2022年06月11日

緑の歌 - 収集群風 - 上 下 高 妍 KADOKAWA






ネットで知った台湾のマンガです。イラストレーターとしては有名な方らしくて村上春樹さんの「猫を棄てる 父親について語るとき」には表紙や挿絵を描いております。

『猫を棄てる』の表紙と挿絵を描いた高妍さんからのメッセージ 『猫を棄てる 父親について語るとき』(村上 春樹) | インタビュー・対談 - 本の話

そして本作においても帯を書いております。いま、お写真をみましたが本作「緑の歌」の主人公に似てらっしゃいますね。半自伝ってことになるのかしら?

本作はざっくりいうと細野晴臣氏を神とあがめるマンガなんですよね。

細野さんは「音楽王」という本を出すくらい、日本音楽に多大な貢献をされた偉大な方です。おれにとっても神なのです。

主人公、緑は台湾の片田舎のJKです。あるとき教科書を持ってくるのを忘れて取りに戻ったら海辺に男が立っていました。そこでふいにスマホから「風をあつめて」が流れました。細野さんが所属していたバンドはっぴいえんどの名曲ですね。みんな聞いたことあるでしょう。CMなんかもやってましたし。

https://www.youtube.com/watch?v=0b6inZfiGrw
https://open.spotify.com/track/0YdW17YMTVaqzRkkvdlpm8?si=56d7dfef424442cd

次の日に浜辺は立入禁止になっています。男は死んだのだ。緑は確信します。
そして細野晴臣氏の憧れと男の死によっての故郷へのヘイトをもって台湾の首都台北の大学に入るのです。JDになるのです。

台北で音楽三昧のJDライフとなるわけです。気になる彼が現れたりね。で、その話の軸にずっと細野さんがいるのです。


MYSTERY TRAIN - Trailer ( 1989 ) - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=nb0yBDSqTfs

ジム・ジャームッシュ監督によるこの映画では、エルヴィス・プレスリーにあこがれてメンフィスの聖地巡礼にくる日本人カップルが現れます。若き日の永瀬正敏氏と工藤夕貴氏。
「緑の歌」でも緑が東京ではっぴいえんどを買おう!ってシーンがあります。台湾から飛行機で3時間でくることのできる日本ですが、このときの憧れの東京感は新幹線で3時間のところに住んでいるおれや、映画「君の名は。」での岐阜の田舎に住む主人公のそれと近いのかなと思ったけど、やっぱちょっとちがいますね。

本作がすばらしいのは「異国」であることなんですよ。作者や緑にとっては住んでいる場所である台湾であるけど、おれにとっては異国。それがすごくわかる描写です。それは精緻ということもあるけど、その場の空気をそのまま切り取って絵に落とし込んだのかもしれないと思うくらいのリアルが感じられるところです。太陽の暖かさ、街や海の匂い、雑踏のざわめき、夜の公園の静けさ、そういうのがみんな伝わる驚異。なんだこれは。
それは前記の東京描写のときにも感じた。逆に緑にとっては異国の東京をちゃんと描いてるところ。ああこれは異国であり東京だと。

んまあ、ぶっちゃけコーナーとしてこのバースでサラッと書かせてもらうと、緑は相当なサブカルクソ女ではあるし、おれもまあまあサブカル方面にどっぷりですがそれでもそう思えるくらいのクソっぷりなんだけどさ。

でも、それでも好きなものを好きと描くその姿勢、そしてそれがおれにきっちり伝わっってる。ココロの奥底からドワーっときます。

かなり純度の高い「好き」がつまっている。好きなものを好きと描き切る。絵を描くことなどの「表現」というものの原初の衝動が伝わってきます。

ああ!ここまで書いて天啓が。岡崎京子さんだ。彼女の初期にはその「好き」があふれているなあ。絵や描いている内容は全然ちがうけど、「これが好き」ってのの熱量は似ているなあと。というか、この時代の「好き」をつめこむタイプの漫画家を思い出しますね。あのころの漫画家はかなり偏った好みを臆せず描くひとが多かったよね。欄外に聞いていた音楽を書くとかさ。

そういう点でも異国を感じるね。日本の「いま」のマンガ事情とはちょっとちがう。そういうことを考えずに思い切り伸び伸び描いておられる。なおかつ絵はばっちり。話はポエミイだったり少女漫画チックだったり、話でグイグイ引っ張るわけでもないけど、空気が心地良い。登場人物もかわいい気持ちのいい人ばかりだしな。あと、憧れるものやひとが日本人ってのもうれしいしなあ。東京にいって松屋でハンバーグをたのんで「アニメのまんまのハンバーグがきた」ってラインを送ってるんですよ。かわいいじゃないですか。

鮮烈なマンガでした。

最後に本作で登場した台湾のポストロックバンドも紹介しておきましょう。

(1) 20121229_Feedback Rock。8mm Sky。I saw you a little bit@這牆 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=NtKB6KWKi9o
https://open.spotify.com/track/7Igr4UiLSJLQlr2TPs81Id?si=035becc7a9054aae
posted by すけきょう at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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