2009年08月20日

「あずまんが大王 3年生」あずまきよひこ(小学館)

・今から10年前に連載がはじまった4コママンガの再販です。新装版です。
・女子高校生のほがらかな日常4コマです。

・この新装版の「新装」具合と、同じく [ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 2009年6月27日公開]の新装具合が、すごく2009年という感じがしました。
「新装」でも「リメイク」でもネーミングはなんでもいいんですが、こういう過去にあるものをあらためて売り出すという商売においての新しいカタチのような気がしました。

・音楽CDがすごく顕著ですが、なんども手を変え品を変え再発売されてます。音質がよくなった、紙ジャケットになった、ボーナス曲が入った、ボックスになった等、ファンはそのたびに「チッ!」と舌打ちしながらもせっせと買い足してました。

・それと同じ現象がマンガ業界にもあって久しいです。名作はどのバージョンを買えばいいのか迷うほど種類があります。手に入りにくい作品を読むことができるってメリットはそうとう大きいので邪険にすることもないんですよね。ただ、エロ系の新装版なんか、ひどいのになると短編集2冊くらいの中身を入れ替えてタイトルを入れ替えて、表紙描き下ろしにしてまったくの新作みたいなカタチとしてすずしい顔して売り出して、なーんか、読んだことあるなあって思いながらも途中で気がついてギャー!ってこともちょいちょいとあるので、あまりいいイメージを持ってません。
・基本、短編プラス、表紙描き下ろし、初出時のカラー部復活くらいじゃ買うことねえなとは思うことにしています。金は有限じゃないですからね。

・本作もそのつもりでした。だから新作描き下ろし分は掲載雑誌の「ゲッサン」買って読むことで対応しようと思ってました。

・ところが、ネット情報でかなり多くの場所が書き換えてあることを知りましたよ。そして気がつくと1巻が手に入らないくらい売れていると。その後再刷分を買い、以後は懲りて2巻3巻と取り寄せで買うという状態。書店も平積みの山積み状態。ほかの「新刊」に負けてないくらい売れてるようです。

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なんとゆーか、描いている方としては、昔を懐かしんで描いているというより、もうちょっと積極的な気分です。
あずまんが大王も連載の最初と最後では全然違います。
10年たった今、同じの描いてちゃいかんだろう、と。
[あずまきよひこ.com: ENTRY [あずまんが大王 補習編]]

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・よくある「もうあちこち直したくなってそれやると時間がいくらあっても足りないので恥を忍んでそのままで出します」って再発売モノでのテンプレをちゃんと直して実行してみたカタチなんですね。時間はちゃんと足りたわけです。
・だから、そういうイイワケ書いて新装版を出していたマンガ家が今後この技を使えなくて死亡することが確定しました。というか、ホント、出版社も作者もそういうところでちょっと誠意をみせる必要は確実に生まれたね。
・この感じが相当新しいし画期的だと思う。ついにマンガもセルフカバーの時代がやってきたなと思ったよ。よくアコースティックでニューレコーディングで往年の名曲を収録なんてのがあるじゃん。なかにはアルバム全部それってのも。あるいは、過去の演奏に今の演奏をくわえるなどのセッションですかね。オーバーダビングでもいいか。

・それをマンガできちんとやったワケですよ。

・手塚治虫氏の諸作品や「ガラスの仮面」が雑誌掲載時からずいぶんとカタチを変えてコミックになっているってのは有名な話ですが、1回単行本で出たものを新装版にあたって変えるのが、同じ方法のエヴァと相まってひどく2009年的だなと。しかも、それを「売り」にする感じ。手塚氏のそれなんかはわりに作者とマニアに向けての満足であるが、その効果範囲を相当広めた感じ。
・なおかつ、それが4コママンガというのがさらにスゴイ。

・書き直しは絵のみならず4コマのオチや印象や感触を変えるものも多数ありまして、4コマのうちの1コマだけとか、全部に変更があるとか、確認してないけど削除されたネタとか、再構成もひどく細かくしてあり、それらを「補完」するって意味で描き下ろしの16ページなどもくわえてあります。描き下ろし分を「補習編」としたのはだからエライ秀逸なんですね。

・そして最大の問題はその是非ですね。

・是です。

・そうなんだよこれが。大いに是。作者のブログにあったように受け取り方は読者それぞれだし、おれも当初「ゲッサン」の創刊号に描き下ろしが載った時点ではずるく保留気味ではあるけど非のほうだった。
(参照:ポトチャリポラパ/ダイアリー 「萌え変り」
・ただ1巻読むと是にカンタンに変わりました。この「お直し」の労力とそれがちゃんと効果を生み出しているのをみて「前のほうがよかった」とはとてもいえません。そして実に大きなポイントはそこにもあったりするんですよ。
・前のと比較したくなるんだこれが。メディアワークス(現アスキー・メディアワークス編)版のとどうちがうか?って。
・ときおりあきらかにこのコマから書き足してあるなとか、オチをゆがめてあるなとか思えるところがあり、じゃあってんで原典にあたりたくなる。そして、別にメディアワークス版が絶版になったワケじゃないのがまた画期的なんですよね。そうじゃなくても105円とか安くはないにせよブックオフなんかでもカンタンに手に入りますしね。
・おれも近いうち何十回も読んだメディアワークス版と読み比べてみようかと思ってます。
・たぶん、その後の感想は「どちらもそれはそれでいい」になると思われます。

・そしてそう思えるところが「あずまんが大王」の特異なところですし、オンリー1なところです。

・だって、過去も現在も、発売して10年後に、新装版だからって、けっこう書き直してあるからって、読みたい買いたいって思う4コママンガってどれくらいある?というより1冊でも「ある?」

・これは「あずまんが大王」のクオリティだけではなく、うまい短さで終わっている、つづく「よつばと!」もヒット、アニメも名作(ついでにいえばサントラや主題歌は超名作)、今でもネットで語られるくらいキャラが愛されているなどのミラクルがたくさん重なってないとダメです。マンガの短さってのは大事だよなとおれはつくづく思うよ。長いととても書き直してられないしね。

・それは前記の「エヴァ」も多く共通点がありそうだよな。
・新装するにふさわしいモトのクオリティってのはあるよ。
・あと作者の情熱も重要だわな。

・そして「あずまんが大王」を新装版で出すことにGO!を出した小学館のアタマのよさを思う。本作は再発売するにもっともふさわしいものと思うよ。だって、「ノスタルジー」と「過去の名作の復習」という2つの理由以外の売りがある数少ないモノだから。

・実に2009年の「今」読むべきマンガだと思う。読んだヒト、読んだことないヒト、どちらも「今」読むべきだと思う。
・2009年は過去3年くらい振り返ってもいいマンガが多く出ている当たり年である気がします。それでも「あずまんが大王」の新装版の新装具合はかなり上位に食い込む重要事項だと思われるのです。

オススメ

・ザックリと新装版について話すと、より4コママンガらしくなったね。起承転結を目指し1ページに2本の4コマで2回笑わせようというココロミを強調している感じ。
・その分、いわゆる「萌え4コマの元祖」という作者がよろこんでなさそうなレッテルを払拭すべく、そっち方面は抑え目にした印象。
・顕著なのが3巻でのよみの柔軟体操のシーン。ストーリー4コマでよくあるパターンの最後のページだけ非4コマの大コマを使うやつ。あれがなくなって普通の4コマ2本にしている。そういうさっぱり感を出すことで再読性の高さをより高めようとした感じがします。
・あと、マヤと榊の出会いなどの、ショートストーリーにも「ちゃんと」笑いを入れようとしたりね。より隙をなくした感じ。そこいら別に萌えれば笑いはなくてもOKという昨今には、ちょっとだけトゥーマッチかと思ったりもしました。

・以下さらにgdgdと。

・ともが中心人物であるなとは思っている。彼女がいたからこそ「あずまんが大王」として成立している。かきまぜ役、進行役。そして凡百の女子中心萌4コマにはなかなかない、すばらしい「発明品」だと思う。
・さらに新装版で思ったことは、ともの幼馴染で腐れ縁のよみについて。
・よみは、根っこのところはともといっしょで、だからこそ波長が合い縁が続いていると思うのよ。
・でも、彼女は、OLや大学生にまちがわれる大人びた風貌や、アタマのよさ、くわえて親にもいろいろといわれてそうで、そんなこんながあり「いいこ」「おとなしいこ」を演じているし、本人もそれでOKだと思っている。でも、実は遊園地とか甘いものなんかの前では本来の自分が出るし、それをちょくちょく引き出してくれるともが好きなんだろうなあと思ったりする。その本人も意識してない「子ども」のところがすごくかわいらしい。
・新装版ではバランスをとるためかどうかわからんけど、よみを推していてよかった。かわいらしさを再発見し、やっぱりイイコだよなあと再確認した。
・いわゆる「嫁」でいうと、よみか神楽だよなあ、ぼかぁやっぱり。

・といまさら萌え目当てとかじゃなくてもいいんだけど、キャラを楽しんだり語ったりはこれから先もネットや実社会であると思うのでそういった点での「基礎教養」としても本書は必要だとも思うぞ。

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2009年08月04日

「野田ともうします。」1巻 柘植 文(講談社)

・オビの推薦人が、雁須磨子氏、芳崎せいむ氏、カラスヤサトシ氏。
・同時発売の「柘植文のつつウラウラまんきツアー」でのオビ推薦人が、小田扉氏、松山花子氏、安田弘之氏。
・と、この6人、だれか1人でもファンがいらっしゃるなら本作は強烈にオススメしておきます。確実に野田さんのファンになることができるはずです。おれと同じで。

・おれはオビの推薦人の面々(松山花子氏以外はみんな単行本を持っているファンです)と、ピンとくるものがあり買いました。まったくの初見です。前情報ゼロです。そして、すごくおもしろかったんですよ。

