2017年06月23日

とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話 佐倉色 飛鳥新社


1番の弱点はタイトルだね。わかりやすいけど、略すことができない。この本はタイトルにキャッチーさが必要だと思うのでなんかうまい略語をこれからでも考えるといいと思う。
というのも、amazonのレビューにもあったし、この本のオビの裏にもあった、「ものづくりに携わる人の「転ばぬ先の杖」になりますように…………」という点で大きく存在意義のある「モノ」だから。

あらすじはこう。
新人漫画家がデビューしましょうとなる。ところが担当にかなりアレな方がついてしまった。彼の無茶苦茶な仕事に彼女も疲弊して壊れていく様を彼女の視点で描かれている。

固有名詞をいくつかそのまま出してありそれが売りになっているので、いろいろな問題がさらに複雑になっていきそうな気はするし、これが事実無根として名誉毀損で訴えられて出版差止めにあったとしても「むべなるかな」と思えるようなくらい実名で書いている。
まあ、問題の担当は仮名だし顔も似てるかどうかわからないし、この作者の画風は3次元の似顔絵は描けなそうな感じなのでそういうことはあまり問題はないけど、みるひとがみると誰かはわかるし、主観や憶測による人格攻撃もかなり多い(起こった事実からそう考えてもおかしくないとは思える説得力はあるけどな)。
この出版社ひどい!担当クズ!って思いながら、読み終わったあと、ふとこれのどこまでが本当の話なのか?って考えるとゾッとするんだよ。読んでいるときは担当のクズさに恐怖して、読み終わると作者がわりと憶測でここまでコテンパンに描いてあるだろうことに恐怖する。2度美味しい。

本書でも、編集によってペンを折った元漫画家がネットから応援というカタチで登場するが、逆に、漫画家にあることないこと上に告げ口されて編集を辞めてしまったって事例もある。そういうことを描いてはいるがそれが本当かどうかを正確に分かる人は誰もいない。
つまりはそういうレベルでの攻防であり、本になったから読んで「へーほー」と眺めてみる一般人にあーだこーだいわれる領域ではないのだけどさ。

そして、本書がこうやって完成し出版することができたのは作者がある点で「強い」からで、そうじゃなかったら埋もれていただろう案件だろうね。
実際、何度も懐柔されそうになっててそれに流されそうになっているし、担当が同じようなケースで「こういうときこうした」って武勇伝を自ら語ってるし。書いてないけど微妙に「なにか」をちらつかされて引き下がった事例もそこそこあるんだろうなと。

と、いろいろ考えられるけど、本書のキモであるところの、応募者全員にカラー色紙1600枚強を「無償で」描かされたのは事実のようだしな。これがあるから「根も葉もない」とはいえなくなってるわけで結局むこうも動けない状態っぽいね。これはいまでも出版社のページにお詫び文として残っているし。

だからといって担当の人格攻撃とかわりと最初からの上から目線はなんだろうなと引っかかりやよくないほうの感情は同時に持ったりもする。
被害者一辺倒じゃねえぞこいつって。

そんなこんなでこのカラー色紙はけっこうな呪具になりそうな。持っている方は大事にしよう。こんな想いのつまったものなかなかないぞ。

そしてマンガとして読むといろいろとね。実際、「画」としては作者は仕事してるだけだし、エネミーとの「戦い」はほぼ電話だし。それを1冊分起伏をつけて怖気立たせながら読ませるあたりすごいんだけど、何回も読んだりふと冷静になると「?」と思ったりする箇所がポコポコでてくる。

たとえば主語が妙にでかくなってきたりとかな。そもそも、前記に引用したオビ裏のキャッチの主語が超デカイ。やたらとクールジャパンって単語が連発されてるし。
大げさじゃ?と思うけど、皮肉なことにそうやってでも本書は「前例」として残るという偉業はなし得た気はする。それがどうであれ、話題になり、内容を理解されて「共通言語」となる。いや、なった。おれも話題になったから手にとって買ったんだから。そうじゃないと買うタイトルと表紙の画ではない。
今後、「佐倉色みたいになりたくないんですけど」みたいな釘の刺し方ができるわけだ。これは各方面非常に大きいような気がする。
本書にも引き合いにだされていたビッグネームとちがってデビュー作を描いたばかりの新人がこれをやったってのも大きい。

これが今後どういう化学変化をもたらすかはわからないけど、その意義は大きい。作者自体も次にどう動くのかはわからないけど、知られた名前にはなったし、今後の「マンガ家」としての活躍は期待してはおります。




posted by すけきょう at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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