底本は1995年に発売されたものでナンシー関氏の消しゴムはんこによる表紙だった。
筒井康隆小説をマンガ化したトリビュート。音楽の方のトリビュートは大昔からあるものだけど、複数のアーティストが1曲をカバーするというスタイルになってからのそれが流行ったのは1990年代に入ってからで本作の底本の1年前にはやたらと売っていた記憶のあるカーペンターズのトリビュートが売っていた。
それを受けてのマンガにおけるトリビュート「ブーム」も今に至るも面々とつづく人気ジャンルのひとつではある。
本作の豪華メンバーよ。
以下敬称略。
相原コージ、吾妻ひでお、いしいひさいち、内田春菊、蛭子能収、加藤礼次朗、喜国雅彦、けらえいこ、三条友美、清水ミチコ、しりあがり寿、とり・みき、ふくやまけいこ、まつざきあけみ、南伸坊、矢萩貴子、山浦章、
そして特別収録として筒井康隆自身によるアフリカの血がボーナス収録。
すごいメンバー。平成の最初のほうからずっと現役の方も多いしなんとなればビッグネーム揃いともいえそう。当時も今もおれには「買わない理由はない」メンバー。それでいて、唯一全集を持ってる筒井先生の作品集だからな。
とはいえ、いまは令和。気がつけばこのメンバーの最新刊ってそれぞれなにを買ったっけ?って感じではあるし、筒井先生のも今持ってる未読の最新作は「聖痕」かなってていたらく。
なので運がいいというか逆にすごく新鮮ではあったのよね。
原作に忠実なコミカライズであろう、内田春菊「ムロジェクに感謝」、相原コージ「死にかた」、加藤礼次朗「トラブル」などは原作の味わいが出ている。
内田ムロジェクの舞台劇のようなドタバタ、物語内の平野オサムのようなキャラが非常にうまくマンガ化されてるなあと思った。ああいう軽薄というかお調子者役をおしつけられるピエロ的なひとがよく登場するよね。
相原死に方の金棒で潰された女性からタンポンがポーンと飛び出す描画とか「ああ相原コージだ」としみじみ思うし、加藤トラブルの最近のゾンビものに通じつつ今はなくて今も全然通じる原作の力と確かな描画力。
蛭子能収「傷ついたのは誰の心」も非常に丁寧な仕事で印象に残った。いまマンガ仕事はどうなさってるのか知らんけどおれがいくつか持ってる著作のなかでもあらゆる描写が丁寧とほうと思う。たしかこれは筒井自身も漫画化してるな。
吾妻ひでお「池猫」もダークネスな画風のころのものでのサイレントマンガ。水墨画風の味わいはかなり短い期間だったような気もするので貴重。
ふくやまけいこ「かいじゅうゴミイ」でのピッタリの題材を大幅に「かわいい」で上書き更新した強力な逸品。ふくやま画の「かわいい」が尋常じゃない強さを持っていることに改めて気がついた。令和でもすごくかわいいままだ。
解説の藤田直哉も指摘しているけどもベストは「我が良き狼」のとり・みきかね。カートゥーン風のコミカルな戯画化とリアルな劇画化。それでいて劇画のほうの空にはこれは書割でセットですということを表す「スジ」が描かれてる。どれもこれもが空想の中のオールドグッドタイムという。
今はだいぶなくなってきた有名人にマンガを描かせてみるというノリの清水ミチコ、南伸坊の絵物語風なのもそう。実にこれが1番「時代」を感じされる。そしてそういう流れにあるのかのと思っていたけど実はかなりな画力やマンガ力があることを認識する筒井本人作。
しみじみとそれぞれの作品のチョイスの確かさだな。そこいらはプロだなと。自分が求められてる資質を読み取りたしかなコミカライズで応えると。
もう1冊出てるので近いうちに「弐」もあるかもしれない。期待していよう。