帯にW完結フェアってあるけど、作者にはフェアじゃねえだろとちょっと思った。
ともあれ2冊同時発売はとってもうれしい。
「謎のあの店」は作者が気になっている店にいってみようというもの。
「局地的王道食」は自分の心の局地にある「これが好き」って食べ物を追い求める。
ちょっと差別的になるけど、女性によるエッセイ、エッセイコミックは、おもに「ヒト」を描く傾向にある。どこにいこうとなにをしようとなにを食べようと、同行者がどうした、店員や現地にいたヒトがこうしたってのに重きを置いて描く。顕著なのは「鉄子の旅」。いろいろあるけど最初のしか読んだことがないので、菊地直子版ね。ここはどこにいこうと鉄道マニアの横見さんのことをつぶさに描いていた。だからダメということでもないし、だからつまらないということでもない。そういう傾向にあるなということで。
それで松本氏はそういうのではないんだよね。かといって男性的に淡々と状況を説明してるというものでもない。
それはこの2シリーズによく出ていてさらにいうと「謎の店」がとくに強いけど、その店の「空気」を描こうとされている。もっとざっくりいうと「雰囲気」。コトでもモノでもヒトでもないキ。そういうところがあると思う。
謎の店3巻「42軒目あの民家カフェ」。最近流行っている民家カフェ。家を改造した喫茶店。ここでココアとコーヒーゼリーを食べてるだけの回なんだけど、あちこちにある細かいモノの描写、そしてそこにいる作者自身がそこの「キ」を感じ入って深く染み込ませている感覚。
ややもすればオカルトの領域だけど、それを描くことができる、というか説得力を持たせる描写がすごい。
謎の店3巻「44軒あの惣菜屋」。いつ行ってもシャッターが降りている店。友達のメールでやっていることを確認。たずねてみると朝の4時から午後3時までの営業。じゃあってんで始発でいってみる。その空気がまた見事。夜中のオアシス感半端なし。灯台でもいいか。
局地的王道食2巻では埼玉と東京の一部でしか作ってない「のらぼう菜」を探し求めて3回に渡って探検の旅をしている。こういうところで採れているのかという気持ちを噛みしめるようにあたりを愛でて買って家で食べる感じ。
局地的王道食2巻ではかたいスが入ったかたいプリン、クルトン、菓子パンへの偏愛も。それは作者自身のヨコの旅じゃなくて時間の旅。幼少の記憶の空気を書こうとしている。とくに秀逸だなと思ったのは肝油。肝油が美味しいから嫌で嫌でしょうがなかった保育所に通ってたというそのとき「そう思った」という「空気」を紙上に再現しようとしている。そこのところがおれが松本英子氏のマンガで1番好きなところ。
それを2冊も堪能できたので幸せです。ありがとうございます。続編期待しております。