「寄生獣」「ヒストリエ」の岩明均氏の初原作。作画は「秋津」「エバタのロック」の室井大資氏。戦国時代死ぬことを目標とした女性剣士の話。岩明氏の精密な話はもとより、氏特有の間が非常にうまく再現されている。そして初期の室井作品によく見受けられた敵のなにを考えてるのかわからない不気味さと躊躇ないバイオレンス描写がハマる血なまぐさい展開。つまりこのコラボはかなり上手くいってるのではないだろうか。3巻以降も期待。
・1巻2巻同時発売で、最近はこの形態もわりと少なくなったなあと思いつつも、本作の場合は、1巻で主人公レイリの経緯、2巻で主な活躍の舞台と目標が与えられるという2冊でグランドプロローグといった趣なので十分に意味があるのですよね。
・グランドプロローグということでこの先どうなるかはわからないんですけども2巻まで読んでふと思ったことを。
希死念慮
・主人公レイリさんの言動をみてこの言葉を思い出しました。「きしねんりょ」ね。
・自殺願望というのではなく漠然と浮かび上がる死への願望。
・レイリさんは農家の娘でしたが落ち武者の首狩りに遭い、一家皆殺しで、本人もあわやレイプ&首チョンパ寸前に助けてもらった侍に拾われるという経緯があります。
・そのために恩人の侍に従えて敵を殺せるだけ殺して討ち死にすることを人生の目標として邁進してますが、恩人(実在の人物みたい)はいい人なのでそんなことをさせたくないと彼女をあるミッションに出します。
・主君によろこんで命を差し出す姿勢、剣の稽古のときの尋常じゃない強さと尋常じゃない残虐性と、ああ、レイリさん、現代だったらメンヘラだわなあと。
・主人公がメンヘラの剣士って珍しーって、書こうとしてふと思います。
「これ珍しく無いじゃん?」って。
・性別女性は珍しいかもしれませんが、彼女のこの姿勢は「武士道」に則った、見上げたものなんですよね、戦国時代だと。
「レイリどのは大したもんです / はじめから命を捨てている……」
・かようなセリフがあります。メンヘラなところが評価されているわけです。
・そこが非常におもしろい。
武士道とは死ぬこととみつけたり
・なんてよく聞く言葉ですが、すなわち希死念慮たちが大勢いたのが戦国時代ってことなのかなと。
・あとまあ前記でもあるようにけっこう史実に則った展開のようで、こういうときに歴史を知らないと彼らがどうなったかわからないので物語を純粋に楽しめていいなあと思います。武田が負けたことくらいしかわからないし。
・セリフのないコマが多い。そこのところにすごく岩明均テイストを感じます。
・そしてそれを感じるということは室井大資氏はそのキモをきちんと把握されているからということでもありますよね。
・1巻では岩明氏のあとがき、2巻では室井氏のあとがきがありますが、非常に繊細で詳細な原作だから作画はある意味で楽とありました。
・なるほど1コマに無駄を省いてる分、その後ろでは100倍1000倍の意図を丁寧に織り込まないとわからないし伝わらない。
・楽かあ? すごいプレッシャーだよなあとも思います。無音のコマを描くプレッシャー。
・先日、YouTubeでマンガ感想をいってるところで「僕のヒーローアカデミア」の11巻をわりかしdisっておられました。
・戦いに余計なセリフが多すぎると。
・全部読んでるわけじゃないけど、それは少年マンガのみならずバトルマンガ全般の最近の流れではあるよなあと思いつ、一理はあると納得してました。
・マンガ家にとって1番の恐怖は、自分の描いたものが伝わらないことじゃないかと思うんですよね。
・だから、つい、「描」いてしまわずに「書」いてしまう。セリフで状況を説明したくなる。
・それに優劣はないとは思いますが、今全般の流れとしては開き直ったかの如く説明するってのが主流じゃないかなと。
・読むところが多いと単純に読むのに時間が掛かる。それすなわち「ボリューム」を感じるということになる。ラーメンでいうところの背脂系だな。脂が多い分食べごたえがある。
・ラーメンでたとえると岩明氏のは半分も食べたら器の底の店の名前がみえてくるくらい澄んだ塩味のスープ。でも、その透明度からは想像もつかないくらい濃厚濃密な味がつまってると。
・その味を室井氏もきっちり受け継いでいるのがいいなあと。
・3巻以降も楽しみにしてます。いい感じですっぱり終わってほしいものです。
できればということで。
個人的にはかなり楽しめました。
時間がかかりそうですが、続刊も楽しみです。
内容もさることながら室井氏の器用さが印象に残ります。
五郎兵衛とかの岩明氏に寄せてる感が面白かったです。
むくつけきおっさんの泣きそうな嬉しい顔。