギガントマキア 対 子供はわかってあげない

ギガントマキア (ジェッツコミックス)
三浦 建太郎
白泉社 (2014-07-29)






[このマンガがすごい!WEB]
・2014年は「このマンガがすごい!WEB」に毎月3冊のオススメマンガを投稿させてもらってます。
・あまりこのようなことをしてないのでとっても新鮮な1年をすごしております。
・その年の1月のおもしろいマンガと、12月のおもしろいマンガと、どっちが優れているかという判断はおれにはとっても難しい。なぜなら1月におもしろかったマンガのことを12月まで覚えていないからです。
・だいたい「ポトチャリコミック」などにしても脊髄反射のレベルで「(「
今読んだ)これはおもしろい」と書いています。
・ところが、毎月、おもしろいマンガを3冊提示するようなことをしていると2014年のおもしろかったマンガということを否応なく意識せざるを得ません。

・おれにとって2014年は「ギガントマキア」「子供はわかってあげない」の2編です。まだ多少2014年は続いておりますがこの2編ほどのショックをもらうことはないでしょう。
・この2編はともに「すごい」ですが、立っている地平、向いてる方向がちがいます。だから決勝戦なんていってるけど双方向き合ってはいないので戦いは成立しないのです。サブタイトルはウソなのです。そもそもこの2編のどちらが優れているというのはスキかキライか以外に判断できるヒトはいないでしょうや。
・ただ、この2編の距離や向いている方向はおれにとって「マンガとはなにか」ということをあらためて感じさせるいい機会となったのでそれを書き記していきたいと思うのです(以降長い注意)。
***

「ギガントマキア」
・ファンタジー。古代ローマの闘技場みたいなところで奴隷戦士として戦い生き続けていた男と謎のエネルギー体であるけど見た目は幼女の旅を描いた作品。

・あらすじはシンプル。昆虫族の村で巨人と怪物を率いて占領しにくる帝国軍を撃退する。

・背骨に電流が走る。
・圧倒的迫力描写連発。すごい。有無をいわせないすごさ。すべてをねじ伏せていく絵。正統派のヒロイック・ファンタジーここにあり。興奮のあまり鼻から吐き出す息で空を飛べるくらい。
・ずっと命を削りながら描いておられる「ベルセルク」とは真逆の考えを持つヒーローをきっちり描ききっております。

・すごいすごい! あれ、でも、すごい、、、、だけ?

・こういう気持ちが奥底に芽生えました。

天空の城ラピュタ [DVD]
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 (2014-07-16)
売り上げランキング: 1,272


「ギガントマキア」を読み終えたときに連想したのはこの映画。
・長い年月によりウヤムヤになっているし、当時の世間での評価の記憶はないのですが、おれとしては、ラピュタ制作が発表されたとき、その概要をきいてすごく失望したのを思い出します。
「なんで未来少年コナンの焼き直しみたいのをナウシカのあとにやるの?」って。
・実際のちほどレンタルしてみたとき(失望したので劇場はいかない)に思ったとおりでした。
・それとは別に圧倒的なおもしろさはありました。あらゆるところにすみずみに過不足なくおもしろさがつまってました。それは制作からかなりな年月を経ている今でも「バルス」ほかみんなと共有できるところが山ほどあることからも伺えます。
・でも、なんていうか、当時は「ためにならない」と思ったのです。この表現はかなり微妙なのですがね。
・つまりは、メッセージ性作家性のようなものが感じられないなと。
・未来少年コナンそして風の谷のナウシカには確かにあった(と思い込んでいた)「伝えたいこと」がないなあと。
・まあ、多感でそれなのによくわかってない10代でしたからねと、今では思います。
・メッセージ性とかはとってつけたものでいい。大事なのはなにをみてもらいたいかってことなんですよ。
・そういった点で、同様の臭いがするギガントマキアの「娯楽」に対する純度。その純度の高さに既視感を覚えつつも、10代ではないのでわりにストレートに感動するのです。
「作家性」というのがかえって邪魔になるってのはラピュタのその後の宮ア駿作品がちょっと証明してますよね。ずーっと「ラピュタ」を望まれてますもんね。あるいはカリオストロ。
・三浦建太郎氏の代表作「ベルセルク」。それも同様で「メッセージ性」のところが重くてだるい。
(念の為に書いておきますがだから「つまらない」ってことじゃないですからね)
・逆に「ギガントマキア」は娯楽の純度の高さゆえに、「すごいけどなんか足りない」って思う。でも、その高さが心地よくて衝撃だったと。

