偉人画報 三峯徹(全1巻) (YKコミックス) [ 稀見理都 ] - 楽天ブックス
伝説の投稿職人三峯徹の半生を描いたもの。
ということは、すなわち昭和生のオタクの半生を語るものでもあり、それはつまり自分の半生といかにリンクしてるかになり、どうしても自分語りになってしまう。だが、こんなネットの隅っこのしょうもないもんの自分語りに興味がある人がいるとは思えないので、それは折りたたんでから書きます。それまでは普通の感想文を。
三峯徹氏はエロマンガ雑誌の読者投稿コーナーでひと目見たら誰もが覚える独自性の強い絵で投稿を続けていることで有名で、ついにはタモリ倶楽部にも特集されております。そんな彼の生まれたときからの歩みを描いております。
原作はもちろん三峯徹氏で監修は「エロマンガノゲンバ」などエロマンガ研究の稀見理都氏が手がけており、エロマンガ描きマンガなどを描いておられるベテラン金平守人氏が作画という最高の布陣。
これでつまらないはずがない。
というか、その予想を大きく上回ってとてもおもしろい。
三峯徹氏の半生がかなり波乱万丈だったりするし、それは昭和のオタクのドキュメンタリーとしてもすごくよくできているんですよね。
淡々と読者投稿(プラスオタク交流)を続けていた昭和生まれの一般オタクの半生ながら、いやそれだからこそ、当時のオタクの空気を凄くリアルに感じられる。少なくともおれは本作がもっともおれの感じていた空気に近い昭和オタク描画って感じがする。
たとえば、幼女誘拐監禁殺人の犯人の家がビデオテープだらけで、オタクバッシングがはじまったって過去の事件がありました。それにともない成年コミックが「成年コミック」になってしまった流れ。
当時のオタクはさぞかし大変だったって話だけど、まったく無傷だったと三峯氏は語っているし、稀見理都氏の解説でも壊滅的な被害は一部とあったし、実際のところおれも無傷もいいところだった。もっともおれはあのころ「そんなに」エロマンガは読んでなかったが、本書にもある三峯氏の代表作のひとつでもある「朝顔イラスト」は雑誌で目にしている。なおかつ、本書で実名で出ているエロマンガ誌は全て知っているなあ。どこが「そんなに」か。
本書内はだいたいの固有名詞が実名であり、様々な当時のエロマンガ誌などがバリバリ実名で描いてあります(おもに表紙)。その全てが金平守人氏の模写なんですよね。このすごさに恐れおののいてしまう。
とくに少年三峯氏の性の芽生えのトリガーになった石ノ森章太郎氏の模写がすごい。この空気というか「らしさ」が出てるの本当にすごいです。まんま石ノ森氏のタッチを再現できてるなあって。
そのほかのマンガはもちろんだし、三峯徹氏の投稿に並行するカタチで他の方の投稿もあり、それも模写されてます。はては昭和平成の風俗文化なんかも模写されておりその精緻さと「精緻すぎなさ」がすごいです。
模写ってどのような感じでされているのかはよくわかりませんが、少なくともスキャンしてトレースって簡単に済ませてることはないなあと。とくに90年代の美少女エロマンガ誌の全盛期の「臭い」が感じられるなあと。魂の模写。もちろん、「地」の絵もすごい。コミックビームがデビューかは知りませんし、全てを追いかけてきたとはいいませんが、金平氏のファンを続けていますからね。どれくらいファンかというと娘の名前は金平氏のマンガのキャラからとってるくらいです(たまたま目についていいなってノリでしたが)。
デビュー時より作画が上手な方と思ってましたが、現在もなお向上されているなあと思いました。ブレがないままキレが増している。
稀見理都氏もかなり的確に当時もエロマンガ業界を分析しておられててすごいです。当時の空気を真空パックされ、ああそうそうって思い出すことが多いのです。
また30年1万5千以上の投稿を眺め倒され(国会図書館等利用して)ておる。三峯徹氏は投稿を通じて日記ブログのようなことを延々とされており、個人情報があのイラストともにだだ漏れだったってあとがき代わりのコラムも最高でした。それがまた模写の端々にわかったりするのがまた最高で。まじで三峯徹情報がみんなわかってしまう感。