・いわゆるFランクの大学に通う野田さんとユカイな面々がおりなす、ユカイな日々を描いておられる1話4pのショートコミックです。

・野田さんは、ひとり暮らしで、ファミレスでバイトして、いつもミツアミにトレーナーにジーンズという地味なカッコのメガネっ子です。メガネを取ると「3」の目になっております。
・彼女はファミレスで、こないだ合コンで、石破防衛大臣のモノマネをしてどんずべりしたので、今度は誰のモノマネをすればいいのか真剣に相談するような方です。
・すごく美味しいピロシキがあるという理由で、埼玉西部ライアンズのファンクラブに入り、会員割引で球場に入っては3つ4つ食べるのです。
・家のテレビがこわれ、商品が42インチのテレビというだけの理由で、大学のミスコンに出場しようと思ったりします。

・野田さんはちょっとずれてますが、実は、すごくリア充です。そしてみんなに愛されています。こういうパターンだと、ひとりはツッコミ役が存在するものです。それでいうと全員がツッコミではあるんですが、全員が野田さんのファンなので野田さんを受け入れるのです。そのピースフルな感じと、野田さん自身の特異なキャラに、すっかりハマってしまうのですよ。

・上記のマンガ家さんが推薦するワケもわかりますし、共通するセンスのようなものもありますが、それよりも、小学館青年マンガのギャグのテイストがより近いような気がします。

・小田扉氏ももちろん。中川いさみ氏、吉田戦車氏、中崎タツヤ氏などにも通じるものがあると思います。
・たまにおれのセンスと相容れないドンズベリな回、たとえば、「野田家の伝説」とかも込みで、小学館ギャグ、もっといえば、ビッグコミックスピリッツなノリがあるなあと思ったりします。

・読んだら野田さんのファンになりますが、同時に重松さんのファンにもなりそうな気がします。それはおれがそうだから。彼女も特異なキャラでいて野田さんのファンというところがいいね。超無口だけどココロの中で毒舌まくってるという。その彼女が野田さんは好きというのはすごくよくわかる。

・ということで、みなさんも野田さんのファンになりましょうよ。

オススメ

[Amazon.co.jp: 野田ともうします。 1 (ワイドKC キス): 柘植 文: 本]



BONUS TRACK
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2009年08月03日

「新恐竜マンガ版」ドゥーガル ディクソン&小川 隆章(双葉社)

・いまや図書館にはなんでもあるよね。
・DVDやらCDやら、PCなんかのソフトもあるんだっけ?もちろんそれらを視聴したりする場所も借りることもできる。TSUTAYA要らずだねこりゃ。

・でも、個人的に大きいなと思ったのはマンガだよ。
・なんだか相当なスペースをマンガに割いてある。そりゃ書店や古書店におけるマンガの役割を考えるにアタリマエとはいえるのですが、それでも、いわゆる「大人向け」のものもおいてあるのにはかなり驚いた。本宮ひろ志氏の濡れ場があるマンガとかな。

・昔はすごく少なかった。「マンガを読むとバカになる」そのわりに図書館にいってたしマンガを求めていた。地元の図書館には「鉄腕アトム」と「のらくろ」しかおいてなかった。だから、おれは年代的には若いのですが、これらはたいがい読破していたりします。
・そして、もうひとつのマンガがあります。学研「ひみつシリーズ」や小学館の学習マンガですよ。
・当時はともかくマンガに飢えてました。書店のは片っ端から「立ち読み」して、なおかつ買って(ここいらがベツバラなのは昔も今も同じだわな)、行く先々でマンガを探しては読む。喫茶店、食堂、床屋、駅、歯医者、親戚の家などなど。とにかくマンガらしきものをみつけては「みせて」と、表紙を開きながら目は本に向けながらいっていたものです。そして返事を待つ前にもうマンガの世界にいました。
・そいで読んだものは片っ端から血肉へと「消化」していました。だいたい今でも自分を構成している80%はマンガじゃないかと思うくらいですよ。

・しかし、図書館にはよくいった。どれくらいいっていたかというと、先日30年ぶりにいっても、古参の司書に「お久しぶり」と覚えてもらえているくらい。そいでもって活字の本はまったく読まないで、上記のマンガばかり繰り返し繰り返し読んでいた。とくに学習マンガ。

・ということで本書を読んで1番思ったのは、今のお子さんはお気の毒だなあということですよ。だって、この傑作が図書館にあっても手に届きにくいんだもん。

・そういうことは版元も理解しているようで、対象年齢を5歳からにして、なおかつ、「クレヨンしんちゃん」にオビでコメントしてもらってますよ。

・ただ、すげえ問題点がひとつ。これ、お子様読んだらダメだろ。

・本書は6500万年前、「もしも」恐竜が滅ばなかったら「今」どうなっているか?って同作品をマンガ化したものです。

[ポトチャリポラパ/コミック/2007年6月/「フューチャー・イズ・ワイルド」ドゥーガル・ディクソン&ジョン・アダムス&小川隆章(双葉社) ]

・そう!このコンビの2作目ですよ。そりゃ買いますよ。そしてまんまとおもしろいですよ。

・前作とはコンセプトからしてちがいますが、相変わらず「科学的根拠」を山ほどふりかけた奇想天外が炸裂してますよ。地に足ついた炸裂っぷり。
・それをまた小川氏ががっちりマンガ化してます。あいかわらず「みてきたのかよ!」ってくらいがっちり。

・ティラノサウルスの末裔は、死肉を丸呑みしてあとは横になってひたすら消化するようになっているし、体長4メートルのアンモナイトは海の覇者として君臨しているし、ゲシュタルトという小型の恐竜はアリのように群れをなしてそれぞれ役割をもって暮らしている。

・そして超特筆すべきは、前作を完全に超える「マンガ」としての完成度です。
・あえて正面きって書きますが泣けます。感動します。ホントです。
彼らはいわゆるけものマンガのようにしゃべることはしません。ただ生きることに一生懸命なだけです。ただ、それでもドラマは生まれるし、感動が生まれるんだなという、ドキュメンタリーの醍醐味がたっぷりとふくまれているのです。

・上記のゲシュタルト。外敵の攻撃により、オスメスのつがいが、流木に流されて遠くにいってしまう。そこで必死にもとの巣に戻ろうとする。オスはメスを守り戦い、傷つき、ついに倒れる。もう巣は目の前なのに。
・と、このマンガのラストで虚をつかれる感動の展開が。

・まあ、個人的にはハリダンって翼竜の話のがもっと感動しました。かなり泣けました。
・そして、このハリダンの「表情」がスゴイ。みたことない、実在しない、翼竜の「表情」や固体識別ができるってすげえことっすよ。

・と、本作はお子様が読むと、すごくよくできてるゆえに真に受けてしまい、学校や幼稚園で、恐竜博士と口論になって「そんな恐竜いない」なんてバカにされてトラウマが植えつけられるんじゃないか?とまったくもっていらぬ心配をしてしまうくらいですよ。
・それこそゲシュタルト崩壊するんじゃないかってね! あまりうまくないけど、一応まとまったんでおわり。

・大人の読む学習マンガだよ。子どもは逆に読むことができないなって優越感にひたるってのも一興よ。

オススメ


[Amazon.co.jp: 新恐竜マンガ版: ドゥーガル ディクソン, 小川 隆章, Dougal Dixon: 本]

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2009年04月30日

「この世界の片隅に」下巻 こうの史代(双葉社)

・まちがいありません。
・10年に1冊しかマンガを買わないヒトは上中下の3冊で30年マンガを買わなくてもOKだと思います。

・感動します。

・と、そういうことはもうすでにいろいろといわれておるでしょうし、この先もいわれることなので、アタクシは省略させていただきます。いちいち「Me Too!」と叫んでおきます。「おれも漏れも」でも「ハゲあがるほど同意」でもいいです。「おもしろかったねえ」とウンウンうなずいておきます。
・そういうのとちょっとちがったところで思ったことを。

・本作の中巻でのamazonのレビューにおいて、70人以上のなか、1人しか参考にしてもらえなかった、ちょっとアレなのがあります。
・実際、歴史オンチのおれにも「アンタなにいってんの?」っていいたくなるようなものですが、逆にそれで本作を読んでいて思っていたことがつながったのでそれを書きます。よって、以下もトンチンカンの可能性が高いです。まあ、そういう意見もあるなってことで。前記のレビューも興味深いものです。少数意見尊重です。

・広島は呉に嫁いだ北條すずとその一家を描いた作品です。

・上巻は昭和18年からはじまり、中巻ときて下巻ではいよいよ昭和20年です。広島で昭和20年となるとみなさんご存知の教科書に載っているようなことが起こります。

・上巻からずっと思ってました。本作は「サザエさん」だなと。そう、あの国民的アニメですね。
・日本が普通じゃなくなっていてもニコニコと笑いが絶えなかったり、逆に、いろいな確執やわだかまりがあったり、それでも日々の生活として家族で乗り越えていくわけです。物資の不足やビンボーやおかしな制度なんかも。

「サザエさん時空」なんてコトバがあります。サザエさん一家はどれだけ正月を迎えても年をとらないってアレ。
・日本人は全員、イクラちゃんから順番に各キャラの年齢を抜いていきます。おれはもう波平が待ち構えてますよこれ。

・できるだけ「サザエさん時空」を保つのが「幸せな家庭」の正体なのかなとボンヤリ思っていたのです。

・本作の「サザエさん一家」は、「それまで」のサザエさん時空にとどまることを許してもらえなかった。「いろいろ」あったわけです。そのいろいろはぜひ読んでください。

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歪んどる(いがんどる)
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・主人公は自分のことをそう思うのです。でも、歪んどるのは主人公じゃないんですね。日本中、世界中にたくさんあり、たくさんの方が同時に目指している「サザエさん時空」を破壊しようとするモノが歪ませる正体です。そのことこそがソレを憎む最大の理由なのですね。

・確率の問題かもしれません。あるいは運なのかもしれません。でも、昭和18年から20年までのソレはサザエさん時空を短期間にすごくたくさん大量に歪ませてしまいました。

・超意味のない「もしも」として「もし、広島の呉市じゃなかったら」とか「昭和18年から21年じゃなかったら」とか考えるわけです。少なくとも本作でのサザエさん一家の時空の歪みは少ないはずです。