・またギガントマキアはゲームのRPGをホーフツともさせる。

旅をする→あらたな村にたどり着く→イベントがある→イベントの終わりにボス戦がある→あらたな旅に出る

・これにキレイにあてはめることができる。そして同じ「鋳型」にはめれば続編はつくることができる。
・そもそもが本編がその「途中」からはじまってますからね。どうやってふたりは出会ったのか、最終目的はなんなのか、イマイチわからないまま、「昆虫族編」がはじまって終わる感じ。
・でも、そこに「安易」はまったくないんだよな。物語の構造がベタなのと、そこを「楽してる」ってのは全く別。
・つまり、そう「思わせない」くらいに描写が圧倒的。さきほども書いたけどすべて(批判も)をねじ伏せてる。この「圧倒的」の圧倒的具合は近年ないくらいのショックだった。
・それは物語中盤のクライマックス、虫族1番の勇者と闘技場でステゴロの勝負をして、完全なアウエイの状態をひっくり返すエピソードのとおり。とにかくやられてしまう。
・いろいろな「お手本」「インスパイヤ」はあるようで、そんなことを指摘するのが馬鹿らしくなるくらい、昆虫族の世界や住んでいるところの「見てきたかのような」描写、そこでの汗や血が飛んでくるかのような戦い、ラストの盛り上がり、各キャラのベタな役割、大団円具合。それらすべて正面突破。文字通り正面から突き破ってる。
・そしてその破っている対象は「すべて」。地球上の現在過去未来のマンガ、映画、小説、その他のすべてのエンターテインメントに対して2014年に三浦建太郎氏が「おれはこれだ」と差し出したのが本作。すべてにファイティングポーズをとっているかっこよさ。まあ誰にでもできることじゃないよな。
・また、主人公、プロレスラーなんだよな。本作はそこが1番強烈なメッセージかもしれない。「プロレスはスゴイ」って。
・それが「手抜き」でできるわけがないんだよ。「安易」でできるわけがないんだよ。「楽」なわけないんだよ。プロレスがそうであるように。プロレスが八百長だとすると選手の方々は毎日ストイックに身体を鍛える理由はないじゃないですか。また、それならばボディビルダーのような筋肉にしていったほうがいいじゃないですか見栄えとしては。でもそうじゃない。「戦う」ためのずんぐりとした鎧のような肉の付き方だもんね。「ギガントマキア」の泥労守(デロス)もまさしくそれ。
・個人でやっておられるのかどれくらいのアシスタントをもってるのか知らないがこの世界は逆に「ミニマル」なものを感じる。そこがすごいし、この文章自体のキモにもなります。あとにまた出てきますよ。

で、「このマンガがすごい!」と。掛け値なしに純粋にすごい。

***

「子供はわかってあげない」
・高校水泳部の女の子が屋上で誰かがいるなと思ってみにいったら去年同級生だった書道部の男の子が筆ででかい絵を描いていました。それは自分が好きなマイナーなアニメの絵でした。
・そうやってはじまるひと夏の話。

・全く知らないヒトってのも道理で初単行本。それでいてこのすごさ。
・本作のすごさは伝えづらいタイプのもの。逆に「伝えづらいタイプ」って表現で伝わりやすいかもしれないってタイプのもの。
・いわゆるユルいマンガ。随所の遊び、マンガ内の雰囲気、キャラ造形、癒し系など。
・だけど、すごいのはそこじゃなくて、そういうタイプのマンガにして、どんどこ「展開」していくところにあるんじゃないかと。
・ガール・ミーツ・ボーイからはじまるラブコメとおもいきや、ガールの実の父を探す、それをボーイの兄が探偵だからと託す、探偵は別の仕事に巻き込まれる、その末、ガールは実の父と邂逅を果たす。そしてガールが帰ってこなくなる。
・みたいな感じで変なところがリンクしていって「どこに向かってるのこの話?」みたいに思わせながらもおさまるところにはおさまるという、あとがきにあったとおり最初に完成までできてから描いてるだけのことはある。

・や、でもさ。
・物語も絵もすごく不安定。コマごとにキャラの顔がちがう現象(キャラをみうしなうことはない)だし、背景とのスケール対比もちょっと心配な感じ。
・物語も前後のつながりとかちょっとガタガタとしてる。サイトに隠しネタを列挙する記事が載るくらいあちこちにいろいろなことを仕込んでいるけど、それはおれにはとくに効果的とは思えなかった。いい「空気」を作るのに役には立っているけど、昭和のやりすぎてた時期のマンガみたいと思った(悪い意味で)。平成のヤングにわかりやすくいうなら昔の「こち亀」の派出所前の掲示板にある作者の落書きみたいなもん。
・それをするなら構成とかにもうちょっと気を使ってほしかった。密度が高いから基本コマが小さいのがもったいない。小ネタを削ってももうちょっと効果的なコマの大きさを確保すべきとは思った。

