2022年12月13日

「たま」という船に乗っていた 石川浩司/原田高夕己 双葉社


たまという一世を風靡したバンドの自伝を、「たまのランニング(松本人志命名)」でおなじみの石川浩司氏が書いたものをコミカライズ。

藤子不二雄A氏のタッチをベースにあちこちのパロディを盛り込みながら、1981年から物語はスタートする。昭和56年。びっくりするくらい昔に感じる。おれももう生きてる年代だし、そこに暮らしてたんだけど。
貧乏な学生(から無職)が音楽活動をベースにだらだらと集まったりのほほんとおもしろおかしくやってるさまを描いてます。
まあ、実際のところ「お兄さん」たちではあるけどかなり個人的には離れてる生活に感じた。どくだみ荘やら男おいどんやらの世界。
貧乏バンドとして楽しくやってる自由な日々。でも、たまとしてもずんずん頭角をあらわしていく。

本作はそのまま全国区になるイカ天に出るところまで描いてます(まだつづきます)。

そのイカ天出演シーンに衝撃を受けた。

(45) たま イカ天初出演 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=k9zjWv43bdA



こういうのいつまでも残っているわけじゃないんですが、このたまのテレビ初出演のシーン。これの「完コピ」が本作のクライマックスに用意してあるんだよ。これが衝撃で衝撃で。

これを見てからでもいいし、マンガを読んでからでもいいからみてほしい。すごいから。マンガの可能性を感じるから。

前記の通り、基本藤子不二雄Aタッチのマンガマンガしたものなのにリアルさと迫力と臨場感がすごいんだよ。思わず動画とマンガと10回くらい見比べちゃったよ。

マンガで音楽を描写する。いまアニメで「ぼっち・ざ・ろっく」などが流行ってていつつもマンガで音楽を描画するってのは問題なんだよな。
本作はそれに大きな風穴が開いた気がしたんだよ。
今年大きな衝撃を受けたよ。

音楽が聞こえたし、動画をみたらマンガにみえたよ。この感覚をみんなわかってほしいわ。

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2022年12月12日

ソアラと魔物の家 山地 ひでのり 小学館




既刊2巻。
魔法と剣の世界。孤児だった少女は魔物と戦うために軍に拾われ鍛えられ強くなり、いよいよ初陣におもむくというタイミングで魔王軍が休戦を申し込んでくる。少女はお暇を出される。急に自由になってもやることがない少女、ソアラさんは放浪の旅に出る。そこでドワーフ3人組と出会う。彼らは魔界建築士だった。ソアラさんも巻き込まれ、魔物たちのために家を作るという、劇的ビフォーアフターな話。

ゴブリンの家を作り、スライムの家を作りってやる。魔物も家があることで心が穏やかになるという。

そして2巻で物語が進行していくのよね。これがまたいい感じのストーリー。
ネタバラシしていいんだろうか。微妙なところですが、2巻冒頭で魔王軍の魔王の家にいくわけです。そこからこの物語のミッションがみえてくるという。ずっといろいろなモンスターの家をまわるビフォーアフターな1話読み切り展開かと思ってたんで、やや胸熱な展開に意表をつかれました。

見開きで家の断面図で細かい注釈を読むのはもう少年の心に戻りまくりで楽しいし、そういう絵がドーンと出てくることは鬼のように描き込まれてるってことだしな。実際、見惚れるくらいすごいです。鳥山明風ということもいえるかもしれませんが。

個人的には電書で買ったのですが紙の本で欲しかったと思うくらい。紙の上に印刷された絵をみたかったと思うくらい美麗で精緻な書き込み。

小学生男子に読んでほしいマンガ1位だよ。
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2022年12月11日

恋とゲバルト 細野不二彦 講談社


前作「バディドッグ」は実際細野不二彦のキャリアの頂点にあると思っていたしぜひとも最終巻もここで取り上げたかったのになかなか無念なことになったのが2022年の後悔のひとつです。

そのバディドッグの感想文で細野不二彦氏には異世界ものを描いてもらいたいなあとそのことも書いていたんですけど。その理由も。

と思ってたら本作です。本作は異世界ものではありませんが、限りなくIFの世界の物語です。

舞台は昭和。学生運動がはなやかなころ。左翼の学生に対する用心棒として主人公は雇われる。そして学生が暴れた時には猿面をつけて現れ木刀で学生を蹴散らす。
ところが、左翼学生のほうも用心棒を雇う。ヌンチャクを振り回す赤いヘルメットの学生。
それとは別に主人公は殺伐とした学校の裏庭に温室で花を育てていた清楚な女性と出会い一目惚れ。これが実は上記のヌンチャク使い。

そして主人公は、一方では敵、一方では恋焦がれるひとと出会い運命の歯車が回りはじめる。まあそういう段取りになってます。

1巻のAmazonでのレビューで学生運動の流れが史実とちがうってお怒りの方がいらしました。
学生運動の時系列かディティールがちがうのかわかりませんが、その不満をとうとうと挙げておられました。
だから、本作はIFの世界の物語なんだよと思ったのですよ。架空戦記とか。

この舞台のこの時期のこの話ということはとても重要かと思われますけど、それはエンタメを上回るほどのことはないんですよ。
この舞台のこの時期のこの話といえば、山本直樹氏の「レッド」というモデルになった当人が「まんま」とおっしゃってたものがありますが、それと比較してどっちが優れているかとかは当時流行の言葉でいうところのナンセンスってやつですよ。

1巻に「これはこういうマンガです」という宣言代わりのメッセージが多数盛り込まれてます。

まず「昭和」があります。学生運動の歴史以外にも昭和文化が爆発してます。そしてそれらがストーリーにからみついていきます。
マンガが出てきます。やけにリアルな東京の風景が現れます。そこに当時生きていなきゃわからないディティールも描かれてます。食堂の吸い殻がいっぱいではみ出てる灰皿とか阿片窟みたいなジャズ喫茶、などなど盛り込みまくり。そこに当時の炭鉱の様子とかキーとなる話も盛り込んでいく博覧強記の無駄遣いな作風はいつも通りなんですけど、本作、明らかに作者ノリノリのところがあります。
でも、それは今はないということではたまたままだ生きているひとがいくらかいる「時代劇」なんですよ。

あと、本作、ヒロインの友達がシェークスピア研究会に入っててオフィーリアやらハムレットを演じるし、いろいろと本編にも関わってくるのよね。
そうだよ、このドラマの主人公とヒロインの間柄って「ロミオとジュリエット」じゃないか。
1巻での図書室の出会いなんてとても美してロマンティックですよ。これはなにかネタもとがあるんでしょうか。おれははじめてみた演出ですね。

もうひとつ。上記のとも関連はあるけど、他になんていうか隠しネタが大量にばら撒かれていると思ったんですよ。
これまた1巻にあったんですが、物語のキーとなる左翼を率いている優男が音楽室でピアノを弾いている。
「この曲なんですか?」「サティスファクションさ」ってシーン。そのあとローリングストーンズの同曲がこのころ発売されたけどあまり人気がでなかったって記述があるけど、それよりも、おれは手塚治虫氏の「火の鳥」を連想したんだよな。未来のほうの物語で音楽室で電子エレクトーンを駆使してサティスファクションを演奏しているシーンで同じやり取りがあった。
なるほど、そういう遊びが随所にあるんかなと思ったりした。
主人公が所属している学生寮の仲間はバイトくんとかどくだみ荘に出てきたモテないやつらだしな。
たぶん、これまでもあったんだろう、こういう作者がほくそ笑んでるような小ネタもいつもにまして多いような気がする。

それでいてこれらの要素がすべて物語の邪魔をいっさいしていない。

なにもわからない読者にとっても、運命に翻弄されるふたりと昭和学生運動時代の大学を舞台とした血湧き肉躍るアクションマンガとしても十二分に堪能できるようになっている。エンタメっすよ。エンタメ。細野不二彦氏はいつだって純度の高い娯楽を提供しようとされている。おれは本当に尊敬してます。

ただ、細野氏の弱点というか、細野氏が「現代」を描こうとするとどうにもズレが生じるんだよね。そこが歯がゆい。前作の「バディドッグ」だと主人公の女子高生の娘が稀勢の里のファンからくる大相撲ファンとか。いや、そういうひといるかもしれんけどさ、なんかちがわね?って。この感覚はかなり大昔からあるので、細野氏の作風芸風とは思ってわかってるけど、なんかファンゆえにそこのところに「一見さん読者にダサって思われないか」とか無意味に気をもむのよね。
だから、細野氏の時代物は時事ネタがないから安心して読むことができるんだよな。失礼な話でもうしわけないのですが。
同じ理由で上記の異世界モノもいいのかなと思ったのですよ。でも、昭和を描くのが1番無駄がないよなと。