・と、凡百はそこを着地点にするわけですよ「NOMORE!」って、「許さない!」って。

・ところが、こうの氏の真骨頂は20年9月からにあるわけです。

・そう、ここから日本中の「サザエさん」たちは、歪んだ時空を「戻し」はじめるのです。空いた穴を埋め、枯れた地を耕してあらたな種を植えていくのですよ。

・そこでの超人的なバイタリティやしぶとさを丁寧に丁寧に描いているのです。歪みを戻そうとしてあがいている彼らを描いているのです。

・さらに、すごいのはその「歪み」があったからこその「よかった」も描いているのです。それは手放しでの「よかった」じゃないかもしれないけど「よかった」です。それはそれとしてよろこぶわけです。それもしぶとさです。

・ヒトは「サザエさん時空」を目指すけど、「サザエさん時空」に居続けることはムリなのですね。
・そして、いつからでも、どんな状態からでも「サザエさん」を目指すことはできると。

・永遠に追いつけない逃げ水のような理想の「サザエさん」を毎週日曜日の休日の「終わりのはじまり」にみることは、意外に日本人のメンタルなところに大きな影響を与えているのではないかしら? そういうことを本作からひしひしと感じさせられるのです。

・あと、本作全部ですが、とくに下巻でのマンガ技術はちょっと尋常じゃありません。現時点でトップクラスです。いや、そういうレベルで他と比較することすら無意味に思えるほど。
・しかも、「ありったけ」放出してます。作者の全力投球です。もう情報量と技術力の高さでめまいがしそうです。カルピスの原液を煮詰めて片栗粉でとろみをつけたくらいです。いや精子って意味じゃないですよ。それくらい濃くて甘いってことですよ。

・そういった意味じゃ、「夕凪の街〜」では、あえて抑えていたところもすべて「ありったけ」な分、ちょっと濃過ぎと思うクチがいそうな気がしたり。いろいろとトゥーマッチな感じはあります。でも、それは消化しなければならない。読者としては。

・すげえのお描きなさったなあ。
・読むことができてよかったなと思いました。この「奇蹟」に立ち会うことができてよかった。みなさんもぜひどうぞ。

オススメ


[Amazon.co.jp: この世界の片隅に 下 (3) (アクションコミックス): こうの 史代: 本]

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2009年04月10日

「なのはなフラワーズ」1巻 青木俊直(芳文社)

「なのはなフラワーズ」1巻 青木俊直(芳文社)

・祝1巻でしょうか。マンガ家さんとお呼びするにはあまりにもいろいろと活躍されておられ、正直なところまったく追いきれてませんが、高校生のときに読んだ「なすのちゃわんやき」はたいそうおもしろかったし、そのときの横のつながりというか、トモダチ関連のエッセイコミックや、「ウゴウゴルーガ」などのアニメ、さらには同人誌で、番組内連載の「ちなつのシュート」をコミック化したのを通販で買ったりと、ゆるくファンでいます。

・男子禁制の四畳半木造アパート「なのはな荘」に住む、マンガ家のタマゴさんを主人公に、「なのはなフラワーズ」の住人の面々がおりなす、ほのぼのコメディマンガ。


私の描きたいマンガの
すべてがここにつまっています。



・志村貴子氏のオビコメントがすごく的を射てます。
・ゆるいながらも、似たような展開は1個もなく、いい具合に泣かせにきてますが、そこに破綻はないのです。そこいらのサジ加減がすごすぎます。

・こういうの、よりドラマチックを目指したり、意図的なほのぼのを目指しすぎたうえの、強制的な統一感をかもす作家さんは多いです。それが正解や失敗ということではありませんが、本作での、ムリのない、ほのぼのや、泣かせは、やはりベテランといいますか、プロの「ユルユル」を感じさせました。

・二話。住人の女医さんのモト彼が結婚する話。彼女の復讐劇などは、スーッと通り過ぎるようで、そこまでに丁寧なシカケを巻き散らかしており、スーッと感動させられるのです。

・各キャラもしっかりの記憶に残る作りこみをしてありながらも、基本ラインの物語を破綻させたり壊したりするような「デストロイ」要因はいなく、大人の対応です。日本びいきのガイジンさんでいつもメイド服を着て、なおかつメイド喫茶に勤めているモーリーなんかはそうとう「立った」キャラなんですが、けして邪魔はしないんですよね。

・そういったみんなかわいらしくも大人でやさしくていいヒトばかりなんですよね。あまりトゲトゲした感情を持った方がいない、それこそタイトルどおりの、春の菜の花のようなやさしさ。

・でも、「辛し和え」で、ちょっとピリっとせつなくなるところもあるかも。
・前半からの仕込みである、担当編集に恋する主人公の話が1巻のクライマックスに用意してありますよ。その前のクリスマスでもそうとうグッとくるのですが。
(んまあ辛し和えって書いたらネタバレ? でもそれでおもしろさは微塵も減らないので安心めされい)

・こういうほのぼのショートの見本にしてほしいくらい、随所にいろいろなワザがあります。これをトレースして書き写すだけでも、マンガ家志望には参考になると思うよ。抜くところ、描くところ、ユルめるところ、キツくするところの、サジ加減が絶妙すぎる。しかも、1巻1冊としての構成のコントロールがまたすばらしい。前記の志村氏が嫉妬する感じがよくわかります。

・ひっじょーーーーーによくできた1巻です。1巻で終わってもよくできていると思うくらいですが、すごくうれしいことにまだつづく! 青木俊直マンガの2巻を読むことができる。1巻終わりの「to be continued」の文字がこれほどうれしいと思ったことはないね。

オススメ

[Amazon.co.jp: なのはなフラワーズ 1 (まんがタイムコミックス) (まんがタイムコミックス): 青木 俊直: 本]

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2009年03月13日

「大阪ハムレット」3巻 森下裕美(双葉社)

・オビのコピー「凄味増量」がすごく秀逸。端的に3巻をあらわしている。
・関西の人々のドラマを読み切りで描いております。

・3巻では3話収録。

・他人によくして「正義のヒーロー」を気取りたいがために妹のバイト代をむしる兄との確執を描いた「女忍者の夏」

・ワンマン社長が倒れて寝たきり&喋られなくなる「テレパシー」

・いきつけのキャバクラの嬢が客に一目惚れしたのを調査するおっさん探偵の「あいの探偵」

・これらのどれもずしりとした読みごたえ。
・とくに「テレパシー」がすごかったなあ。これを読んで「中春こまわり君/山上たつひこ」を連想した。どっちも「老い」を描いているなと。

・小さな麩工場の社長。社員も身内もみんな家来と思っているような男が倒れて寝たきりで喋られなくなった、動けなくなった瞬間、まわりから仕返しされるとおびえ出す。
・だから、嘘でもいいから下手に出ろと小学生の孫からアドバイスをもらい実行するわけですよ。すると、みんなが手のひらを返したようにやさしくなるわけだよ。ただ、1番虐待していた妻だけはどうしていいのかわからないんだよね。

・この感じよ。つづく「あいの探偵」もそうとうすごかったけど、こうやって「老い」を目の当たりにするマンガが流通しはじめているなということに世の中の強い変化を感じるのです。
・そりゃあ、たとえば、「のぼるくんたち/いがらしみきお」なんてのもかなり昔から老いをテーマにしてきたのですが、ここしばらく、個人的にそういうのを目にする機会が増えております。くわえて、「老人の世界」を描くというより、自分らの世界に老いが忍び込んでくる感じがすごく「イマドキ」って感じがする。

・そいで、家族の絆ってのが「凄味」の正体になるんかな。

・家族だけあって絆だけあってカンタンに切れないために、喜怒哀楽がうずまくわけですよ、波風が立つわけです。

・それらが際だった3巻だったな。

・1巻が最高で、2巻がイマイチに感じていたので、あまり期待しなかった分、よけいにぶっ飛んだね。
・2巻では、1巻にあったユーモアな部分が控え目でビターな味わいだったのがおれにはちょっとモノ足りなかったんだ。
・3巻はその2巻でのビター路線に1巻でのユーモアと、前記の「凄味」を加えたという、よくあるけど実は滅多にない常套句であるところの「さらにおいしくなりました」を実現させた世にも珍しい3巻だったのですよ。どれくらい珍しいかというと、読後すぐにポトチャリコミッックを書かせるくらい。最近の書かない具合でいうとスゴイことですよこれは。

オススメ

[Amazon.co.jp: 大阪ハムレット 3 (3) (アクションコミックス): 森下 裕美: 本]




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2009年01月11日

「がらくたストリート」1巻 山田穣(幻冬舎コミックス)

・その昔、何号まで出たかはサダカではないけど、「コミックジャンキーズ」というエロマンガ、成年コミック専門のレビュー雑誌があった。
・その内容のほとんどは忘却の彼方であるが、ZERRY藤尾氏を知ったことは、その雑誌の最大の収穫であったし、唯一に近い記憶だ。
・たしか「天才現れる」なんてありました。もちろんそれ以降ファンですよ。新装版以外は持ってると思います。少年サンデーで連載していたギャグマンガを同人でだしたやつも持ってます。全部天才の作品と思います。
・今Googleデスクトップで軽く調べたら、けっこうな作品の感想を前のサイトで書いてましたよ。そうとう「お熱」だったのがそこからもわかる。
・そのZERRY氏の変名が本作。非成年コミックです。

・少年リントとユカイな仲間が織りなす日常マンガです。宇宙人とか山の神とか腐れオタクの兄とかオッパイが大きいお姉さんとかも出るよ!

