Kindleでのみ発売されている「そせじ」という山野氏の双子女児のほがらか育児マンガ。現在4巻まで刊行中(連載中ってことでいいんですよね?)。この2巻からマンガ内連載としてはじまったのが「大難産」シリーズ。この4巻までのまとめに100p超の描き下ろしを加えたものが本書となります。
双子の妊娠発覚が判明するところから物語ははじまる。
喜んでいたのもつかの間で『双胎間輸血症候群』という難病であることが判明します。そして出産するまでと。
闘病記、エッセイ、やっぱりひとによってちがいますね。近頃、長く入院したのと「断腸亭にちじょう」に出会えたことを契機に闘病マンガを読みますが、いろいろありますね。
そしてそんなこと関係なくデビュー時からせっせとマンガを買い続けている山野一氏。そんな彼の闘病マンガは山野一ブランドの堂々たるものであるし、コレまでのキャリアや全芸風が惜しみなく注ぎ込まれています。
よくセールになっているんでおなじみの「四丁目の夕日」などの初期の身も蓋もないド暗黒鬼畜。アニメ化などしておなじみのねこぢるシリーズにあるかわいさ。不穏さや鬼畜さをかなり隠し味にしたほのぼの日常の「魚の目くん」(ギャグセンスやテンポはここで培われた感じあるね)。ネットによくお描きになられてた「そせじ」の直接的な流れにあたる絵日記シリーズ。そこから導入し始めるCG画による作風変化からの「そせじ」。全部この「大難産」に入ってます。よって本作は山野一のベストです。ミュージシャンのベスト盤的な意味のベストですが。マニアにもビギナーにも安心楽しいベスト盤。
麻酔を打たれてポワーとなってる妻を残して神社に手を合わせる。帰りに転んで立ち上がったとき梅の匂いが漂う。そして「道が開けた」って気分になっているところとか、ああ「山野一だ」って思った。こういうシーンの切り取り方をこういう風に描けるのって山野氏ならでは。
なんていうかな、神的ななにかと、怪異的ななにかと、そうじゃない、そんなわかり易いもんじゃないなにかをあえて描き分けてないゴダゴダな感じとかゾクゾクする。
そういうシーンがたくさんある。だからすごく楽しい(オカルトじゃないよ)。
双生児の娘2人のねこぢるに通底するような無表情なのに可愛い感じとか。反面ころころ表情が変わる読者のツッコミにあたる奥様。
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(・・・6つが味わいなんだよなあ)
奥様と作者の対比もおもしろいのよね。作者は「吉兆」を外部の景色や雰囲気から見出すのに対して、奥様はヒトから見出す。医者の経過観察の表情とか病院のスタッフの雰囲気からとか(それが普通だよね)。
寝床に伯父さんが現れるとかは作者と奥様のハイブリッドかしら。クライマックス感あるな。
もちろんではあるけど闘病マンガとしてのテイは整えてあり、関係者の喜怒哀楽や、苦難からの出産って物語としての起伏もバッチリです。出産系は出産してメデタシになるわけで着地点はわかりやすいけど、本作は出産した双子に「大変だったよ」と語ってるのでハッピーエンドは保証されてるのよね。そしてタイトル通りの大難産でもあるわけです。
そして、もちろんではあるけど「おもしろい」わけです。ベテランだぞ?昭和平成令和と描いておられるんだぞ?
安心して万人が読みましょう。「なんかところどころ変でひっかかる」って方、それが山野一味です。本作がおもしろかったらひとまず「そせじ」を読みましょう。Kindleだけですが4巻あって、各巻かなり読みでがあるし、生まれたあとの双生児と山野一家の活躍を楽しむことができます。大難産の一部は美麗なカラーです(雑誌のカラーが単行本では白黒になってる的)
そせじ(1) Kindle版 山野一https://amzn.asia/d/iCxCo0q
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そせじ(4) Kindle版 山野一https://amzn.asia/d/f43xKFs
唯一にして最大の弱点。発売日が2022年の9月8日だったこと。
それがどうした?と思われますが、えーと、「このマンガがすごい!」って有名なのありますよね?あれ、審査すると、期間が前年の10月からその年の9月までなんですよ。でも、締切がギリになるから選ばれにくいのよねえ。
えー、本作推したけどその理由で返ってきました。それは去年のじゃん!って。