・剣と魔法の世界。
・突如できたダンジョンに宝を求めて勇者たちが果敢に挑む。
・あるパーティーがけっこう下の階層でドラゴンに襲われ全滅しそうになる。主人公の妹は身を挺してほかのメンバーをダンジョンの外に送り出す。
・すぐに助け出そうとするも、先立つモノがない。
・だから最低の装備で、食事は「現地調達」にして急いで向かおうと。
・そうやってはじまる冒険譚。
・この設定で展開はグルメマンガになっていくわけです。
・つまりはダンジョンの魔物を食べるマンガ。
・これが相当「そっち」のほうに比重がおいてありまして、きっちりと料理して「食レポ」しております。
・1話はおばけキノコとスライムと大サソリ、2話は人喰い植物。
・料理法も毎回趣向をこらしていて、1話は水炊き、2話はタルト。
・いろいろな要素が組み合わさってます。
・ダンジョンの冒険譚。魔物を「美味しく」食べつつ階層を降りていくことは「冒険」なんだなと思い知らされます。いろいろな困難や戦いや冒険や葛藤やドラマがあります。
・グルメマンガ。このマンガはグルメマンガになります。想像上の魔物を食べるということですが、きちんとそれに応じた調理法が存在したり「美味しい」を追求したりしてます。
・そして、もう1コのポイントとしては、登場キャラの1人エルフの魔法使いマルシルです。彼女の存在がとっても大きい。
・グルメマンガとはいえ命を奪いにきたりグロい風体の魔物を食べるのはイヤです。主人公の勇者は魔物オタクが高じて「食べてみたい」となってるし、ワナ解除の男は「まあ、別に大丈夫か」って環境になれているし、途中から参加したドワーフはダンジョンの魔物を食べて10年というベテランです。
・そんななか、エルフの魔法使いは、ずっとなれずに拒否反応をみせます。でも食べると「美味しい」と。
・この所作はどこかでみたことがある。
・そうじゃ、ゲテモノのグルメリポートエッセイコミックじゃ。
・よく突撃リポートってエッセイコミックあるじゃないですか。マルシルのワーキャーの大騒ぎや悲鳴を上げたりしている感じはゲテモノ料理で大騒ぎしている作者(の分身)をホーフツとさせます。それでいてまともで良識があってそういうことに抵抗のない相方(たいがいは編集の人)がまぁまぁと諌めるって図式。
・この傑作ショートショート集の1編「えぐちみ代このスットコ訪問記 トーワ国編」が、本作に近いものがありまして。
・架空の国の架空のマンガ家によるレポートマンガ。それを架空の国のホテルで働いている下男とレポートマンガの2つの視点で描いてます。
・しかも、「いかにも」なディティールで高める。ウソの料理や名物なんか。
「ダンジョン飯」も構造としては同じです。ただ、そのディティールの積み重ねが半端ない。
・ダンジョンを冒険しつつ魔物を食べて過ごすって、ネタとしては思いつきそうなところを、誰にも追随できない完成度まで高めております。
・魔物を食べるということはすなわち魔物を知るということにもなります。
・たとえば、スライム。洗って干したらおいしくなるってクラゲっぽいですよね。そういうどこかでみたなにかみたいな食材からの連想で作り上げてます。
・なかでも秀逸なのが「動く鎧」。これはちょっとしたミステリーの謎解きにも似た感じで、なおかつちょっとした科学図鑑的な感じもある。
・ほかにも細かい工夫やネタの折り込み具合が半端ない。本作からは限りなくネタ元を汲み取れる。それだけたくさんのものを吸収消化している証ですよ。
・たとえば、きちんとRPGのゲームに準じたレベルに応じての魔物が登場してますしね。1話のおばけキノコにスライムに大サソリってまんまドラクエの最初の町の近所のモンスターです。
・料理紹介コーナーに材料の分量や栄養価が書いてあったり、それに添えてある詠嘆が「うわ〜」「ひ〜」「あぁ〜」って楳図かずおチックな書き文字だったり。
・魔物を食べるということはその生態を知るということでもあるしそれはつまり捕獲したり戦ったりするときの知識にもつながります。スライムをナイフ1本で退治する方法とかな。
・これだけの積み重ねの上での一発ギャグのような軽みもあるんですよね。「ダンジョンの魔物を食べて冒険するグルメマンガ」って渾身の一発ギャグ。全力のオッパッピーみたいな軽さ。これがまたなかなかできることではないですよ。
・それをここまでまとめ高める技法とボーダイな知識と情熱。
・近年グルメマンガは大ブーム中ですが、ここにきてあらたな局面を迎えつつあるのでしょうか。
・と、作者にたずねても「さあ、オッパッピー」みたいにはぐらかされそうな。そんな気がします。
(小島よしおさんお嫌いでしたらオッパピーじゃないでしょうが)