・さて、三つ子の魂なんちゃらといいますが、ZERRY氏の芸風は本作でもいかんなく発揮されていると思います。

「すかし」

・格闘ゲームなんかの用語になりますかね。敵の攻撃をバックステップなどでかわすことを「すかす」なんていいます。そのニュアンスです。

・1話。リントが息を切らして山頂にたどり着くファーストシーン。
・3ページかけてたどり着いて、元気な少年が活躍するマンガかと思いきや、トモダチは電動自転車でスイっとくる。そしてさらに別のトモダチはタクシーでくる。
・そいでとどめにヒロインキャラが、リントの兄の運転でバイクの2ケツでくる。
・で、ここでキャラがそろって少年たちの冒険がはじまるのかと思うと、画面が変わり、バイクとタクシーの峠バトルがはじまる。
・なんじゃそりゃと思ってたら、少年たちにフォーカスが合う。合ったかと思ったら、超でかいクルミが転がっていて、「なんだこりゃ」と思うもスルーしてしまう。その後、また兄のほうにフォーカスが合ったりする。峠バトルをしたタクシー運ちゃんとの友情が芽生えている。

・かようにスカしてスカしてスカしまくるわけですよ。実際問題、以降の話も主人公よりまわりが発言し、行動し、活躍してます。

・そのスカしのパターンで、公園に宇宙人がいたり、山の神がふいっと少年たちの前に現れたり、「妖怪ハンター」のヒトがきたりするわけです。

・マンガ内のすべてがスカされます。物語を正面から進行させているのも当然スカしております。でも、横道に流れまくるのもスカしているので、じわっと本道のストーリーも進行したりします。それでアンチクライマックスのままそれでも少しづつじわじわと物語が進行します。このパターンは実は最近の主流なのかもしれません。たとえば「かんなぎ」とかもそうだし。

・ただ、本作、そのスカし具合がすべてを破壊してるくらいにインパクトがあるのです。

・そして破壊してそうでその実、きっちり押さえるところは押さえていて大まかなストーリーは進行していっているんですが、その大まかなストーリーもどこまで進行するかはわからないのがZERRYマジックというか。天才というか。だいたいのマンガはスカすことがその後の本編を際立たせる引き立て役のためなんだけど、それすら飲み込むくらいスカしてますからね。

・だから、先がどうなるのかまったくわからない。

・すべてがスカした後にそこにあるのが「日常」というのはすごく興味深い現象だね。宇宙人の少女も、腐れオタクの兄も、山の神も、みんな日常として認識され溶け込んでいく。

・藤子不二雄氏を筆頭とするキャラが居候する話は「日常」だよ。
・そこいら顕著なのは、のび太のママの「ドラちゃん」という愛称な。あの青いおかしなものは家族の一員として日常にとけ込んでいるわけです。それがどこであれ、いつであれ、あんなものが動いてしゃべっていたら絶対にビックリするぞ。屋根でメスネコと愛を語らっていたら恐怖だよ。
・でも、彼はそこにいるし、普通に道を歩いているし、のび太のママにときおり買い物をたのまれたり、のび太の同級生の入浴シーンをのび太といっしょにヤニさがった顔して眺めていたりするのです。

・本作は居候マンガのそういういつの間にか「日常」というのもすかしているのです。まったくすべてのものに反発してるので、ラピュタのように浮かんでいるのです。
・すなわちこれ天才の所業。

・TAGRO氏や小田扉氏とかスキな方はとくにお試しください。

オススメ



BONUS TRACK
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2008年11月22日

「冷食捜査官」1巻 とり・みき(講談社)

・あ、とりみきのマンガだと読後思った。いやちがうな。

「とりみきのギャグマンガだ」と思ったんだ。

・ときは未来、食べ物はすべて合成で安全なものになる。ところが前時代の冷凍食品が闇ルートを通じて好事家の間で高値で取引される。合成食料になれた「現代人」の口と胃には自然食品は毒になる。そこで、農林水産省が冷食捜査官を発足し取り締まることにした。

・まさかモーニングで連載してるとはなあ。と、これまでの冷食シリーズを全部網羅して、新シリーズ3話収録です。

・主人公はとりみきマンガの超べテラン俳優のたきた氏。その他オールスターキャスト。全編ハードボイルドタッチ。サブタイトルはハードボイルド小説や007とかにちなんでおられるのかしら。
・まあ「ブレードランナー」とかがイメージとして1番近いかしらね。
・で、毎回犯人を追うわけだ。スキあらばぎゅうぎゅうにギャグをつめる。

・このギャグの密度と質が、「とりみきのギャグマンガ」と感じた最大の要因だったのです。

・いや、器用な方でらして、いろいろやっておられるのよね。わかりやすいところでいうと、「パトレイバー」の劇場版のシナリオをお書きになったり、大昔ではありますが、テレビタレントもされてました。テレビの吹き替え洋画の声優の字の本も出されてます。もちろんマンガでも様々なジャンルの傑作をモノにされてます。

・ただ、おれにとっては、「るんるんカンパニー」のとり・みきであり続けているわけで、あそこから「くるくるクリン」までの一連のギャグ作品が最高なワケなのです。

・そしてそれらを思い出さずにいられない本作ですよ。

・とくに近作、「モーニング」に連載した3作がいずれもすばらしい。ギャグのキレも、物語の完成度も円熟味があります。
・当初のサブカル方面、SFオタク方面へのパロった、「ウラ」狙いのギャグが多かったです。ハードボイルドなモノローグや会話のやりとりなど、「パロディ」としてのテレやスカシがあったようにおみかけします。
・それが本作では吹っ切れたかのように正面突破で、それらの設定は消化しつつもエンターテインメントとして、シネコンで家族揃って楽しむことができるものにまで昇華しておられると思うのです。

「Orange Express」の「鉄」ネタで大いに笑い、「French Connection」のクライマックスのコマで泣いてって、そうとうな完成度です。

・たぶんに、往年のアナーキーだったり、トンがった感じは薄れていると思います。SFの業が深いヒトや、とりみきのディープなマニアほどそう感じられるのかもしれない。

・でも、「なんだ、年寄りのノスタルジーで下駄履きの点数上乗せかよ」ってことは断じてない。きちんと前向きで攻撃的でアグレッシブな姿勢が、まったくカラまわってない。2008年の「今」、流通するマンガとしてなんら遜色ないところに、ココロの震えが止まらないのです。ずっと「すげえもの読んだ」と震えているのです。

・おもしろかった。サイコーだった。こうシンプルにいろいろな方に胸を張っていえるねおれは。

オススメ

[Amazon.co.jp: 冷食捜査官 1 (1) (モーニングKC): とり・みき: 本]



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2008年11月10日

「踵の落書き」膝枕カカト(少年画報社)

・正直に書きますとエッチなマンガだと思って購入してみました。
・広義ではエッチともいえますが、正確な表現は「健康的なお色気」というレベルでしょうか。

・短編集です。短編というよりショートといったほうがいいかも。
・少し不思議な作品ばかり並びます。ですが、藤子F不二夫氏のSFとはちがいます。
・共通点は、強い女性が登場するところ。そして男と戦うところ。勝つところ。たまに負けますが。
・もうひとつの共通点は「コンパクト」なこと。スケールはすごく小さいです。話の振り幅は狭いです。

・たとえば、最初の話「はっけよいヨイ」。1ページで、公園のベンチに座っている女子高生にカッパが話しかけます。
「お相撲をとってください」と。
・そして、女子高生は「総合格闘ならいいよ」といって、そのあと、カッパと女子高生が公園で総合格闘をはじめます。おれは格闘技がよくわかりませんが、大晦日に紅白の裏番組にやったり、藤原紀香氏が水着になるようなやつです。
・女子高生の足の長さにも満たないカッパがものすごく強くて女子高生を負かしてしまいます。

・これで16ページ。

・たとえば、「垂直落下らぶ」。
・結婚式間近のカップル。彼女が彼氏を呼び出す。
「あなたは結婚したらどう変わるの?」って。
・どうも女性週刊誌を読んだおかげでヘンな影響をされてしまったようです。
・なにをいっても信用してもらえない彼氏に「試させてもらう」といって、話をしていた喫茶店内でいきなりプロレスがはじまります。
・で、されるがままにしていた彼氏も執拗でハードな彼女の攻撃につい我を忘れてしまい、バックドロップをお見舞いしてしまう。それで、「私を愛してくれているのね」と抱きしめてメデタシメデタシ。

・これで16ページ

・なーんぞそれ?と思うでしょ。すごくおれは丁寧に最初から最後まで書いてますよ。

・この話両方ともすんげーおもしろいといったらどう思う?

・絵はばっちり。女の子カワイイし、サービスカット豊富(ってもパンチラや水着とかです。健全)だし、そのほかの描写も一切手抜きなし。
・それで、売りの格闘シーンがまた迫力ある。経験者でデッサンができるヒトがすごく丁寧に描いているような印象。

・ネームも一切ムダがなく、テンポよく明るくコメディタッチで進行していきます。起承転結もかっきりしてる。

・んま、ぶっちゃけ、すべてに対しての手堅さとひきかえに多少の古さを感じさせます。

・パッと開けた冷蔵庫の中のちょっとしたモノを1流シェフが素早く調理したって感じですかね。ブレはないし、こだわりを感じさせますし、どれもすごい完成度です。でも、どうしたって小品というオモムキ。

・しかし、全体的なノリと話。不思議な読後感が残る。
・いろいろなところに「どうして?」って思ったりするんです。
・どうしてこの話?
・どうしてこの展開?
・そして、どうしてこの完成度?って。

・だって、上記の話、カッパと総合格闘をやる話で16ページのネームをきってごらんなさいってことですよ。しかも、おもしろくだよ。

・ネタバレしたらマズイ領域の話「グルメの畦道」や「おじゃまさまなキセキ」なんかはあらすじを書くことがネタバレになるくらいスゴイ話だしなあ。この「スゴイ」がどうスゴイか話すのがネタバレというじれったさ。いやほんとスゴイんだよ。

・作者に興味を持って軽くググって調べましたところ、けっこうなキャリアのある方で、ペンネームもちょいちょいと変えられている方のようです。なるほど、いろいろとナットク。この絵の律儀さと正確さは、長いこと書いたヒトかなと思ってましたから。

・エロマンガじゃねえんかよ〜って残念な気持ちから読みはじめたのに、最後にはちがった点で興奮しちゃいましたよ。

オススメ

[踵の落書き (ヤングキングコミックス): 膝枕 カカト: Amazon.co.jp: 本]

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2008年11月04日

「よんでますよ、アザゼルさん」2巻 久保保久(講談社)

・すごく笑った。なんとなれば2008年もっとも笑ったマンガの可能性がある。
・ハラが痛くなるほど、涙が出るほど、など、様々な形容があり、それが比喩ではなく、実際にハラが痛くなり、涙が出た。それくらい笑った。

・2巻です。実は1巻での細かい設定はけっこう忘れてます。
・悪魔をシモベにできる探偵事務所の話です。メガネっ子の新人と、アザゼルさんやベルゼブブさんといっしょに活躍するギャグマンガです。