本作のアクションや主人公美智子さん(すごくかわいい)他の筆がノリにノっておられ、細野不二彦氏はキャリアの何回めの頂点におられるのかわからんくらい充実した読み応え満点の内容。極上の純エンタメが堪能できる。
話はいよいよと佳境に入ろうとしているのだけど、今のところ5巻で一部完になっているのが悩ましい。早く続きが読みたい。





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2022年12月10日

令和のダラさん 1 ともつか治臣 (KADOKAWA)


田舎が舞台。山の奥の立入禁止地帯。怪しげな祠がある。そこには山の守り神として妖怪が奉ってある。
そこに美少女弟と美少年姉が入り込んで遭ってしまう。それがダラさん。
腕が何本もあって裸で下半身が蛇の女の妖怪。
そいでおどろおどろしいのかと思いきや、日常ギャグ。いや、おどろおどろしさもあるが日常ギャグ。この姉弟の肝が座ってて、ダラさんも律儀に受け答えするうちにギャグのテイストになっていくという。
そういうことでもわかるようにみんないいキャラなんだよね。愛すべきひと(ま、ひとり妖怪だが)ばかり。
後ほど出てくる、26歳独身で弟(11歳)を狙ってる在宅勤務のこじらせ女性や、弟とのオタク仲間であり教師でありながらもコスプレ用の服を作るのが趣味ってひとがダラさんの服を作りまくったり。
と、今のところはダラさんの陰惨な過去編と令和のいまののほほんとしたライフって感じで展開してます。
ダラさんは姉弟の影響でコーラが大好きだったりカップヌードルを温かいお供物はレアって喜んだり、山で拾ったケータイで姉弟と連絡をとれるようにしたり。

絵は極上。シリアス画もデフォルメも背景もその他も含めて最高最高。デフォルメ画の姉弟の口元がとくにかわいい。

いや楽しい楽しい。2巻も楽しみじゃ。

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2022年12月09日

運命の巻戻士 木村風太 (小学館)




コロコロコミック連載のハードSF。既刊2巻。
主人公は時空警察特殊機動隊。
不慮の事故や事件で亡くなった人を時間を巻き戻して救う超精鋭部隊。通称“巻戻士”。

つまりはリプレイもの。同じ事件のシチュエーションを何度も何度も繰り返すことによって少しづつ改善していき、救助したらミッションクリアという。

1話では銃をもったコンビニ強盗に1発当てさせては次に弾道を避けてってのを繰り返して全弾撃ち尽くしたところで逮捕確保って作戦をとりますが、途中でやめます。なぜか?

2話は無人島の流れ着いた少女。2日目に病死するのでそれまでに200km離れた島まで移動しなければならない。この鮮やかでいて「コロコロ」で美しい解決策。

毎話完結ということではなく3話からは主人公が巻戻士になったわけであるCASE999というミッションになり、さらに2巻がすさまじかった。
3話からのつづきから、アクションギャグ描き込みの密度も仕掛けも超大きい空港ミッションがはじまります。古今東西のハイジャックものを見尽くしてもなお鮮烈な感動がある新機軸。

コロコロでいながらハードなところはハードだしグロなところはグロなところもすごい。そこがハードSFの由来っすよ。いやちがう。
SFとしてもシンプルでいながらよくできたリプレイの設定です。

書き込みもすごい。空港で飛行機でミッションですよ? どんだけの描き込みになるか想像はつくでしょ?それをやってのけてます。すごい。

しかも、コロコロっぽく熱血少年なんですよね。
ぷにるもいいけど本作もいいですよ!
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2022年12月08日

タイのひとびと 小林 眞理子 ワニブックス


タイの旅行記。タイの美味しいものやタイのひとに親切にされたこととか。
おれ最初ベテラン漫画家さんだと思ってたんだよね。小池真理子だわな。ちがうわ。しかもそれ小説家だな。

さっぱりした本人の似顔絵とタイのひとびとの絵、そして精緻な背景画。なんかツールと使っておられるのかしら。写真を線画にするやつとか。マンガはどうもiPadで描かれてるようですし(マンガ内に現地の外で描くシーンがいくつかある)。

エピソードからして頻繁にタイに訪れてらっしゃるようですごくベテランだけど言葉が難しく、食事の時とか試行錯誤なところがおもしろい。
レストランでメニューの1番上ならたいていメジャーなものだろうからって一か八かで注文したらペプシが出てくるとか、食い合わせが悪かったのか駅で吐いたらビビるくらい丁寧に介抱してもらったりとか。

タイは基本親日のようだし、なんとなれば少し憧れがあるみたいで基本的にモテるみたいですね。1回目にきたら「日本人?」と聞かれてそうだと答えたら2回目にきたときにカタコトで「いらっしゃいませ」っていってもらえたりしてな。ええのお。

本作を知ったのが、ネットでバズった綾波レイみたいなツンデレ少女がいるレストランにいった話だったけど、なぜかそれが収録されてなかったんだよな。いまでもネットで読むことができたんでそれはそれでいいんだけど、おれみたいにその記事きっかけで本をよんでみようってひとは、気に入った曲がアルバムに入ってるだろと買ったらシングルにしか収録されていない曲だってわかる程度のショックはないでしょうかね?まあ、それに匹敵する可愛いタイの方々がたくさん登場しますけどね。
https://hint-pot.jp/archives/150395/2/


余談。
タイの方々って雪にすごく憧れを持ってるそうです。おれみたいにガッツリ雪国在住はいったらモテるのだろうか。そういや、仕事場にいるベトナム人は冬になんだかすごいの着てるよ。むこうの国じゃ着れないようなモコモコのダウンとか。
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2022年12月07日

ウィッチウォッチ 篠原 健太 集英社


最新刊は8巻です。ちょっと遅いのですが、7巻で主要キャラが出揃って本格スタートという形になったのでまあいいんじゃないかと思います。
そして8巻までずっとべらぼうにおもしろいです。
「スケットダンス」「彼方のアストラ」という2作品とも名作でありつつアニメ化も決めている作者による最新作です。

魔女のニコを護衛するために鬼の男がニコと同棲する。その後、入居者が増えていき、天狗に、狼男に、吸血鬼って具合に6巻で4人。ということで5人で同居しております。これが固定メンバーというところか。
ニコは1000年に1度の特別な能力を持つ魔女で彼女が襲われるという予言がありましたので4人でなにか災厄からニコを守ろうと。だから、タイトルに帰結するわけです。

「彼方のアストラ」から知って「スケットダンス」を読んだのでにわかなんですが、「スケットダンス」にはいろいろと驚かされました。これって「こち亀」じゃんって。
その細かいキャラ設定、変幻自在の引き出し。ギャグと油断したらドシリアスな展開。アクションも豊富。と、なるほど、彼方のアストラの幕の内弁当かっていうくらいの詰め込み具合、サービス精神は、作者の芸風なんだなと感心しました。

本作はスケットダンス路線でありつつも、ニコの魔法が織りなすドタバタがさらに盛り込まれていて、スケットダンスではわりと封印気味であった、時事ネタやジャンプのパロディなどさらにもりだくさんな内容になっており、毎話今度はどうなる?と思ったりしてました。

ユーチューバーネタやヴィンテージジーンズ、デスゲーム、おじさん構文、同人誌即売会、現在のヤングがどう思うのかは実際のところ知らないですが、現在のヤングも楽しめるコンテンツが盛りだくさんの、「雑誌」のタイミングで読んで、「ああ今週もおもしろかった」と思うマンガですよね。そういう意味でも王道。時事ネタの意味がある、ジャンプ他キャラの内輪ネタの意味がある王道。でも、コミックで読んでもちゃんとおもしろい。そうところは優れている。熟練の味わい。








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2022年12月06日

異世界ありがとう 荒井小豆 ジアナズ (小学館)




異世界ものです。既刊は2巻。

おっさん2人が同窓会で出会ったけど2次会で死にました。そして美少女エルフと愛嬌のある小動物的なかわいさのある少女として転生しました。
そしてもう働かなくていいんだから異世界を満喫たろう!冒険したろう!って感じ。

