2020年10月01日

ヘテロゲニア リンギスティコ 〜異種族言語学入門〜 瀬野反人 (KADOKAWA)







電子書籍で買いました。1巻が安かったかなんかで試し読みしたんですよね。

これが1巻1ページ目ですっかり目的を描ききるんですよね。
師事している言語学コミュニケーション学の博士がぎっくり腰で動けなくなるから、主人公が博士の引き継ぎをしていわゆる魔界に学術調査するという話。
そういうことを簡潔にシャープに手早く処理してあとは内容をお楽しみくださいという姿勢はとても好みだし、「むむむ作者やるな」と感動したのです。

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ワーウルフの村に行き、人間とのハーフの少女ススキと知り合い、ともに各国を巡る旅に出る。そして各地で出会ういわゆる魔獣、モンスター、亜人、なんでもいいんですが、彼らの言語学やコミュニケーション手段を探りつつも旅を続ける。

すごい設定ですよね。やっていることは、たとえばジャングルなどの未開の地の部族との交流や彼らの言語を探るという、1970年代から今に至るまで手を変え品を変え放映されていたTV紀行ドキュメンタリー風でありつつも(いやもっともっと昔の紀行文とか。宣教師が未開の地に訪れる的な)、それがモンスターだったりするので、彼らの奇天烈な文化を学んだり推測したりコミュニケーションを模索するというマンガになります。
全ての設定が素晴らしく有機的に結びついており、「見てきたんかい」ってディティールの細かさや実際の言語学やコミュニケーション学のたしかな知識の下敷きも相まって、すごく知的好奇心を充たしてくれる。なおかつ、各キャラ描画がとてもいい感じ。

たとえば、ワーウルフは嗅覚が発達しているので口と耳にたよらなくても臭いをかぎ合うことである程度がわかるのでことさらに喋らなくてもいい。
たとえば、スライムは聴診器のようなもので話を聞いて会話をする。振動をカラダで感じることで言語や感情を理解する。
などなど。

3巻が白眉なんですよ。

旅立ってきた村で冬ごもりをする。あらゆる種族がいっしょに冬をやり過ごす。それぞれがそれぞれの価値基準や意味をもって動く。それぞれが勝手に集めたものを持っていく。対価なのかよくわからないものを置いていく。廃墟に住むことができるようにしたと思ったら勝手に他の種族も入り込んだりする。それらを理解しようとしたり、わからないけど尊重しようと思ったり。
いっしょに長年冬ごもりしていた、老ケンタウルス。ある夜、目が覚めたらいっしょに住んでいたもので死んだ老ケンタウルスが家の外に放置されていた。彼らは合理的に動くんだなあと思っていたけど、自分にはわからない嗅覚により、彼の死を感知して外に出す。そして外の吹雪が止んだので葬儀をする。そして彼らの肉をみんなで食べる。

これこそが共存ってことなんだよなあと。異種間コミュニケーションということだなと。別のマンガのアニメのEDのタイトルですが。

ギスギスしたSNSを醸す面々にみならってほしいものだと。「みんなそれぞれちがうんだ」と。マンホールに宇崎ちゃんの絵があったくらいで自分の性を愚弄されたとかトンチキなことを思わなくてもいいんですよ。あ、思うのはいいんだけど、それを表明することはないんですよ。
そういうことを学んだ気がします。

異世界モノとして極北と思います。かなり高度なことをしつつもエンタメに昇華して各キャラがかわいいという。難しいことをされておられる。この作品の行きつく先はどうなるのかとも思いますが、本作が提示した異世界モノへの新しい道は評価したい。


ヘテロゲニア リンギスティコ 〜異種族言語学入門〜 コミック 1-3巻セット - 瀬野反人
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posted by すけきょう at 14:43| Comment(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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