[アザゼル - Wikipedia]
[ベルゼブブ - Wikipedia]

・どういう効果かは知りませんがウィキペディアにあるようなゴツイものではなく、ファンシーな動物キャラとしています。アザゼルさんは犬っぽく、ベルゼブブはペンギンっぽいです。

・ギャグは古谷実氏の初期、「稲中卓球部」あたりの影響が強いですがきっちり消化した上でのものです。エアロスミスにおけるB'zといいますか。
・おもしろい顔のキャラ、暴力的ツッコミ、中2病発症者続出など。

・ま、個人的に大好物のパターンで、それにまんまとハマったんですね。具体的にどこにヒットしたのかはナイショにしておきます。だって、「こんなところで爆笑かよ」ってバカにされるのイヤだし。

・絵は過渡期にあり、2巻だけでも変化がみてとれます。どんどん細密になっていく傾向ですね。あまり細かくすると逆にギャグが死ぬのではないかと不安になったりします。

・重要なことは笑ったということ。おれは笑わせてくれるマンガに飢えてます。いつでもハラペコです。それをかなり満たしてくれました。とてもうれしいです。

オススメ

個人的にあまりごちゃごちゃしないほうがいいと思います。いろいろと伏線張ったりストーリー部も進めようとされてるようですが。

[Amazon.co.jp: よんでますよ、アザゼルさん。 2 (2) (イブニングKC): 久保 保久: 本]

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2008年10月20日

「おひとり様物語」1巻 谷川史子(講談社)

・1回16pの読みきりオムニバス。テーマはタイトルどおり「(女性の)おひとり様」。厳密な「おひとり様」ばかりじゃなく、パートナーがいるけど、遠距離恋愛だったり、ココロが離れている場合も「おひとり様」と定義した「つまり結構なんでもアリ☆」なマンガです。

・1話目でいきなりノックアウトです。

・28歳、書店店員、おひとり様歴長い。同僚の飲みのお誘いを断っても、休日前の読書タイム(眠る寸前までワインを傍らに、お気に入りのソファですごす夜)を大事にする。そして休日も目的を決めず、1人で外食、1人で映画と気ままに過ごす。
・それを至福と、後輩に話すと「それってさみしくないんですか?」と尋ねられる。

・そして自分の奥底に秘めていた不安や孤独が顔を出してしまうのです。

・この感じは、男女の差はないと思うのです。「ひとり」の最大の敵は「ひとり」と思う自分なんですよね。

・ひとりの状態に自家中毒を起こすのですね。評価ってのは相対的なもので、だれかに「自分はここにいる」という確認をしてもらわないと、自分を保てなくなる。アイデンティティの崩壊とか? 心理用語はわかりませんが。

「おひとり様物語」の1話が超スゴイのは、このなかなかの難問にラスト2pで最良の答えを用意してることです。100点満点の答えがそこにあります。

[ポトチャリコミック: 「おのぼり物語」カラスヤサトシ(竹書房)]

・1話目を読んですぐにこの作品を連想しました。マンガ家が心機一転で誰も知っている人のいない東京で1人暮らしをはじめるという話。

・この作品で、同郷の女性と出会った日に「自分」というりんかくを取り戻したというエピソードがあります。

・そう、つまりそういうコトなんですが、それで100点の答えはどうなのか?ってことは自分で確認してみてください。

・以降の作品でも、さまざまな「おひとり様」が登場します。彼らはそれぞれなれない「武器」をたずさえて「ひとり」と戦ってます。

・2話は彼と別れたての女子大生が、3話は同棲してるけどシゴトのカンケイで昼夜逆転しているOLが、遠距離恋愛の女子大生が、30過ぎて親にいわれるままに見合いを受けたOLが、1人で母校の甲子園出場の応援にきたライターが、しめきりに終われ磨耗している少女漫画家が、結婚願望が強いOLが、様々な「ひとり」に攻撃されます。

・この戦いに「勝ち」はないんですよね。なにをもって勝ちとするかってすごくモヤっとしてますし。でも、「負けない」ことがそれよりも大事だってことだよなあ。
・ちょっと前の女性アーティストの歌詞にやたらと「負けない」というフレーズがあるわけがちょっとわかったりね。

・そして、それらの「戦い」がさっぱりとしたコメディタッチでスルリと描かれているのがスゴイところでね。気構えゼロですよ。で、気軽に楽しんであとでうーんと考えたりするんですよ。

・まあ、おれが読後最初に思ったことは、「おひとり様」にはいい女が多いんだなあってことかな。

・みんな魅力あふれる女性ばかりです。前を向いた気持ちのいい女性ばかり。えーと、ぶっちゃけ欲情をそそる方面はアレなんですが。

オススメ


[Amazon.co.jp: おひとり様物語 1 (1) (ワイドKC): 谷川 史子: 本]

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2008年10月19日

「みそララ」2巻 宮原るり(芳文社)

・1巻とちがい「オールカラー」じゃなくなりましたが、本性を表しはじめた2巻です。
・オビによるとwebコミック人気No.1らしいです。えーと、でも、どこのwebで連載しているのか、軽く探したところわかりませんでした。普通に「まんがタイム(芳文社)」で連載しているんじゃねえの?

・東海地方(ウィキペディアによると岐阜市だとか)のデザイン会社で奮闘する新米ライターの麦田さんを描いたおしごと4コマストーリーです。

・2巻ではストーリー面で大きな3つの山場がありました。

・1つはデザイン会社の新人トリオ3人によるデザインコンペ参加。
・もういきなり最高のテンションでぶっ飛ばしてくれます。先輩に相談、相方と案を練る、相反、挫折、苦労、光明、それぞれのキャラがまた泣けてくるくらいいい動きをするんだ。
・と、王道も王道。スポーツマンガでいうところの「試合」ですよね。

・2つは麦田さんが1人で温泉の現地取材。カメラマンとモデルさんの撮影も兼ねた外様との仕事。
・モデルさんの知られざる苦労や、カメラマンのプライド。突然の雨をチャンスに変える機転。ここいらはライターの経験を活かした宮原氏ならではの「本当にあった〜」な話的。

・そして3つ目。これがちょっとうなったんですよ。最後の1話ですごく短いけど、2巻の最重要エピソードじゃないかってくらい。

・麦田さんが前の会社の話をしていたところ、その会社で仲のよかったコと偶然出会う。自分が無為に過ごしていた4年間、彼女は地味に仕事をよくする努力をしてき、それが花開いていたことを知り、前の会社いた時間はムダだとか吹いていた自分を恥じるのですよ。

・いや、しみじみ、シゴトがんばろと思うのですよ。この3つのシゴトの話、それぞれに切り口がちがいますが、労働の尊さとオモシロさと大変さをきちんと伝えてますよ。しかも、それぞれすばらしく効果的に。これは作風3つ分を1本の作品に投入するくらい贅沢なことだぞ。

・芸達者でありながら芯がブレてない。しかも、全体の構成やつながりもミゴト。いわゆるストーリー4コマ的なほのぼの会社風なのから、キャラにフォーカスしたり、意表をつくコラボがあったりと内容豊富で飽きさせなくて、なおかつパッと見、ほのぼの会社4コマの皮を被ってるものね。相当深いものを忍ばせているのに。

・1つ目のデザインコンペ。実は落選します。その後、「残念会」でまるまる1話分あります。これをもたすことができるのはまたタダモノじゃないし、また値千金のおもしろさでね。だから、2巻ははじまるなりクライマックスなんですよねえ。後半もちゃんと盛り上がりますが。

「勝利の美酒」は味わえなかったけど、それを味わったら飲むことのできないお酒を彼女らは味わうことができたんだなあと。うらやましい話でございます。

・厚生労働省や文部科学省はこの本をニート対策として、各小中学校の図書室に配備すべきだぞ。デザイナーやライター志望が増えるのかもしれないけど。

・本書はキレイゴトばかりかもしれないけど、長いことシゴトしてるとキレイゴトにもたまにあたったよなと「思い出す」マンガです。
(あと、キレイゴトにするかどうかは本人の気持ち次第ってことも本書からわかったりします)

オススメ

[Amazon.co.jp: みそララ 2 (まんがタイムコミックス): 宮原 るり: 本]

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2008年10月01日

「雷とマンダラ」雷門 獅篭(ぶんか社)

・ジマンにはならないけど、「モーニング」は創刊から20年ほど買い続けていた。未読が10冊たまったので購読をストップしたんだけどね。
・たまに「なにこれ?」ってマンガ家がひょっこりと顔を出してくる変わったマンガ誌ではあった。創刊当初はいろいろな経験をマンガ化できる人を募集ってこともしてましたからね。
・ほかにもフランスやら中国、韓国と、世界中のマンガを載せたり週刊連載していたりもした。
「モーニング」の購読が長く続いたのもそういう「ヘンなマンガ」が脈絡なく登場するからだったりとか思ったものです。まあ、今はどうなってるのかさっぱりわかりませんが。「クッキングパパ」と「OL進化論」の連載があって、「BE FREE」は連載してないことくらいしかわかりません。

・立川談志率いる立川流の弟子がその弟子生活、落語生活をマンガにするという「風とマンダラ」も、そういった感じでひょっこりはじまった風に記憶してます。

・そして、弟子が甘えているという立川談志家元の怒りが爆発して破門になったという理由で連載が休止し、さらに1年後の再試験に落第したことも知ってはいます。ついでにいえば、「風とマンダラ」内でネタになっていた名物の兄弟子キウイ氏はちゃんと合格して立川流の二つ目にいらっしゃることもなぜか知ってます。

[立川キウイ - Wikipedia]

・そして、破門された志加吾氏(当時の芸名)がなぜか名古屋にいかれたこともなにかで知っており「どうなっているんだ?」との思いが強かったのですね。たしか、「BUBKA」などにも連載があったりでそのからみで覚えていたのかもしれません。

・そうなんですよ、氏の動向をみょうに気にかけてたんですよね。いっこうに「モーニング」で連載復帰もしませんでしたし。やっぱ「いいときのモーニング、講談社なのかしら?」とか思ったりなあ。