本作は、メタネタや現実ネタがあり、なんだかあやふやな異世界。どこまで動物的な野蛮な住人。かと思えば、みょうに整った街の人々やギルドのシステム、神様の存在など、異世界ネタを知ってる人ならすっと入れますが、なれてないとやや敷居が高いかしらね。でも、ふたりのやりとり等、基本はコメディ要素の強いかけ合いで進行していきますね。
1巻前半はふたりでモンスターとはいえないくらいの動物をやっつけたり、異世界のお約束であるステータスをみようとしたり、魔法を発動させようとして、とても楽しいけど、そこからひとに会うんですよ。で、2巻では街にもいきます。そこから1巻前半部とはだいぶ毛色が変わってきます。

2巻ピンチに落ちて助けられます。そしていっしょにパーティーに行かないかと先輩異世界転生者に誘われます。そのかわりやるけどねって。

そこらへんからかなりノリがちがってるなあと。つまらなくなったってのではないけど、おもしろさの質が変わってきたかなと。あといろいろあってウジウジ展開になるのよね。あとは細かい設定なんかも。それもどうやら2巻で終わったみたいなんで3巻からはまた毛色が変わりそうな予感なのよね。

異世界ありがとう=水曜どうでしょう

って感じなのかしら。ノリが近いってところもあるよな。

ぶっちゃけ、センス一発なところがあるから合う合わないが強めではありますが、さいわいおれは合います。3巻も楽しみ。
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2022年12月05日

友達以上恋人未満  yatoyato (集英社)






ジャンプ+って攻めてるよね。いまさらだけど。なにが攻めてるって載っているマンガの幅よね。

元AV女優が主人公。いろいろあって引退してひっこんで田舎で引きこもりをしている。
親に無理やりお見合いをセッティングされてあったのが元AV男優で何度も「お仕事」した男。
そしてはじまるプラトニックラブコメ。
ありそうでないけどどちらかというとヤングジャンプっぽい設定ではあるよね。

ジャンプ+のレーティング基準はどうなってるの?って心配する向きはいるかもしれないが、これがあっと驚き全年齢向き仕様。エロくないっていうには主人公はトランジスタグラマでいいものを持ってらっしゃるし、けっこうエロい服着てるしなあ。あんな胸元開ける服をいつも着てるか?っていうかそこがサービスなのか。で、ま、回想シーンとかでそのシーンの前後も出てきます。エロいかどうか最近はすっかり現役から遠ざかっているので判断しかねますが、ひとつ強くいえることは、この絵なくして本作は成立しないってことですね。それくらい絵の魅力がエグいです。

太い主線で描かれていてデフォルメとリアルのはざまのようなタッチなのに、人物も背景もひどく魅力的。というか完全におれ好み。とくにカラーが素敵なんだよなあ。

ストーリーのほうは王道ラブコメでいて、設定を忘れないような作りになっており、ちゃんと元AVってのや、AVをやる前は女優でくっていきたかったとかそういうのもからませつつ手堅く楽しく展開していきます。
このふたりがプラトニックってのもおかしな話だけど基本ふたりとも真面目に仕事としてAVをこなしてたんだろうな。そこにエロいものや爛れたものを読者が感じないように繊細に注意を払っております。

メディアミックス化(死語かね)するとしたらアニメがいいか実写ドラマがいいか。実写にしてもエロありのVシネマ的なものが安易だけど、坂とかのトップアイドル的なひとがやるのもいいかもなあと(原作はエロないんだし)。でも、絵に惚れてるんだからアニメで動くのもみたい。どう考えてもそこらの実写女優よりあの絵にふさわしい声優が声をあてたほうがいいに決まってるし。って妄想を暴走させすぎですね。
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2022年09月23日

月出づる街の人々(1)酢豚ゆうき 双葉社

連作短編という感じでしょうか。1話読み切りですが話やキャラはつながっている。

高校生がメインの登場人物。この世界はいわゆる亜人が登場する。フランケン、透明人間、狼男、メドゥーサ、ナーガ、ドラキュラなどなど。

なにかするわけでもなく、イメージとして近いのは、「僕のヒーローアカデミア」のようにそれぞれが個性としてどこかに属しているという感じで、それもまた血ではないんだよね。だから、メデューサの子供がフランケンだったりする。個性だったり特徴としてのフランケンだったりメデューサだったりする。そんなゆるゆるな世界。ここでけっこう好き嫌いが出そうな気はしないでもないがおれは気にはならなかったわ。

第1話。透明人間少女と狼男少年。雨の日に傘を貸して自分は狼に変身して帰った少年と少女との交流。図書室であって狼となった少年の毛づくろいをする。少女はペットセラピーと親が犬アレルギーで飼えなかったので嬉々として狼にブラッシングするけど、そこはそれ狼男は思春期なわけで女の子に毎日ブラッシングされたらモヤモヤするよなそりゃ。

第3話がネットで知った透明人間少女とメデューサの話。メデューサは髪の毛が生きた蛇でできているのよね。それぞれ名前をつけてかわいがってる。頭から生えてる蛇を飼ってる感じね。透明人間少女は彼らを餌付けさせてもらうのが趣味になっている。で、メデューサにおいての「抜け毛」ってつまり蛇の寿命でもあるのよね。ということで蛇が死ぬ話です。感動ですし、こんなメデューサの話をみたことないなあと感心しました。

かように身体的な特徴の差異をベースに多感な時期の少年少女を描いております。柔らかい描画もあいまって読後「いいなあ」と思うやさしい味の世界が広がっております。「なんじゃこの世界」とも思いますが。ここまでわかりやすくそれぞれの個性があったら逆にみんながみんなに寛大になってやさしくなれるんんだろうなあとも思いましたよ。

「フランケンの糸」なんて話は作者にしか思いつかないだろうなあ。これまでにみたことないアプローチのフランケン像。



ほっこりしますよ。2巻楽しみです。

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2022年09月20日

われわれは地球人だ!(1)高橋聖一 双葉社




ということで全2巻ちゃんと2回レビューしてますよ。名作だからね。

本作はおれと同じと思ってる担当編集のラブコールに応えて描いたものですよ。


女子高生3人。それぞれの理由あって次の日にオープンの日本一の巨大ショッピングモールに侵入する。するとショッピングモールは地球を飛び出し広大な宇宙の旅に出る。1巻の残り1/3くらいでタイトル通りのことが起こる。よその星に着陸するのですね。そして現れた方々にいうわけです。


1巻は設定とJK3人の個性と友情を楽しむって感じではあります。ショッピングモールはゾンビ戦なんかでの籠城の基本となってますが、本作はゾンビや外敵はいなくてなおかつ中身がなくなるなんてサバイバル要素もなく(電気水道インフラもなぜかつながっている)、どちらかというと閉塞した孤独な感じは映画「シャイニング」を思い出しますね。

そして、地方JK3人にとって「世界」ってまさにショッピングモールのなかそのものだよな。JKにかぎらずか。あらゆるものがあるし、これが「我々の世界だ」と紹介することができる。だから「地球」のすべてを携えて宇宙を旅するわけです。本編でもキャラがそういうことをいってます。


すごく律儀で精緻な描画。それこそ前作よりさらに背景などは細かく細かく描画されている。あのなんでもあるショッピングモールを余すことなく細かく。それでいて宇宙も。宇宙人も。


2巻からが本番となりそうなので2巻を読んでから書こうとも思ってたのですがこれはいま紹介しなくてどうする?って思ったので取り急ぎ。作者が想定している内容まで描けますようにと願います。あとがきマンガにも登場された双葉社の平田昌幸さん(本作ができるきっかけになった編集)にとくに願います。

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2022年08月29日

ROCA いしいひさいち (笑)いしい商店

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がんばれタブチくん〜おじゃまんが山田くん〜隣の山田くんホーホケキョで、朝日新聞で「ののちゃん」を連載中のベテランでレジェンドなマンガ家による同人です。



ここらへんより入って通信販売でどうぞ。1冊1000円で送料500円です。

これは、
ポルトガルの
国民歌謡『ファド』の
歌手をめざす
どうでもよい女の子が
どうでもよからざる能力を
見出されて花開く、
というだけの
都合のよいお話です。

