いろいろとすったもんだの上に発売された作品ではあります。だから、急遽「少年青年漫画編」という小さい字が「日本」と「短編漫画」の間に挿入されました。
日本漫画を時空列に沿って短編漫画のみにフォーカスし取り上げた作品集。とはいえ、日本名作漫画という区切りで長編漫画のほうがフォーカスされないよな。なぜなら長いから。
それはともかく。
1集が1959年から1967年。あとはだいたい4〜5年ごとに区切って並べてある。
毎巻選者によるあとがきがあり、6集のあとがき担当の江口寿史氏によると、6人が20作品ほどの推薦作を挙げてそれを年代別にソートして収録しているわけで本人もはじめて読むような作品が収録されているそうです。

恐怖と奇想 現代マンガ選集 (ちくま文庫) - 徳重, 川勝
2020年に発刊された傑作アンソロジー(本作品集とダブリがない)。この解説に、「現代漫画」を銘打ちながら60年代70年代の漫画をほぼ中心に編まれているのが解せないと作者の苦言があったが、本作はその点でもいちおう平成14年まで網羅されている。そしてそれだからこその「日本短編漫画」と大きく出たタイトルだったが(それだからこそモメゴトも発生している)、5集が1980年から1985年。そして6集は1986年から平成14年。一気に14年を雑に網羅してる。そこが最大の弱点なのかもしれないなあと思う。それこそ少女漫画がないことよりも弱点かなと。とはいえ、本作の価値は1980年からのセレクトにあるなと思う。5集6集がそう。
ただ、日本の文学全集といって明治から昭和初期のものが多いのと同様で、やはり1960年代から1970年代はマンガにとっても非常に重要な時期でここは丁寧に追っていかないとダメということもよくわかる。
また14年まとめた6集はともかくとして5集までは考え抜かれており、漫画史を俯瞰しつつも、それぞれの集の色分けや意図を感じ、ひいてはマンガの歴史を感じられるものになっている。この6冊でマンガの歴史がわかる。まあ、そういういいかたするとモメるので配慮した表現で日本漫画のざらっとした流れは把握できる。
1集では手塚治虫氏の「落盤」がすでにオーパーツのような輝きをはなっており、記憶の呼び起こしが真相に迫るにつれてマンガの画風をマンガマンガしたものからリアルになっていくというのちに赤塚不二夫氏がギャグとしてこすりまくったところを効果的なネタとする。
松本正彦氏の海外小説の短編。平田弘史氏の江戸の武士の読み物、白土三平氏は西洋映画、さいとうたかを氏は日本文学かしら。石川球太氏なんかはまさにもろ原作が小説。のちに矢口高雄氏もコミカライズしている戸塚幸夫氏の「羆嵐」。
と、かように「元ネタ」を多方面から引用しつつ、「マンガ」にしようというイキオイを感じされる。胎動とか萌芽とか。
2集はカンブリア紀の生物爆発のようにマンガのありとあらゆる表現を探る時期。この1集と2集のちがいに「こりゃあ細かく区切らないとあかんわ」とは強く感じる。とくにダディグース氏のぶっちぎりのアヴァンギャルド感。
個人的には全部のなかでもっとも刺激的で発見の多い集ではあった。とはいえ、永島慎二、水木しげる、横山光輝、藤子不二雄A、ちばてつやなどというビッグネーム揃いなんだもんな。
あと、全部に共通しているけど、短編漫画としての「読み応え」はしっかり担保されている。これが本全集の1番の目玉かもしれない。ずっしりとした物語構成。短編なのに後頭部がキーンとしてしばらくなにもできない余韻。そこらへんは実験的というより今読んでもちゃんとおもしろいエンタメを優先させている。
短編集は小説でも映画でも好きなんだけどいいのは「おもしろかったー」と後頭部がキーンとなる余韻に浸ってなお「まだ読む作品が残ってる」というお得感かもしれない。
3集にして完成形。昭和のマンガってこうだ!って実に現在にも通じる流れができてる。もう仮舗装終了といったオモムキ。これが1959年から10年の出来事です。鈴木翁二氏の「オートバイ少女」の萌えはすげえ。それに目をつけていたあがた森魚さんもすごいですが。
安部慎一氏と松本零士氏とジョージ秋山氏の3作品に通底する「孤独」に対する答えがそれぞれちがうのも興味深い。マンガの多様性の現れというか(掲載媒体のちがいというか)。
このころからブレてなくて画風芸風が変わってない諸星大二郎氏と、この先、画風芸風を臨機応変に変え続けるかわぐちかいじ氏が同居しているのもおもしろい。職業漫画家としてどう生きていくかなんてのもこのころから隠れテーマとして有るのかしらと思ったり。
