2025年10月08日

ROCA コンプリート いしいひさいち 徳間書店

ROCA コンプリート (ジブリコミックス) [ いしいひさいち ] - 楽天ブックス
ROCA コンプリート (ジブリコミックス) [ いしいひさいち ] - 楽天ブックス

いいですよ

感想文で紹介文だとこれに帰結するところを手を変え品を変えするしかないのですが、それは創作者も同じですね。結局、いい作品を作るって方に向かって模索するしかない。しかもデビューから筆を折るまで。

新聞4コマ内のシリーズ連載みたいなカタチで作品ははじまります。
その後、同人にまとめたものが反響を生み、コンスタントに2作発表されて、3作を分厚い1冊にまとめメジャー出版社から出ました。
音楽みたいな話です。インディーズ活動から出していた作品集を集めて満を持してメジャーからと。

本作がおもしろいのは作者があとがきでもお書きになられてるように、ひとつの話、田舎のJKロカがファドというポルトガルの民族民謡の歌い手としてメジャーになっていく。このひとつの区間のひとつのストーリーから、無限にエピソードを汲み出し続けていることです。
コンプリートと銘打った本を出されたあとも「新作」が発表されております。

新しいです。
あの、クールでドライでシニカルでニヒルでスチャラカで4コママンガのフロンティアないしいひさいち氏がメロいのを描いてるということがすでにして新しいですが、ロカと柴島さんの親友でもない百合でもない親分子分でもない家族でもない言語化できない関係性がとりわけ素晴らしいです。
リアルさも内包していながらいかにもマンガ的なそれぞれのキャラもどこから生まれ落ちたのかと思います。
人見知りがすごいロカがファドというあまり知られてない、そして聴くとインパクトしか無い力強い歌声の持ち主で。街1番の姉御肌のような長身、美人、喧嘩っ早い、柴島。その組み合わせ。そしてなんかあると柴島の後ろに隠れる感じ。

そして、逆SFとでもいえるタイムループと考えるとすごく新しいかなとも思います。
ある区間の出来事。毎回繰り返し起こる。それを改変させるために奮闘するってタイムループの話がよくありますよね。
本作は前記の通り、決められた区間のふたりを繰り返しパッチワークのように、スケッチ(モンティ・パイソンとかでいうところのスケッチ)のように描いております。でも、「同じ」話に帰結します。彼女らはそれを知らずに奮闘して汗かいて泣いて笑って怒ってその区間の終了にたどり着きます。
スジがわかっている話でもおもしろいってのともちょっと違うんですよね。それぞれのエピソードは新作ですから。それだと永久に同じキャラが同じ「瞬間」を過ごす新聞4コマと同じようでありますが、それぞれの3本に分けられた作品は、同じ話をちゃんと時間を沿って終着地まで進んでいくんですよね。
高校生のロカがファドを街角で歌い、評判となり、プロとなり、名声を獲得していくというストーリーが展開していき、その流れから新エピソードができていくのです。ラストまで。
期間だけ繰り返し描くってスタイルは新しいしストイックだなあと思うんですよね。

多くは語りませんがそれが切ないんですよ。でも基本はユカイ4コマなんですよ。どこよりもちゃんと起承転結です。それなのに起承転結のどこからでも「切ない」を切り出してくる。

シンプルな少なめの線で描かれてるのになによりも雄弁と。いしひさいち氏ってあのタブチくんとかおじゃまんが山田くん(ホーホケキョとなりの山田くん)のだろ?って思ってると驚きでひっくり返ります。
4コマスタイルではない「金色に光る海」はとくに絵のすごさがわかりやすくてすごいです。

そして1番すごいのは「まえがき」と「あとがき」です。ここに1番いしいひさいち氏らしさを感じました。

いいですよ

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ROCA コンプリート (ジブリコミックス) - いしいひさいち
ROCA コンプリート (ジブリコミックス) - いしいひさいち
posted by すけきょう sukekyo at 22:40| Comment(0) | TrackBack(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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