海辺の街に住んでいる吉川ロカさんがファドを歌い、皆の心をつかんでいくというお話です。

10年にわたりあちこちで描かれております。

いしいひさいち新境地などと話題になっておる作品ではありますが、実際のところ、キャリアをドーナツブックスほかのシリーズでわりとつぶさに観察していたものとしては新境地なのが通常運転すぎて、本作がとくに画期的に新境地とは思えなかったんですよね。

ドーナツブックは双葉社から出されていた新書サイズの4コマ集であちこちに描かれたものを再編集したその都度のベストセレクションな存在でクロニクルみたいな感じですが、これが毎巻新境地というべき、4コマに革命が起こるような作品集なんですよね。
B型平次シリーズ、さがしやケンちゃん、ノンキャリガールなどなど。もちろん、出世作のバイトくんにしろタブチくんにしろ、そのジャンルを築き上げたくらいの画期的なものではあるのですよ。そもそもがこのドーナツブックスにしても新書サイズ1ページに4コマ1本というスタイルが斬新で(だから買いはじめた)したし。

だから本作もいつもの「新境地」ではあるなあと思いました。

ときおり拝見する文章や、雑誌(漫金超など)、いしひさいち読本的なもので、博覧強記な方というのは存じ上げてましたが、それをファドに注力されてる感じ。それが端々からこぼれ出る感じ。音楽理論でROCAがすごいことを表現してるのがすごいよなあ。引き合いにだされてた実在のミュージシャンも興味深かった。

4コマをベースとして展開しておりますがときおり「2コマ」打ち抜きのハッとするシーンにぐっとくる。ストーリー4コマということか。きちんと4コマで1笑いあるところはベテランのなせる技。サザエさん等を引き合いに出すまでもない、4コママンガの登場人物の時間が流れないという基本から逸脱したロカさんの成長物語。そこもストーリー4コマっぽくはある。このあたりは熱心に読んでないので今もどれくらいの割合や規模で描かれてるのかわからない。4コマ雑誌がつぶれるとか、そのわりにアニメ化が決まったとか、いろいろあるようですが。

そして重要なキーワード「サウダージ」。ここでも出た。

鍋に弾丸を受けながら 青木 潤太朗/森山 慎 KADOKAWA: ポトチャリコミック http://sukekyo.seesaa.net/article/490920336.html?1661740849

本作でも、鍋に〜でも、ひとことでは簡単にいえない複雑な感情表現だそうです。なんかわかったようなわからないような、まだおれには難しいのかもしれない。

1回読み、そして感想を頭に思い浮かべてから、またファドの有名な人(らしい)アマリア・ロドリゲスなどをYou Tubeで聞きながら本作を読み返す。そして発見する。、

最大の特徴は、吉川ロカの生地であり、友人の柴島美乃とともに育った地元の港町の印象がすごく強いこと。それこそ、誰(京アニ?)がいつからはじめたかわからない女の子萌えアニメにおける聖地巡礼に行きたいくらい魅力があるところに思ったのだけど、読み返すと実際のそのシーンが少ない。不思議。というか、それはすべてラストシーンに集約されていたんだね。あのシーンを読んだときに感じた潮風はなんだったんだろう?そして感動とかエモいってシンプルな言葉で足りない複雑ななにか。これがサウダージなのかはわからないが忘れられない2022年でも強烈なマンガ体験にはなった。

ファドとこの街のロケーションがまたぴったりなんですよね。ファドって港町の音楽やなあと。おれの感覚なのでちがう可能性も高いのですが、そうなってしまいました。それはもういしい氏のせいです。

あ、あと、いしい作品にしてはわりとダイレクトな下ネタがあったかなーとも。

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柴島美乃(2コマ右側)の目の描写がすごい

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2022年08月22日

完結 ゴールデンカムイ 31 野田 サトル 集英社


最終巻が出ました。超最高で連載がはじまり、話題を独占したまま、だいたい最高のまま駆け抜け、随所に話題をふりまいて、人気を維持し続けて超最高で終わりました。だから最終的な評価は超最高です。

マンガにおける終わり方というのを考えるのです。これまでは人気がある限り続けるというのが定番で、たぶん、いまも主流はそうなのかもしれない。でも、いくつかのマンガは終わることを許されるようになっている印象。本作はどうだったのかは知らないが、終わるべきして終わり、描きたいことは余すことなく描いた印象。そこが超最高でした。

他作品を引き合いに出すのは抵抗はあるんだけど、「鬼滅の刃」。いろいろと有名な本作ですが、本作の1番1位のところ(子供表現っすね)は、23巻1巻かけて完膚なきまでに終わったことだと思う。どこまでが連載誌にどのようなカタチで掲載されたのかは知らないし興味はないが、この圧倒的な「最終巻」はたぶん今後出てこないんじゃないかと思われます。あらゆる方向や表現で終わった。

ゴールデンカムイの最終巻もなかなかたどりつけないところまで行き着きました。

長いあらすじは複雑なので省略させてもらいますが、最終章に入ってからの一気呵成の盛り上がりと、オールスターキャストが一同に介しての大活躍。そして、最終巻ではベストメンバーが函館から札幌に向かう機関車で最後の死闘を繰り広げてます。この流れのローディング時間のない感じはすばらしい。
もともと、ゴールデンカムイの特筆すべき点は、1ページ先の展開が読めないことで笑いあった次の瞬間に銃を撃ってくるやつと対峙する。このテンポ、スピード。あとは博覧強記なあらゆる要素をぶちこんだ、作者野田サトル氏の頭と脚を巨人が絞った汁のような話です。彼のすべてがあります。昔のロボットアニメの「出力フルパワーにしろ」ってコンソールのつまみを無造作に全部回しきる感じでしょうか。

でもって、ゲームや映画や小説やマンガで散々こすられてる動いている列車での戦いを研究したおしこすりたおし、かつ、ゴールデンカムイらしさを抽出した上での決定版のような戦いよ。列車であることがすべて盛り込まれつつちゃんとそれらを盛り上げに使いつつヒートアップさせてます。しかも、戦いってことでいうと、函館の五稜郭でのひろいところからの狭いところとかのメリハリも効いている。流れとしては満点ですよね。いわれてみれば船上や飛行船など乗り物の戦いも数多く収録されていますよね。ほんとスキがないマンガだ。

最後の最後の最後の最後まで盛り上がり、各人かっこよく、そっれぞれの積み上げたキャラらしく、有終の美を飾っております(死んだり生きたりはありますが)。
物語も当然のことながらキレイにキレイに、このごった煮闇鍋の混迷の限りを極めた作品をきちんと終わらせてます。

名作っていわれるマンガも最終回覚えてないもんだぜ。そこらへんは島本和彦氏の「アオイホノオ」にくわしいけど、マンガ全体の99%おもしろければ最終回なんて些細なものはどうでもいいって文化は受け継がれております。
ゴールデンカムイも、最終回を迎えるにあたって、電書を期間限定で全話無料公開したりみんなで盛り上げたりもしていたなあ。
ホムンクルスやアイアムアヒーローや浅野いにお氏の何回聞いてもタイトルを覚えられないデデデデみたいなやつも次巻最終回や最終巻って帯や宣伝に出すようになったもんな。

時代は変わりました。それぞれいつ終わるかは別だけど、「最終章」突入なんて書いてますしね。

それぞれマンガやマンガ家の持ち味や個性や才能があるから一概にはいえませんが、おれは適切なタイミングでスパっとおわらせるほうがすべてめでたいんだなと。

野田サトルさんは次回作を描きそうだし、ちがう分野を攻めてきそうだし、それもちゃんとおもしろいはず。(しばらくはゴールデンカムイ関連のものを描きそうだけど)

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鍋に弾丸を受けながら 青木 潤太朗/森山 慎 KADOKAWA




振り返るとネットから話題になっているマンガというのは増えた。というか、ネタ元としてネットをかなり活用してるからだ。それが本からでもなく本屋からでもないというところに危機感と罪悪感のようなものを覚えるが、そんなことは知ったことではないというばかりに日々のSNSや情報サイトから新作話題作の情報は入ってくる。
正直打率はそんなでもないが、本や本屋のバッターボックスに立ってはいないので比べるまでもない。おれの住んでる町は本屋を開くと町から補助金が出るくらいだが本屋ができる気配はないままだ。

