2025年02月17日

人間一生図巻  いがらしみきお (双葉社)

人間一生図巻 [ いがらしみきお ] - 楽天ブックス
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すごい本を読みたがってる皆さん、お待たせいたしました。すごい本ですよ。
1回8ページ読み切り20人。架空の人物が生まれて死ぬまでの一生を描いていくという作品です。
あとがきに全て余すことなく書いてありまして、それ以外に書くことがなくなるのですが、元ネタというか出発点は山田風太郎氏の「人間臨終図巻」だそうです。本作をコミカライズできないかと思っていたところがスタートです。

人間臨終図巻(1)新装版 (徳間文庫) [ 山田風太郎 ] - 楽天ブックス
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歴史上の有名人が臨終になった年齢順に並べてある作品です。実は相当売れてる有名本です。おれも文庫と電書で持ってます。

追読人間臨終図巻 芸術家編【電子書籍】[ 山田風太郎 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア
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構想だけあってしばらく置いていたら、すでにコミカライズされていたので断念したそうです。
こちらのほうは人間臨終図巻の「感想文」みたいな感じで1人1pで死に様につっこんだりボケたりしてて人間臨終図巻を読んでいたらおもしろい副読本ではあります。ファンブックって誰のなににファン?って疑問はありますが。楽しく読みませていただきました。

いがらしみきお氏が人間臨終図巻をコミカライズされた場合、どうされるのかなという興味はありますが、人間臨終図巻を起点として描かれた本作はそういうこととは全く別にすごい作品となっております。

世界中の時代も性別も人種も毎回いろいろなひとの命が尽きるまでの顛末を8ページで語っています。
「人間臨終図巻」も各年齢で亡くなった有名人の死の間際を列挙したものになっておりますが、本作も「ひとが生まれ、どういう行動をして、どう死んだか」を1回8ページというテンポで次々とはじまって終わってしているのです。だからショートショートのスピードで毎話大河ドラマが押し寄せてきて、1回の情報量に圧倒されて次の話の前にオーバーヒートになっていまいます。それで頭クラクラになりおなかいっぱいになるんですよ。

ほら、ワタシっていがらしみきおの大ファンじゃないですかあ?(知らんがな)

それぞれの人間の生き様に氏のキャリア全部のエッセンスがまんべんなく散りばめられていて、それこそ「根暗トピア」の最初期の過激な4コマを描いていたころから、「ぼのぼの」「かむろば村へ」などの有名作、「Sink」や「ガンジョリ」なんかのホラー、老人老後を描いた「のぼるくんたち」なんかもそうかな。もちろんエッセイなどにも顕著に現れてます。氏の思想、死生観といったものや、芸風作風も色濃く反映されております。それこそいがらし氏の一生を煮染めて抽出したような濃さに頭がくらくらしてきます。

第1回「鈴木広美 0歳」 / 人間一生図巻 - いがらしみきお | webアクション https://comic-action.com/episode/13933686331793023816

3回分まで読むことができます。この最初の3作がわりに全体のトーンを物語っているような気がします。
読んでいただくのが手っ取り早いし、この3作のネタバラシ的な内容紹介になりますので一旦上記リンクから3作に目を通していただけるとサイワイです。

鈴木広美は、生まれた瞬間に死んでいた。死産だったわけです。彼女から話がはじまります。

2話、ディウグは300万年前の人間です。彼は言葉を発明します。「誰かに見られているような気がした」という誰かが言葉を伝えるのです。この感じは「I【アイ】」や「誰でもないところからの眺め」などを連想しますね。おお、この感じ!いがらし風の神描写!って感動しました。

3話、これが全作品でもとりわけ好きです。ホラーとギャグと感動ネタって本当紙一重なんですね。それを十分理解して紙一重を描き分けてるのがやはりすばらしいです。

絵がいいんですよね。鉛筆ラフ画に水墨で色合いをつけてるような感じがおとぎ話的にもなるしどことなくふわっとした読み感(そんな言葉ないですね)になる。いつものカチっとした画だとちょっと生々しく感じそうなのを避けている。

多様性なんて言葉がありますが、その真の意味って本作になる。彼も人間、彼女も人間。そして全て等しく死は訪れる。そして等しく、なにかは残る。「多様性」って言葉にそれ以上もそれ以下もないんだなと。

思えば、死ってのは人類が発生してからずっと「ドラマ」として最大のものとして存在するんだなとしみじみと思う。死んで終わる。つまり誰もが「終わる」ことはできるのだなあと。

なるべく長生きしてこういうすごいものに接し続けたいなという凡庸な〆で。

人間一生図巻 - いがらしみきお
人間一生図巻 - いがらしみきお
posted by すけきょう sukekyo at 21:59| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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