精神的なアレからエリートビジネスマンからドロップアウトして心機一転スローライフを実践してる凪さんの奮戦記。
4巻からの反撃からはじまって5巻は新たな挑戦と救いがテーマかと。
隣の美人母子とのドライブ。4巻で知り合ったスナックでの仕事。彼女らスタッフとの交流。それらからの救い。
なかでも本作全体でも屈指「凪、女子会をする」の回。非常に重要なエピソードであり、これまでいくつかあったクライマックスの中でも最大のカタルシスがあったのでは。
スナックの仲間となにもない凪の部屋で飲み会をする。今もしつこくつきまとう元彼が私のことを今も思ってるんじゃなくてコスパがいい風俗として多少の距離はあるけど通っているんだと風俗サイトのもろもろのオプションなどを計算してみんなに告げる。このシーンが自分でも気がついてない彼女の価値観を如実にしている。
これまで一流会社のOLとして「相応しい」ようにすべてを削りながら生きていた。監視され値踏みされ、彼氏や同僚にダメ出しされないかビビりながら取り繕い生きてきた。挙げ句に疲弊し爆発して現在に至る。そして風俗体験もなく、まちがいなく男性経験も少ない彼女が風俗サイトで「1回これくらい」って計算できるのは自分にそれだけの価値があるとの推測によるものですわな。その根拠ってなにかというと、彼氏が気持ちよさそうにしてることなんだよね。彼女自身には価値がないと思いつつも自分の仕事に関しての自信はある。その彼女が風俗嬢と同等の「仕事」ができているから、すなわち、彼が満足してるから彼氏は通うのだと解釈してる。そしてさらにその根拠は恋愛感情じゃなくて身体と技術に満足してそうだからと思ってるあたりの歪み具合。(あるいはセックス自体「そんなもん」と思ってるってラインもあるんだけど)
そもそもコスパでいうならそのシーンで彼氏がGIF画像でさくりと抜くってシーンがある。コスパだけでいうならこれが最強なんだからな。
世の中が要求してるであろう平均の高さとそれになんとか食らいついているという自負がありながらも自信がない凪さん。その相反する価値観がずっとつきまとう。そして他者にも知らずにそういう基準でみていた。彼氏にしてみても会社内でも自慢できる有能だしってちょっと計算高いところがありつつも、自分が愛するのがおこがましいとか複雑。
だからスナックの掃除やもろもろの裏方仕事はママにとっては120点のデキなのに誰にでもできる取るに足らない「雑用」と思ってる。謙遜ではなくてココロの底から思ってる。見下しながら同時に自分もへりくだってるからセーフだろって魂胆なのかね。
そのタイミングで元彼との邂逅。モヤモヤが再発してまた出口のない迷路に向かおうとしたところ、彼女らに笑い飛ばしてもらえることで救われたんですよ。「自分は笑えるおかしなことをしてる」と思い知らされることで救われる。笑われるようなバカな環境にいたと。
5巻までにいろいろと救われてる凪さんではあるけど、この「救い」が1番大きいんじゃないか? この視点をこう描いたことがすばらしい。
あらゆることにこのエピソードが帰結していて、5巻表紙にある仮面のような表情のOL時代の凪さんが、中には微塵もないし、どんどんと認知のゆがみが治っていく感じとか、あらゆるヒトやモノやコトが「救い」というテーマで有機的にからみあっていく。
すばらしいじゃないですか。おれの涙腺はもう探偵ナイトスクープの西田局長ばりにアテにならないですがこのエピソードで凪さん同様に感極まってましたよ。
ここがターニングポイントだったのは、このエピソード以降、ちょっと視点がずれていくことからもわかる。凪さんはいったん「落ち着いた」から。そして「別の凪さん」が登場するから。
もういっこ思ったのは、ここまでもタイミングや相性が悪いのならばやっぱ凪さんと元彼はつきあえない運命なのかなと。全物語の構成上のオキテでありお約束でもあるタイミングの悪さやすれちがいってのは、ラブコメのお約束ではあるけどさ。こうも同じパターンでつづきすぎると最近は鼻白むようになってきた。本作のみがどうってことはないけど、肝心なことをいおうとするタイミングで邪魔が入るとかそういうのね。リアル奥さんがそうだったのよね。やっぱ運命にムリにあらがってた(そんなかっこいいもんじゃないけど)のかと思うこともあるわ。
あと、彼氏気の毒だなあ。こういう計算してるけど、実際、誤解によって逃げられて以降はやってないんだもんな。再会したあとのトラブルのあともGIFで自慰しただけで済ましてるからな。
凪さんも気の毒だけど周りの男たち(もうひとりいる)も気の毒だよなあ。
2巻から引っ張ってる実家の母親との対決がまたクライマックスになるのかしら。