まあ余談。

本作はその流れのままにネットで知ったものだった。

・世界でも危険なところのメシは美味い
・作者は世界の人間がすべて美少女に見える

この2点の「フック」から注目された。それでおれも知ったので、フックは不要といえないのですが、美少女はともかく(じゃなきゃおっさんだけだし)、危険なところってのはあまり関係ないような気はする。日本以外はたいてい危険なところってことになってるし。(本作はその例外が現れるが)

失礼ながら原作者のことは存じ上げてないのですが、小説家であり漫画原作者であり仕事で釣りをしに全世界を飛び回っている様子。その釣り仕事の合間に食べる食べ物を紹介するのが本作になるのか。
今のところは、1巻2巻で、アメリカ、ブラジル、ドバイってところでしょうか。

本作は人生観を揺さぶられる。揺さぶらされ続けているよ。毎エピソードううむと唸る。そしてオノレの人生を振り返りフウとあらぬほうを眺める。

1巻2話。アメリカ・シカゴのイタリアンビーフからそう思う。ありったけの薄切りの牛肉を挟んだパンを、その肉を焼いたときに出てくる肉汁に浸してシナシナベタベタになったサンドイッチを縁側でスイカを食べるように食べる。アメリカ在住のイタリアンマフィアが開発した安価でごちそうをたくさん食べるための食事。

1巻3話。ブラジル・アマゾナス。もらったフルーツジュースが禁断症状が出るほど美味い。これなに?と尋ねると「アバカシ」と答えが。何だそれ?と思って持ってきた果物がパイナップル。完全に熟したパイナップルというのは現地でないと真の味がわからないと。アバカシを振る舞ってくれたブラジルの友達が1番美味いジュースはオレンジです。つまりそれも。

この2つのエピソードに感じ入るものがあったのです。以降も同マンガでは「現地でないと食べることのできないうまいものがある」「現地のひとは1番うまい食べ方を知っている」と。この2本の柱を軸にエピソードが展開されています。

もちろん、上記のイタリアンビーフもアバカシも食べてみたい。そして「サウダージ」も味わってみたい。本作のほかにも最近もうひとつサウダージという言葉をみかけた。たぶん、2022年のおれのキーワードはサウダージだと思う(からもうひとつも早急に紹介しますj)。

ただ、イタリアンビーフがうまそうでもアバカシのジュースがうまそうでも、「そこ」に行けるのかというとその可能性は限りなく少ない。劇的に所持金が増えて劇的に健康にならないと叶わぬ夢ではあるなあと。

そう考えると、どこでおれの人生がこうなった?ということで人生観が揺さぶられるのですよ。理由はどうあれ、感情を動かされることで感動になるわけでかなり感動してるんですよね。

2巻ではその余韻や「思いにふける」がどんどん強く重くなってきている。それはつまりマンガとしての深みが増してるということなんだろうか、おれのシンクロ率が高くなっているからなんだろうか。ただ、マンガにおいて「おもしろい」ってこういうことだからさ。それはおれがいわゆる釣行記的な本(オーパ!とか)や紀行文(深夜急行とか高野秀行氏の著作とか)
にふれてこない人生だったので、新鮮だった可能性も微レ存。

最新刊2巻描き下ろしのグリルドチーズ。これがすごかった。

アメリカの食べ物屋にたいがいあるらしい料理。フライパンにバターをしいてチーズを挟んだパンを焼くってだけの料理。誰でもできるし家でもできるけど、非常に奥深い料理ということを滔々と語られておる。それはいわば日本における卵がけご飯だと。生卵を食べることができるのは日本だけってことを抜きにしても、日本人は心のどこかに「日本人が1番うまい卵がけご飯の味を知っている」って思ってるように、アメリカンはグリルドチーズの「正解」を知っているという感覚。この説明の腑の落ち方が異常なんだよね。

グリルドチーズにしてもアメリカにいって絶対に食べるかっていうと1回や2回じゃ食べないよなあ。だから日常的にアメリカにいって、「そういう店」にいかないとね。そしてそのうまさに目覚めないと。そういうところが素直にすごくてすごいからこそ自分の人生の振り返りという反動がくるわけで。

そしてそのことがまた感情を揺さぶらされる。と、まあ、かなり個人的な理由ではあるが本作は心に残るマンガとなった。ただ、ここまで変な方向からの入れ込み方をしてない娘も楽しいしおもしろかったと感想をよこしたのでマンガとしておもしろいのもまちがいないのですよ。


「鍋に弾丸を受けながら」(森山慎/青木潤太朗)のイタリアンビーフ : マンガ食堂 - 漫画の料理、レシピ(漫画飯)を再現 Powered by ライブドアブログ https://mangashokudo.net/entry/blog-entry-662.html

余談ですが。
こういう料理再現や「本物」の写真ってあまりみたくないって思うんだよな。マンガで完結してるし、なんか夢が壊されたってんじゃないけど(それいうなら登場人物はみんなおっさんだし)。でも、イタリアンビーフはやっぱり食べておきたいなあ。
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2022年07月30日

トモちゃんは女の子! 柳田 史太 (星海社)


アニメ化記念ってことで。
2015年から2019年までTwitterからのWEBサイトで連載されてました。コミックは全8巻。
とはいえ、存在は知っていたものの読んだのはわりと最近でまとめて読みました。おれ的には最近のあるあるの電書でセールだったからです。
そういうことで本作もアニメ化前後でセールになる可能性が高いからチェックされておくことをおすすめします。これまた最近のあるあるですが電子書籍用の特典もありますし。

トモちゃんという男勝りな女の子が幼なじみの男に惚れてますが、男は幼い頃からライバルとして親友として切磋琢磨(おもに空手で)してきたので、むこうはかけがえのないものと思ってますがその質がずいぶんちがうというラブコメでおなじみのやつです。
1ページをワイド画面の4コマで区切って展開するというパターンです。高校生ですね。学園ラブコメ。

本作の最大の特徴は、昭和からある男勝りの女の子とニブチン(死語か)の男の子のすれちがいラブコメってベタ中のベタであり、なおかつかなりミニマリズムな内容、それなのにこんなに時間が経ったのにアニメ化になることも納得の高品質ということなんですよね。

ラブコメとは、
突き詰めるとキャラは2人でいいんですよね。それになにを加えたら独自性が出せる?もっとおもしろくなる?ということでキャラが増えていったりシチュエーションが複雑になっていきます。
そしてラブコメのストーリーのゴールは両思いになりばいい。ストーリーもキャラも目的も実に明確です。ただ、現実の「複雑」をいかに盛り込むかで味わいが変わるという。ま、ここまで極端なことをいいだすとみんな同じになりますかね。バトルマンガスポーツマンガは戦って勝てばいい、ギャグマンガはいかなる手段を使っても笑えることができればいい(だから1番好きなのかもしれない)。

本作はすごくシンプルでミニマムなんですよね。必要最低限といえるくらいストイックに展開する。それは連載媒体が4コマというのも関係しているし、Twitter連載というのも関係しているのかもしれない。

ただ、それでいて最大限のおもしろさを引き出していることに驚く。それぞれこれでもかって少数のキャラを立たせながら最大限の活躍をする。

やっぱなんのかんのいってキャラクターよ。とくにマンガはそれ。

本作は学園マンガであるわりには、学生より、それぞれの親や各キャラの過去にフォーカスし展開していくところが特徴。
親を描写することでどうやって彼女らのキャラが形成されたかの説得力をもたせてるし、「幼なじみ」の幼いころを丁寧に描くことでよりキャラに愛着が湧くから。だから主要キャラは両親を描いてる。これ実はなかなかできないこと。だって老け顔を描けないプロのマンガ家って多いもの。極端なこというと女の子しか描けない人も多い。
作者は老若男女見事に描き分けておられます。カバーをめくったあとのおまけ絵には毎回ニヤニヤするよ(電書でもみられる)。

主要キャラがそれぞれとても強い(物理でも精神でもキャラでも)ので凡百の同級生先輩後輩じゃ太刀打ちできないというところもあるんだろうかな。

この少ないキャラを磨きに磨いて立体的に「存在」させる手法がすごい。
エピソードそれぞれも的確でシンプル。はじめてのデートとか、親友とのいざこざとか。基本エピソード毎に「原点復帰」なポジションに戻るけど、その後少しづつ気持ちが進展していく。これもまた王道ですが効果的。

つまりは、
今頃アニメ化が決定するには遅すぎてもったいないくらいよくできたラブコメではあるのよね。ラブコメとするより各キャラの成長物語ってのもこれまたベタではあるが、それも大成功ですし。8巻にわたってきちんとベストのところに着地して大団円です。

そしてふと思い出すとシンプルに「いいマンガだったな」で終わる。最高の読後感です。

アニメをみてからでも遅くないですが、「いいマンガ」だったということを頭の片隅にでも置いておいてください。

あとひとつ書くことがあるとするなら、脇役のキャロルとみすずはなかなかみないグッドキャラで彼女らの存在や言動がかなりマンガをおもしろくしていたし、アニメでも双方の中の人の演技や作画を期待されるところですね。















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2022年06月11日

緑の歌 - 収集群風 - 上 下 高 妍 KADOKAWA






ネットで知った台湾のマンガです。イラストレーターとしては有名な方らしくて村上春樹さんの「猫を棄てる 父親について語るとき」には表紙や挿絵を描いております。

『猫を棄てる』の表紙と挿絵を描いた高妍さんからのメッセージ 『猫を棄てる 父親について語るとき』(村上 春樹) | インタビュー・対談 - 本の話

そして本作においても帯を書いております。いま、お写真をみましたが本作「緑の歌」の主人公に似てらっしゃいますね。半自伝ってことになるのかしら?

