2022年08月22日

鍋に弾丸を受けながら 青木 潤太朗/森山 慎 KADOKAWA




振り返るとネットから話題になっているマンガというのは増えた。というか、ネタ元としてネットをかなり活用してるからだ。それが本からでもなく本屋からでもないというところに危機感と罪悪感のようなものを覚えるが、そんなことは知ったことではないというばかりに日々のSNSや情報サイトから新作話題作の情報は入ってくる。
正直打率はそんなでもないが、本や本屋のバッターボックスに立ってはいないので比べるまでもない。おれの住んでる町は本屋を開くと町から補助金が出るくらいだが本屋ができる気配はないままだ。

まあ余談。

本作はその流れのままにネットで知ったものだった。

・世界でも危険なところのメシは美味い
・作者は世界の人間がすべて美少女に見える

この2点の「フック」から注目された。それでおれも知ったので、フックは不要といえないのですが、美少女はともかく(じゃなきゃおっさんだけだし)、危険なところってのはあまり関係ないような気はする。日本以外はたいてい危険なところってことになってるし。(本作はその例外が現れるが)

失礼ながら原作者のことは存じ上げてないのですが、小説家であり漫画原作者であり仕事で釣りをしに全世界を飛び回っている様子。その釣り仕事の合間に食べる食べ物を紹介するのが本作になるのか。
今のところは、1巻2巻で、アメリカ、ブラジル、ドバイってところでしょうか。

本作は人生観を揺さぶられる。揺さぶらされ続けているよ。毎エピソードううむと唸る。そしてオノレの人生を振り返りフウとあらぬほうを眺める。

1巻2話。アメリカ・シカゴのイタリアンビーフからそう思う。ありったけの薄切りの牛肉を挟んだパンを、その肉を焼いたときに出てくる肉汁に浸してシナシナベタベタになったサンドイッチを縁側でスイカを食べるように食べる。アメリカ在住のイタリアンマフィアが開発した安価でごちそうをたくさん食べるための食事。

1巻3話。ブラジル・アマゾナス。もらったフルーツジュースが禁断症状が出るほど美味い。これなに?と尋ねると「アバカシ」と答えが。何だそれ?と思って持ってきた果物がパイナップル。完全に熟したパイナップルというのは現地でないと真の味がわからないと。アバカシを振る舞ってくれたブラジルの友達が1番美味いジュースはオレンジです。つまりそれも。

この2つのエピソードに感じ入るものがあったのです。以降も同マンガでは「現地でないと食べることのできないうまいものがある」「現地のひとは1番うまい食べ方を知っている」と。この2本の柱を軸にエピソードが展開されています。

もちろん、上記のイタリアンビーフもアバカシも食べてみたい。そして「サウダージ」も味わってみたい。本作のほかにも最近もうひとつサウダージという言葉をみかけた。たぶん、2022年のおれのキーワードはサウダージだと思う(からもうひとつも早急に紹介しますj)。

ただ、イタリアンビーフがうまそうでもアバカシのジュースがうまそうでも、「そこ」に行けるのかというとその可能性は限りなく少ない。劇的に所持金が増えて劇的に健康にならないと叶わぬ夢ではあるなあと。

そう考えると、どこでおれの人生がこうなった?ということで人生観が揺さぶられるのですよ。理由はどうあれ、感情を動かされることで感動になるわけでかなり感動してるんですよね。

2巻ではその余韻や「思いにふける」がどんどん強く重くなってきている。それはつまりマンガとしての深みが増してるということなんだろうか、おれのシンクロ率が高くなっているからなんだろうか。ただ、マンガにおいて「おもしろい」ってこういうことだからさ。それはおれがいわゆる釣行記的な本(オーパ!とか)や紀行文(深夜急行とか高野秀行氏の著作とか)
にふれてこない人生だったので、新鮮だった可能性も微レ存。

最新刊2巻描き下ろしのグリルドチーズ。これがすごかった。

アメリカの食べ物屋にたいがいあるらしい料理。フライパンにバターをしいてチーズを挟んだパンを焼くってだけの料理。誰でもできるし家でもできるけど、非常に奥深い料理ということを滔々と語られておる。それはいわば日本における卵がけご飯だと。生卵を食べることができるのは日本だけってことを抜きにしても、日本人は心のどこかに「日本人が1番うまい卵がけご飯の味を知っている」って思ってるように、アメリカンはグリルドチーズの「正解」を知っているという感覚。この説明の腑の落ち方が異常なんだよね。

グリルドチーズにしてもアメリカにいって絶対に食べるかっていうと1回や2回じゃ食べないよなあ。だから日常的にアメリカにいって、「そういう店」にいかないとね。そしてそのうまさに目覚めないと。そういうところが素直にすごくてすごいからこそ自分の人生の振り返りという反動がくるわけで。

そしてそのことがまた感情を揺さぶらされる。と、まあ、かなり個人的な理由ではあるが本作は心に残るマンガとなった。ただ、ここまで変な方向からの入れ込み方をしてない娘も楽しいしおもしろかったと感想をよこしたのでマンガとしておもしろいのもまちがいないのですよ。


「鍋に弾丸を受けながら」(森山慎/青木潤太朗)のイタリアンビーフ : マンガ食堂 - 漫画の料理、レシピ(漫画飯)を再現 Powered by ライブドアブログ https://mangashokudo.net/entry/blog-entry-662.html

余談ですが。
こういう料理再現や「本物」の写真ってあまりみたくないって思うんだよな。マンガで完結してるし、なんか夢が壊されたってんじゃないけど(それいうなら登場人物はみんなおっさんだし)。でも、イタリアンビーフはやっぱり食べておきたいなあ。
posted by すけきょう at 13:20| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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