室外機室 ちょめ短編集 [ ちょめ ] - 楽天ブックス
4篇収録の短編集。
個人出版として描いたもので、それぞれ単独の作品として発表されたものでトータルティという感じではないんだろうけど、共通点というか作風が見いだせることができて完成度が高いです。
1冊の本としての体裁を「序」と「〆」という描き下ろし作品で出だしと終わりを飾っている。目次や表紙や口絵もなくいきなり「序」がはじまる。
新幹線の帰路だろうか。突如なんでもないところで停止する。主人公がなにげなくスマホをみるとWi-Fiが通っている。「しつがいきしつ」。ふと車窓からエアコンの室外機がフジツボのようにくっついている雑居ビルがみえる。
好奇心からネットワークをつなげてみる。
そうすると「目次」が現れる。
1番下の「継ぎ穂」をクリックする。すると次ページから「継ぎ穂」が現れる。
継ぎ穂 / 継ぎ穂 - ちょめ | webアクション https://comic-action.com/episode/2550689798575876059
いつまでも残っているのかわからないが、リンク先を参照していただければすっかり読むことができるので、本作はネタバラシとか関係なく全部語ろう。
同人誌即売会。「接ぎ穂」という同人誌を発見。なにげなく買う。とてもおもしろいファンタジーマンガだった。ところが奥付がない。おもしろいのに情報がないから「いろいろわからなくて残念だった」とSNSに画像とあげる。ところが、次に見返したら、SNSの発言が削除されている。「あれ?」と思うと本はある。やっぱりおもしろい古き良きミステリーオマージュ。「あれ?」そんな話だったっけか?また読む。いやーおもしろいSFだなあ。と、読むたびにコレジャナイと思う。共通しているのは「おもしろいものを読んだ」という感想。なんとか内容を残そうとノートに書き留めているうちに、「これはこうしたほうがいいのではないか?」と着想が次から次へと湧き上がり、ノートに書き留めていき、ついには「継ぎ穂」という同人誌を作り上げて売る。
つづく、「21gの冒険」「混信」「地下図書館探検譚」。この4作(「序」「〆」も)に共通すること。
帯にあるように日常から不思議が入り込んでいくファンタジー短編になっている。
いわゆるSF(すこし・ふしぎ)ですね。それから終了したあとにSHになります。すこし・へんか。
物語の主人公は日常からするりと非日常へと入り込み、また「戻る」。でも、以前とはちがう、「変わる」がある。
そして、その「変わる」には人間が介在していないという特徴もある。人間っていうとちがうか、人の作りたもうたモノやコト。
「継ぎ穂」での同人誌のように、モノやコトが「ふしぎ」へといざなう。
そして基本は主人公のモノローグ以外のセリフがない。
最後のジブリアニメのような、タイトルにもある探検マンガの「地下図書館探検譚」にしてもたくさんの登場キャラが出てくるが、主人公はほとんど会話をしてないんだよね。
ひとりで「不思議」に迷い込んで抜け出して「変化」するという、成長物語4編なのです。
変わるための勇気を出す。もうちょっと具体的にすると、コミュニケートするために一歩踏み出す作品。「継ぎ穂」の主人公が同人誌にインスパイヤされてなにかを発信したくなるって感じの。作品ごとになにかはちがうけど変わる物語。
そういう希望に満ちた読後感を持てるいい作品集ですね。
室外機室 ちょめ短編集 (アクションコミックス) - ちょめ