そして3集までみて思ったことは漫画家の画力は1集から現在にいたるもほぼ変わってないということだな。もちろん上手い人を集めているのだろうし、CGを駆使して作った現在の完成原稿の美麗さはかなうべくもないが、たぶん、基本的な画力ということでは大きな変化がないと思われる。ド下手くそが減ったくらいか。
4集は1975年から1979年。ここでのトピックは、「おれ」がリアルタイムで読んでいるものが増えることだ。ここから読んだことの有るものはほぼラグなく発表の時期に読んでいるなと。
ますむらひろし氏、星野之宣氏、高橋葉介氏、さべあのま氏、新田たつお氏、いしいひさいち氏と、いちいち読んできちんと衝撃をもらっていた。
そして読んでいたしおもしろがっていた藤子・F・不二雄氏の「宇宙船製造法」の普通に1本のSF映画をみたような満足感とちゃんとしたデキにあらためて感心したり。
未読であるはるき悦巳氏の「力道山がきた」も同様に1本のかなりガツンとくる映画をみたような満足感。
どれか1冊だけだと2集と5集のどちらかをオススメしたいですね。それくらい5集のクオリティは高かったし、全てが凝縮されていたし、1番「古くない」とは思った。それはその後の時代をよりう長く網羅した6集よりも思った。というか6集は小学館の平成ベスト短編集というおもむきがある(もちろんそんなことないんだけど)。
作品のことよりも自分の思い入れが前に出てしまいがちになるのもここらへんからの特徴ではある。湊谷夢吉氏の作品集がほしくて受験で上京していたときにバスを乗り継いで目黒の北冬書房にいったこととか。高野文子さんの田舎での閉塞感。ひさうちみちお氏や泉昌之氏におけるガロ感ニューウエーブ感漫金超感。高橋留美子さんの「ふーんやるじゃん」感。いがらしみきお氏を神と崇めてたとき。いしかわじゅん氏の収録されてる作品集を買ったときの天気。後輩に貸したこと。そしてそれらを何度も何度も読んだ感じ。
この時代とは違う気もするが弘兼憲史氏の短編集などからもいろいろと思い出させるものがある。
ということで思い入れのある5集以降の時代のマンガ史を考えると、6集1冊に岡崎京子氏の作品とよしもとよしとも氏の作品が収まることに違和感はある。5年ちがいますし。そのあといろいろとありましたし。
青山剛昌氏、藤田和日郎氏、あだち充氏が入ってることに強い反対は持たないし、クオリティが落ちるとは死んでもいわないが、偏ってるなとは思う。でもま一生懸命探してみつけた唯一のアラくらいに思ってください。でも小学館に忖度するなら細野不二彦さんの作品をいれるべきだったよなあとか。彼は短編集を何冊出してると思ってるんだ?とか。そこらへんは選者も迷いに迷った末なんだろうなとも容易に想像つくけど。
で、問題になった少女マンガ編も1冊ほしいですね。とはいえ、竹宮恵子氏、萩尾望都氏の24年組が台頭してくるのは70年代になってからなのでなんというか10年ちがうんですよね。この6巻の短編漫画傑作選の作者にも女性による女性目線をテーマとした作品は多いし、たぶんに、そのテーマにおいて秀逸な少女漫画が生まれてくるのは70年代も少し経つ必要があるだろうしでなかなか難しいというか寡聞にして知らないのでぜひやってほしいものですね。
できればその範疇に収まらないものも。成年コミック編は無理だろうけけど(他所がやれ。成年コミックも名作をアーカイブする動きがないと消えていくぞ)、児童漫画の短編傑作を集めるのもいいかもしれない。
それはそれとして労作です。マンガはすばらしいと素直に思える良選集です。できるなら続いてほしいシリーズです。単価は高いですけどね。

日本短編漫画傑作集 (4) - いしかわ じゅん, 江口 寿史, 呉 智英, いしい ひさいち, 一ノ関 圭, ますむら ひろし, 星野 之宣, 高橋 葉介, さべあ のま, 新田 たつお, 藤子・F・ 不二雄, 坂口 尚, はるき 悦巳, 宮西 計三

日本短編漫画傑作集 (5) - いしかわ じゅん, 江口 寿史, 呉 智英, 高野 文子, 湊谷 夢吉, ひさうち みちお, 泉 昌之, 杉浦 日向子, 浦沢 直樹, 高橋 留美子, 谷口 ジロー, 関川 夏央, 弘兼 憲史, いがらし みきお

日本短編漫画傑作集 (6) - いしかわ じゅん, 江口 寿史, 呉 智英, 吉田 戦車, 青山 剛昌, 岡崎 京子, すぎむら しんいち, よしもと よしとも, 松本 大洋, 藤田 和日郎, 村野 守美, とり・ みき, 筒井 康隆, あだち 充, 真造 圭伍