・別の作品を読んでみないとなんともいえないけど、もうひとつ(あるかもしれない)の作者の武器は、ときおりのてらいのないドストレートかと思う。
・随所に有無をいわさず物語が進行せざるを得ないまっすぐなコトバがキャラから発せられる。それはヒロインのキャラ設定が主な勝利の要因なのかもしれないけど。
・この手の「伝えづらいタイプのマンガ」ではスパーンと快音を響かせてキャッチャーミットに吸い込まれていくようなストレートはすごく気持ちがいい。それに感動してしまう。そして「伝えづらいタイプのマンガ」ならではのひねった表現もある。もちろんそこもいい。

・いかりや長介氏が出てくるシーンのストレートなようなひねってるようなハイブリッドなところもあるよな。あそこは屈指の名シーン。ファーストシーンからクライマックスにつながる最重要な場面でいて、非常にドリーミーでロマンチック。
・いかりや長介氏の似顔絵がもっとクオリティが高かったらもっとよかったろうけど。

・ストレートなところはアレやアレや物語の根幹に障ってしまうから省略させていただくけどもちろん前記通りスカッとスパーンと。きちんと涙につながったわ。
・そしてひねったところだと、貸してたアニメDVDをヒロインが返してくれたとき感想文があって、それをなぞりながら「こんな字書くんだ」ってシーンとかいいよな。書道部ならではですし、書道部や水泳部のところがまたいろいろと効いてくるんだよ。

「ギガントマキア」が洋画、ハリウッド映画の成功法則にしたがって作っていろいろとムダをはぶいた純娯楽大作としたら、本作は邦画の新進気鋭の監督によるそれだよな。今なら二階堂ふみ氏が主演するような(本作では探偵役か)。
・物語の展開、それのつながりの粗さと、数々の仕込んである小ネタという名のノイズ、そしてそれらの含有により濃くなりすぎて、そう再読性が高いものではないです。
・けど、作者の「引き出し」を机から出して、底を叩いてホコリまで加えるイキオイでの「全部出した」感はあります。だからこその到達地点であります。
・結果、読むたびに感動や発見。ネタバレになりますけど最後すごいしその手前の「すごくない」ところ(amazonのレビューでも批判されてる)がまた逆に効いてるし。それらは「全部出した」からこその「すごい」と「すごくない」なんですよ。
・そう、ギガントマキアは逆に「全部出してない」のです。「すごくない」は要らないですから。でも、必要なものはすりきりいっぱい絞り出してコップの縁に表面張力ギリギリで盛ってるんですよ。ここのギリギリは命を削らないと出せません。そしてもちろん「全部出す」のもしかり。

・だから双方命を削っているのです。だからこその決勝戦なのです。

・まだつづきます。ネタバレになりますので折込ます。
・ここまで読まれた方は買われることをオススメしますよ。


[【9月の「このマンガがすごい!」ランキング オトコ編】 SFからファンタジーまで。秋の夜長に読みたいベスト10(7/1〜7/31発売作品を集計)  |  このマンガがすごい!WEB]
[【11月の「このマンガがすごい!」ランキング オトコ編】晩秋の夜長を素敵に彩るマンガベスト10  |  このマンガがすごい!WEB]

「このマンガがすごい!WEB」において、ギガントマキアは9月のランキング2位で、子供はわかってあげないは11月のランキングで1位(!)です。

[「このマンガが凄い」の歴代1位wwwwwwwww : なんJチャレンジ|2ch]

・歴代のと比較してもなんていうか妥当ですよね。
・それでいてこのスレタイに草が生えてるのはなぜかというと、「成功したの進撃だけンゴwwwww 」ってことがいいたいからですね。つまり、ランキングのそれが一般的に読まれているのとはちょっと隔たりがあることに対しての草なんですね。

・2編ともまったくそんな感じではありそうですね。でもまあアニメ化しそうでもあるし、「子供は〜」は実写映画化もありそうだけど。
・余談ですけど、マンガにとっての「成功」がアニメ化ってのは「バクマン。」の罪なんでしょうかね。
・個人的には「マンガ・アニメ」っていろいろなところでジャンルをいっしょくたにされるのはあまりおもしろくないんだけどね。