マンガはタイトルからもわかるように、偉人三峯徹の伝記漫画という体裁になっており、学校の図書館にある学習まんがのパロディ的なつくりになっております。
大なり小なり、この手のパロディマンガはギャグ系をお描きになるひとは1回は着手されていそうな気がするんですが、それを1冊通して作りきったのがすごいです。そういう意味では「純ギャグ」でかなり完成度の高いギャグマンガの1冊になっております。
そして物語はビルドゥングスロマン仕立てになっています。そこらへんも偉人伝的ですね。
ハガキ投稿を通じての交流人気。やりすぎゆえの炎上と、ネット前時代に、ネットで起こったことを一通り経験されております。挙げ句に、編集のほうから大きなスペースを割いて名指しでdisられてたりするんですよね。実はおれが名前をリアルタイムで認識したのはこのコラムのような気がします。だからなんかとてつもなく大きなオタクコミュニティの裏ボスみたいな感じなのか?と思ってました(「げんしけん」にそういうひとでてきてたじゃないですか?実在の人物でいうと岡田斗司夫さん的な)。ま、余談。
そして、炎上→自粛→復活(エモいドラマあり)のあと、右肩上がりに有名になり、ついにはタモリ倶楽部出演(これまたリアタイで目撃してた)を果たされます。実はそのあとにさらに頂点の出来事もありますがそれは読んでのお楽しみ。さらに、そのあと劇的なエモ展開。そしてハートフルエンド。「男坂」オチ。
ぶっちゃけその歩みに同期する点が多いんですよね。なんたって学年いっしょですし。タメなんすよ。
おれのみならず、昭和後期にオタクに関わっていたひとにはリンクすることが多いのではないかなと。
日本のヘンリー・ダーガーなんて称されてるらしいですが、ただ、特異な人物であると同時にともに昭和平成をオタクとして駆け抜けた「一般オタク人」としての三峯氏も浮かび上がるんですよね。そこが両方描いてあるなと思えたのがおもしろかったのです。
偉人画報 三峯徹 (ヤングキングコミックス) - 稀見理都, 金平守人
で、折りたたんでの自分語り(すでにだいぶ語ってますが)。ここではさらにネタバレになっていきます。なにせ折りたたんだので。
自分語りのメインは「私、〇〇さんと似てる〜」って勘違いパンピーの気持ち悪いやつになるんで、そういうのイヤなひとはアフィリエイトの画像をクリックして購入したのちにブラウザバックしてください。
三峯氏、さきほども書きましたが同級生なんですよね。田舎と東京という大きな差はありますが、メディア的なものは共通なので、登場するものに馴染みがあるのは前述の通り。田舎の書店と都会の書店はマンガとエロ雑誌だけ同じくらい手に入りやすいって共通点があります。また田舎でも都会でも〇〇はあそこの書店にあるってなぜかわかってます。スタンドひとつの雑誌売り場のよろず屋みたいな店にブリッコが売ってるとか、スーパー2階の洋服+雑貨売り場に隠れるように書店があり、町でそこでだけビックリハウスが手に入ったとかもありました(エロ+サブカルクソ野郎だったのです)。
あとは、あの書店はおっさんがレジだから買いやすいってのもありますね。
三峯氏は懸賞にハマってから投稿に移行されました。この流れの発端になったのが「モーニング」とありますが、これってポイントなんですよね。
昭和42〜43年生まれにとって、ビッグコミック系はお父さんの読むマンガ誌でもちろんでしたが、ヤンマガやヤンジャンの創刊は中学生のころで、少年ジャンプやマガジンを買っていて存在は知っていたけど、エロだし大人だからって敷居が高くやや尻込みしてました(がんばってエロ買えるようになる時期が男にはあるのです)。あのころの1年2年の差は現在よりも大きい。
そこでモーニングです。創刊が1982年。高1です。ちょうどイキって大人マンガ雑誌(中綴じの雑誌は大人の雑誌よ)を買ってみようかって思うんですよね。そいで創刊から買うのもいいかなって。新設校の一期生になりたがるような感じでしょうか。おれはそんな理由でモーニングは創刊号から読んでいました。三峯氏もあるいは手に取りやすい感じではなかったかなーって。
モーニングは多分同じターゲット層のマンガ雑誌でも突出して懸賞が多かったのです。また読者コーナーや投稿が載るスペースも異様に多かったです。ふぁんろーどばりに欄外も投稿コーナーやらコラムやらがびっしり載っていた気がします。今はどうか知らないですが。
おれもモーニングに懸賞を当ててもらったことが多いです。上京していた頃ですが、バブルガム・ブラザーズのライブ2枚応募したら2枚とも当選したので2日続けて新宿コマ劇場に観に行ってます。
ぴあやザテレビジョンも多かったですね。少年誌だと月刊少年マガジンが多かったです。
三峯氏は都内在住で打率が低い激戦区でがんばっておられてすごいと思います。50名様当選の懸賞があるとすると全国に均等に散らばって当選させないといけないので応募者の多いところ、すなわち都会からの応募は不利なんですね。東京の高校より人口の少ない県の高校のほうが甲子園に出場しやすいって理屈です。そのあとのネタ投稿に向かうところでおれはレールをはずれますが、文章が載るよろこびはわかります。
エロマンガでレモンピープルにハマるのはわかります。あのころは誰も彼もがYMOにハマるみたいにいわゆる美少女マンガを純エロ目的でハマってましたよね。そのトップはレモンピープルって感じはありました。サブカル風味があったブリッコをおれは買ってましたが。
そこに彗星のように出現した森山塔氏はすごかったですね。定期購読していた「漫画ブリッコ」にあったまんがの森の広告で名前を知り、新宿南口の場外馬券売り場の近くにいって買った記憶があります。しかも売り切れてました。
名物編集塩山芳明氏の「レモンクラブ」もなぜか手に取ってました。これはいがらしみきお氏のラインも関係あるんでしょうか。
いがらしみきお氏はあらゆる媒体に連載をお持ちになっていて、それこそ前述のモーニングからエロ劇画誌まで幅広く。あのころいがらしみきお氏ならなんでもかんでも集めていて、出てきていた「塩山芳明」に反応してレモンクラブにたどり着いて三峯氏disの話にたどり着いたのかしら。
あのころの編集さんは「やさぐれ」などのキャラは雑誌のカラーだったりしてましたもんね。ジャンプ放送局やファミ通町内会をあちこちでやってた感じ。
その塩山氏の「開かず組」ってえげつないですし、それを公表するのもすごいです。でもまあ編集の味って各雑誌にありましたし、その味をマンガ化するお抱え(というとちょっとひと聞き悪いですが)のマンガ家も各雑誌にひとりいました。内輪ウケの得意な方。その中にあっての読者投稿にも派閥までいうと大げさですが流れがあった気はします。たとえばアニメージュ派とジ・アニメ派とか。OUTとアニメックとか。
たぶん、こういう土壌を経て、編集にこんなひどいことをされたなんて告発系のエッセイコミックもいくつかではじめたんでしょうかね。ギャグからはじまってマジになっていく感じで。
GON!という雑誌がありました。悪趣味系といいますかテイストレスといいますか。グロやスカムやイリーガルな情報をごった煮にして載せる雑誌。そこらへんまったく検閲がないしお手軽なのでネットに乗っ取られていくのですが、その基礎を作った雑誌ですかね。編集やライターや漫画家のノリひとつでなんでもありで、その流れからも三峯氏がアンテナにひっかかったというのがあるんだろうね。
本書やインタビュー、タモリ倶楽部なんかでもそうですが、本人はいたって一般人なんだとあらためて思いますね。そのへんのギャップがおもしろかったですが、それとメディアでの存在感でざっくりと「変なやつ=すごいやつ」としての知名度が上がり現在があるんでしょうかね。得難い存在です。
脳梗塞の入院も心筋梗塞をやってたおれとしては「同じー」っておもうところです。毎日服薬とかあるんでしょうかね。
次は個展ですね。行けるところまで行ってほしいなと応援しております。
参照:
「ヘタ」と言われても美少女イラストを描き続け、漫画家・峰なゆかに賞賛されるまでに…公務員男性(55)が“伝説のハガキ職人”になるまで | 文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/60115
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