短編集2種同時発売。
すべての作品はすべて衿沢世衣子の作品ではある。ただ、本作はそれぞれ偏ってる気がする。
最初は収録の時期が偏ってるのかと思った。実際、「難攻不落〜」のほうが古めの作品が多いが、2018年発表の作品もどちらでもある。
今はもうないゆらゆら帝国というバンド。あるときに同時に出した2枚のアルバム。「ゆらゆら帝国のしびれ」「ゆらゆら帝国のめまい」これを連想した。「めまい」のほうがバンドだけで作り上げたもので、「しびれ」がいろいろなゲストを読んでメロディアスになったもの。
同じでありちがいがあり、2枚組で出さないで別々に出すことに意義はある。でも、必ず対になっている。本作の短編集もそんな感じ。
本作は「難攻不落〜」が従来の衿沢世衣子作品、「制服〜」はなんていうかなこれからの衿沢世衣子というか、もっというとよりざっくりいうところの「マンガ」っぽいところがある。こういうとすごく語弊があるんだけどさ。
「ベランダは難攻不落のラ・フランス」は、「ベランダ」「難攻不落商店街」「ラ・フランス」という短編(他にもあるけど)をまとめたもので、「制服ぬすまれた」は表題作でTRACK1に収録されている。そのタイトルもそれぞれのカラーを表している気がする。
金髪姉妹。JKの姉が音楽発表会のために同級生の男子を連れ込んでいるのを小学生の妹が発見する。それで祖母から隠そうとする「ラフランス」。
中学時代の仲良し5人組が高校になって再集結する「難攻不落商店街」シリーズ。3話ある。
お隣さんの小学生少女がベランダづたいに遊びに来る「ベランダ」。
一方、プールに入ってるうちに制服を盗まれて文化祭のコスプレで泣いていたJKといっしょに犯人を探す「制服盗まれた」のストレートでずんずん進んでいく感じ。
ほかにも蕎麦屋の出前をしているパートのおばちゃんかと思ったら女子中学生だった「ワニ蕎麦」
とくに1番の異色作「カラスが鳴くから」はかなり面食らった。
発売前にタイトルだけですごく気になっていた「ハンドスピナーさとる」も、なるほどハンドスピナーをこう使うかと感心。
そうだね、「制服〜」のほうはダークネスとはいえる。すべて犯罪の臭いが漂ってます。そして、主人公も他キャラもどこか「マンガのひと」みたいな感じで展開していきます。もっというと「制服〜」のほうは「難攻不落〜」にくらべるとより「マンガ」してるなと。
さきほども書いたように優劣はないです。ただ、そういった意味じゃ「制服〜」のほうはよりマンガっぽいのに作者のすべての作品と比べても異色作でありつつマンガの短編集としてのまとまりがあります。非常に新鮮でありながら確実に進化も新味も感じられて新しい衿沢世衣子味。
いっぽうで従来の衿沢世衣子味であるところの「難攻不落〜」での2018年の収録である「リトロリフレクター」は従来の路線からさらに大きく突き進んだ意欲作としてすばらしい。この2冊合わせてのベストと思う。
ぜひ「難攻不落〜」からどうぞ。もちろん2冊ともどうぞ。