最近キレッキレのマンガを出しているマンガ出版社というかレーベルといえばリイド社のトーチっすよね。
そこでの「第1回トーチ漫画賞大賞」を受賞したものです。そうなると気にはなりますよね。だからふと内容を知らずにポチってみました。レーベル買い。レコード会社ではよくやってましたよ。で、税抜1500円全1巻。ちょっと今のフトコロ事情だと冒険の値段ではあったけど、地味に最近どの版型のどういうタイプの本も高いからなあ。
だからどういうマンガかまったく予想がつかなかったのよね。
牛乳配達のアルバイトをしていたときの思い出をエッセイコミックにしたものです。これがかなりな時間をかけてゆっくり描かれてるし、たぶんというか確信してるけど、作者もはじめてに近い感じでかなり試行錯誤しながら自分のスタイルをモノにしていく感じが非常に新鮮。
しかも、初心者ゆえにというか場数をこなしてないゆえに、「描きたいこと」を描くためにある「型」に落とし込むのではなくていろいろと試している感じがおもしろい。実に毎回ちがう。話や切り口や芸風もそうだけどとくに描画のタッチがちがう。まあ、端的に「上手」とはいえないタイプですけど。
とくに1話のエピソードを描き直してるんだよね。上半身ハダカでタオルをクビにまいたおばあちゃんに炎天下で説教されて、ねぎらいとともにドリンクをもらって公園で飲もうとしたら変な味で製造年月日みてたら2015年で(2017年の話ね)吐き出して「なんかマンガみたいな出来事だな」と思ってるというエピソード。最初に描いたのと、コミックになるから描き直したのの対比が非常に興味深い。
前半までは配達やサンプル配りの営業の戸別訪問の客との接点に「こんなことあった」なあるあるであり、その途中にみた街の風景であり。
残りは、いっしょに働いてるひとにも焦点を合わせる。個人的にはそっちから急におもしろくなる。前半のままだとおれにはイマイチという判断になってたな。
ちゃらいけど仕事ができる後輩。独身31歳で独り言が多く要領の悪い女性。パチンコが止めれずに仕事中もしてしまう(配達後の営業とかで)男。彼らとのやりとりがとてもいい感じ。
つげ義春氏の「無能の人・日の戯れ」と大橋裕之氏の「遠浅の部屋」に影響を受けて書きはじめたとあとがきにあったことが非常によくわかります。でも、その影響下だけじゃなくてなんていうかな「広がり」がある。ここに作者の持ち味とほかにない可能性がある。
つげ氏や大橋氏より社会性があっていろいろと働いている感じがあるし、世界をよくみている感じが。お客のことを考えたり。で、案外と自省内省はもうひとつ。だからこその不思議な味わいが醸し出してはいるんですけどね。「無能の人」にしても「遠浅の部屋」にしてもかなり「自省み」が強い話だからね。そういうタイプのアプローチだけどアウトプットはだいぶちがう。
作者の次回作を楽しみに待っています。余計なお世話だけどルポ系のマンガがいいかもしれない。なおかつ誰か相棒がいるのがいいような。