本作はざっくりいうと細野晴臣氏を神とあがめるマンガなんですよね。

細野さんは「音楽王」という本を出すくらい、日本音楽に多大な貢献をされた偉大な方です。おれにとっても神なのです。

主人公、緑は台湾の片田舎のJKです。あるとき教科書を持ってくるのを忘れて取りに戻ったら海辺に男が立っていました。そこでふいにスマホから「風をあつめて」が流れました。細野さんが所属していたバンドはっぴいえんどの名曲ですね。みんな聞いたことあるでしょう。CMなんかもやってましたし。

https://www.youtube.com/watch?v=0b6inZfiGrw
https://open.spotify.com/track/0YdW17YMTVaqzRkkvdlpm8?si=56d7dfef424442cd

次の日に浜辺は立入禁止になっています。男は死んだのだ。緑は確信します。
そして細野晴臣氏の憧れと男の死によっての故郷へのヘイトをもって台湾の首都台北の大学に入るのです。JDになるのです。

台北で音楽三昧のJDライフとなるわけです。気になる彼が現れたりね。で、その話の軸にずっと細野さんがいるのです。


MYSTERY TRAIN - Trailer ( 1989 ) - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=nb0yBDSqTfs

ジム・ジャームッシュ監督によるこの映画では、エルヴィス・プレスリーにあこがれてメンフィスの聖地巡礼にくる日本人カップルが現れます。若き日の永瀬正敏氏と工藤夕貴氏。
「緑の歌」でも緑が東京ではっぴいえんどを買おう!ってシーンがあります。台湾から飛行機で3時間でくることのできる日本ですが、このときの憧れの東京感は新幹線で3時間のところに住んでいるおれや、映画「君の名は。」での岐阜の田舎に住む主人公のそれと近いのかなと思ったけど、やっぱちょっとちがいますね。

本作がすばらしいのは「異国」であることなんですよ。作者や緑にとっては住んでいる場所である台湾であるけど、おれにとっては異国。それがすごくわかる描写です。それは精緻ということもあるけど、その場の空気をそのまま切り取って絵に落とし込んだのかもしれないと思うくらいのリアルが感じられるところです。太陽の暖かさ、街や海の匂い、雑踏のざわめき、夜の公園の静けさ、そういうのがみんな伝わる驚異。なんだこれは。
それは前記の東京描写のときにも感じた。逆に緑にとっては異国の東京をちゃんと描いてるところ。ああこれは異国であり東京だと。

んまあ、ぶっちゃけコーナーとしてこのバースでサラッと書かせてもらうと、緑は相当なサブカルクソ女ではあるし、おれもまあまあサブカル方面にどっぷりですがそれでもそう思えるくらいのクソっぷりなんだけどさ。

でも、それでも好きなものを好きと描くその姿勢、そしてそれがおれにきっちり伝わっってる。ココロの奥底からドワーっときます。

かなり純度の高い「好き」がつまっている。好きなものを好きと描き切る。絵を描くことなどの「表現」というものの原初の衝動が伝わってきます。

ああ!ここまで書いて天啓が。岡崎京子さんだ。彼女の初期にはその「好き」があふれているなあ。絵や描いている内容は全然ちがうけど、「これが好き」ってのの熱量は似ているなあと。というか、この時代の「好き」をつめこむタイプの漫画家を思い出しますね。あのころの漫画家はかなり偏った好みを臆せず描くひとが多かったよね。欄外に聞いていた音楽を書くとかさ。

そういう点でも異国を感じるね。日本の「いま」のマンガ事情とはちょっとちがう。そういうことを考えずに思い切り伸び伸び描いておられる。なおかつ絵はばっちり。話はポエミイだったり少女漫画チックだったり、話でグイグイ引っ張るわけでもないけど、空気が心地良い。登場人物もかわいい気持ちのいい人ばかりだしな。あと、憧れるものやひとが日本人ってのもうれしいしなあ。東京にいって松屋でハンバーグをたのんで「アニメのまんまのハンバーグがきた」ってラインを送ってるんですよ。かわいいじゃないですか。

鮮烈なマンガでした。

最後に本作で登場した台湾のポストロックバンドも紹介しておきましょう。

(1) 20121229_Feedback Rock。8mm Sky。I saw you a little bit@這牆 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=NtKB6KWKi9o
https://open.spotify.com/track/7Igr4UiLSJLQlr2TPs81Id?si=035becc7a9054aae
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2022年06月10日

時間停止勇者(9)光永 康則 講談社



エロとおもしろが反比例すると仮定する。
根拠としては、笑ってしまうと勃起しないしムラムラしない。
笑いに限らず、ある種の感情を持つ場合はムラムラ、すなわち性欲にリンクしない。
たとえば、怒りは性欲につながるとかさ。

で、
「時間勇者」の9巻を読んだ。
異世界転生したときにファミコンのコントローラを持たされた男。STARTボタンを押すと時間が停止する。それであらゆるチートを行って生き残っていくマンガ。
主人公はスケベなので時間を止めて裸にむいたり、乳首をぎゅーっとつまんだりパンツを下げて至近距離でみたりする。

そういうシーンが頻繁にあるけど、それを軽く凌駕するくらい物語がおもしろい。
いまはビーチバレー大会で国を賭けている。それと並行して剣聖(女)がダンジョンに潜っている。この2つの話がべらぼうにおもしろい。
なるほど一発芸みたいな設定なのに9巻も続くわけだ。

そしてエロを凌駕するほどおもしろいので相対的に日本1の1番エロくない=健全なマンガってことになるんだよね。

しかしもったいない。この一級品のおもしろさがアニメ化しにくいと思ったりするとなあ。
アニメ化ってそう考えると大事だよなあ。最近はおもしろいマンガを読むと、これをアニメ化して海外の「お友だち」の度肝を抜きたいなあと夢想するようになったんだよな。本作とか最高にびっくりするだろうなあと。

同様に淫獄団地なんかも無理なんだろうなあ。そちらも3巻が発売されました。こっちのほうはエロの比重は重いっすかね。





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2022年06月05日

10巻以上続くラブコメはなんかある

タイトルの通りです。気がつくと10巻以上買っているラブコメって多くなりました。このマンガはなにがあったので10巻以上つづいているのであろうか?っというか、定期購読している長期連載のラブコメマンガの「ここがすごいよね」というところを取り上げるだけの回です。いま、この時点で、取り上げようと思ってるマンガは2本くらいですし、何本取り上げるかも決めてないという、フリーセッションみたいな文章ですのでお気楽にどうぞ。


やんちゃギャルの安城さん10 加藤 雄一 少年画報社

奔放なギャルの安城さんと冴えない瀬戸くん。なぜか瀬戸くんに懐かれてる安城さんは、ツンデレのツン的な要素が皆無なので普通にエロ絡みしてくる。

本作は9巻終わり瀬戸くんが告白するところでのクリフハンガー。それを受けての10巻の大台の出だしから圧巻の告白回です。

本作は絵でねじ伏せるマンガで、安城さんをこれでもかとエロ可愛く描写するところがキモなんですがそれを鑑みても圧巻でした。見開きや1ページ打ち抜きの連発でビジュアルショック最高の告白を受けての安城さんをびっちり描写。すげえわ。売れるわけだわ。
そいでもって告白したところであんまり変わらないのもいいね。
陽性キャラの安城さんだからなあ。そこがまたよろしい。


