たぶん、「本の雑誌」の影響。あるいは、そこ経由で知っただろう内藤陳さんの影響でハードボイルドというジャンルの小説を読み出していた。
正直なところ激ハマりするにはおれはお子様だったのですが、たとえば、「深夜プラス1」とか「死にゆくものへの祈り」なんてのの荒れ地に寒い風が吹きすさぶような心象風景はずっと覚えている。
本作を読み久しぶりにおれの中にあるハードボイルドを思った。ああ、こうだったと。
架空の国(まあロシアとか)の大陸を横断する線路を作っていく男たちの物語。
枕木
鉄軌
犬釘
この毎日。タイトルの犬釘というのは鉄軌を枕木に固定するための釘ですね。あれ犬釘っていうんですね。
主人公は、この作業に不正があるのではと派遣されるスパイ。そして主任のケニティが怪しいと睨む。
2部制になっており、1部と2部ではだいぶ趣がちがうけど、これが両方、ほぼ女性キャラが出てない鉄と油となにもない荒野と寒波のなかの男のギラギラした欲望が行き交う。
作者は前から気になってるけど、表紙からは中の絵が伺いしれない表紙ばかりなんだよな。まあ、小説のハードカバー的とはいえるのだけど、マンガ家の場合は、ちょっと二の足を踏むよね。
今回のはわりに絵が伺えるな。白っぽいけどシャープな線で、ありとあらゆることをきっちり描いている。そしてクライマックスの盛り上がりはちょっとすごい迫力ある描画。でも、なんていうかな、ハリウッド的ではない盛り上がり方があるな。
んー、東欧圏の大幅な予算をかけてハリウッドに対抗しようとした2時間30分の超大作「エンターテインメント作品」のようじゃ。
1冊でえげつない満足感があります。鉄道に関して別の興味がわきますね。考えてみれば鉄道はひとつづつ線路を敷いているひとがいるから走ることができるんだし、逆に考えると、野原にそのまま敷いてる線路の鉄なんてのは宝の山が落ちてるのといっしょなんだよな(そういう窃盗団も登場する)。そこでのせめぎあいってのは知らない世界だし、みなが知らないハードボイルドがあるという。
ディック・フランシスって作家は競馬をネタにしていくつものハードボイルドの名作を書いてる方がいらっしゃいますが鉄道も題材になるんだろうなという発見が。
冬に読むと効きますよ。

犬釘を撃て! (アクションコミックス) - 伊図透