・そのおれの知りたかったことも含めて本作にはみんなありました。

・名古屋唯一の落語家・雷門小福師匠への弟子入りの経緯。リコンした経緯。ユカイな名古屋芸人の紹介。名古屋での生活など、4コマのエッセイコミックの形式で紹介しております。

・日本一客が入らない名古屋大須演芸場を舞台としての芸人生活で、1人の客にタイマン勝負したり、自分の出番前に客が帰って出番なしになったり。
・客が1人で手品をやったとき、客に手伝ってもらうと、客席にはだれもいなくなるとか。
・東京においた妻を名古屋で部屋を借り、呼び寄せたらリコンを切り出され、「どうせだから」って、リコン式とリコン記念落語会を催したり(その模様の写真まであった)。
・客の女性に手を出したときのめんどくさいのを分析されたり。
・シャアザクコレクターの氏がイベントで、古谷徹氏と池田秀一氏と会ったときの話とか。
・バイク2ケツでドサまわりの模様とか。バラエティに富んだ芸人ライフを描いておられます。タッチは明るい。下ネタもそこそこ。

「風とマンダラ」のときと芸風作風は変わってません。いやむしろ画風は、前作のほうがいろいろと気を使ってタッチを変えたりとチャレンジャブルだったと思うほどで。
・そんな中、最大のちがいは、名古屋の芸人さんたちを描いたことだろうね。


今上がってる芸人は
化石みたいな
ヤツらばかりでな…



・つまりが、ジジイばかりでね。弟子入りした師匠もいい加減な年齢で、これがだれもかれもキャリアを重ねた生ける伝説ばかりで、その方々の昔話やら逸話がおもしろいのなんの。これがぐっと本作全体の奥行きを醸してるわけです。まあ、古漬け的な醸しなんですが。ちょっと酸っぱい感じで。なあにそのほうが食が進むってもんよ。

・とくに大東両先生のエピソードだよな。紙きりの芸人さんで、「おれに切れないものはない」なんてのが持論で、獅篭氏が冗談半分で、ガンダムのシャアを切ってとたのんだところ、ものすげえのを切ったどころか、独学でモビルスーツまでバンバン切りだして、話題になったそうです。テレビまで出たそうで。

はい参照
[紙きり1年戦争]( [雷門獅篭公式HP])

・これが1枚の紙でできてるってすげえことだよなあ。動画までみさせていただいたよ。

・この先生のエピソードが泣けるんだあ。
・まあ、余談だけど、紙切り芸にはまだ「萌え」が入る余地があるのでだれか目指すといいかと思ったよ。

・あと、いか八郎先生や、小福師匠のエピソードもいいね。じじい芸人の味わいをすごくよく描いています。

・そして、おれが最大限に知りたかったこと。

・立川談志家元はどう思ってらっしゃるのか?ということにも答えがありました。
・先ほどもありましたがなぜかずっと気になってたんですね。
・まあ、彼はモテるそうですが、なんとなくその気持ちがわかったり。なんかほおっておけないんだろうなあとか。わたしゲイだから女心もわかるの。

・そしてこれを書くにあたり発見したもうひとつのうれしいこと。

『ゆめすけ秋の楽祭り』〜立川キウイ独演会〜

この舞台が大須演芸場! おお、キウイ兄さんとの交流もあったのですね。なんだか、そういうの勝手に心配してやきもきしていたんですよ。何回も書くけど全然カンケイねえのに。でもよかった。

[立川キウイ前座15年で二つ目に昇進 - ポ☆ニュー]

そして自分が書いた記事もついでに発見。「キウイ 獅篭」でヒットするのね。

・大須演芸場にいきたくなりますね。おれがみにいく「いつか」までみなさん元気でがんばっておられますようにとお祈りしたくなります。

オススメ

[Amazon.co.jp: 雷とマンダラ: 雷門 獅篭: 本]
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2008年09月19日

「おのぼり物語」カラスヤサトシ(竹書房)

・おお油断した。まさかカラスヤサトシで涙するとは。

「アフタヌーン」の読者コーナーの4コマからの「カラスヤサトシ」でおなじみのカラスヤサトシ氏の自伝風4コマ。

・大阪で、マンガ家とサラリーマンの2足のワラジを履いておられたところ、両方がダメになってしまい、上京し、東京に住まう話ですね。
・巻末年表によると2002年に上京されておられるのでそれはもう最近の自伝ではあります。
・なんたって、おれがいたころにはなかった西東京市(田無市と保谷市が合併したところ)に住まわれてますし。

「どうしてもしんきくさくなる」というところ開き直ってそのまま描かせてもらってるとあとがきマンガにありました。
・ということからもわかるとおり、「笑い」にならないところは多々あって、ムリにそういう処理をしてないんですね。とくに上京してからと後半。

・そう、本作、けっこうドラマチックな展開になっていきます。そこのところは読んでのお楽しみにしておいて、それ以外のことを書かせていただきます。えーと、「自分語り」も含めて。

・おれも田舎から上京しました。生まれ育ったところを出るときは感傷的になったし、知らない土地に住まうということ、引越しをするということにテンションは高くなりました。あとムダなことをしょっちゅう考えてました。しじゅう将来に対する獏とした不安を抱えてました。いつまでも部屋でゴロゴロしてましたし。
・あと、「東京」ってことにもテンションが高くなりましたね。あの渋谷や新宿に自分がいるってね。

・カラスヤ氏の特異なところは、そういう過去の自分の行動や言動に対しての当時の感情と、周囲のリアクションをちゃんと覚えておられているところにあると思うのです。
・それはアフタヌンの「カラスヤサトシ」でもそう思いますし、本作でもそう思います。
・それが正確かどうかは問題ではなく(そんなものは超能力者でもないと他人の感情とか正確にわからんし)、ちゃんとそのときの空気を「オモシロ」としてマンガとして4コマにできるというのがすばらしいんですよね。

・で、前記のとおり、本作は「オモシロ」だけじゃないんですよね。

・たとえば、62pから63p。夜の街を散歩していたら、巨大なヒキガエルとすれちがう。よくあることらしい。でも、ふと、こんなところにいるとクルマに轢かれるから危ない。安全な公園まで連れて行ってやろうと思い立ち、きた道をもどってみると、今まさにクルマに轢かれてる最中。そのことにパニックになり、家にあわててもどって、救命救急法の本を読んでいる自分。

・これをカップヤキソバの湯きりで流し台にぶちまけた的な笑いと捉えることはカンタンなんだけど、「東京」と「孤独」にやられていたと考えるとまたちがった感触になるんですよね。

・1人暮らし心理とでもいいましょうかね。よくヒトリゴトが多くなるとかいうじゃないですか。どうしても不安定にはなるんですよね。

・くわえて、記憶力がいい方だと思うのですよ。だから、しょーもないことも、しんきくさいことも、不安定な気持ちも、それらの中にあった「オモシロ」もなんもかんも含めて記憶してしまっている。

・だから、カラスヤサトシの「孤独」との戦いの記録とみるとすごくオモムキがあるし、どうしてもそう考えてしまうんですよね。

・Nさんとの出会いのシーンがすごくいいです。Nさんは同郷の女性で早くに上京されていたんですよね。
・その人と会って話したことによって、「人間」としてのりんかくを取り戻したなんて感じはすごくわかる。

・思い出してみればおれもそうだけどまわりにいた1人暮らしはそれぞれの手法で「孤独」と戦っていた。「戦う」って表現はこそばゆいですね。折り合うとか妥協というか。
・その「カラスヤサトシ」の場合を、本作では「オモシロ」控えめで読むことができるのです。

・すばらしいです。この身につまされ方や、「あるある」じゃ片付けられないビチーッ!ってシンクロはちょっと尋常じゃありません。ま、カラスヤさんはリアルタイムで現在進行形な気もしますが。

・そうだから、1人暮らしへのメッセージとか、孤独との戦いを応援とか、そういうんじゃないです。だって、最後のコトバは「ようわかりまへん」だし。それだからいいんですね。本作はカラスヤサトシが東京で1人で暮らした話ということで。それにそれぞれがなにかをくみとればいいんじゃないかな。

・おれは山盛りでくみとるものがあった。

オススメ

(ちなみに泣いたところは127pです)

[Amazon.co.jp: おのぼり物語(バンブーコミックス) (バンブー・コミックス): カラスヤサトシ: 本]
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2008年09月14日

「ちはやふる」2巻 末次由紀(講談社)

・ものぐさでよかったなと思います。
・マメに読んですぐマンガの感想を書いていたら、「ちはやふる」1巻の感想、すなわち「ちはやふる」のその時点での感想は「イマイチ」ってことになっていたからですよ。

「ONE PEACE」だと10巻くらいまで、あとは、「ハガレン」くらいかなあ。これは5巻くらいまでか。読み終えたあと、あまりおもしろいので、1巻から読み直す現象が起こったの。
・本作、久しぶりにそれ。
・それは、「再確認」という意味合いもあったんだけども。2巻を読んで、すぐさまあちこちひっくり返して1巻を読み直した。それくらいおもしろかった。

・百人一首を題材としたマンガです。千早(ちはや)という少女が福井からの転校生がやっている百人一首に興味を持ちます。そして、千早を恋慕している太一もやります。旧ドリカム状態でも、1巻から2巻にまたがる試合で3人はバラバラになってしまいます。でも、カルタを続けていればまた出会えるよね〜っと2巻から高校生編になります。

・中学時代はまわりのノリの悪さから空気を読んでカルタ好きを隠してた千早ですが、高校からガリガリ動き出します。同好会を立ち上げはじめます。そこに太一も同じ高校に入学。そして、福井に帰った転校生・新(あらた)に大会に勝ったイキオイで電話しますが…。

・すごく感心したのは、千早がちゃんと美しい少女として描かれていることです。ほかに名前のある女性は3人くらい登場しますが、これらとの描き分けがおもしろくて。新の家のお隣さんに、かるた部に入部する大江さん、それと、千早。ちゃんと3パターン全然ちがくて、なおかつ3人ともかわいいし、ちゃんと同じマンガ内で空気吸ってるなと思わせる画力よ。
・その中でも千早は飛びぬけて美人であり、なおかつ、そのわりに特殊な性格のために残念がられている(話さなければいいのに等)というのが、ちゃんと画のみでも伝わってくるのがスゴイ。