・余談終わる。そいでここから本編。

・この2編、共通点として、「ふざけてる」というのがある。
・ギガントマキアは命を削りながらふざけていて、子供はわかってあげないは、全部を絞り出してふざけている。
・前記のように「子供はわかってあげない」にある小ネタの数々、実は、ギガントマキアにもたくさんある。わかりやすいところでいうと、長州小力氏のネタ「キレてないっすよ」とか、大ごまでの大きな漢字のなんかのパロディ風とかな。
・ギガントマキアのなんていうかあちこちでいろいろと拝借している感じがどうにもこうにもわかってやってる感じがしてしょうがない。あえてここまで元ネタをわかりやすくしてみましたよって。
・モロパクリではないんだよね。もっとミックスシェイクしてなにがなんだか判別しにくくはしているけどいろいろと仕込んでいる。
・それをあくまでマジメに息を呑むような絵の合間にぶちこんでくるところのアナーキーさがいいよな。
・そもそも、けっこう重要なファクターである、幼女のオシッコを飲むことで体力を回復させるという設定が、すべてのメディアミックス化を妨げているというけっこう身を削ってもったいないことしてるって荒業がステキすぎるよ。

・一方、「子供はわかってあげない」にしても、さきほどは「ノイズ」とした数々の小ネタは結果として作品の色にはなっているしな。
・総ざらえとでもいえるくらいあれこれとつめこんである状態は多分に現時点の田島列島氏の「すべて」である感じ、そしてそれが物語のテンションにうまくマッチングしてる。
・これがラッキーだったのか狙いだったのかは次の作品(短篇集になりそうね)でわかるとは思いますけどね。
・本作、自分内からの「すべて」というかつてない強敵を抑えこんできちんと物語として完成しているのがまたすごいところなんですよね。
・ふざけるって要素が入ると物語は非常に難しくなる。ほら、マジメな話をしてるときに茶化すやつってムカつくじゃない。「話が進まない」って。まあ、おれのことなんですけどね。
・それなのにあのステキな着地点を用意して、ちゃんとそこに収まったのがスゴイわけよ。
・そして、この「おふざけ」がメディアミックス化を妨げているのは、ギガントマキア同様。
・でも、多分に、この「おふざけ」たちこそがおれにとってのお気に入りの理由なのかもしれない。

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・やや余談となるけど、つい先日やっと富山でもこのドラマが放映されて全話みました。
・これがおもしろくなかった。
・でも、同時に、この物語ではキャラはこう動かすのが「正解」だと思ったのですね。
・とっても不思議な現象です。
・主人公はいろいろな女の子に囲まれてエロい気持ちになったり惚れて惚れられてしてキャッキャウフフ状態になったほうがいいし、タイムスリップのネタで考えると、ドラマ版のほうがきちんと活きているのですよね。ドラマの通りババアは死ぬべきだよね。
・でも、原作のほうが確実におもしろい。
・原作の主人公のひねくれ具合、途中でタイムスリップネタがどうでもいいって感じになるところ、まあ、演劇部編以降は蛇足でしたがそれでも飽きさせなかったし。



・一話読み切りで芸人(おもに落語家)を取り上げる評伝マンガ。名作です。
・この話の中に映画好きの芸人が出てくる。とにかく映画。昔は寄席のあるところは映画館も多いので、ちょっとした待ち時間にもう映画をみにいったりする。
・こんな映画が好きならいつかそっちの道に行くんじゃないかと師匠筋も心配してしまって、ある日、たずねる。そうしたらこう答えた。
「落語のほうがすき。なぜなら落語だと、監督脚本主演小道具舞台全部ひとりできるから」と。

・実に、マンガもコレなんだと思うのです。
・紙とペンがあれば(PCとタブレットがあれば)、あとはひとりで「すべて」をつくり上げることができる。
・そして、大活劇ファンタジーもひと夏の青春ストーリーもつくり上げることができるわけです。
・たとえば、複数で作業すると、幼女のオシッコで元気になるって設定は削られるかもしれない。いかりや長介は肖像権侵害になるから使用できなくなるかもしれない。それらと同様に各種の「おふざけ」は封印されるかもしれない。
・映画やドラマはその分、複数の意見を取り込むことで物語自体のクオリティを上げ、洗練することができる
。でも、「おふざけ」や細かいニュアンスはどんどん損なわれていくわけです。
・この2編(とアゲイン!)奇しくも完成度というところとは別の「そういうところ」がけっこう大事ということに気づかせてくれましたし、やっぱり個人作業で完成するマンガはいいよなあと思ったのです。

・この2つの個人っぷりはいいものだし、とくにギガントマキアのような大作の妙なソロワークな感じは本当にいいです。
・いいマンガをありがとうございます。そしてそれは「このマンガがすごい!WEB」やってないと手に取らなかった可能性が高いのね。
・実は2作とも書店でアドリブで買ったのだし。ということで、「このマンガがすごい!」の編集の方々もありがとうございますと。

posted by すけきょう at 15:25| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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