木村いこさんの創作マンガ集。イラストレーターやエッセイコミックの印象が大きいので意外な感じでした。
食をテーマとしたオムニバス読み切り集。「だし巻き卵」「ソース天ぷら」「立ち食いうどん」「白パン」など1食1話。
「夜さんぽ」という名作では夜にさんぽするというマンガに、視覚聴覚触覚などをフィーチャーして「夜」を描くということをやっておられてすごかったのですが、本作も、食に関して、積極的に泣かせるでなし笑わせるでなし、毎日3食に出てくるあたりまえの食とともにある日常を描いている。そう、食事をフックにしてるけど、それをことさらにありがたいものとはしてないんだよね。戦争で食べたあれはうまかったなあ〜とか、遭難して食べたチョコが〜とか。それの真逆。そこが最大の特徴だと思う。
もちろん美味いまずいって話じゃなくて、その食べ物はいつもそこにいて自分を形作ったりいい影響を与えてくれると。
たとえば「だし巻き卵」。通りかかる居酒屋のお姉さんに惹かれてる男子高校生。名物らしいだし巻き卵を1回食べたい。でも、高校生は居酒屋にはよう入ることができん。と、落とし物をきっかけに食べるその甘口でもしょっぱいだけでもないだし巻き卵に「大人」を感じる。お姉さんには彼氏がいたこともわかるし。そこがまた大人の味ってね。
みたいな。
食べ物とそのひっかけるところのギャップというか変なところが絶妙で、「いこまん味」になってるなあと。また、天ぷらにウスターソースをかけずにいられない父や、毎日うどんを食べないと気がすまないギャルJKとか、関西圏なのがまたうれしいところ。無理して全国区にしてないというかな。
女の子がまた気負いがないんだよな。プールの売店で売ってる焼きそばを食べる話の豊満な女性やら、ドテラにギブスの主人公のお姉ちゃんとか、美少女なのにオタク2人をさそってピクニック。焼き鳥の缶詰を食べ続ける等、みんな愛嬌のある女性ばかりで最高。そしてこっちも関西風味かねえ。なんつか、いくつのひともこのまま「ひとのええおばちゃん」になる感じがして。
料理ネタも、上記の天ぷらソースもそうだし、餃子を両面焼いたり(パリッと感が高まるそうで)、雑煮のもちにきな粉をつけて食べたり(奈良らしい)、食のこだわりのある回もあるし、へーと思う。
母親が関西圏出身(鶏肉をカシワっていう)なので、ソースに天ぷらは昔からおなじみ。富山のうずまきかまぼこを厚めに切って天ぷらにしてソースかけて食べたら最高だったなあと。久しぶりに食べたくなったわ。