・そして、いくつもグッとくるいいシーンがあるのですが、2巻でもっともグッときたのは、新キャラの大江さんこと、かなちゃんですよ。

・呉服屋の娘で、とにかく古典な世界が大好物で、「袴が着たい」という理由で弓道部に在籍しているけどノリがちがう。じゃあ、最近、噂のすげえ美人(ちはやさんです)が立ち上げようとしてるカルタ部はどうじゃろか?とのぞきにいって捕まるんですよね。

・こういう理由でカルタ部に入るってのはかなりおもしろいし、カルタ部がカルタ部である存在理由になっている。基本おれは代替不可能なジャンルが好きなんですよね。サッカーが野球になってもたいして変わらないじゃん?って話よりは。

・大江さんの古典の知識を生かして、千早さんに百人一首の中身を解説するところ。ここにすごくグッときたんですよ。

・つまり、彼女が入部することこそが、「ちはやふる」が百人一首のマンガであることを完全に定着させているのです。
・千早さんが中学時代に陸上をやっていたのは、反射神経を養うため(早くフダを取るため)と、体力をつけるためというエピソードを2巻の最初のほうにはさみこんでいたのは、ここにもつながるのですね。彼女はカルタをやりたい代わりに、カルタにつながる陸上を不承不承やっていたと。

・でも、もうナニにも替えられないのだと。彼ら彼女らには百人一首しかないんだと。
・そこのところの決まり具合に感動してしまったのです。それこそ、オリエンタルラジオの武勇伝の最後「シャッキーン」って音が聞こえてくるくらいのイキオイですが、このたとえ大失敗ですね。

・あと、大江さん、おまけ4コマによると、巨乳っぽいし!

・1巻イマイチだと思ったのは、性急に話が展開するからだと思ったのです。スピーディーすぎてタメがない気がしたのです。実際、2巻に入ってもスピーディーさはあるんですが、ここからが「本編」だからそこそこの落ち着いたペースになりそうな気がするし、おれは2巻でのおもしろさにすっかりこのハイペースになれました。というかトリコになってますね。

・たぶん、作者、せっかちじゃないかなと思ったりします。「次へ」「次へ」と、散歩しはじめのうちとこの犬みたいに読み手をグイグイひっぱってきます。その「これからもっとおもしろいんだから」って作者のイケイケな感じがすごく伝わってきたのが最初イマイチから好感触に転じた理由かもしれません。押し付けがましいと思ったのですかね。まあ、それはキレイに反転しました。

・3巻楽しみだ。新が3巻でどうからんでくるか。部活動はどうなるかってね。とくに大江さんはこの先どう活躍するのか。肉まんクンはどうでもいいけど。

オススメ

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2008年09月11日

「おくりびと」さそうあきら(小学館)

・読み終えたあと「いいマンガだなあ」と思わず声に出してしまったよ。キモいですね。

・これはどういう経緯なのかはよくわかりませんが、映画のマンガ化なのですかね。コミカライズというか。それにしては原作のクレジットがないのです。かといって原作って感じもないですしね。謎です。でも、そんなことはあまり考えなくてもいいのかなと思います。映画のことも考えなくてもいいのかな。

・オーケストラの1員だった大悟はオーケストラが解散なのを気に、妻でピアニストの美香といっしょに田舎に住むことになる。東北山形県。

・働かないと食べていかれないということで、「旅立ちのお手伝い」というチラシで旅行会社と思っていったらそれが納棺師だった。そいで、彼の納棺師のシゴトがはじまるのです。
・納棺師というのは、葬式で最後にホトケさんに死化粧する方ですね。ジャックヒギンズの「死にゆく者への祈り」では悪役で登場してましたよね。

・最期にキレイにしてホトケさんを送り出すシゴトに大悟は惹かれつつも、田舎暮らしになれずストレスがたまってきている美香には、世間体の悪いシゴトのことはいえない。

・で、いろいろなデキゴトが起こるのですね。1回1話で少しづつ大きな話も展開していくという王道。

・そう、王道なんですね。映画だと、モックンでヒロスエが演じている大悟と美香はやはり美男美女で双方いい人なんですよね。とくに美香はノーギミックでカワイイしけなげだしいい女です。

・さそうあきら氏はヤングマガジンで新進気鋭ですげー名作短編を乱発していたデビュー時より読んでますが(最近はゴブサタです)、だいたい1アクセントひねりをくわえたキャラばかりの気がするので、こういうわりと王道の設定は逆になにかあるんじゃないかと思うくらいです。

・とくに美香さんは、なれない田舎暮らし、近所のババアどもの容赦ないプライバシー侵害、思うようにピアノ教室の生徒が集まらないことなんかにも爆発しないで、ダンナがシゴトに疲れているのを心配するようないい女ですよ。
・ダンナが腐乱死体を取り扱って気が滅入ってる日に求めてきても応じているし。
・おれなんかの感覚だと「いい女すぎだろ」と思うくらい。

・んまあ、オリジナルエピソードとか、ワキのキャラで、「さそうあきら」節はたっぷり入っているのでバランスはとれているのかもしれません。むしろ、これまで描いたことがないくらいの「王道」キャラを描いて新鮮だったんじゃないかなと思うくらいです。

・そう、いかにも日本映画の良作をマンガ化という顔して進行してますが、あちこちに静かに「さそうあきら」を忍ばせて、ひとすじなわではいかせないって気概が、アクセントになっています。

・納棺師として人の死にまつわるエピソード。実家でフラッシュバックする自分の少年時代。美香との現在の生活。田舎の人々。各登場人物の事情など、すごく豊潤に展開していきます。で、感動と。

・トータルで1行目になるわけです。1冊マンガの名作だと思います。

オススメ

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2008年07月13日

「FLIP-FLAP」とよ田みのる(講談社)

・いろいろとっぱらって考えよう。


世界初(?)のピンボールラブコメ!!


・高校卒業を機に告白しました。彼女は意外にもOKしました。でも条件をだしてきました。ピンボールのハイスコアを塗り替えること。そうして彼はピンボールをはじめるのです。

・というあらすじより、1ページ目にあるカギカッコの単語2個。これがこの物語のすべてですよ。


「普通」「変化」


・主人公は「普通」から「変化」を試みた。その結果記録が1冊のマンガになったわけです。「ピンボール」も「彼女」も「ラブコメ」もとっぱらってみよう。

・彼の思惑では、彼女に「告白」するという意味で「変化」でした。フラれようと、受け入れられようと、それは「変化」です。
・ところが、彼女によって、ちがう「変化」になりました。それが「ピンボール」ですね。

「ピンボール」は代替可能です。なんでもいいと思います。なんでも物語の構造上は成立します。

・すなわち、「なにかにがむしゃらに打ち込んでみる」。彼の場合、それがピンボールだったのです。情熱をかたむける対象が非人間というのがミソなんですね。

「普通(の彼)」と「対象にがむしゃらに打ち込む」の化学反応の観察記録です。そう、化学反応ですね。

・さて、本作と前作「ラブロマ」は導入部がいっしょだったりします。「告白」からはじまっています。そして、受け入れられたのが「ラブロマ」です。
「ラブロマ」の場合、男と女の化学反応の観察記録だったわけです。

・だから作者は「それ」ができたんですよ。つまり、「ラブロマ」の2人とはちがう2人を作ってまた化学反応させると、また「ラブロマ」的なヒットや流れは見込めたはずです。

・それは本作の設定でもできたはずです。本作のあらすじをそのまま使い、オビにあるコピーどおりの「世界初(?)のピンボールラブコメ!!」にもできたはずです。
・本作が1巻で終わりというのは、悪意をもってみるとしたらそういうことにもとれます。ピンボールのところはともかくラブコメ分は少なすぎると思います。

・男と女の化学反応は永遠不滅におもしろい最高の旨味です。ありとあらゆる人が歴史がはじまってから延々と飽きもせず男と女が化学反応する話を作ってます。

・だけど、本作、対象は彼女ではありません。むしろ彼女を忘れることを至高としてます。

・淡々とピンボールのハイスコアを目指していると、音が聞こえなくなり、ピンボールと自分だけの世界が現れてきます。はい116pのみひらきですね。本作最大の見せ場です。彼女の「ステキですよ」の声援すら耳に届いてないのです。

・たかがゲーム、たかがピンボール、その「たかが」をココロの底から楽しむ尊さすばらしさをきっちり描いてます。


本気でやってる
人間は それだけで
人を魅きつける
んです!!



・すばらしいメッセージをいただきました。なんかいろいろがんばろうと思いました。

・それはそれとして、ピンボールとの「バトル」シーンの迫力もスゴイと思ったよ。前作より、絵のキレは増してるよね。

・これを2作目に1巻完結で出す作者がなによりスゴイ。それに震えたね。作者、とよ田みのる氏にはこれからも楽しませてもらえるって。大流行のギャグでいうと「まちがいない」。

オススメ

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2008年06月06日

「おもいでエマノン」梶尾真治&鶴田謙二(徳間書店)

・冬の夜の船上の窓描写がすさまじい。これこそが本書の最大のキモかもしれない。

・あの「エマノン」を、あの「鶴田謙二」が、あの「リュウ」で描いたということで、話題になっていると思われます。おれも発売を知ったとき少なからずの衝撃がありました。まあ、最大の衝撃は「ホントに出るの?」ってことだけど。ちゃんと出ました。そして読みました。

・SF者、いやさオタク、いやさ人の基本的で、永久不滅な、妄想といえばステキな異性と出会うことです。

・本作の、あらすじじゃなくて、「起こったこと」を書きます。

「船(長距離フェリー)の旅で美少女と出会い話をした」


・SFな味付けはこの際、ハシッコに避けておいて、「それ」をみていきたいなと思う。すなわち、「いつか王子様が」(Someday My Prince Will Come)パターンね。

・めずらしく原作小説は読んでます。四半世紀以上前に。そして、ほぼ記憶はないですが、エマノンがかようにも魅力をもった女性ということはなかった。当時は「SF」のところをおもしろがっていたのみだった気がします。あと雰囲気と。

