2024年08月02日

運命 松田光市 青林工藝舎

運命 [ 松田光市 ] - 楽天ブックス
運命 [ 松田光市 ] - 楽天ブックス

青林工藝舎系には悪夢系というのがあると思われる。ルーツというわけではないだろうが、マンガ史においての金字塔であるつげ義春氏の「ネジ式」にいまだ強くある影響。そこより派生して数々の名作が発表される。とりわけ青林工藝舎はジャンルとして1ラインを用意して安定供給している。

本作はオビのケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の「悪夢の連打に酔え!」って惹句がすばらしく端的に内容を表しておられる。

悪夢のような内容でありながら「酔う」。これが大きい。

おれは解像度の低い悪夢と思った。目が覚めたらあらゆるものがおぼろげでそれをたぐろうとすればするほどそれが不確かなものになっていく感覚。そこにあった夢が浜辺で砂で作られた像のようにあちこちボロボロと急激に崩れ落ちる。
ダビングを重ねたビデオテープの再生をみているかのような。
しこたま酔っ払った日の飲み会での出来事を思い返すような。

いまこうやって本作の表紙をみてもうすらぼんやりとした内容の断片しか思い出せない。

本書を開いて最初の「バイオレンス町内会」を読んでみる。

40代からの町内会「青年部」の地区対抗野球大会に、20代の本当の青年をチームに参加させた。すると他チームからやっかまれてついには場外乱闘がはじまる。そして唐揚げ屋の打ち上げで「青年」を労ったが、そこで別客の男女が口論からの殴り合いをはじめてさきほどの醜い乱闘騒ぎを思い返して「青年」はろくに食べずに帰ってしまう。だから、残った唐揚げを持っていけと押し付けられてゴミ袋に大量の唐揚げを入れられ引きずりながら帰る。道すがらさきほどのカップルが公園の鳥に唐揚げを撒き散らして共食いさせているところを発見。翌日の新聞一面に「鳥、多めに死ぬ」と載ってエンド。

どうだろう?なんとも捉えずらい話じゃないだろうか?

他作品も、泊まり込みで就活にきたけどうまくいかないので風俗で遊んだり、教育実習生としてボロボロの自転車で必死こいて学校に行こうとしたらペダルが壊れてすっ転んでしまったり、うなぎを神とする宗教施設に自分のアパートから水道を盗まれて40万円請求されたり。

捉えずらいが悪夢で、それがまた夢特有のリアルな、それでいてわけのわからない法やルールに引っ張られている。
実際、本作品は現実との乖離が「弱い」。ぶっとんだ展開やマジかって残虐描写がない。パチンコに勝てないから腹いせに息子を焼き殺す蛭子能収さんくらいのぶっ飛び方がない(その息子の名前が実子と同じってのがまた)。
そこがなんとも悪夢「らしい」。夢ってどんな突拍子もないことも辻褄が合ってる。でも、逆に辻褄を合わせるための現実に即した展開をすることもままある。その感じが描けてるのがすごい。
解像度が低いゆえに、度のあってないメガネですごしているような気持ち悪さがある。これがまさに「夢」としかいいようのない感触。そして「悪夢」としかいいようのない、覚えてないけど、なにか「嫌な目に遭ってた」としかない記憶だけが残る。

うわ、酔ったなあと思いつつ本編を読み終え、「自作解題」。
各話の冒頭に「実話。」「大体実話。」「結構実話。」ってあり、衝撃というか戸惑いで頭がさらにガンガンしてくる。え?どういうこと?現実は悪夢ってこと?鳥が多めに死んだの?って。チェイサーかと思ったらこれテキーラか?と。

青林工藝舎のさらなる悪夢の助長なのか、本の紙の臭いがまた一段とトリップを誘発する。この紙の臭いはなんだろう?おれの感覚だけか。それはただの言いがかりですかね。すみません。

いい意味で読んだ気がしないというと褒め言葉になるか心配なのですが、それが率直な気持ちです。あと酔います。

運命 - 松田光市
運命 - 松田光市
posted by すけきょう at 07:21| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック