2025年02月09日

物の怪オンパレード 九日ゆう (小学館)

物の怪オンパレード(1) (サンデーうぇぶりコミックス) [ 九日 ゆう ] - 楽天ブックス
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献本です。
幼いときから、たくさんの物の怪がみえる少年。そのためにみんなに嘘つき呼ばわりされたりいじめられたりしてる。だから、こんな閉塞的な田舎から出て東京に行く!って思って東京の高校に推薦入学の願書も出して通ったけど、見えることで懐いてくれる物の怪たちには言いにくい。でも知られてしまった。学校の内申が悪くなったら東京に行けなくなるんじゃないか?って失敗するようにいたずらをしはじめる。そのうちにそれがちょっと一線を超えて少年はブチギレる。「おまえらと会いたくないから東京に行くんだ!」って言ってしまう。その日から物の怪は全員姿を消す。そのまま卒業間近。いつも少年をいじめていた不良が別れる前にもう1回ぶん殴るってときに妖怪は姿を現して不良を追っ払う。そして仲直り。感動。

https://www.sunday-webry.com/episode/2550912964542290095

1話のあらすじの途中までです。表紙のカラーも見ることができますね。単行本じゃモノクロですし。

上記で3話まですっかり読むことができるのでネタバレもなにもないんだけど、少年が上京するので物の怪たちもいっしょに東京に行くのですね。全員引っ越し。

これにはかなり意表をつかれた。
「よし、おれは田舎に残っておまえらと過ごすよ」エンドになるハートフル短編読み切りの定番ストーリーじゃないですか。しかしそうならなかった。
そうなると、この意表をついた次の展開がどうなるか?って気になるじゃないですか。

はたして2話からが本番なんですよね。
東京にはひとがたくさんいる。同じくらい物の怪もいる。そのなかにあり、仲間の物の怪にたよりつつも少年が成長していくという感じなんでしょうかね。

20人の物の怪とともに育ち、慕われたり、ときに守られている。少年はひとにも物の怪にも分け隔てなく優しい。しかも、それが「仲間」だけじゃなくて、初めて会うひとにも物の怪にも分け隔てない。かつて田舎の同級生に物の怪が見えるばかりにハブにされたりいじめられたりしているし、対人恐怖症の気は多々あるけども、それでも困っていたら勇気を振り絞って助ける。デキたナイスボーイです。
20体の少年側の物の怪も、東京の物の怪もキャラが立っていて性格までうかがえるし、完全に見分けがつく。それでいてキュート。少年以外には見ることができない物の怪をクッキリハッキリ見ることができるってなんだか改めておもしろいです。

描画もすごい。毎回それらの妖怪をキッチリ描き込んでいる。まあ手間だろうに、毎回レギュラー物の怪は全員描き込んであるんじゃないかな。しかも複数コマで。すごい。背景もモブも丁寧に描いてある。

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こういうレベルで毎回小さいコマにまで物の怪を丁寧に描き込んであります。すごいです。

彼にとって物の怪という存在はなんだろうか?って根源的な謎もありますが、アパート一室に、ガシャドクロから座敷わらし(とそれぞれ明記されてはいないですけどね)やらなんやらかんやらが20人近くいて、孤独を感じるものなのか?って謎はありますが、まあ、少年はいろいろなことに孤独を感じて親に電話をかけたりもする。そりゃあ、東京もどこに行くにもなにをするのもヒトを見ることになりますもんね。ヒトが多いから孤独じゃないだろうやって理屈と同じことなんでしょうか。

このワチャワチャ妖怪のいるドタバタゆかいコメディの体裁の奥にひとと(あと物の怪とも)の関わり方ってテーマが底にひたひたと流れている作りになっている。

物の怪たちは妖怪にちょっと詳しいひとならすらすらと名前が出てきそうな有名な、もっと言い方を変えたら定番な方々ばかりです。少年もわかりやすい純朴な田舎の子。
一方、東京の物の怪は見たことない、逆を言うと作者オリジナル?って感じのが多い。
一方で、少年がいた田舎は地名もあやふやで「そこそこの田舎」ってのが分かる程度の描写だったけど、東京にきたら浅草寺だの実在する名前になっていく。東京の物の怪のほうが出自由来がしっかりしている(今のところ)のでどこかリアルで新しい感じ。この少年や物の怪の定番でテンプレな感じとのギャップがいいです。

それは少年の立場でもあるのね。前記の通り、どことなくファンタジーな世界に住んでいる少年が東京という「リアル」の洗礼を受けて、どう変わっていくかとかね。

と、これだけ「受け」が広くて、1巻4話収録のどれもこれもバラエティ・バリエーションに富んでハイクオリティできっちり描かれており、今後、どういう展開でもありえそうだなとは思われるチカラは感じられる。だが、その展開からの、「どうなっていくの?」ってのがなにか提示されているといいんじゃないかなとは思いました。
たとえば、「鬼滅の刃」なら鬼舞辻無惨を退治すること。「古見さんは、コミュ症です。」なら古見さんが友達100人できること。「どろろ」なら呪いで奪われた身体のパーツを取り戻すために妖怪と戦う等の「どうなっていく」かみたいなもの。

主人公の成長を描くっていえばそれだけど、もっとわかりやすくて甘い「芯」というか。ミッションクリアのためのミッションというかね。
それはテキトーなものかもしれない。前記の例で言えば鬼滅と古見さんは目的を達成したけど、どろろは打ち切りだったから身体のパーツを全部取り戻さないまま話がおわってるし。テキトーなもんです。

でも、何らかの指針みたいなものがないと要素やおかずばかり増えても、弁当箱に満漢全席が詰め込まれていく状態でどこかでなにかがあふれていって「もったいない」かなあと。本作は丁寧に丁寧に魂を込めて紡がれているから余計にそう思ってしまいます。
たぶん、バトルマンガにする気はないんだろうし、誰かが死ぬとか消える(物の怪とか)とかシリアスすぎる展開にならないだろうし、「指針っていわれましても」ってことなのかなあっては思うけどさ。

あ、何度か読み返して気がつきました。
本作のテーマは「高校デビュー」なのかなと。新しい自分に生まれ変わるって意味での高校デビュー。
高校に入学し、田舎の知り合いと別れ、ひとりで暮らし、東京に住む。いろいろなデビューがありますね。それを友達で仲間の妖怪とワチャワチャ賑やかにやっていく。そして新しいなにかや関係が生まれていく。そういう話ではありますかね。おれが勘ぐりすぎただけかもしれません。その可能性大。

そういった意味じゃ高校編がスタートした4話からが真の本番なのかな。

2巻も期待してます。

物の怪オンパレード(1) (サンデーうぇぶりコミックス) - 九日ゆう
物の怪オンパレード(1) (サンデーうぇぶりコミックス) - 九日ゆう
posted by すけきょう at 09:15| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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