・本作はそういうことで、鶴田氏の画力をタンノウするために存在するといっていいマンガと、軽目に声を落として断定してみます。

・時代は1967年。舞台はフェリーの2等客船。季節は冬。そして、物語はゆきずりの2人が出会う。
・隣に座った女性はエマノンと名乗る。酔っぱらい(2等客船は雑魚寝状態になる)にからまれるのがイヤなので、彼女は主人公を「夫」と連れ出して、船内レストランでビールを飲みながらエビフライ定食を食べる。外は雪。そしてレストラン内は必要以上に暖かにしてあり、窓は曇っている。

・窓を手でこすり外を覗き込むエマノン。夜なので外はただ黒い。でも、黙って覗き込む。

・それからほぼ最後まで会話ばかりのマンガです。

・もとが短編で会話が主体だからアタリマエなんですが、その食事の雰囲気から会話の内容、すべてがすごく生々しい。異様な臨場感があるんだよね。なんとなれば、すぐそこに居合わせて、ビールやエビフライのニオイや音、船内の妙に圧迫された暖かい空気すら感じ取れ、なおかつ、エマノンの美しさにみとれたり、紫煙のニオイとともに体臭まで感じ取れそうなほど。

・リアルな描写といえば、たしかにその通り。精緻な絵を描く方が、たっぷりのページ数をつかって原作の持つ情緒を丹念に絵に起こしていきます。たぶん、時代考証も、フェリー描写も、まちがってはいないとは思います。

・というより、むしろ、そのシチュエーションそのものにウットリとさせていると思いました。

・すなわち、上記の「いつか王子サマが」パターン。考えうる限り人生最良の船旅をエマノンはあたえてくれたわけです。彼女の美しさやかわいさ。ミステリアスなところ。「SF心」を存分にくすぐる話。

・そして、夜の船内という、普段ではありえない極上の場所。

・そう、なんとなれば、船旅がしたくなるんですよね。1人でこのフェリーに乗って、意味もなくエビフライ定食を食べてみたくなる。
・それくらいの魔力が秘められている。それこそ、「らき☆すた」のオープニングアニメくらいの「聖地巡礼したくなる力」が秘められている。

・完全にマンガ内でエマノンを「生かした」ものだから、もしかして、おれも今後、エマノンに出会えるかもというワンダーも読者各位に与えてくれる。

・そんな読んだ男児に暖かくてやさしい「おもいで」をあたえてくれるステキなマンガでした。

オススメ

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2008年05月03日

「ジャバウォッキー」4巻 久正人(講談社)

・すんげーおもしれえ。やっぱり突き抜けておもしろい。

・昨今、買うのすら遅れるくらい、滞っているMYマンガ事情です。10代の自分にぶん殴られそうなくらい贅沢な悩みで、買うのが滞り、読むのが滞り、その「コミック」を書くのが滞ってるのです。かなりダメな状態です。山下達郎氏のように「もう聞くべきレコードはすべて買った」って宣言するのも間近って状況です。
・ってまあ、だからして、読むマンガには不自由してないのです。まあ、そこそこ読んではいるのです。その中でも突き抜けておもしろいのが本作です。ぜひ長い連休なんかを利用してガッとイッキ読みなさるとよろしいかもしれません。

・と、最初にまとめてしまってるよ。

・舞台は19世紀。猿から進化した人類と恐竜から進化した人類がいる世界。秘密結社「イフの城」は恐竜と人類の間のモメゴトを解決している。腕利きの2人、ヴァンクリフとリリーが活躍するスパイアクションマンガ。

・4巻ではロンドンを舞台に、売春婦を殺害している切り裂きジャックを追い求める2人。どうやら、ジャックの正体は恐竜のようだ。そこで、ロンドンの地下街に住んでいる恐竜街を探索する。

・本作、虚と実のパラレルな歴史を辿っており、「こちら」の歴史での有名人も登場します。たとえば、「イフの城」のDHことドラゴン・ホースは、暗殺されたといわれていた坂本竜馬だったりするのです。竜馬でドラゴン・ホースね。そいで、直接は描かれませんでしたが、ロンドン在住の「世界的な頭脳」の逃亡を手助けしております。ベーカー街に住んでいる彼ですよ。

・4巻でも「あっ」と驚く人があっと驚く設定で登場され、あっと驚く活躍されます。いや、ほんとに3回か4回は「あっ」と驚かれますよ。

・黒と白を強調した大胆でスタイリッシュな画面構成や絵のほうに注目しがちですが、本作はストーリーも大胆でスタイリッシュで、なおかつ血煙漂うグロでエキサイティングなアクションも惜しげなく投入されており、それらはカンペキにコントロールされてます。すべては読者の「FUN」のために。

「だまされたと思って」とオススメする文句がありますが、本作、いろいろとクセがあるので、「だまされた」って人がいることが容易に想像されます。だから、おれはこういいたい。「だまされ続けて」と。本作、いくつかのキーワードを飲み込んだら突然おもしろくなる可能性があります。だから、「絶対におもしろい」というポトチャリコミックよりの暗示を真に受けて買って読んで、「おもしろくない」「イマイチ」と思っても、おもしろくなるまでだまされ続けて読み続けてください。
・その後の人生で「ジャバウォッキー」がおもしろくなるためにあなたが必要なキーワードを知らずに消化して、あるときからおもしろくなります。きっとなります。

・そういう反則気味のオススメまでして読んでほしいのです。

「カウボーイビバップ」というアニメをオススメしたときと同じ、「ジョジョ」をオススメしたときと同じくらいの熱量を持って本作をオススメしたいです(似てるとはいえないけどニオイは同じと思います)。

・さまざまな方向から「エキサイティング」が襲い掛かるようなマンガです。4巻もエキサイティングしたあ。

オススメ

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2008年04月24日

「ささめきこと」2巻 いけだたかし(メディアファクトリー)

・女子高生ユリユリコメディの2巻です。
・だいたい登場人物は女性。そしてだいたい女性が好きな女性ということ以外は学園マンガです。
・カップルから、告白前、無意識、覚醒寸前など、いろいろな女子を取り揃えてますが、きちんとベクトルは「百合」にむかっております。それでいて、ウツワとか物語の進行は、学園コメディ、とりわけ「あずまんが大王」を代表とする女子メインのほがらかなやつです。

・物語が進むにつれ新キャラも増えていくのですが、2巻「その8」から登場する腐女子キャラがすごかったのです。

・みかけは「ぱにぽに」の都さんみたいなんですが(わかる人が少ないですね。えーと、ショート&横分け&デコ出し&ヘアピンにメガネです)、彼女自体は普通です。普通の腐女子です。いや、普通の孤独な腐女子なのです。

・彼女自体、2巻では物語全体の重要なキーパーソンなのですが、彼女メインの「その9」が超強力でね。ちょっとここについて語りたいよボクは。

・彼女は小説を書くコです。ある小説家の熱烈なファンで、ファン同人を出したい。ただ、小説家はマイナーなのです。なおかつ、ちょっと百合がかった女性の友情を描く作風で、これまでの同人仲間からは、話が合わなくてはじかれている腐女子人生です。
・そうやって悶々としながら、静かに高校生活をおくっているとき、その作家を知っているこの物語の主人公に出会います。そして、一気に同人魂に火がつくのです。「いっしょに同人を作ろう」「トモダチとはじめて同人を出す」ってんで、もう舞い上がって睡眠時間を削ってオリジナルを完成させます。
・ところが、主人公は覚えてなかった。あまり本気にとってなかったのです。そこで、これまでのないがしろにされてきたオタク人生がフラッシュバックし、家に帰ってついに彼女は号泣するのです。

・もうなんつーか、不遇だった自分のオタク人生とシンクロして胸がいっぱいになるですよ。その後の展開も含めて、すごくクるんですよね。おれも1人で舞い上がって、「まわりも絶対によろこぶはずだ」なんて1人相撲をとっちゃあ、彼女のように打ちひしがれてたものです。

・そして「その10」での「救い」も含めて、なんつーか、もう完全にハマってるなあとしみじみと思うのです。

・季節は夏で、ほぼ女子(1人女装男子がいる)ってことで、水着も多いんですよ。なんたって3巻予告に「学園マンガの「美味しいところ」ハズしません」なんてあるくらいで、ベタに丁寧に学園モノのイベントをトレースしていってます。ま、合宿ネタの展開は相当変化球でしたが。
・なお、3巻は秋で運動会とかありそうです。

・話というか技術で舌をまいたがの「その12」。これは主人公と、彼女が恋焦がれている「親友」とのほぼ2人の話です。
・主人公はもうラブラブですが親友というカンケイが壊れるので告白できない。相手はでも無意識ながら主人公に恋しはじめているという仲で、主人公が田舎の墓参りにいき連絡がとれない状態の話。まあ、よくある「すれちがい」ネタです。

・よくあるからこそ、凝ることができるわけで、後半の処理は本当にすごかった。1コマ1コマの演出がすばらしくてね。相当文字数を費やして説明したいくらいです。
・白眉は152pの1ページぶち抜きです。遠く離れている2人はともに喧騒の中にいます。1人は村祭り、1人はにぎわう都会の街中。それを「喧騒」つながりで1ページにいっしょのコマに描いております。だけど、2人はすれちがっています。お互いに気がついてません。1人はしつこく連絡をとるのはアレだと思って遠慮してますし、1人はケータイが壊れたと思ってます。ところがケータイは復帰したし、1人は「もう1度だけ」と立ち止まります。つまり、すれちがった後、「ふりかえった」のですよ。そして、振り返ったから2人はお互いをみつけることができた。それを場所を飛び越えて描いてます。あと「空」の演出なんてのもありますけど。彼女の声は空を通して主人公の耳に届いたと。

・いやほんと石ノ森章太郎氏の「竜神沼」じゃないですが、マンガ演出のお手本のような1本です。すみずみまで配慮されてます。

・おもしろかった。地力があるかないかは2巻を読めばわかりますよね。1巻がおもしろいってのは意外にどんなマンガ家も達成できます。ポイントは1巻の好評を受けての2巻ですよ。作者初2巻だそうですが。

・3巻もキタイです。ただ、この物語はどう「終わり」を処理するんだろう? 物語内にいくつかある恋は成就するのだろうか。そして女性同士で成就するってのはどういうことなんだろう?とは思う。

オススメ

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