イジらないで、長瀞さん(13)ナナシ 講談社

やんちゃギャルの安城さんと設定が似ている(どっちが先だっけ?どうでもいいか)、ギャルでスクールカースト上位の長瀞さんと冴えない美術部員のセンパイくんとのラブでコメな話。本作は10巻あたりから絵に変化がみられるようになり目を中心として描画が細密化した気はする。
でも、それよりも13巻。表紙の長瀞さんがバスタオル1枚の絵でもおわかりになるように、シャワー室を巡るエピソードが白眉。
古来よりラブコメでは伝統の、風呂を男女まちがえて入ってしまって大ピンチ回。
97話から3話にわたって繰り広げられての映画「ソウ」を思い出すくらいの緻密な話に、この使い古されたネタにまだ新しいものがあったのかという感心通り越して感動を覚えるくらいのものがありました。ちゃんとエッチだし。そして修学旅行回へと突入します。修学旅行を発明したひとって偉大だよね。こうでもないとクラスメイトといっしょに寝泊まりすることねえもんな。

アニメ2期も決まって安定度が抜群。いまトップくらいキレキレです。しかし、長瀞さんもだいぶデレデレになったなあ。こういうキャラの変化をみてとれるのも長期連載のいいところかもしれないっすよね。


上野さんは不器用 10 tugeneko 白泉社

科学部のマッド気味のサイエンティストの部長上野さんは部員の田中が好きなのでそのオーパーツな発明を使って自分を虜にすべく目論んではいるけど失敗してエロい目にあったりするという、こうやって簡潔に書き出すと良い設定だよなとしみじみ。
本作は10巻を持って終了となりました。けっこう間があったなあと思いつつも9巻10巻と同時発売。

この10巻の最終回2話が最高だったのです。こんな趣があり、見事な終わりは近年ちょっとないな。語らず話さず過不足なくなおかつ前後と。ということでもともと最高なマンガは伝説の名マンガとして完成したと思います。

作者の次回作期待してます。



からかい上手の(元)高木さん(15)稲葉 光史/山本 崇一朗 小学館

スピンオフ作品です。「からかい上手の高木さん」は可愛い少女を描かせたら当代随一(懐かしい表現だな)の山本崇一朗氏による出世作にしてアニメもつづく劇場映画も作られるというすごい作品です。そのスピンオフです。

隣の席の高木さんはいつもからかってくる。勝負を挑むけどすぐに負ける。この中学生男子のガキっぽさと、中学生女子の大人っぽさ(そういうふうに見えてた)が描かれている名作です。
で、(元)はふたりが結婚したあとの話です。子供もいます。たしか、スピンオフコンテストみたいのがあってその上位にいたやつでしたっけ?

本作は安定度と作画はどんどん本家に似ながら稲葉光史色が出てきているというなんだかすごい領域になってるなあと思います。内容も、夫婦でいながらも、からかい〜からかわれの関係はあまり変わらないし、そこに娘が関わっているので、より複合的な関係を楽しむことができるし、なによりハッピー家族なのがいいですしね。それで15巻ってすごいです。本家同様ストイックでシンプルな設定だからバリエーションを出すのが大変なんですよね。そのうえ、キャラ設定を引き継ぐわけですからそれなりの制限もありますしね。

あと刊行スピードですね。本家の最新刊は18巻で同日に16巻が発売される。だいぶ追いついている。山本崇一朗氏はほかに2本の連載も抱えてるんですがそれでもすごい話ではあありますね。



事情を知らない転校生がグイグイくる。(11)川村拓 スクウェア・エニックス

タイトルどおりの内容は1巻だけやったやんか!でおなじみの作品も11巻と。これも安定の刊行ペースです。
いじめられっ子の西村さんは無口で無愛想だから悪魔なんてあだ名をつけられてるけど、転校してきた西村くんが悪魔なんてあだ名かっこいいなんてグイグイ つきまとっているうちに西村さんがココロをひらいてどんどんかわいくなってラブコメっぽくなってまわりの友達も増えてって。
本作は11巻という長いスパンでありつつ、ちゃんと時間が進行している。それにつれてどんどんと叙情的な風景描写が多くなってきてます。11巻ではサーフィンに挑戦してます。この風景がたいそう美しかったり。サーフィンやるってなんだか
シンプルな太い線でいながら過不足なく描画できてるなあと。
やっぱ買ってしまうし読んでしまう。


いかがでしたでしょうか。あとちょっと思いつかない。最近出て手元にあるのを語りました。まあ、おもしろいラブコメはいいよねということで。
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2022年05月17日

「絶滅動物物語 」 うすくらふみ 今泉忠明 (小学館)




タイトルの通り、絶滅した動物を描いた1話完結の読み切りオムニバスです。1話1動物絶滅します。

現在は6回目の大絶滅の時代だそうです。これまでの5回は気性変動や生存競争に負けたものですが、6回目は人間によるものです。本作は人間によって動物がいかに絶滅したかを描いているものです。

これが罪悪感がすごいすごい。読後、非常に後ろめたい。

ステラーカイギュウやリュウコウバトのように「美味い」から食べ尽くしたというのはまだ序の口だというのが本作を読むと突きつけられる。

ネタバレに配慮するので詳しくは書きませんが、「こんなことで絶滅するのか」と絶句するようなのや、「やりきれねえな」ってのがあります。

人間っていろいろな意味ですげえなと、そしてこのバツの悪さはなんだ?とモヤる。ひいては人間とはなんだ?生きるとはなんだ?

絶滅させられるのは動物だけじゃないとか、いろいろな教訓をひねり出すこともできますが、まあ、さしあたっては絶滅していった動物たちに思いを馳せておこうか。

筆致や描写が凄まじいからこそ湧き上がったもので、マンガとしての完成度は高く、動物はもとより各考証も正しいのだろう。それで生まれた説得力か。

読みましょう。おれと同じ後ろめたくなりましょう。多くのひとが背負ってもいい後ろめたさですから。

絶滅動物物語 | うすくらふみ 今泉忠明 | 【試し読みあり】 ? 小学館コミック https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098612758

「ステラーカイギュウ」の回を読めます。

なお、表紙にもなっているドードー。ドラえもんや不思議の国のアリスでおなじみで、絶滅動物の代表となってます。
動きが鈍く警戒しなかったので捕まえて食用とされたために絶滅したとなってますが、実際はあの鳥の肉はすごく不味いそうです。
じゃあなんでなくなったのか?ってのがまた。



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2022年02月13日

令和4年の答え合わせ〜大友克洋全集 8 童夢〜



2022年1月21日に大友克洋全集が発売された。1回配本は「童夢」と映画「AKIRA」のストーリーボード。おれはマンガにしか興味がない気味なので童夢だけとりあえず買った。金銭的な事情も大きい。童夢にしても税込み2970円ですからね。でもこれは買ったよ。そりゃあ買うよ。

オリジナル版は発売は1983年8月18日。任天堂ファミリーコンピューター発売は同じ年1983年7月です。そして「AKIRA」の1巻は1984年9月14日です。おれは15歳でした。そりゃあ影響を受けるなってのが無理でしょうや。いまでも買った場所もシチュエーションもわかりますよ。富山市を代表する書店清明堂ですよ。当時はマンガ売り場がビルの5Fにありました。ガタゴトいって昇るエレベータの5Fの扉が開いた眼の前に童夢が平積みになっていた。たぶん発売日に買ってます。たぶん、並べ立て(開店直後)にみつけてます。みつけたとき「あっ」って声が出たのも覚えてます。

なぜ「あっ」って声が出たのかというと、やっと大友克洋らしいすごいのが出たからです。それまでに発売されていた氏の作品は短編集ばかりだからで話題ばかり先行し漏れ聞こえてきていました。

「すごいSF作品がある」「まだ発売されていない」「幻の未完作品もある」なんて雑誌のコラムにあって期待してたんですよね。それが「童夢」であり「FireBall」だったりするのです。それが出たんですよね。なんていうかな、底をしることのできなかった「大友克洋」のほんのちょっとしたものですが一端が垣間見ることができたというか。

そんな大昔のマンガ、ヤングの君等がいま読む価値あるのか?と思いそうですが、それは実のところこちらも判断つきかねます。それこそSWITCHのネット会員だったら遊ぶことができるファミコンのおまけゲームを遊んでどう思うか?ってことでなんとなく判断できそうな気がしないでもないが、実際問題、この作品から時代は変わりました。比喩表現とかではなくて文字通りの意味です。
1980年から連載されて、世界中のすべての流れ(とくにエンタメ)にあった変革とがっちりシンクロしてすべてが変わるなかのマンガの代表作がこれです。はじまりでありながらとどめの一撃でした。そう、ニューウェーブがはじまります。
すべてのマンガが変わっていきます。古い70年代を丁寧に殲滅していきます。彼らの死体は90年代中盤くらいに発掘されるまで強制コールドスリープにつきます。引導を渡したのです。

藤子不二雄A氏の「まんが道」。バスで移動しているときに前の少年がみていた手塚治虫氏の「新宝島」。このマンガがとっても「映画」だったことに両氏がインパクトを受けてなおかつマンガに描きはじめる展開になります。
本作「童夢」も衝撃の方向としてはそれですね。より映画になっていきました。

あらすじ書いてなかったですね。
郊外のマンモス団地が舞台。住人の不審死が相次いでいる。目的や意味がわからないままどんどん死んでいく。そこで刑事が乗り込んで調査を開始するが刑事も事件に巻き込まれ死んでしまう。

圧倒的画力。緻密描画、ページコストがものすげえ高そうなもの。それを「映画的な視覚効果」のために惜しげもなく使う。

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オープニング。男が団地の屋上から飛び降りるシーンを見開きの団地の空撮で表現してます。現在はドローンなどで再現できたでしょうが、これ当時、実写で撮るとなるとかなり大変なことになったでしょうね。そしてもちろんマンガでも。見開きいっぱいの団地の俯瞰に吹き出しの「どさ」って死体が落ちるシーン。この吹き出し効果は今後大量にパクられてスタンダードな手法になりますが、見開きの団地はちょっとできないんですよね。実にそういうところが大友克洋で童夢なのです。

ただ現在はPC技術の発展により「圧倒的?精緻?そうでもないな」と思ったのが最初。そりゃあ当時はすごかったプレイステーションの画像も5と比べたらねえってことと同じやで。

だがそう思った次の瞬間。この線の1本1本が人の手によって描かれてると思い愕然とする。背景を描いていたのはほぼ高寺彰彦氏だそうですが。

あしたのジョーに憧れて(3)<完> 川 三番地 (講談社 KCデラックス 月刊少年マガジン): ポトチャリコミック
川 三番地氏の「あしたのジョーに憧れて」という作品はちばてつや氏のマンガアシスタントをしてたときの背景技術描画技術について描かれたエッセイコミックですが同様のロストテクノロジーではあります。このマンガで描かれたあらゆる技法は今となってはかなり失われたものです。そういうことをして再現する意味がないですからね。高寺氏は他界されているし。

当時は圧倒的な背景に気を取られがちでしたが、いまやPCからの写真取り込みのあーでこーでのおかげでインパクトはかなり薄まっております。
ただ夜のマンモス団地の「空気」はなにより描かれております。というか、「事件」はおもに夜に起こる。そのときに急に背景の団地がジャストピントになって冷ややかなぼんやりとしたライティングに不気味に映える団地。
この「背景」としての団地と、恐怖の舞台として小道具としての団地になるときの雰囲気を描きわけることができるのは人力ならではと思いますね。リアルならいいってもんじゃないんですよね。

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団地にはボーダイなひとが住んでおり、寝ている。ホラー映画の定石で人気のないところというものから考えると千の数の人間が住んでいそうな団地が怖いマンガの舞台になるということはいかに画期的だったのか。それなのにいやに閉鎖的なんですよね。どこにでも通じているのに出られない感じがする。それも「描き方」次第ではあるんだけどね。
あと登場人物に無駄な情報が一切ない。主人公は悦子って名前以外名字すら無い。昨今の人気投票はじめるから生年月日まで決めておくとかはまったくない。
主人公悦子は、石ノ森章太郎氏の「さるとびエッちゃん」からきているらしい。前々からインタビュー等で語っておられたらしいがおれは本作のあとがきではじめて知った。
これでかなり腑に落ちたことがある。
本作はぶっちゃけると少女と老人が団地を舞台に行うサイキックバトルマンガです。ふたりともありとあらゆる超能力を本作で炸裂させて戦ってます。
悦子も敵であるチョウさんも能力者です。本編には「それ」に対する表記すらありません。だけどお互いに敵であることはわかる状態。
それでいてありとあらゆる超能力を使うことができます。ここが驚き。超能力というと、「ひとり1能力」って暗黙の了解がある。たとえばテレパシー能力のひとはそれだけとか。でも、童夢の能力者はあらゆる能力をかなり高度に使うことができる。

読んだ「当時」はそれに違和感があったけど、なるほど「さるとびエッちゃん」と聞くとガテンがいく。さるとびエッちゃんはいわゆる不思議少女が不思議な力を使うというマンガだ。別に事件を解決したりみんなを助けるわけでもない。きまぐれに不思議な能力を使う。そしてあらゆる能力がある。それは「エスパー」とか「超能力」という名前がついているわけではない。「不思議なチカラ」である。忍術でも魔法でもいいやつ。魔法が近いですか。魔法少女。魔法少女も後々には能力制限期がきますよね。ベタなところだと「おジャ魔女どれみ」あたりは。できることできないことがかなり明確にあったし限定されてましたよね。
「魔法少女まどかマギカ」あたりになるとまたざっくりといろいろなことができるようになりますが。

「童夢」のチョウさんはその能力を私利私欲で使っていて、悦子が正義の能力者かというとそうではないことが本作の実に1番恐ろしいところです。
定型的ではありますが、「サルでも描けるまんが教室」で言語化された超能力少女が能力を暴走させてしまう「イヤボン」現象が本作でも見受けられる。悦子は本作で人を殺してるし躊躇がない。もちろん感情が高ぶっているというエクスキューズはあるとしてもその後なんのペナルティもない。仮になにかあったとしてもテレポートが使えるので関係がないんだが。

悦子は正義でチョウさんを殺した。ただしそれはかなり薄っぺらいものであって、それが絶対的な正しさや考えられたものではなく、クラスの男子が悪ノリしているのを諌めるってレベルの正義なんだよね。それはいつもみているTVアニメやマンガで得られる程度の。親にしつけられた程度の。
ラストも、単純に友達を殺されたのと怖い目に遭わされた報復しとしてチョウさんに仕返しをした。複雑な感情の交錯した果てともいえるけど。

チョウさんもそもそも悪意がない。単純に悦子のほうが強いので怖がってたけどみなくなったから大丈夫と安心していた。この「ケンカ」は済んだと思っていたからこその今回表紙にもなった見開きの恐怖顔なんだよね。
このふたりは「子供」の思考で超能力バトルをして多数の死傷者を出している。その悦子がふっと姿を消してしまうというラストも考えるとしみじみ怖い。この先も、彼女は彼女の価値観と気持ちの赴くままにいろいろする可能性はある。

あるいは可能性としてチョウさんはアルツハイマーになり赤ちゃん返りしたことで能力が発動した。つまり、悦子は大人になることで能力が封印される可能性もある。
そこらへんははっきりさせないしさせる必要がない。そう、本作が1番いいのは語りすぎてないことだよね。ストーリーの全容がわかるひとはもはやいないし、起こったことをそのまま描いただけで物語ははじまり終わる。

今回あとがきを読むと、意味ありげに登場したわりにあまり活躍しなかった団地の変人らにはそれぞれ仲間になって団結して戦うなんて構想もあったそうですが、そこらへんはカットしたほうが「残った」とは思う。

で、タイトルの答え合わせであり、結論は、マンガは適度に終わらせることが大事ってことですよ。本作は語りすぎず、描きすぎたために永遠のマスターピースとなり、それはマンガ全体を変え、ここで培われたものは「AKIRA」へとつながっていったりもするわけです。

参考リンク:
聖地巡礼 「童夢・川口芝園団地」: 海cafe2 https://umi-cafe2.at.webry.info/202201/article_22.html
大友克洋の『童夢』のモデルになった団地は今・・・ 『芝園団地に住んでいます』 | BOOKウォッチ https://books.j-
cast.com/2020/10/24013264.html

(後者のリンク記事が非常に興味深し)

posted by すけきょう sukekyo at 01:07| Comment(0) | コミック感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする